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グランの葛藤

「……どうするおつもりですか、ギルド長?」


 リアナとケインスが酒場の方へと歩いていくのを見送り、ヒルデがこれからの対応をグランに尋ねる。


「どうするも何も、ほっとくしかないだろう」


「ですが、冒険者の方から苦情が来てもおかしくありませんよ?」


 リアナとケインスは早速ギルドの入口に一番近い席に陣取り、既にギルド内にいる冒険者だけでなく、ギルドに入ってきた冒険者にもすぐに話しかけている。リアナのしつこい追及に嫌気が差したのか、中には途中で逃げるようにギルドを出て行く冒険者もいる。

 もし彼らが一人しかいなければ、ずっとギルドに張り込み続けることはできないだろう。ギルドは宿泊施設ではなく、居心地も決して良いとはいえないのだから。

 だが、ケインスとリアナはいざとなれば交代でギルドに居座る事で(ケインスは乗り気じゃなさそうだが)、冒険者全員と話すことを考えていた。


「……やはり、追い払ったと素直に説明すべきだったか?」


 グランは自らの対応が失敗だったのかと反省する。


 冒険者になったばかりの恵菜がフェンリルを追い払ったという説明をしたところで、誰もその事を信じようとはしない。また、恵菜は自分が目立つのを嫌っていたため、グランは恵菜の意思を尊重し、恵菜が目立つことの無いように対応することにした。

 それらを考慮した結果、ギルドはフェンリルがいなくなったという声明を発表し、恵菜の名前が一切出ないようにしたのである。

 最初は疑問の声も上がったが、フェンリルの存在が確認されなくなったことで、次第にトランナの人々はフェンリルがいなくなったことを信じていった。


「既に冒険者と街の住人にそう説明を行った以上、今更追い払ったと説明するのもどうかと思われます。それに、正直に追い払ったと説明したところで、彼女達は同じような行動をしたと思いますよ」


「うぅむ……」


 ヒルデの推測を聞いたグランが腕を組んで首を捻る。


 このままリアナ達が先程言っていたことを本当に続けるのであれば、彼らは恵菜と話すまでずっと居座り続けることになる。だが、彼女達も街の住人と同じように、恵菜がフェンリルに勝ったという意実を信じない可能性が高い。グランやヒルデでさえ、最初は疑ったのだから。


「エナも詳しい事は話したくなさそうだったからな……あ奴らがエナと話をしたところで、納得して帰るとも思えん」


「そうですね……」


 恵菜がグラン達に話した内容は、自分がフェンリルに勝った事と、フェンリルが元居た場所に帰った事だけだ。恵菜はフェンリルと話せることや、どうやってフェンリルが帰って行ったのかまでは話していない。そのせいで、(ある意味間違ってはいないのだが)恵菜にはフェンリルに関して話したくない内容があるのだと、グラン達にはそう解釈されてしまっている。


「だが、もはや隠し通すこと自体が難しいような気も……」


「しかし、真実を話すという事は、少なからずエナさんに迷惑がかかることになりませんか?」


 情報というのは、意図しない所にまで広まっていくものである。恵菜がフェンリルを追い払ったという事も、今はグランとヒルデ以外に知る人物がいないからこそ、広まるのを防ぐことができているのだ。それがケインス達に知られた時にも同じことができるかと言われればかなり微妙なところだ。


「エナさんの行った事が周囲に広まってしまえば、エナさんに目を付けて近寄ってくる人物も必ず出てくるかと」


「それが話の通じる相手ならマシだが、問答無用で連れ去ろうとする連中もいそうだな……まぁ、フェンリルを一人で何とかできる魔術師を無理やり連れて行くことができる奴がいるとは思えんがな」


 グランの言葉を聞いて、否定することができないヒルデは苦笑いを浮かべる。


 今の恵菜を実力行使で連れて行こうとすれば、反撃された時に甚大な被害が出ることは目に見えている。生半可な実力の持ち主では、あっという間に返り討ちとなるだろう。


「……もう真実を話しても問題なさそうに思えてきたんだが」


 空中に虚ろな視線を送るグラン。真実が世間に広まった場合の事を考えていたグランは、恵菜の事を心配する必要があるのか疑問に思えてきたらしい。


「そうかもしれませんが、目立つことを本人は嫌っていますよ? ギルドが本人の意思に反するような事を行うのは……」


「う~~~む……」


 ヒルデに反論され、どうしていいのか分からなくなったグランは頭を抱える。グラン達が大丈夫だろうと思っていても、軽率な対応を取ってしまっては、恵菜とギルドの間にある信頼関係が崩れてしまいかねない。ギルド長としてもグラン個人としても、それだけは避けたかった。


