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上位ドラゴンとの戦闘

「恵菜の嬢ちゃんは王女を傍で守れ! 他は戦闘態勢!」


 目の前の光景が信じられずに思考が止まりかけていた冒険者組だったが、ステンの指示で正気を取り戻す。


 ステンと共にケインスとガンザが一番前で武器を構え、その後ろでリアナとクレリアがいつでも魔法で援護できるよう控える。前衛に戦士、後衛に魔術師という基本的な戦列だ。そして一番後ろのエリスがいる犬ぞりの傍には恵菜が待機し、全員の援護ができるよう万が一に備える。

 非戦闘要員が一名いるとはいえ、他は全員が金ランク以上の実力を有する精鋭。どんな相手であれ、護衛としては充分過ぎる戦力のはずだった。


 しかし、今回の相手は想定外だ。


「どうする? まさか、俺達だけでアレを倒すつもりなのか?」


「難しいだろうな……。アイツはこのウォルデス山脈の主である上位ドラゴン――クリスタリアドラゴンだ。お前さん達が実力に自信があるとしても、レッサードラゴンみたいな下位のドラゴンとは訳が違う」


「くそっ、飛べねえドラゴンだったら、崖から突き落としてやったのによ……」


「ていうか普通に飛ばれて後ろのあたし達が狙われたらキツイわよ!?」


 山道は片側が崖となっているため、地を移動する相手であれば、三人が前衛として立ち塞がれば横から回り込まれる心配は無かっただろう。ガンザの言う通り、崖に突き落としてしまうのも一つの手だ。

 だが、目に前にいる相手は空を飛べる。崖側へ突き落としても復帰されるどころか、空から回り込んで後ろを強襲することも可能だ。


「何とか深手を負わせて撤退させるしか……っ、来るぞ!」


 ドラゴンが腕を振り上げ、叩き潰すように振り下ろされる。狙いはケインスだ。


「ふっ!」


 ケインスは横へ素早く動いてそれを躱し、直後、地面を揺らすに留まったドラゴンの腕目掛けて剣を振るう。だが、まるで金属同士がぶつかったかのような鈍い音が響くだけだった。


「くそっ、硬すぎる!」


 切りつけた剣の方が折られるんじゃないかと思う程の衝撃に、ケインスが悪態混じりに顔をしかめる。頑丈な鱗で守られたドラゴンの腕を切り付けるどころか、表面に薄っすらと傷を付けることしかできなかった。


「次が来るぞ!」


 今度はドラゴンが薙ぎ払う様に腕を振るう。ケインスとステンは回避を選択して躱すことに成功するが、ガンザは回避ではなく、ドラゴンの腕を手甲で防ごうとした。


 しかし――


「っ!?」


 ドラゴンの腕と接触した瞬間、力比べに自信のあった彼は自らの選択が間違いだと気付いた。この世の生物のものとは思えない圧倒的な力を感じたガンザは、即座に衝撃を受け流そうとする。


 が、完全には勢いを殺すことはできなかった。腕の骨が軋んだかと思うと、ドラゴンの腕が離れた後もその衝撃で崖へ押し出されるように地面を滑っていく。彼らが戦っている場所は積雪のある山道だ。足下は悪く、踏ん張りが効きづらい。


 あわや滑落……かと思われたが、間一髪。あと一歩の所で踏みとどまった。


「『ハイヒール!』 大丈夫ですか、ガンザさん!」


 即座にクレリアから治癒魔法が飛ぶ。今の一撃でガンザの腕の骨にはヒビが入ってたが、彼女のおかげで即座に回復する。


「あ、危ねえ……! なんて馬鹿力だ……!」


「ちょっと! ドラゴン相手に力で勝てるわけないでしょ!」


「力がどれぐらいか測りたかっただけだ! もうやらねえよ!」


 馬鹿げた行動を非難するリアナだが、彼にも彼なりの考えがあったらしい。危うく死ぬところだったが、今のでドラゴンの直接攻撃は回避か受け流すかしかないという情報が得られたのは、彼にとってプラスになったのかもしれない。


「また来ますよ!」


 再び薙ぎ払われる致死性の攻撃。今度こそ前衛三人とも回避するが、一人だけ動きが違った。


「ぬん!」


 攻撃を最小限の動きで躱すステン。それと同時に、彼は剣をドラゴンの腕へ突き刺すように振るう。


 先程のケインス同様に弾かれる。ステン以外の全員がそう思ったが、その一撃はドラゴンに触れた途端、ガキィン!という大きな音と共に、なんとドラゴンの鱗を一枚剥がしてみせた。


