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ぼっちの危機

今回は恵菜視点です。

「そろそろ戻った方がいいかな」


 私は時計を持っていないから、今が何時何分なのか正確には分からない。トランナの中にも皆が見られるような時計はないし、周囲にいる人達に聞いても「知らない」という答えが返ってくるに違いない。


 なぜなら、誰も時計を持っていないから。


 この世界にも一応時計は存在している。私は見たことがないけど、ユーリエさんは何度か見たことがあると言ってた。それなのに全然普及していない理由の一つは、それがかなりの高級品だということだ。


 聞いた話では、高いもので白金貨数枚、安い物でも金貨数十枚はするらしい。そんな高級品がしてくれることといえば、正確な時間を教えてくれるだけ。

 一般的な生活を送っている街の人達からしてみれば、馬鹿げた値段だと思うに違いない。私もそう思ったぐらいだ。


 さらに、お金を持っていたとしても、時計を取り扱っているお店が見当たらないというのも普及を妨げる原因になっていると思う。でも、当然と言えば当然なのかもしれない。誰が買ってくれるか分からないような高級品を取り扱うのは、お店として結構な博打だろうし、そもそも時計を作れる人が少ないらしく、供給を確保するのも一苦労だ。


 そして、普及しない一番大きな理由は、皆があまり時計を必要としていないということだろう。


 この世界のほとんどの人達は、毎日が時間に囚われるような生活を送っていない。

 朝のホームルームに遅刻しないように学校へ来て、一限目は国語、その次の時間は理科、午後の体育は何時何分までに体育館へ集合というような、細かな時間管理が行われることは一切ない。時間が決められるとしても、朝には仕事場へ来て夕方まで働くという少し抽象的な決められ方になる。


 これだけ聞くと、まるで自堕落な生活を送っているように思えるかもしれないけど、実際はそうじゃない。皆の生活スタイルがキッチリとしているだけだ。

 日が昇る頃に起きて、朝食を食べてから仕事へと出かける。お昼頃に一旦休息を挟んで、日が沈む頃には帰ってくる。そして、夕食後は真夜中になる前に眠る。個人差はあるだろうけど、大体はこんな感じ。


 それでも、人によっては大まかに今どれくらいの時間なのかは知りたいと思っている。そんな人達が重宝しているものが、街の中心部の塔にある大きな鐘だ。

 この鐘は日が完全に昇った時、日が真上に来た時、日が完全に沈んだ時の計三回、毎日鳴らされる。何か魔法がかけられているわけじゃなく人力で鳴らしているから、毎日正確な時間に鳴らされているとは限らない。でも、街の人達からすればそれだけで充分な役目を果たしている。


 今日は既に一回鐘が鳴っているから、次に鳴るのはお昼を知らせる鐘ということになる。だけど、お昼前には集合しておいてほしいとモスターンさんが言っていたから、鐘が鳴ってからだとちょっと遅い。


 じゃあ鐘の音に頼ることなく、今が大体どれぐらいの時間なのか判断するにはどうすればいいのかというと、顔に手をかざして空を見上げればいい。


「えっと……うん、やっぱりもう戻ったほうがよさそうかな」


 空を見上げると、真上から少し離れた位置から眩しい光が降り注いできている。お日様の位置から考えて、今から集合場所へと戻れば良い時間になる。ふとした思いつきで街をふらふらとしていたけど、意外と良い時間潰しになったと思う。


 ところで、あのお日様は何て名前なのかな? 少なくとも太陽じゃないことは分かるけど。


「……ま、いっか」


 いくら考えた所で、知らないものの名前は出てこないし、そもそも特に名前がないかもしれない。誰かに聞いてみようかな。


 あれ、でも待って。もしかして、これって知ってて当たり前の事? だとしたら質問した瞬間に変な目で見られるんじゃ……?


 ……うん、気になるけど、こっちから誰かに質問するのはやめておこうかな。いつか自然に聞こえてくるのを待とう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 護衛依頼の集合場所へと戻ると、たくさんの冒険者らしき人達が既に集まっていた。


「あ、来たわね」


 私の姿を見つけたリアナさんが近寄ってくる。一体どうしたんだろう?


