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王都へ到着

 フリフォニア王国は、世界の誰もが知る大国の中の一つだ。

 その昔まだ小国だった頃、『産まれや性別に関係なく、人が集まれば自然と国は繁栄する』という信念の下、当時の国王が“来る者拒まず”の政策に乗り出した結果、国の人口が世界一となるまでに成長した国である。


 また、誰もが住みやすい国を造る事を目指して、人種差別を世界でもいち早く撤廃した国でもある。当初は根強い反対の声も上がったようだが、今では完全にその意思が浸透しており、様々な人種がフリフォニアに定住している。


 現在のフリフォニア王国があるのは、国の政を担当してきた歴代の国王全員が同じ信念を貫き通してきたからだろう。数十年前からは側近の大臣や貴族達だけでなく、国民の声にも耳を傾けるようになり、国民のほとんどが国を信頼するようになった。それ以降、国内で武力紛争が起こった事はなく、長年平和が保たれている。


 そんなフリフォニアの中でも、王都のランドベルサには国の特徴がよく表れている。

 各地から多くの人が集まる国内でも最大規模を誇るこの街の中は、日中はどこもかしこも活気が満ち溢れている。人種で居を構える地区が分かれているという事もないため、街の住人は思い思いの場所で生活している。流石に国王のいる王城や貴族達の屋敷がある街の中心部だけは、身分の低い者達が住むことを許されておらず、防犯のために壁で分け隔てられている。しかし、そのおかげで知らぬ間に無礼を働いてしまうかもしれないという緊張感からは解放されるため、平民にとってはむしろ好都合なことだ。


 それに住む場所が分けられているからといって、国王との間に距離があるというわけではない。先の説明の通り、いざという時は正式に国民と国王の話し合いの場が設けられる。これも平民が心配なく暮らすことができる理由の一つだろう。


 また、街の外側に街を護るための巨大な石壁が建っているのはトランナと同じだが、東西南北の全てに一つずつ巨大な門があり、どこから人が来ても大丈夫な造りになっている。他の街では身分や人種に応じて専用の門が造られていることも多いのだが、ランドベルサでは誰がどの門を通っても問題はない。行き来する方角が同じであれば全員が同じ門を通ることになる。


 この様に、ランドベルサは人のために造られた街であり、フリフォニアの象徴と言っても過言ではない。


 そのランドベルサの各門では、今日も多くの人々が出入りしている。そんな中、トランナを行き来する者がよく利用する南門に、何台もの馬車が少し急ぎながら近づいていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「到着だ! ランドベルサに着いたぞー!」


 ランドベルサの南門をくぐった瞬間、各馬車を御していた商人達から歓喜の声が上がる。

 一度はガーゴイルの奇襲を受けはしたものの、自分達の命だけでなく馬車の積荷まで無事だったのだ。商人達が喜びたくなるのも当然だろう。街の中へ入った今、再び魔物が襲ってくる心配はなく、もはや安全は確保されたと言って良い。


「うへぇー、やっと着いたぜ……」


 だが、商人達とは対照的に、同じく街の中へ入ってきたガンザはだらーんと脱力する。よく見ると、リアナは倒れそうになるのを膝に手をついて堪え、クレリアも体がフラついている。パーティの中では一番元気そうなケインスの顔にも少しばかり疲れの色が見えた。

 それでも、彼らはまだ良い方だ。他の場所で護衛をしていた冒険者達に目を向けると、斧や剣を支えにして何とか立っている者、馬車に背中を預けて座り込む者、挙句の果てには地面に突っ伏して倒れている者までいる。他の人の通行の邪魔になっていそうだが、そんな事はお構いなしだった。


 しかし、彼らが疲れるのも無理はない。商隊がランドベルサに辿り着くまでの間、いつどこで襲われるか分からない緊張感に包まれていたため、彼らはずっと周囲を警戒し続けなければならなかったのだ。それにどれ程の集中力が必要になるのかは、実際に体験したものでないと分からないだろう。

 また、その緊張感から一刻も早く抜け出そうと、ランドベルサを目指して急いで移動していたことも疲れた原因の一つだ。馬車に乗る商人達と違って、冒険者は徒歩である。途中で休憩を挟んではいたが、いつ襲われるか分からない環境で満足に休めるわけがない。それも休息は必要最低限の回数だけだったため、疲労も徐々に溜まっていくに決まっている。


 もちろん、彼らにもランドベルサに辿り着いたという喜びはある。だが、緊張感から解放された今、我慢していた身体的疲労と精神的疲労がドッと溢れてきたのだ。そんな冒険者達に喜ぶ余裕などない。この中で唯一の金ランクであるケインス達のパーティもその例に漏れず、こうして全員の様子に疲れが表れている。


