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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第八十八話 新しい出会い


 学校での唯との接触があってから数日。

 あれから彼女とは時折雑談を交わしたり、颯哉たちも交えて昼食を食べることになったりしているが、それ以外は劇的な変化もなく過ごしていた。


 できることならこのまま平和な日々が続いてほしいと思っていたが……その願いもそう長くは続かなかった。


「…なあ、原城。ちょっといいかな?」

「……ん? 池上(いけがみ)? 別にいいけど……何の用だ?」


 席に座りながら次の授業の準備をしていた拓也に話しかけてきたのは、同じクラスメイトの池上(いけがみ)朝陽(あさひ)だった。

 今まで話す機会も皆無と言っていいくらいに絡んでくることもなかった相手だったので、唐突に話しかけられたことに若干戸惑ってしまったが、それも仕方のないことだ。


 朝陽はクラス内でもそこまで目立つようなタイプではなく、浅く広い関係を保っている印象だったので、こうして会話をするのは本当に珍しいことだった。

 一体何の用かと無意識に身構えてしまうが、向こうはそんな敵意を持ってやってきたわけではないようで慌てて否定してくる。


「ああごめん。そんな重要な話ってわけでもないんだけど……少し廊下に出てもいいかな?」

「…わかった。そんな時間もかからないんだろ?」

「そこは大丈夫だよ。急に悪いね」


 謝罪をしながらついてくるように誘導してくる朝陽の様子は本当に申し訳なさそうなもので、その態度が拓也の警戒を解いたのかもしれない。

 数秒前まではどういった内容なのかもわからない誘いに不安もあったが、目の前の彼の誠意を感じられる言葉に信頼を感じていたのかもしれない。


 何か問題が発生すればその場を離れればいいだけだし、一度池上の話を聞いてみてもいだろう。




 朝陽に連れられてやってきたのは、教室を出た廊下の一角。

 比較的人通りも少ない場所であり、二人で話をするのならもってこいの場所だろう。


「…それで、話って何なんだ?」

「それなんだけど……もし間違ってたら怒ってくれていいよ」


 壁にもたれかかりながら朝陽と対面するが、こうして目の前でじっくりと見ていると悪くない見た目をしているのが分かる。

 颯哉のようにパッと一目でわかるような整った顔立ちというわけではないが、全体的に清潔感が漂っており、その大人しそうな印象の奥にははっきりとした目鼻が確認できる。


 恰好を整えれば言い寄る相手も出てきそうだな、なんて思いながら朝陽の言葉を待っていれば、予想外の一言が飛び出してきた。


「……原城と秋篠さんって、付き合ってるの?」

「は!? …いやいや、ちょっと待ってくれ」


 いきなり投げかけられた想定外の質問に思わず大きな声が出てきてしまったが、すぐに平静を保つようにする。

 まさかの拓也たちの関係性の核を突いてきた朝陽に動揺させられてしまったが、一体なぜそう思ったのだろうか。


「ふぅー……まず、何でそう思ったんだ? 俺に聞くってことは確証でもあったのか?」

「僕が勝手にそう思っただけだから、根拠も何もないけどね……原城って最近秋篠さんと話し始めたでしょ?」

「…まあそうだな。でも、それだけじゃ付き合うなんて発想にはならないだろ」


 拓也と唯が関わりを持ち始めたことは、同じクラスの連中なら誰でも知っている。

 同性とは違って異性と関わる機会がほとんどなかった唯が、拓也と話すようになったのだからそれも当然だが、あくまでその会話も友人としても範疇に留まっていたはずだ。


 それなのになぜ、朝陽はそんなところまで考え付いたのか。


「なんていうか……二人の距離が普通よりも近い気がしたんだよね。それも微妙な違和感でしかなかったんだけどさ」

「距離……?」

「うん。まあ単純に僕の見間違いって可能性もあるから間違ってるかもと思ったけど、その反応を見る限り大外れってことでもないのかな?」


 …正直、ここまで俺たちのことを見ている者がいるとは思っていなかった。

 それも関わりを見て何かを感じただけならばまだしも、こちらの距離感まで持ち出されてくると色々とまずい。


 今はまだ断片的な情報で判断しているだけなのだろうが、そこから唯との細かい事情まで知られていってしまったら本当にアウトだ。

 さすがにそこまでたどり着くとは思えないが、返答次第では勘付かれてしまうかもしれない。

 朝陽もそういった事情を悪用するような人物ではないと思いたいが、それを信じて頷いてしまっても良いものか………。