「……えぇい! いくら考えても、本人に確認してみんことには、ギルドがこれ以上何かすることはできんではないか!」


 しばらく必死に良い案がないか考えていたグランだったが、これといった名案は全然思い浮かばず、頭を両手で掻きながら大声で喚く。

 酒場の方にいるケインス達には聞こえなかったようだが、近くにいたギルド職員と冒険者が何事かという目でグランを見ている。


「確認ということは……一度エナさんに会って話をするということですか?」


「そうだ。ギルドが何か行動する前に、エナの意思を再度確かめる必要がある。もしかすると、あそこに陣取っている二人と話をしてくれるかもしれん」


「話す意思がなかった場合は?」


「その時はその時だ。ギルドが強制的に追い出すことも考えておかねばならんな」


 ケインス達の行動に苦情が殺到すれば、その事実を突き付けてギルドに居座ることを禁止することもできる。だが、恵菜がケインス達に真実を話し、ケインス達が納得して帰ってくれるのならば、穏便に済ませられる可能性があるそっちを選択した方がいい。


「たしかに、エナさんに一度会っておかないといけませんね。それに、あらかじめエナさんに現状をお伝えしなければ、ギルドへ来た時に彼らと鉢合わせることになって揉めそうですし」


「男の方の冒険者はまだ大丈夫そうだが、あの女の冒険者は何か恵菜と揉めそうだな」


「……間違いなく揉めるでしょうね」


 ヒルデは遠い目になりながら、冒険者登録をしようとする恵菜に冒険者が絡み、それに恵菜が切れて騒動を起こした時の事を思い出す。


 前回は両者に実力差があり、即座に争いが終わったことで比較的被害は少なかったが、今回も揉め事が起きた時に被害が少ないとは限らない。それに、フェンリルを討伐しに来たということは、ケインスやリアナの実力は相当なもののはずである。そんな実力を持った者同士が争えば、ギルドの被害は計り知れない。


「ギルド長、私がエナさんと話をしてきます」


「エナがいる場所は分かっているのか?」


「ええ、エナさんに宿を勧めたのは私ですから。エナさんの泊まっている宿が変わっていなければ問題ありません」


「そうか、なら頼むとしよう。エナもお前となら話がしやすいだろうしな」


「畏まりました。それでは、今から――」


「待て、その前に……」


 早速エナの所へ行こうとするヒルデをグランが引き留める。


「どうなされました、ギルド長?」


「いや、それがな……」


 そう言って視線を横に移すグラン。ヒルデもその視線を追って自分の隣を見ると、いつの間にか冒険者が長蛇の列を作っており、他のカウンターに座る職員が必死の形相で手を動かしていた。


「…………」


「この時間帯は忙しいからな……今お前がいなくなると、他の職員では受付業務が廻りきらなくなるぞ」


「……ギルド長が代わりに受付をしてはどうでしょうか?」


「儂とお前じゃ戦力差がありすぎる」


 グランの言葉を聞いた他の職員もコクコクと頷いている。ヒルデ以外の職員にとっても、ギルド長が役立たずであることは周知の事実である。


「エナの所へ行くのは明日でも構わん。この忙しい時間帯を乗り切るにはお前が必要なのだ、頼む!」


 グランは自らが戦力外であることを自覚しながら頭を下げる。その姿からはギルド長の誇りやプライドなど微塵も感じられない。


「……はぁ」


 ギルド長らしさが微塵も感じられないグランを冷めたい目で見ながら、ヒルデはため息をつくのだった。


「そういえば、ギルド長? あの方達の発言から察するに、ランドベルサのギルドはフェンリルについて知らないようでしたが、フェンリルの件は報告なさっていないのですか?」


 ふと、ヒルデが疑問に思っていたことをギルド長に尋ねる。


 もし、フェンリルがいなくなった事をランドベルサのギルドが知っていたのであれば、ケインス達がトランナへ向かうのを止めるだろう。だが、ケインス達がここに来ているということは、向こうのギルドがそうしなかった何かしらの理由があるはずである。


「…………」


「……ギルド長?」


「……すまん、報告忘れとった」


 グランが小さい声でそう言い、グランとヒルデの間に静寂が訪れる。


 だが、それも一瞬の事だった。


「……うふふふ、ギルド長? 報告していないとは一体どういった理由で?」


 ヒルデが笑顔でギルド長に迫る。しかし、顔は笑っていても目が笑っていない。


「ち、違うのだ、ヒルデよ。これは決して、もう解決したから報告しなくていいだとか、面倒だから仕事をしなかったなどと思っていたわけじゃなくてだな――」


 グランが引き攣った表情で両手を振りながら弁解しようと試みているが、もはやその内容は完全に自白だった。


「もう少し、詳しく、お話いただけますか? ギルド長?」


 迫力のある笑顔で徐々に迫るヒルデを見たグランは、椅子から転げ落ちるように逃げ出そうとする。

 だが、ヒルデが片手でグランの服の襟を素早く掴み、それを許さない。


「場所を移したいのでしたら、そう言ってくださいね。ギルド長?」


「…………」


 ヒルデはそのままグランを連れて二階へ向かう。抵抗することなく引きずられていくグランの姿は、まるで親猫に首の後ろを咥えられた子猫のようだった。


 数時間後、ギルドでは死んだように倒れているグランとギルド職員達(カウンター業務担当)が見つかることになった。


グランさん、ごめん、擁護できない……。


次話は三日後に更新予定です。

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