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問題児面談

 恵菜が裏口からコッソリとギルドへ入り込み、ヒルデがリアナを呼びに行っている頃――


「すまん。儂がもう少し何とかできれば良かったんだが、結局エナに任せることになってしまった……」


 グランは自分の不甲斐なさを詫びていた。


「いえ、グランさんは悪くないですよ。むしろ、我儘を言った私が悪いんです。自分のせいで起きた問題は自分で何とかします」


「しかしなぁ――」


「あ、来たみたいですよ」


 一切グランを非難しようとしない恵菜に対し、尚も何か言いたそうなグランだったが、扉がノックされたことで会話を打ち切る。


「リアナさんをお連れいたしました」


「入れ」


「失礼いたします。リアナさんも、どうぞ中へ」


 ヒルデに促されたリアナが部屋の中へと入り、リアナは恵菜の姿を見つけて足の動きが止まる。


「あなた……昨日の」


「何だ、お前たち面識があったのか?」


 リアナが恵菜を知っているような素振りを見せたためか、グランは恵菜とリアナを交互に見る。


「面識があるというより、ちょっと見かけただけってところですね」


「ギルドに来たときに、もう一人と入口でぶつかりそうになっただけよ」


「なるほどな」


 恵菜とリアナの言葉を聞たグランは納得しながらも、その時に何も問題が起きなくてよかったと安堵する。


 すると、リアナが周囲をキョロキョロと見渡し始める。どうやら、お目当ての情報提供者らしき人物がどこにいるのかを探しているようだ。


「そんなことより、あたしはフェンリルについて教えてくれるって聞いて来たんだけど、その話してくれる人ってどこにいるのよ?」


「私ですよ」


「……は?」


 恵菜が自分の事を指さし、それを見たリアナが何を言っているのか分からないといった顔になる。この部屋の中で明らかに場違いである恵菜がその人物だとは全然思っていなかったらしい。

 一瞬部屋の中の時間が止まったような静寂が訪れるが、恵菜は一度深呼吸をして自分を落ち着かせ、再度同じ内容の言葉を発する。


「フェンリルがいなくなったという事をギルドに伝えたのは、私です」


「あ、あなたが? 嘘でしょ?」


 恵菜の言った事が信じられないのか、リアナは戸惑いながら確認するようにヒルデの方を見る。


「本当です。ここまで案内しておいて、リアナさんを騙そうなどということは致しません」


 だが、ヒルデからは否定ではなく肯定の言葉が帰ってくる。念のため、リアナはギルド長の方もチラっと見るが、ギルド長も頷いている。

 しばらく唖然とするリアナだったが、今この場に恵菜以外の有力人物はいない。そこで、リアナは一旦この場所にいる自分以外の三人をとりあえず信じ、恵菜の方へと視線を向ける。


「……じゃあ、あなたが情報提供者ってことは、フェンリルについて色々聞かせてもらえるのよね?」


「私が答えられる範囲で良ければ」


「……いいわ」


 リアナは恵菜から話を聞くために、恵菜が座っている対面側のソファに腰掛ける。


「話を聞くだけとはいえ、名前すら教えておかないのはどうかと思うから名乗っておくわ。あたしはリアナ。冒険者よ」


「同じく、冒険者の霜月恵菜です」


「分かったわ。それじゃ、まず初めに聞きたいのは、フェンリルがいなくなったとあなたが判断した理由についてよ」


 リアナは一番疑問に思っていたことを口にする。


 初めてトランナのギルドに来た時、リアナはフェンリルが“いなくなった”と説明された。“見つからなかった”や“討伐された”ならまだ分かるが、根拠もなく“いなくなった”と言える理由が何なのか、リアナは未だに分からないままだった。


「……すみません。いなくなったというのは、少し本当の事とは違うんです」


「本当の事とは違う……? じゃあフェンリルはまだこの近くにいるの!?」


 済まなそうに話す恵菜の言葉を聞いたリアナが若干興奮気味になる。ギルドの説明が真実でなかった事に対して少しは怒りそうなものだが、リアナからしてみれば、いなくなったというのが嘘だったことよりも、フェンリルを討伐できる可能性が浮上してきたことの方が重要なのだ。


