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機転を利かせて

 サンドルク帝国が戦争を起こそうとしていると聞いたので、それを止めてもらいたい。その要求が通るのなら話は早いのだが、そう簡単にはいかない。帝国が戦争をしようとしているというのは非公式な情報であり、帝国からすればフリフォニア王国に知られてはマズイはずだ。戦争の話題を振り、相手を刺激することになれば、この場で殺されてしまう恐れだってある。


 一方、お互いの国同士仲良くしようという話は、外交の目的として何もおかしくはない。それでいて、友好を深めることができれば、帝国が戦争を仕掛けてくる可能性はずっと低くなる。結果的に戦争を回避することができるのだ。


 問題があるとすれば、サンドルク帝国とフリフォニア王国の間に、今まで国交がほとんど無かったことだ。いきなり仲良くなろうと言っても、何か裏があるのではないかと警戒されてしまうことだろう。


「ほう? それはまた、何とも突然な提案だな」


 グライザードは驚いたようにそう言うが、表情にそういった感情は全く見えない。むしろ、エリスの心の内を見透かそうと細めている。


 先程のプレッシャーを思い出したエリスが一瞬怯むが、一度、小さく息をついて冷静になる。


「突然な提案なのは理解しております。しかし、長年の間、隣同士という位置関係にありながらも国交はほぼ無し。このまま機会を待っていても関係が変わらないのではと思うと、居ても立っても居られず」


「機会を作るために、まずは行動から、ということか。実に良いな。思い立ったら即行動というその考え、非常に好感が持てる。俺も考えるのは苦手だからな」


 実際はあまり準備をする時間が無かっただけなのだが、そんな他国の事情は知るはずもないグライザード。意図せずに彼から好印象を得ることができたエリスは、さらに続ける。


「先のウォルデス山脈の件もそうですが、お互いに国内で抱える問題もありましょう。此度の私の訪問を、それらを解決するための第一歩としたいのです」


「なるほど。エリステリア王女の言う通り、我が国には抱える問題が山積みだ。しかし、具体的にはどういった問題が解決できると考えている?」


「例えば、交易を行うことで、互いの国に不足している物を補うことができます。サンドルク帝国は気候柄、農作物の生産が厳しいのではないかと思われますが、フリフォニアからの支援があればその問題を解決できるかと」


 広大な領土を持つフリフォニア王国は、農作物を大量に育てることが可能だ。サンドルク帝国に交易する分を差し引いても、充分国内の需要をカバーできる。


「ふむ、確かにその問題は帝国が抱えるものの一つではあるし、貴国のおかげで解決できる見込みもありそうだ。しかし、逆にこちらができることが見当たらぬな。温暖で広大な土地を持つ貴国に、不足している物があるのか?」


「王国では金属資源が潤沢ではありません。対して、サンドルク帝国には鉱床があると聞いておりますので、その産出量は豊富ではないかと思います」


「金属資源と農作物を交換ということか。行動から入るだけではなく、必要な所は考えてきているようだな」


 またしても好感触。

 この流れであれば、友好関係となり戦争を回避できるのではないか。エリスがそう思った時だった。


「しかし、それだけが唯一の解決方法ではないだろう」


「それは、他に交易品があるということでしょうか?」


「交易に頼らずとも解決できるだろうということだ。――例えば、戦争を起こして相手の土地を奪い、資源を得ることも解決策の一つではないか?」


「!」


 グライザードから挙げられた解決策は、過去にサンドルク帝国が歩んできた解決策だった。そして、それはフリフォニア王国にとってすれば、最悪の方法でもある。


「交易も戦争も同じ解決方法だ。どちらかの方法に固執する必要はないと思うが、エリステリア王女はどう考える?」


「せ、戦争は、民が悲しみます。それに、駆り出された兵士も傷つきますし……」


「戦いなのだから当然だろう。問題はどちらの方がメリットがあるか、だ。交易では互いに物を渡さねばならないが、戦争は一方的に物を得られる。これだけを比較すれば、戦争の方が良い方法だと思えんか?」


「そ、それは……」


「――皇帝陛下。不躾ながら、発言の許可を頂けないでしょうか?」


 言葉に詰まっていたエリスの代わりに、今まで黙っていた恵菜が口を開いた。


「許す。何だ?」


「皇帝陛下の仰る通り、戦争は資源不足の解決策の一つとなるでしょう。成果のみで比較すれば、交易を行うよりもメリットが大きいと思います」


 それを聞いたエリスが驚いた顔で恵菜を見る。戦争を回避するために来ているのに、戦争を認めるような言い方をしているのだから無理もない。


 だが、当然、恵菜も戦争を推奨するわけではない。続けて「しかし……」と、戦争の悪い点を説明し始める。


「それは成功した場合の話です。戦争は侵略できなければ資源が得られないどころか、食糧や兵士を失うだけになります。また侵略できたとしても、その土地の管理ができなければ継続して資源は得られません。お互いの国の間に物理的な障害があるなら尚更です」


「ウォルデス山脈のことか」


「仮にサンドルク帝国とフリフォニア王国が戦争となった場合はそうなるでしょう。山脈を越えた先に領土ができても、管理するのは難しいのではないかと。それに対し、交易ならば安定して資源を得られますし、資源が採れる土地の管理は各々の国に任せられます」


「交易も失敗する可能性があるのではないか?」


「もちろん、互いに納得できる内容でなければ交易はできないでしょう。しかし、失敗したとしても失う資源はありません」


 それを聞いたグライザードは薄っすらと表情に笑みを浮かべた。


「……総合的に判断すれば、戦争よりも交易の方がメリットがある、か。なるほど、外交の補佐を任せられるだけのことはある」


「お褒めの言葉、ありがとうございます」


 そう言って恵菜は再び口を閉ざす。


「この場でどうすべきかの決断は難しい。だが、交易は一度検討すべきだろう。エリステリア王女。滞在中の間に議論の場を設けたい。構わぬか?」


「は、はい。是が非でもありません」


「日時については、明日までに決めて連絡を寄越す。他に何かこの場で申したい事はあるか?」


「いえ、ありません」


 それを聞いて、グライザードは軽く頷いた。


「旅の疲れもあるだろう。今日はもう休むと良い。下がれ」


 それを最後に、エリス達が謁見の間から退出する。


 何やら怪しい場面もあったが、最初の謁見としてはまずまずの内容となった。


パニック状態になった時に、落ち着いてフォローしてくれる人がいると助かります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 謁見での前哨戦までは優位。 ……とは謂わずとも、相手の気を引く事には成功した様子。 この世界に来た時には病気で臥せっていた中学生が、一国の主たる皇帝との交渉中に…
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