28:運命
ちょっと寄っただけの屋台で夜を明かす。
どうせ悪夢しか見ない睡眠など取る意味もない。予想より美味い肉料理と久しぶりに飲むアルコールで朦朧とする意識、夢と現を彷徨いながら店内や街道を行きかう人々を鑑定する。
この町はスキル持ち能力者の割合が高い。
噂に聞いたスキルの迷宮というのに挑戦しに来た冒険者が多いのだろう。僕も挑戦してみようと来てみたものの手に入るのは通常スキルのみという話しだ。それなら僕の持っているスキル強奪で全て手に入るものばかり、挑戦する意味もない。
今通り過ぎた騎士風の男、統率スキル2を持っていた。
殺そうかな?
今までも統率スキルを取ろうと何人かのスキル持ちを殺したけどなぜかスキル強奪失敗になってしまう。悪運のせいなのかな? そんなことを考えているうちに騎士風の男を見失う。
「ねえ、この甘い飲み物おかわり、あと白米が食べたいんだけど?」
「ヘイ、只今お持ちします。米料理ですかい? 白米とはいきませんが肉煮込み丼なら玄米ですが米料理になります。お持ちしますか?」
「うん」
米料理のほとんどが玄米なのは健康志向ではなく単純に精米技術が発達して無いからだ。ここはスキルで何でも出来る世界ではなくスキルで何にも発明されなくなった世界だ。
「おはようございます」
「オウ! 嬢ちゃんまた買い占めに来たのかい?」
「えー、買い占めなんてしてないじゃないですか」
会話の主を見る。凄く可愛い女の子が楽しそうに話している。貴族の娘かな?
あれだけ可愛ければ僕の嫁に相応しいね。
鑑定する。
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名前:リン 種族:人族 性別:女 年齢:16
スキル:(魔法)水魔法1、光魔法2
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たいしたことのない平凡なスキルと能力。
あれじゃ一回殺したら使い物にならなくなっちゃいそうだな。
僕は嫁を魔法の鞄に入れて持ち運ぶ。
だけど腐るんだよね。
魔法の鞄は現実世界と経過時間が異なってゆっくりになっているけど、それでも少しづつ時間は経過する。レベルの高い嫁なら殺して鞄に収納してから十日位は持つんだけど、それを超えるとだんだん腐ってゆく。
腐る前に鞄から出して、蘇生して愛してあげるんだけど、それでも五回位蘇生した時点で灰になって消えてしまう。
あの娘じゃ、一回の蘇生も耐えられそうにないなあ。スキルもゴミしかないし、興味を引かないな...
大量の料理を魔法の鞄にしまう娘が片隅に映る。
あ、そういえば、この前取り出すのを忘れてドロドロに腐った嫁と一緒に魔法の鞄を捨てたんだった。あの鞄はどうだろう...
鑑定。
たいした魔法の鞄じゃないな、あれじゃ経過時間は現実の半分程度だ。嫁の保管用としては役に立たない。
興味を失う...
待ち行く人を鑑定する。
火魔法1。
剣術3。
風魔法2。
様々なスキルが僕の前を通り過ぎる。
罠解除1。
槍術3。
暗殺弐。
「ん?」
暗殺弐?
暗殺スキルはユニークスキルだったはず。弐というのはなんだろう?
スキル強奪はスキルレベルの存在するスキルを強奪する事が出来る。これは今まで数え切れないほどのユニークスキル持ちを殺してきたけど一度もスキル強奪が発動しなかった事で確認している。けれど、弐というのは初めて見た。
店を飛び出し、そのメイドを追う。
「おはようございます。お嬢様!」
「おはようございます。ニアさん」
「わ、あの、私の様な者の名前を覚えてくださって光栄です!」
さっきの娘と楽しそうに話している。貴族の娘とそのメイドか...
その楽しそうな笑顔を見ていると。ムクリ、と何かが頭をもたげる。
僕の悪運は周りに不幸を振りまく。
悪運だもん、しょうがないよね。
あの娘は殺さないで僕の嫁にしよう。それなら壊れるまで楽しめるよね。
あのメイドは暗殺弐スキルを強奪できるか消えるまで殺して蘇生してまた殺そう。
そしてあの娘の屋敷でしばらく暮らそう。邪魔なものは皆殺しにすればいいや。
フフッ。僕はツイているな。




