真実を求めて
前回に引き続き、リアナ視点です。
「本当に何も知らないの?」
あたしは今日何度目かの同じ台詞を目の前の冒険者にぶつける。
「何度も言ってるだろ! あんたが探してる、フェンリルの情報を持って来たとかいう人物は俺じゃないし、そんな奴について知ってることは何もねぇよ!」
「そっ、じゃあ人違いだったみたいね。疑って悪かったわ」
「全く……ギルドに来ていきなり女性に話しかけられたと思ったら、こんなことになるとは思わなかったぜ」
人違いだったことを謝るが、今まで話を聞いていた冒険者はぶつぶつと何か言いながら怒って去っていく。
こっちとしては、ただフェンリルの事について尋ねただけのつもりなのに、ほとんどの冒険者は今と同じ様に、最後は怒ってどこかへ行ってしまう。何でだろうか……?
「また外れかぁ……」
ため息を吐きながらそう呟き、座りながらテーブルの上に突っ伏す。今ので今日十五人目の人違いだ。
「……ほんとに冒険者なの?」
これ程までに本人と思われる人物と会えないとなると、情報提供者が冒険者なのか怪しくなってくる。一度根本から考え直したくなってきたが、今の時間帯はあたしの担当で、夜中ずっと張り込み続けていたケインスは宿に戻ってしまっているから、今ここに相談できる相手はいない。
「あーもうっ! 何でこうフェンリルどころか冒険者の手がかりすら見つからないのよ!」
昨日からギルドに張り込み続け、ケインスと合わせれば今までに何十人という冒険者から話を聞いたけど、有力な情報は全く得られていない。こうやって頭を抱えて大声を出したくもなるも仕方ないと思う。
「……おい、何かいきなり一人で騒ぎ始めたぞ」
「ほっとけ、変な奴には近づかないのが一番だ」
「でも、よく見ると意外に可愛い顔してるんだよな」
「へっ、いくら可愛かろうが美人だろうが、頭のネジがぶっ飛んだ女は御免だぜ」
あたしが騒いでいることに気付いた周りの冒険者達がひそひそと何か言っている。随分と好き勝手言ってくれるじゃない。
いつもならあんな好き勝手言う冒険者なんて叩きのめしてやるところだけど、今問題事を起こせば、もれなくクレリアの説教が待っている。それに、あたし達のしている事がクレリアにバレるわけにはいかない。ここはぐっと堪えて我慢しよう。
……ていうか、意外にって何よ、意外にって。どう見ても可愛い女の子でしょうが。あとネジがぶっ飛んだとか言ってる奴、後で覚えときなさいよ。
とりあえず今は懲らしめたい衝動を抑えて、ギルドの入口に意識を傾けておく。不注意で見逃した人があたし達の探してた冒険者でした、なんてことになったら目も当てられない。今までの苦労が水の泡になるのだけは防がないといけない。
すると、ちょうどギルドの扉が開いて誰かがギルドへ入ってきた。
「さて、また確認しに――って」
ギルドに入ってきたのは、昨日カウンターであたし達の対応をしていた女性のギルド職員だった。確か、名前はヒルデだったはず。
「あの人は……別にいっか」
立ち上がりかけていた椅子に再び座りなおす。
あの職員が何か情報を知っている事は間違いないけど、昨日のやり取りであたし達に教えてくれない事は分かっている。話を聞く必要はないし、そもそも話したところで時間の無駄だろう。そう思って、再びギルドの入口の方へと視線を戻しかける。
だけど、向こうはどうやら話をする必要があったらしい。職員はギルドに入ってきてすぐに、あたしの姿を見つけてこちらに歩いてきた。
「リアナさん、でしたね?」
「? あたしに何か用?」
「はい。お話したいことがございます」
「話したいこと?」
そう言われてもどんな内容なのか全然思いつかない。一体何だろうか?