 そんな拓也の思い悩んでいる様子に気が付いたのか、朝陽は自分が懸念していることに思い至ったようですぐに補足してきた。


「あ、それを聞いて何かをしようとか、そういうことは考えてないから安心してくれていいよ。…言い方は悪いけど、完全にただの好奇心で聞いてるだけだしね」

「好奇心で?」

「そうそう。前までは二人って何の絡みもなかったのに、最近になって急接近してるからどうしても気になっちゃってさ」

「…なるほどな」


 つまり、朝陽は拓也に対して探りを入れようとしているわけではなく、唯との距離感が接近したことを純粋に疑問に思って話しかけてきたということか。

 …それならまぁ、問題もないか。


「…少なくとも、俺と秋篠が付き合ってるってことはないよ。悪いけどそこは勘違いだな」

「そっか。…だとすると、原城の方が想ってるって感じかな?」

「……まぁ、否定はしないな」

「やっぱり! なんか原城って、秋篠さんを見るときだけ目の柔らかさが違うんだよね」

「そんなに違うもんか……?」


 前に颯哉にも言われた気がするが、どうやら拓也は周りから見れば相当わかりやすい態度をしているらしい。

 自分では隠しているつもりなのに筒抜けだというのはショックなので心の内に留めようとしているのだが、朝陽の話を聞く限りそうでもないようだ。


「なんて言ったらいいか分からないけど、秋篠さんにはすごい優しい感じがしてるんだよ。それで二人が付き合ってるんじゃないかって思ったっていうのもあるけど」

「……まじか」

「あ、僕の方は秋篠さんに何か想ってるっていうのはないから安心していいよ。原城の恋の邪魔をするつもりもないから」

「それはありがたいけど……だったら何でこんな廊下の端まで呼んだんだ? 別に教室でもよかったと思うんだが」


 今拓也と朝陽がいるのは誰も通りかからない廊下の隅。

 こんな場所まで呼び出されたのでてっきり何か言いがかりでもつけられるのではないかと内心怯えていたところもあったが、そういう話でもなかった。


 このくらいの内容であれば、わざわざ移動する必要もなかった気がするが。


「あー、それね。確かに原城の言う通り教室で話しても良かったんだけど……あそこだと、会話が他の誰かに聞かれる可能性もあったでしょ? それでもし原城にとって聞かれたくないことだったら、それを堂々と聞くっていうのは嫌かなって思ったんだよ」

「そういうことか。…正直助かった」


 冷静に考えれば、教室内で唯との関係について尋ねられればクラスにいる他の連中にも聞き耳を立ててくる者はいるはずだ。

 校内でも屈指の人気者である唯のゴシップなんてこれ以上ないくらいに興味を惹かれる話題を聞き逃す相手の方が少ないし、異様なまでの関心を寄せられてしまうだろう。


 ましてや、拓也はつい最近からとはいえ唯との接点も持ち始めたのだ。

 そこに注ぎ込むように話題の燃料を足してしまえば、どうなるかなんて想像に難くない。


「いいっていいって。こっちこそ、急に呼んだりしてごめん」

「それは気にしてないからいいよ。…ところで少し聞きたいんだけど、俺の態度ってそんなにわかりやすいものか?」


 朗らかな笑みを浮かべながらいきなり話しかけてきたことに対して謝罪をしてくる朝陽に、拓也はそういえばと頭に浮かんできた疑問を聞いておいた。

 朝陽は拓也と唯の距離感と、ただのクラスメイトでは説明しきれない態度から予想したと言っていたが、もしこれが誰から見てもバレバレのものだったとしたらかなり心にくる。


 自分の想いが周囲に気づかれるくらいならば問題もなさそうなものだが、一応確認しておきたいことでもあった。


「そうだな……多分、他の人たちは気づいてないと思うよ。僕も違和感を感じたのは偶然二人が話してたのを見たからだし、周りは純粋に嫉妬してるだけだろうしね」

「…それもそれで怖いんだがな。まぁよくわかったよ。ありがとうな」

「原城なら秋篠さんとも波長が合うと思うし、ピッタリだと思うよ。僕は応援してるから、何か困ったことでもあったら相談に乗るよ」

「助かる。今まであまり話してこなかったけど、改めてよろしくな」

「うん、こちらこそ」


 暗に他のクラスメイトからは恨みを買っていそうだという事実を突きつけられて若干恐怖心があおられるが、それを今気にしたところでどうしようもない。

 それよりも、これまで関わってこなかったクラスメイトとの仲が深められたことを喜んでおくとしよう。


 そのまま次の授業を受けるために教室へと戻っていく朝陽の背を見ながら、新たな友人との邂逅を嬉しく思った。


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