「何かあったんですか?」


「いや、あなたで護衛依頼を受けた冒険者が最後だから、今から護衛の配置を決めようと思って」


「配置、ですか?」


「そうよ……って、エナ、まさか護衛依頼受けるの初めて?」


「はい。何か拙かったですか……?」


 リアナさんの疑問が私の不安を煽る。もしかして、護衛依頼には受注する順序とかがあったのかな? でも、もしそうなら依頼を受ける時に、ヒルデさんが止めてくれそうな気がするんだけど……


「拙いってわけじゃないんだけど、それならエナの配置は少し考えなきゃいけないわね……とりあえずこっちに来て」


 一体何がどうなっているのか分からないまま、私はリアナさんに引っ張られて他の人達が集まっている場所まで連れてこられる。


「全員集まったわよ」


「ああ。……そうか、君もこの依頼を受けるんだな」


 そこにいたのは、初めて会った時にぶつかりそうになった人だった。確かケインスという名前だったはず。リアナさんと勝負する時にもいたけど、あの時は全然しゃべらなかった。


「そんなことより、さっさと決めちゃってよ。ほら」


「分かった、分かったって」


 ケインスさんは何か言いたげな様子だったけど、リアナさんに急かされて、私から視線を外す。リアナさんが私で最後だって言ってたから、他の人を少し待たせちゃったのかもしれない。


「皆、護衛依頼を受けている冒険者が揃ったようだから集まってくれ!」


 ケインスさんが集合を掛けると、周囲にばらけていた他の人達が集まってくる。自己主張が激しい(いつものギルドの雰囲気的に)トランナの冒険者の人達なら、こういうリーダーシップを発揮する人には突っ掛かっていきそうだけど、特に文句を言う素振りは見られない。


 私が来る前に、誰をリーダーにするか皆で話し合いでもしたのかな?


「皆が知っての通り、今回の護衛依頼の対象となっているのは、馬車十三台で構成されたかなり大規模な商隊だ。通常の護衛依頼に比べれば、護衛を担当する冒険者の数も多いが、馬車の数を考えると余裕はない。気が付けば手薄な場所ができている、ということも考えられる。だから、そんなことがないように、今から各自の持ち場を決めていこうと思う」


 ケインスさんの説明を聞いて、リアナさんが何を決めるように言っていたのか、やっと理解できた。


 護衛の人がたくさんいれば、極端に固まったりしない限りは死角なんてできない。だけど、今回は護衛の人数が多くないから、好き勝手に護衛させるんじゃなくて、あらかじめ個人が担当する場所を決めておこうって話らしい。


「代表者のモスターンさんに聞いたところ、今回の護衛の人数は三十人だそうだ。馬車が一列で移動すると仮定して、列の前後に五人ずつ、左右に十人ずつの配置にしようと思う」


 どういった配置にするのかテキパキと決めていくケインスさん。この辺は経験が活きているのかもしれない。

 偶に周りに意見があるかを確認しているけど、私は護衛依頼自体が初めてだから何も言えない。


「後はどう分けるか、ということになるんだが、できれば意思疎通がしやすいパーティ単位で分けていった方がいい。大まかにパーティ単位で配置を決めた後、足りない場所に一人一人埋めていくことにしよう。少し配置人数に誤差が出る事になっても、パーティで固まることを優先する」


……うん? 


 今、ケインスさんは何て言ってた?


 パーティ単位で配置を決めるとか言ってなかった?


 いや、別にそれが悪いってことじゃない。たしかに、意思の疎通がしやすい仲間同士で固まるのは当然だと思う。


 私にとって問題なのは、私の配置される場所によっては、そこを担当する私以外の冒険者が全員パーティに所属している可能性があるということだ。


 仲間外れにされないかな……?


 変にベタベタと絡んでこられるのは困るけど、完全に無視されるのも辛い。旅をすると決めた時に、周りに誰もいない一人ぼっちは覚悟していたけど、周りに人がいるのに一人ぼっちは辛過ぎる。


 いやいや、でもまだそうなると決まったわけじゃない。そもそもパーティに入っている人が少ないかもしれ――


「それじゃあ、パーティに参加している人数を把握したいから、自分が入っているパーティの仲間がこの依頼に参加しているという冒険者は手を上げてくれ」


――ケインスさんの言葉の後、見事に私以外の全員の手が上がった。


既に仲間外れ感が出ている気がする。


次話は明日更新予定です。

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