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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第八十九話 それぞれの競技


 朝陽との会話を終わらせて教室へと戻ってくれば、それに気が付いた颯哉がこちらへと近づいてくる。

 いきなり廊下へと出ていった拓也のことを探していたのか、特に何も告げることなく離れていったので困惑していたのかもしれない。


「お、戻ってきた。拓也、お前どこ行ってたんだよ」

「少し池上と話してたんだよ。唯とのことに関してな」

「朝陽と? また珍しい組み合わせだな」


 特段隠すようなことでもないので素直に朝陽と話していたことを告げれば、普段は関わってこなかった相手との絡みに颯哉も目を丸くしている。

 その気持ちはよく理解できるので苦笑いも出てくるが、実際言った通りなのだからそうとしか説明のしようがない。


「俺たちの距離感が近いから何かあるんじゃないかって思ってたんだとよ。まぁ話していく内に打ち解けたけどな」

「ふーん。俺も朝陽と何回か話したことはあるけど、いいやつなことは間違いないぞ。それに周りをよく見てるから細かいことにも気が付くしな」

「…それはもう身をもって知ってきたよ」


 颯哉は朝陽とも関わったことがあるようだが、こいつの交友関係の広さを考えれば何も不思議ではない。

 実際に自分が直接会話をしてみてもあいつが良いやつであることは伝わってきたし、人の秘密を無闇に言いふらすような相手ではないことは分かった。


 こうして打ち解けられたことで今後も話す機会もあるだろうし、その時はまた良き友人でありたいものだ。


「まっ、いいんじゃないか? お前にとっても話せるやつが増えるのは悪いことじゃないだろ」

「ああ。…にしても、まさか俺の態度からバレるとは思わなかったけど」

「拓也は分かりやすすぎるんだよ。事情を知ってるやつからすれば尚更な」

「はぁ……もう少し抑える努力でもするか」

「多分無駄になるから諦めておけ」


 颯哉の無慈悲な言葉に肩を落としながらも、鳴り響くチャイムを聞いて授業の態勢を整える。

 知らず知らずのうちに自身の内心が漏れ出ているという事実が明らかになったひと時でもあったが、得るものもあった。


 この縁は、途切れさせないようにしておこう。





     ◆





 学校の授業を終えて帰宅すれば、ゆったりとソファに座りながら飲み物を唯と共にまったりとした時間を過ごす。

 もはや当たり前のように享受している時だが、この落ち着いたひと時が何よりも心穏やかな空気を味わわせてくれる。


 隣で座っている唯もリラックスしたように時折体を揺らしているが、そのせいでたまに体がぶつかっている。

 …唯が気にする様子もないので特に指摘もしないが、彼女のことを意識し始めてからこういった何気ないスキンシップ一つ一つにも反応してしまいそうになるので対応も難しいところだ。


「あ、そういえばさ。拓也くんは体育祭でやる競技何にしたの?」

「今日の放課後に決まったやつか? とりあえず無難なもので固めておいたけど……」


 唯が言っているのは先ほどのホームルームの最中に行われたことで、間近に迫ってきた体育祭の出場種目を決めるための話し合いがあったのだ。

 運動部の面々なんかは活躍の機会だと言わんばかりにその熱意を高めていたが、そもそも部活にすら入っていない拓也ではそこに込められる本気度の差もあり、ひとまず適当なものを立候補しておいた。