「いえ、この辺りにはもういないと思います」


 しかし、恵菜の否定する言葉を聞き、リアナは疑問の表情を浮かべる。


「なんで? いなくなったのは本当の事じゃないって、今あなたが自分で言ったじゃない。それなのに、今はいないなんてどうして言えるのよ?」


「私が追い払ったからです」


 あっさりとそう説明する恵菜だが、それを聞いたリアナの目が丸くなる。


「……追い、払った? あなたが?」


「そうですよ」


 リアナが確認するかのように尋ね返すが、当然恵菜からは肯定の返事が返ってくる。シンプルな答えながら嘘ではない恵菜の言葉に、リアナは頭の中の整理が追いつかない。


「……え、待って、それって、あなたの他に冒険者の仲間がいて、その冒険者達とフェンリルを追い払ったってこと?」


「違います。私一人で追い払いました」


「一人……? 見た目からして、あなた魔術師でしょ? 魔法で追い払ったってこと?」


「はい、魔法で追い払いました」


「まさか、実は冒険者ランクが物凄く高いとか……」


「いえ、ランクは銅二……あ、最近銅三になりました」


 リアナの質問に淡々と答えていく恵菜は、自らの冒険者カードを取り出してリアナに見せる。そこには恵菜の名前などと共に、銅色の星が三つ表示されている。


「ランクが銅三……魔術師……女の子が……一人で……?」


 恵菜の冒険者カードを見たリアナは、頭を抱えながらブツブツと呟いている。しばらくそのままの状態だったが、リアナは徐々にワナワナと震えだし――


「~っ! 嘘をつくのも大概にしなさいよ!」


 大声でそう言いながら、目の前のテーブルに両手を思いっきり叩きつけた。大きな声と音に驚いた恵菜とグランがビクッと肩を震わせる。


「リ、リアナさん、落ち着いてくだ――」


「落ち着けるわけないでしょ!」


 ヒルデが必死に宥めようとするが、リアナは尚も止まらない。


「魔術師の女の子が一人でフェンリルを追い払った!? あり得ないでしょそんなこと! 冒険者ランクが金以上だっていうならまだ分かるけど、この子まだ銅ランクよ!? 見た目も全然強そうに見えないし、そんなの信じられるわけないでしょうが! まだいなくなったって説明された方が信憑性あるわよ!」


 一気に捲し立てるリアナだが、そう思うのも無理はない。恵菜の実力を知っているならばまだしも、今の話を聞いたほとんどの冒険者は誰もがリアナと同じような反応を示すだろう。


「……まぁ、これが正しい反応だろうな」


「……ギルド長も私も、初めて聞いた時は同じ反応でしたからね」


「うぅ……」


 恵菜はまたしても信じてもらえなかったと悲しんでいるが、現在のリアナの姿を見たグランとヒルデは妙に納得している。過去の自分と照らし合わせても、今の反応が普通だと思っているらしい。


「それに、言うだけなら誰にだってできるわ! もし追い払ったって言うんなら証拠を見せなさいよ!」


「あ……こ、これでどうですか?」


 証拠と言われて、恵菜はフェンリルから貰った物があることを思い出し、それを収納袋の中から取り出してリアナに見せる。


「何よ、それ……って、もしかしてフェンリルの爪!? ちょっと見せて!」


 恵菜が手に持つフェンリルの爪を見たリアナは、ひったくるように恵菜からフェンリルの爪を(うばいさ)り、それをまじまじと見つめる。


「……本物だわ……」


 そう呟きながら呆然とするリアナ。

 リアナは以前に本物のフェンリルの爪を使った装備を見たことがあり、記憶の中のそれと目の前の物とを比較した結果、恵菜の持っていたものが本物であると確信せざるをえなかった。


「リアナさん、気がお済でしたら、エナさんにフェンリルの爪を返してあげてください」


「え、あっ、ごめん、返しておくわ」


 ヒルデにそう言われ、リアナは自らがフェンリルの爪を持ったままだったことを思い出し、恵菜へと返す。


「でも、何であなたがフェンリルの爪を……」


「追い払った時に手に入れました」


「どこかで拾っただけじゃ……いや、あんな爪なんて落ちてるわけが……」


 落ちていたものを拾っただけという可能性を指摘しようとして、リアナは自らその可能性が低いことを悟る。

 フェンリルの爪はとても丈夫である。先端部分が少し欠けた程度の物なら落ちている可能性もなくはないが、恵菜の持っている爪はかなり大きく、そんなものが落ちていることなど稀である。


「そういえば、あなたが持っているのは爪だけ? 他には何かないの?」


 ふと恵菜が他にフェンリルの素材を持っていないか気になったリアナがそう尋ねる。ここでもし恵菜が他にも素材を持っていれば、恵菜の言う通り、ほぼ間違いなくフェンリルは追い払われているか討伐されているだろう。

 それに、リアナ達の目標はフェンリルを狩ることではなく、あくまでフェンリルの素材を入手することだ。恵菜がフェンリルの他の素材、特にリアナ達が欲しがっている部分の素材を持っていれば、割安で買い取る事ができるかもしれないとリアナは思いついたらしい。


「すみません、持ってるのはこれだけなんです」


 だが、恵菜は爪以外の素材を何も持ってはいない。あの時フルンから貰った他のものがあるとすれば、氷魔法の知識ぐらいだ。もっとも、その知識は魔術師にとって素材以上に喉から手が出る程欲しいものなのだが。


(他の素材はない……いくら立派な爪があるとはいえ、流石にそれ一つだけじゃこの子がフェンリルを追い払ったって信じられないわよね)


 恵菜が他の素材を持っていないことを知ったリアナは、本当にフェンリルが追い払われたのかどうか判断できないでいた。フェンリルの爪が丸ごと一つ落ちている可能性が低いとはいっても、可能性がゼロというわけではない。だが、リアナには恵菜が嘘を言って騙そうとしているようには見えなかった。


 しばらく考えていたリアナだったが、突然何か名案を思いついたように「そうだ!」と声を上げて、握った手でもう片方の掌をポンと叩く。


「分かった。エナ、あなたの言う事を信じてあげる」


「ほ、ほんと――」


「た・だ・し」


 信じるという言葉を聞いた恵菜にパァっと笑顔が広がるが、リアナは恵菜の言葉を遮るように言葉を重ねる。不思議に思った恵菜が首を傾げるが、それを無視してリアナは高らかに宣言する。


「あたしと勝負して勝てたらよ!」

最近、収納袋が四○元ポケットに見えてきたり……


次話は明後日に更新予定です。

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