 だが、冒険者達の中に一名だけ、疲労よりも喜びが上回っている人物がいた。


「うわ~、ここがランドベルサですか!」


 ケインスら四人の耳に、後ろから感嘆の声が届く。四人全員が振り返ると、そこには門をくぐった場所で目を輝かせながら街を見渡す恵菜の姿があった。


 恵菜も護衛をしていたのだから、周りの冒険者達とやっていた事は何一つ変わらないはずである。それなのに、その嬉しそうな表情に疲れは一切見えず、体も一切ふらついてはいなかった。


「……なぁ。エナちゃんって、ばけもん?」


「ちょっと、女の子を化け物扱いってどうなのよ? エナはまだ一応人間なはずよ。……たぶん」


「リアナさん。そうなるのも無理はないと思いますが、最後まで自信を持って言った方が……」


「……いや、あれだけ元気そうな姿を見たらそう思うのも仕方ないんじゃないか?」


 疲れている自分達とは真逆の恵菜の姿を見て、四人全員が呆れながら疑問を覚える。すなわち、恵菜が本当に人間なのか、だ。


 恵菜は一度、フェンリルのフルンからも人外疑惑をかけられているのだが、まさか同じ人間からもそう思われることになるとは思っていなかっただろう。もっとも、本人はその事が全く耳に入っていないのだが……


「ちょっと俺、マジでエナちゃんに普段どんな鍛え方してるのか教えてもらおうかな」


「ガンザ。お前、いつも後衛職は体力面で前衛職を見習えって言ってたよな」


「それが後衛職のエナに体力面の事を教えてもらうことになるなんて……皮肉もいいところね」

 

「うっ……い、いや、待て待て待て、まだ教えてもらったわけじゃ――」


「あー、すまん。少し君達に聞きたいことがあるんだが、いいか?」


 普段から前衛職としてのプライドを持つガンザがそのプライドを投げ捨てようか悩み、それをケインスとリアナが白い目で見ていると、今まで遠巻きに彼らを見ていた門の守衛から声をかけられる。


「何だろうか?」


「君ら、南門から入ってきたという事は、トランナから来たんだよな? あそこからここまでの道は平坦だし、舗装もされているから地面もガタガタじゃないはずだ。なのに、見たところ全員が随分疲れている様に見える。それに、門に入るまでは随分と急いでたみたいだが……何かあったのか?」


 兵士の言葉に、ケインス達は自分達が今やらなければいけない事があったことを思い出す。


「そ、そうよ! さっさとガーゴイルの事をギルドに伝えなきゃ!」


「ガーゴイル? ガーゴイルがどうかしたのか?」


「すまない。今ここで話してもいいんだが、説明の手間を省くためにギルドに来てもらってもいいだろうか? 詳しくはそこで説明する」


 今ここで守衛に道中で何があったのかを説明しても、それが伝わるのはこの街にいるフリフォニアの軍に対してだけだ。ギルドにも同じ説明をしなければならない事を考えると、一回でどちらにも伝わる様にした方が説明の回数は少なく、時間も短縮できる。


「何か緊急の事か?」


「ああ、急いで上の方まで伝えないといけないぐらいだ」


「それなら、ギルドに向かうのは俺じゃない方がいいな。守衛の俺よりも相応しい人物に、ギルドへ向かうよう頼んでみる」


「すまない、助かる」


 兵士が門の所まで走って戻っていく。


 ランドベルサのように、街の規模が大きくて国にとって重要な街では、異常があった時に素早く情報を国の上層部へと伝えられるよう、何らかの情報伝達手段が各所に用意されているのが普通である。兵士もそれを使うために門の所へと戻っていったのだろう。


「俺達も早くギルドへ行こう。でも、その前に護衛依頼がこれで完了したかどうか確認しないとな」


 疲れている体に鞭を入れ、商隊の代表者であるモスターンの所へと向かうケインス。その後にガンザとクレリアが続く。


「ちょっと、エナ~。街に着いて嬉しいのは分かるけど、ぼーっとしてると置いてかれるわよ~」


「え? あ、すみません!」


 やれやれと呆れ顔のリアナから声をかけられ、恵菜もやっとケインス達の後を追いかけ始める。街の探索をしたいのは山々だが、それよりも先にやるべき事があったのを思い出し、恵菜は心の中で反省するのだった。


見た目は人だから、きっと大丈夫。


第三章スタートです。

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