「ここでは説明しづらいので、私と一緒にギルド長の部屋まで来ていただけないでしょうか?」
「何で態々そんな所にまで……」
あたしがギルド長の部屋に行けば、誰もギルドの入口で張り込みをしていない時間ができる。その間にフェンリルの事について知っている人、もしくは情報提供者本人がギルドへ来てしまうかもしれない。
その事を考えると、そう簡単に頷くことはできないはずだった。
「お話したい内容は、リアナさんが探している情報提供者についてと、フェンリルに関する真実です」
「なっ!?」
だけど、職員の口から出た予想外の言葉を聞いて、あたしは思わず椅子が倒れる程の勢いで立ち上がる。
「それ本当!? 嘘じゃないわよね!?」
「嘘ではありません。それで、付いてきていただけますか?」
「もちろ――」
当たり前のように承諾しようとしたけど、ふと気になる事があって言葉を止める。
「……一つ聞かせて。昨日あたし達がその人物について尋ねた時は、あなたとギルド長は一切情報を教えようとしなかったじゃない? どうして今になって教えようと思ったの?」
そう、昨日の時点では、規則云々でギルドが個人情報を開示することはないと言っていた。それが突然話す気になるなんておかしい。
もしかするとこの誘い自体、あたしが情報提供者と会わないようにするための罠だって可能性もあり得る。情報提供者が職員と連携して、あたしをここから離れさせている間にギルドへこっそり入ってくる。そう考えると簡単に付いてくことなんてできない。
それでも、あたしの質問に対して、職員は表情変えることなくさらっと答える。
「本人から教えても良いという許可を頂いたからです。それに、今回は本人が直接リアナさんに説明したいそうです」
「直接? ってことは、フェンリルの情報提供者が今ギルドに来てるの?」
「はい。今はギルド長の部屋で待っています」
既にギルド内にいる。そう言われた瞬間、あたしは目を見開いていた。
「ちょっと待って。あたしずっとここで入口見張ってたんだけど、その人いつどこからギルドに入ってきたのよ?」
正確には、ケインスと交代してから今までなのだけど、少なくとも常に一人はギルドで見張りをしていた。情報提供者がギルドに入ってきた時点で、あたしかケインスのどちらかが話しかけているはずだ。それに、冒険者と話している時でもずっと入口の方には意識を傾けていたし、そんな状況であたし達の知らない間に人が入ってきていたなんて信じられなかった。
そんなあたしの疑問に対しても、職員は笑みを絶やさずに答えてくる。
「先程、ギルドの裏口からです」
「……裏口?」
「はい。裏口です」
完全にあたし達の張り込み作戦が欠陥だったことを証明された瞬間だった。このギルド、裏口なんてあったんだ。って、そりゃあ入口が一つだけなわけがないか……
とにかく、既に本人がギルドにいるというのなら、ここで見張り続けても意味がない。それ自体が嘘ってことも考えられるけど、職員の表情からは騙そうという意思は微塵も感じられなかった。
「……分かったわ、その情報提供者に会わせて」
それに、本人がいないと分かった瞬間に戻ってくれば、その隙を突いて入ってきた冒険者を見逃す心配はないはずだ。むしろ職員の言った通り、本当にその冒険者がギルド長の部屋にいるのにそれを無視してしまう方が馬鹿らしい。
「それでは、こちらへどうぞ」
そう言って職員はあたしを案内する。どうやら、情報提供者がいるのはギルドの二階らしい。入口に注目していたとはいえ、見知らぬ人物が二階へ向かうところを見逃すなんて……ここにガンザがいたら絶対馬鹿にしてきただろう。あたし一人だけでほんとに良かった。
二階の一番奥の部屋まで来た職員は、その部屋の扉を軽く叩いてから開ける。
「リアナさんも、どうぞ中へ」
職員に促され、あたしも部屋の中に入る。そこには昨日何故かカウンターで見かけたギルド長に加え――
「あなた……昨日の」
初めてギルドへ来た時にケインスとぶつかりそうになった少女の姿があった。
問題児同士の再会。
次話は三日後に更新予定です。




