王都を目指して
またまた、恵菜視点です。
「わ、分かった。それなら、俺達と同じ後方の護衛ってことで」
必死さが伝わったのか、ケインスさんは驚きながも私の要望を聞き入れてくれた。
もしリアナさんが何も言ってくれなかったら、別の配置になって一人ぼっち且つ毎日が休まらない夜になっていたかもしれない。それを回避することができたんだから、リアナさんの気遣いに感謝しないと。
「リアナって、そんな感じに他人を思いやることができたんだな」
「ちょっと、それどういう意味よ?」
「何というか、その、普段の行動を見てると、な……」
それを聞いたリアナさんが心外だと言わんばかりにケインスさんへ文句を言い始めた。
こうなることが分かっていたかの様に、ケインスさんはうんざりとした表情でリアナさんから目を逸らす。普段の生活で色々と苦労しているのかもしれない。
「その思いやりを、もう少し身近な仲間に向けてほしいところなんだが……」
「何か言った?」
「い、いや、なんでもない。とりあえず、全員に配置が確定したことを伝えてくる」
……うん、やっぱり苦労しているに違いない。
未だにケインスさんに対して文句を言い続けてたリアナさんから逃げるように、ケインスさんが全体の中心へと歩いていく。
「リアナさん。その、同じ護衛配置に誘ってもらって、ありがとうございました」
ケインスさんが離れたのを見計らって、リアナさんにさっきのお礼をする。
リアナさんは一瞬きょとんとした顔になったけど、すぐに「別にいいのよ」と手をヒラヒラさせる。
「だって、周りが全員パーティの中、エナだけ一人っていうのは流石に可哀そうだしね」
「ほんとに、リアナさんにどうやって恩を返したらいいか……」
「だから別にいいって。むしろ、エナがこの前ギルドで色々してくれた時のお返しだと思ってよ」
色々あったと言っても、私がやったのは壊した魔法陣の作成と訓練場の一部を修復したことぐらいだ。そんなに時間はかからなかったし、大したことはやってない。
でも、逆にリアナさんからしても、私を同じ場所へ配置するように提案したことは大したことじゃないと思っている可能性もある。それなら納得するしかない。
「それじゃあ、一応全員の配置が決まったから、街を出たら決められた護衛場所についてくれ。細かい役割は、同じ場所を担当する仲間同士の話し合いに任せる」
そんなことを考えていると、ケインスさんが全員に聞こえる声で、他の護衛の人達に配置が決まった旨を告げる。それを終えると、私達の細かな役割を決めるために、こちらへと戻ってきた。
「さてと、それじゃあ俺達も簡単に後方での役割を決めるとしよう。クレリア、ガンザ、こっちに集まってくれ」
ケインスさんが集合をかけると、この前リアナさんがギルドで話していたもう二人の人達が集まってきた。
「じゃあ配置を決めようと思うが、その前に――」
そう言ってケインスさんが私の方を見る。
「リアナはともかく、俺達は君の事をあまり知らないし、君も俺達の事はあまり知らないだろう。だから、まずは軽く自己紹介からだな」
それはごもっともです。
知り合いがいるとはいっても、私がこの場で知っているのはリアナさんだけで、ケインスさん達三人に関してはあまり知らない。向こうからしてもそれは同じだ。
数日間とはいえ、一緒に行動するんだから、お互いの事を知って少しでも信頼し合わないといけない。そう考えると、自己紹介はやっておく必要がある。
「とりあえず、最初は言い出した俺から。俺はケインス。一応、このパーティのまとめ役で、見ての通り剣で戦うのが得意な前衛だ。よろしく頼む」
ケインスさんが腰に携えている剣を軽く叩いて示す。私はその剣がどれくらい凄いのかなんてサッパリ分からないけど、少なくともギルドで他の人が持っていた物より見栄えが良さそうだった。
「それじゃあ、次」
「お? 俺か」
ケインスさんが次に指定したのは、この中で一番体格が良い男の人だった。
「ガンザだ。ケインスと一緒で、パーティの前衛担当だ。武器はこの俺の体! 一応手甲をつけちゃあいるが、武器に頼らずとも戦えることが自慢だぜ! ま、よろしくな!」
そう言ってニカッと笑うガンザさん。どこかで聞いたことのある名前だと思ったけど、今日リアナさんが愚痴ってた相手の名前と同じだったことを思い出す。
普段どういったトレーニングをしているのか分からないけど、ガンザさんはとにかく筋肉が凄い。ギルドでも力自慢だと自負していた冒険者は何人もいたけど、背の高さも相まってガンザさんが一番力持ちに見える。
「じゃあ次は――」
「私ですね」
ガンザさんが自己紹介を終えると、ケインスさんが指定する前に女の人が小さく手を上げる。
「はじめまして。といっても、ギルドで一度お見かけしましたね。私の名前はクレリア。主にパーティの補助と回復の役割を担っていますが、偶に後方から支援攻撃をすることもあります。よろしくお願いしますね」
軽く会釈をするクレリアさん。とっても美人だし挨拶も丁寧で優しそうに見えた。補助に回復、それと後方支援ってことは、クレリアさんは少なくとも光属性に適正がある魔術師に違いない。
ところで、クレリアさんはどことなくヒルデさんに似た雰囲気がある気がするんだけど、何が似てるんだろう?