「えーっと、確か百メートル走が個人競技で、あとは全員参加の綱引きだったか?」

「あれ? 他にも騎馬戦とかあったと思うけど、それは良かったの?」

「騎馬戦は運動できるやつらの独壇場になりそうだったからな……今回は遠慮しておいたよ」

「そっか……拓也くんの活躍する姿も見てみたかったけどね」


 一応颯哉からも「一緒にやろうぜ!」と騎馬戦に誘われてはいたのだが、さすがに今の自分では足手まといにしかならないことが明白だったので身を引いておいた。

 だが唯は、拓也がそっちに出場すると思っていたのか少し肩を落としている。


「こっちはこっちで頑張るさ。百メートル走でも活躍することだってあるかもしれないからな」

「…ふふっ。そうだね。ならそれを楽しみにしておこうかな!」

「……あんま期待もしすぎないでくれよ?」

「いやでーす! もう楽しみになっちゃったもんね!」


 なぜか今回の体育祭では唯の期待を背負うことになってしまったが、これもちょうどいいプレッシャーだと思えば程よい緊張感になってくれるだろう。

 そもそも彼女に半端な姿は見せたくないと思っていたし、必ず勝つとまではいかなくても、相応の成績は残したいと考えていた。


 最近では日課となったジョギングでも少しずつ時間を伸ばして走れるようになってきているし、体力も増えてきている。

 普段からスポーツを嗜んできた相手には敵わなくとも、努力を怠るつもりはない。


「ていうか、そういう唯の方こそ何にしたんだよ。立候補するところ見てなかったから知らないんだけど…」

「私はねぇ……まず運動が得意じゃないからあまり乗り気じゃなかったんだよね。まあ一種目は出なきゃいけないから、ひとまず玉入れに入れておいたよ」

「…玉入れか」


 高校生にもなって地味な種目が選ばれたものだが、れっきとした競技の一つなので特に文句もない。

 …ただ、玉入れとなると狙いとなる網が用意されるはずだが、彼女の腕力でそこまで届かせられるだろうか。


 口にすれば唯の機嫌を損ねてしまうので頭の中に留めておく考えだが、なぜか近い未来の光景として玉入れのボールをゴールに届かせられず、悔しがっている彼女の姿が幻視できた。

 …単なる妄想に違いないとは思うが、当日はフォローに回る準備もしておいた方が良さそうだ。


「運動自体は嫌いじゃないからいいけど、積極的に取り組むかって聞かれれば微妙なところでもあるからな。チームに迷惑かけないようにはするけど」

「うーん……私の場合、どうしてか運動すると温かい目で見られるんだよね」

「あー……気持ちは少しわかるかも」


 唯はその整った顔立ちから美人としても有名ではあるが、もう一方ではマスコット的な側面でも根強い人気があるのだ。

 彼女からしてみればいい迷惑であろうが、何かに必死に取り組んでいる様子は見ていてほっこりとするような気分になり、それがまた唯の魅力にもつながっているのだろう。


「むっ…! 拓也くんまで私をキャラクター扱いするの? あまりいい気分じゃないんだからね!」

「ごめんごめん。…まぁそれも唯の魅力の一つだとは思うけど、それだけじゃないって俺はちゃんと知ってるからさ。許してくれ」

「…仕方ないね。良いよ。許してあげる」


 ぷいっと背けていた顔をこちらに向けて、いじけてしまった顔を戻しながら許しを出してくる。


 …周りの者達が言うように、唯のちょこちょことした動きも彼女の大きな魅力であることは間違いない。

 実際拓也自身もそういった言動に目を奪われることだってあるし、その点を含めた彼女のことを好きになったのだから。


 しかし、決してそれだけが唯の長所ではないのだ。

 不意に見せてくる艶やかな表情や、年相応の無邪気な笑顔だってとびきりの彼女らしさであることは間違いない。


 それに何よりも、唯の他人を思いやって動くことのできる優しさはどんなものにも代えがたい良さだ。

 上っ面なんてどうでもいいなんて言葉を言うつもりはないが、やはり人を見ていくうえでその者の価値観というのは重要な要素の一つになる。

 少なくとも拓也にとっての彼女の魅力とは、自分を救ってくれた包み込んでくるような慈しみの念に他ならないのだから。


 …さすがに本人に直接伝えるのは気恥ずかしいのでしないが、これは紛れもない本心だ。


「…それにしても、あと少しで体育祭かぁ。ついこの間まで夏休みだったはずなのに、何だかあっという間に時間が過ぎていっちゃうね」

「俺たちは大して準備することもないからな。部活に入ってるやつらは何かしらで召集されるんだろうけど、それもないし」


 本格的に体育祭の準備期間にも入ってきたので、運動部の生徒たちが事前用意のために時々駆り出されているのを見かけるが、部活に入っていない拓也たちには関係のないこと。

 せいぜいが大変そうだな、なんて感想を抱くくらいであり、あとは本番が開催されるまでの時を待つだけだった。


 そこまでやる気が出るイベントでもないが、少しは自分のチームに貢献できるように日課のジョギングからしっかりこなしていくとするか。


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