訪れる問題事の火種
ヒルデから笑顔の依頼自重宣告が下され、ギルドで何もすることがなくなった恵菜は、宿へ戻るためにギルドの扉から外へ出ようとする。
すると、それと同時に二人の冒険者がギルドの中へ入ってきた。
ぶつかるのを回避するため、恵菜は慌てて左へと素早く移動する。
もし相手が性格の悪い冒険者だった場合、ぶつかってしまえば絶対に揉め事へと発展する。恵菜は今までの経験的にそう判断して避けたのだが、相手も恵菜のことを認識していたらしく、恵菜とは反対の方向へと動く。
「おっと、すまない」
「こちらこそ、よく見てなくてすみませんでした」
二人のうち、男性の方の冒険者が恵菜に謝るが、それに対して恵菜も逆に頭を下げる。両者とも自分の不注意が原因だと思っているようだ。
「気を付けてよね」
だが、男性と一緒に入ってきた女性の方の冒険者はそう思っていなかった。不満げな顔をしながら恵菜のことを見つめている。
「……なぁ、どうしてそう初対面の人にも突っかかるんだ。悪い癖だぞ」
「別に突っかかってるわけじゃないわよ。この子だって自分が悪いと思ってるから謝ったんでしょ?」
そんな女性の態度を気にしたのか、男性がその事に対して非難する。しかし、女性は何も悪いことをしたという意識はなく、反省の色は見られない。
何故か回避したはずの揉め事が目の前で発生し、呆気にとられる恵菜。そんな恵菜を置き去りにして、二人の冒険者は言い争う。
「そうだとしても、俺達に非がないということにはならないだろ。それに、問題を起こさないって約束だったじゃないか。また怒られるぞ?」
「ぐっ……」
「ギルドじゃそういうちょっとしたことで、冒険者同士の問題に繋がるんだ。だから、頼むから少しは抑えてくれ」
「…………」
男性から正論を突き付けられ、女性が渋々納得して押し黙る。だが、その表情はやはりどこか不満げだった。
それを見た男性がため息交じりに、彼女の代わりに再度謝る。
「……彼女も悪気があってやっているわけではないんだ。どうか許してほしい」
「い、いえ、気にしてませんから」
恵菜はそう言っているが、女性の態度には何も感じなかったと言えば嘘になる。ただ、既に一緒にいる男性が注意をしているため、これ以上何かを言う気がないだけだ。
「そ、それじゃあ私はこれで失礼します」
ここに残っていれば何か面倒事に巻き込まれると思ったのだろう。恵菜は足早にその場から立ち去っていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あんな女の子相手にまで……恥ずかしいとは思わないのか、リアナ?」
恵菜がその場を去った後、再びケインスはリアナの行動を責める。ギルドに入ってすぐにリアナが問題を起こしかけたのだから無理もない。
「全然」
「……はぁ」
それでも、不貞腐れた子供の様にリアナは全否定し、ケインスは今日何度目か分からないため息をつく
恵菜が逃げるように去っていくのを見て、怖がらせてしまったと勘違いしたケインスは一瞬呼び止めようとも考えたが、迷っているうちに恵菜は姿を消してしまっていた。
「気にしてないとは言っていたが、これはまた会った時に謝らないとな」
「そう? 必要ないと思うんだけど」
その発言を聞き、また悪い癖が出たかと思ったケインスは注意しようと口を開きかける。
だが、先程までの不貞腐れた表情から一変して、リアナはケインスの言葉に疑問を感じている顔をしており、本心でそう言ったのだと察したケインスは言葉を変える。
「どうしてそう思うんだ?」
「本人が気にしてないって言ってたでしょ。しつこく謝るのもどうかと思うわよ。それに、あの子の表情や声には、怖がっているような感情は混じってなかったわ」
「……そうか」
リアナの言い分にも一理あると感じたのか、それとも、ただ単純に女性のことは女性が良く分かっていると思ったのか。
たしかに、相手がいいと言っているにもかかわらず、執拗に謝り続けるのは印象が悪い。過剰に謝るのも失礼だと納得したケインスは、この事はもう片づいたものだとすることにして、それ以上リアナを責めようとはしなかった。
「まぁ大きな揉め事にならなくて済んだのなら問題ないか。早いとこ情報収集を済ませてしまおう」
意外とリアナが人の事を見ていることに感心しつつ、ケインスはギルドの中を進み、カウンターの方へと向かう。
(それにしても、さっきの女の子の動き……俺が動くよりも早かったような)
ふと、ケインスは先程の光景を思い出す。
ギルドの扉が開いて恵菜とケインスがお互いを認識したのはほぼ同時だった。当然、ケインスは女の子とぶつかるのを回避しようとしたのだが、それよりも早く恵菜が横に避けていたように見えたらしい。
(俺の思い過ごしだろうか……?)
「ギルドへようこそ。冒険者の方とお見受けいたしますが、トランナへ来たのは初めてでしょうか?」
ケインスが頭の中で色々考えていると、不意に正面から声がかけられる。考え事に夢中で、カウンターの近くまで来ていたことに気付かなかったらしい。
ケインスが顔を上げて声の主の方を見る。そこにいたのは、先程まで恵菜の対応をしていたヒルデだった。
ヒルデは目の前の相手が見かけない顔であったため、他の街から来た冒険者だろうと推測しており、ケインスがカウンターの前を気づかずに通り過ぎようとしていたため、声をかけたのだ。
「ああ、そうだ。いつもはランドベルサを拠点に活動しているんだが、わけあってトランナまでやって来たところだ」
ギルドの規模をランドベルサとトランナで比較した場合、ランドベルサのギルドの方が依頼数、冒険者数共に多い。
また、トランナのギルドは比較的低ランクの依頼が多いのに対して、ランドベルサのギルドの依頼はランクの幅が広い。
そのため、拠点がトランナの冒険者は銅ランクが多く、拠点がランドベルサの冒険者はそれ以上といったように、冒険者のランクによって拠点とする街も変わってくる。
「そうでしたか。本日はどの様なご用件でギルドにいらしたのでしょうか?」
冒険者が拠点としているランドベルサからトランナへ来るのは、基本的に依頼に関係している時がほとんどだ。ランドベルサで活動していた冒険者が、自分たちの実力不足を実感したという理由以外で、依頼数やランクの幅広さで劣るトランナに拠点を移すということはまずあり得ない。
今までに受付で様々な冒険者を見てきたヒルデは、そういったことから今回も同じような理由でトランナにやってきた冒険者だろうと当たりを付けていた。
「ランドベルサでトランナの近くにフェンリルが出たと聞いて、俺達はフェンリルと討伐するために来た」
だが、ケインスがトランナへと来た目的は、ヒルデが予想していたものとは異なるものだった。
巻き込まれ体質な恵菜。
短めですが更新いたしました。
次話は明日更新予定です。