「とまぁ、こんな感じの三人とリアナを合わせた合計四人でパーティを組んでいる。最後に、君の自己紹介をしてもらってもいいか?」
「はい」
ケインスさん達三人の紹介が終わって、本来であればリアナさんの番ということになるんだけど、リアナさんの事はもう既に知っているから必要がない。そうなると、残りは私だけだ。
「霜月恵菜と言います。恵菜と呼んでください。魔法を使うのが得意なので、恐らく戦いの際には後方から魔法で攻撃することになると思います。よろしくお願いします」
「なるほど、大体予想してはいたが、やっぱり魔術師か。パーティを組んでいないってことは、誰かと一緒に戦った経験は?」
「ありません」
相手の方だけが複数いる戦いは、今までに何度か経験している。だけど、味方がいる状況での戦闘経験は未だになかった。
「そうか。それなら、もし戦闘になったら、リアナやクレリアと同じ後衛を担当してくれないか?」
「分かりました」
ユーリエさん曰く、複数人で戦闘をする場合、撃たれ弱い魔術師は後方に下がって攻撃することが多い。私は別に前に出て戦えなくもないんだけど(というより、いつも一人の時は必然的に一番前になってしまっている)、動き回っている間にケインスさんやガンザさんの邪魔をしてしまいかねない。そうなると、やっぱり慣れないうちは後ろから魔法を撃つ方が向いているのかもしれない。
「トランナとランドベルサの間は見晴らしの良い平原だが、魔物や盗賊が出ないとも限らない。気を抜いていて商隊を襲われたとなったら、俺達の信頼はガタ落ちだ。そんなことがないよう、皆、十分注意してくれ」
ケインスさんが私を含む皆に気を緩め過ぎないよう釘を刺し、それに対して私も含めた全員がしっかりと頷く。ギルドからの信用を失って、依頼を受けることができなくなって収入がなくなるのだけは、何としても避けなくちゃいけない。まだ私の旅は始まったばかりだ。お金がなくなってどこにもいけなくなりましたなんて事にはなりたくない。
「皆さーん! そろそろ出発しますぞー!」
丁度私達の話し合いに区切りがついたところで、モスターンさんから出発が間もなくであることを知らされる。
「おっと、もう出発か。さっさと俺達も最後尾に移動しよう」
ケインスさん達と一緒に馬車が並んでいる後ろの方へと急いで移動する。私達以外の人も、各々の決められた配置と思われる場所へと移動していく。
「では、出発―!」
先頭から微かに出発の合図が聞こえて、少しすると前の方から馬車が一台ずつ動き出した。私達も一番後ろの馬車を追う形で、トランナの北門をくぐって街の外へ出る。
歩きながら少し後ろを振り返ると、何度も見たことがあるトランナの門と外壁が離れていく。
その光景に若干後ろ髪を引かれたけど、次の街の事を考えながら、立ち止まりたくなるのを堪えて歩き続ける。
(行ってきます)
やっぱり、この旅立ちの時っていうのは、ちょっと心に来る。いつか慣れる時が来るのかな……。
心に来るということは、その街を離れたくなくなるような良い経験ができたということ。
次話は三日後に更新予定です。