「嘘ぉ!?」


 目の前で起きた出来事を信じきれないリアナが叫ぶ。


 鱗自体は硬くて刃は通らない。ただ、鱗と鱗の境目であれば、若干刃が入る。ステンはそこを狙い、ドラゴンの攻撃の勢いを利用して鱗を剥がしたのだ。


「あれは真似できそうにないな。ならっ――」


 ステンの達人技を見て、自分に同じ芸当はできないと悟ったケインスは、ドラゴンの攻撃を掻い潜ってその懐へと飛び込むと、そのまま鱗で守られていない箇所を一閃。

 剣はドラゴンの肉へと食い込み、辺りに鮮血を飛び散らせる。ドラゴンの巨体からすれば小さな傷かもしれないが、鱗に防がれるよりは痛手を与えられているはずだ。


 続けて攻撃しようとするが、ドラゴンがその巨体で押しつぶそうとしてくるのを見て即座に退避する。


「やっぱりそう簡単に何度も攻撃させてはくれないかっ……」


 個体差はあるが、ドラゴンは知恵を持つ生物だ。そして、上位ドラゴンともなれば人間以上の知恵があるとされる。

 目の前のドラゴンも、このまま直接攻撃しても意味が無いと判断したのか。後ろへと下がり、大きく息を吸い込み始めた。


「やべえ! ブレスが来るぞ!」


「魔法で防御を!」


 ドラゴンの代名詞とも言われるブレス攻撃。遮蔽物の無いこの場所では、防ぐ手段は魔術師による魔法しかない。もし防ぐのが遅れれば致命傷だ。


 だからこそ、リアナは攻撃には参加せず、詠唱を準備していつでも魔法を撃てるよう待機していた。いつブレス攻撃が来てもいいように。


「準備できてるわ! 『フレアプロテクション!』」


 前衛にいる三人の前にリアナが発動した火属性上級魔法が展開される。それと同時に、ドラゴンからもブレスが吐き出された。


 円形に広がる巨大な炎の盾と、全てを凍てつかせる極低温のブリザードがぶつかる。途端に元から低かった周囲の気温がさらに下がるが、盾の内側にそれほど大きな影響はない。

 互角。そう思われたその攻防だったが、徐々に炎の盾が揺らぎ始める。


 氷というのは水属性の派生という分類。つまり今の攻防は火属性であるリアナ側が不利だ。その相性差を補うための上級魔法だったのだが、上位のドラゴンのブレスはそれを上回ろうとしていた。


「っ! エナ、援護お願い!」


 このままでは防ぎきれないと判断したリアナが、恵菜に助けを求める。


『エアロドーム!』


 リアナの魔法が押されていると分かっていた恵菜は、リアナの援護要請に即座に反応し、防御用の風属性上級魔法を発動する。

 直後、リアナの魔法が破られた。炎はかき消され、氷のブレスが全てを飲み込もうと押し寄せる。


 ……しかし、それは目標には届かなかった。ブレスは不可視の空気の壁に阻まれ、恵菜達を避けるように横へと流れていくだけだった。


 そして、徐々にブレスの勢いは落ちていく。ついに上位のドラゴンのブレスを防ぎきった。


「よし、これでしばらくブレスは来ない! リアナも攻撃に参加しろ!」


「了解!」


 よく知られていることとして、ドラゴンはブレスを連続して撃つことができない。理由については解明されていないが、それは上位や下位に関係なく、ドラゴン全てに対して共通することだ。


 ブレスを警戒する必要が無くなった今、防御に専念していたリアナも反攻に転じることができる。彼女は炎の槍を生み出しては、ドラゴンの目に向かって飛ばし始めた。

 それに合わせるように、前衛の三人もドラゴンに接近して攻撃する。リアナの攻撃が良い目くらましとなり、三人が攻撃する隙を与えられていた。


「これなら……」


 いけるかもしれない。恵菜がそう思った時だった。


『――猪口才な』


「え?」


 不意に耳に届いた、鈴を鳴らしたかのように透き通った声。


 それは紛れもなくドラゴンから聞こえてきたものだった。


 が、それに対して何か行動を起こす間は無かった。ドラゴンが再び大きな咆哮を放ったからである。先程よりも近い距離故に全員が耳を塞ぐが、驚いたのは彼らだけではなかった。


「キャイン!」


「きゃあ!?」


 自分よりも巨大な生物の圧力に屈したか。ウォルデスハスキー達が怯え、反転して逃げだす。もちろん、牽引していた犬ぞりと――そこに乗っていたエリスと共に。


「エリスちゃん!?」


 傍にいた恵菜がそれにいち早く気づき、犬ぞりへと飛び乗る。そのまま犬ぞりは止まることなく、猛スピードでその場から離れていった。


そりって暴走したら怖くないですか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ ドラゴンのブレスを防ぎきりましたね! ……続く咆哮でウォルデスハスキーが怯えて逃げなければ尚よかったのですが……(´・ω・`) [一言] エナの戦線離脱がイタい…
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