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「あなた達、また悪事に手を染めてるんですか? もしそうなら、今回に関しては許せないですよ」


 何が起きたのか分からずに固まっているブラキンを無視し、恵菜は目の前で土下座している二人に冷ややかな視線を向ける。


「あ、悪事? 俺達は用心棒として雇われただけだが……?」


「本当に?」


「ほ、本当っす! 言動が悪すぎて信用に欠ける兄貴ですが、今回ばかりは嘘は吐いてないっす!」


「馬鹿野郎っ、一言多いわ!」


 バシッと殴られる子分。だが、その言葉や行動に、わざとらしさは無い。どうやら、彼らの言っていることは真実のようだ。


 と、ここでブラキンが頭の再起動を終えたらしく、二人に向かって怒りをぶつける。


「おいっ、何をしている! あれだけ高い金を払ったというのに、命令の一つもこなせないのか!」


「うるせえ! 死ねと言われて死ぬ馬鹿がどこにいるってんだ!」


「そうっす! こっちだって命は惜しいっすよ!」


 いったい私を何だと思っているのか。そう思う恵菜だったが、彼女の正体を知る二人からすれば、言っている事は決して大袈裟ではない。


「何を馬鹿な事を言っておるのだ! 白金ランク相手に戦ったこともあると言っていたではないか! そんな小娘、相手にもならんはずだろう!」


「俺達が相手にならんわ! その白金ランクが目の前にいるってんだよ!」


「師匠! 冒険者カードを見せてやってほしいっす!」


「あなた達の師匠になったつもりは無いんですが」


 そうは言うものの、見せた方が話が早そうではある。もはや隠す気も無いため、恵菜は冒険者カードを取り出し、ブラキンに見せつけた。


「なっ……白金、だと?」


「へっ、だから言っただろうが。俺達がこの化け物に勝てるわけがねえんだよ」


「だ、だが、お前達なら戦えるだろう! 過去に白金ランクの相手と戦って、無傷で切り抜けたと言っていたではないか! それも嘘だったとでも言うのか!?」


「戦ったっすよ。一瞬で戦闘不能にされたっすけどね」


「怪我はしなかったが、一瞬で取り押さえられただけだ」


「なお悪いわ! 誤解を生むような言い方をしおって!」


「俺達は嘘は言ってないんだ。勝手に勘違いしたアンタが悪いだろ」


 ついに開き直り始めた元盗賊コンビ二人。それを見たブラキンは相当お冠だが、これはさすがにキレて当然だろう。


 その後もギャーギャーと言い争う三人だったが……。


「喧嘩をするのはいいんですけど、ミーシャちゃんを返してもらってからにしてくれませんか?」


 恵菜にとっては、彼らの喧嘩などどうでもいい。彼女にとっての最優先事項は、ミーシャを取り返すことだ。


「か、返せば、見逃すか?」


「何ふざけた事言ってるんですか。見逃すわけないでしょう。今までの罪に対して罰を受ける。あなたにはその義務がある。……違いますか?」


「うっ……そ、そうだ。私はこの街において相当な権力を持つ。その影響力は貴族並みだ。そんな私が助けを求めたらどうなると思う?」


 いきなり余裕を取り戻したと思いきや、その様なふざけた事を言ってきた。


「普通にあなたが捕まると思いますけど」


「ははは、捕まるのはお前の方だ。お前が真実を言ったところで、衛兵は私の虚偽の方を信じるだろうからな。白金ランクとは言っても所詮は一般人。小娘と私では身分が違うのだ!」


「…………」


「分かったか。もし捕まりたくなければ、そこをどいて私を見逃せ。そうすれば、今回の件については黙っておいて……は?」


 ブラキンの声が段々と小さくなっていく。彼の視線は恵菜に……正確には、彼女の手に集中していた。


 彼女が手にしているのは、金色の懐中時計だった。蓋にフリフォニアの紋章が刻まれているそれは、恵菜が公爵となった時に、国王から受け取った物である。


「き、貴族の証? 何故、それを……?」


「私がそうだからですよ。聞いたことはないですか? 一年ぐらい前にフリフォニアで新しい公爵位を授与された人のことを」


「そ、それは聞いたことがあるが……だが、その方は美しい黒髪の長髪を持つ女性だったはず……」


「逆ならまだしも、髪なんて切れば短くなります」


「なら、まさか、本当に……」


「初めまして。霜月恵菜といいます。名前以外の紹介は、不要ですね?」


 普段はしない、完璧な作法での礼をして名乗る。ここまで来れば、もはや彼女がどういった人物なのか、分からない者などいない。


「それで、権力がどうって言いましたっけ?」


「え? あ、いや」


「私のような小娘の言うことは信用されないんでしたっけ?」


「それは……その……」


 ブラキンの冷や汗が止まらない。今の今までやってきた無礼を考えれば、彼に下される罰の重さは想像に難くない。


「こ、公爵様……とんだ無礼を働いてしまい、も、申し訳ありませんでした……!」


 二階から慌ただしく駆け降りてきたブラキンは、恵菜の前に跪いて頭を垂れる。


「ま、まさか公爵様だとは思わなかった……いや、思いませんでした」


「以前の無礼を許してほしいっす……」


 そして、何故かその横では、元盗賊の二人も土下座状態になっていた。ブラキンはともかく、この二人に関しては、恵菜はもう過ぎた事として何とも思っていないのだが。


「謝罪なんてどうでもいいんです。私が言った事を忘れたんですか? 早くミーシャちゃんを返しなさい!」


「ひ、ひいっ! こちらです!」


 ブラキンが慌てふためきながら二階へ駆けあがり、恵菜を案内する。そのまま一直線にミーシャがいるであろう部屋へ向かい、扉を開け放った。


「ミーシャちゃん!」


 その部屋の中心で倒れていたミーシャに駆け寄る恵菜。上体を抱きかかえて呼びかけると、ミーシャの目がゆっくり開いた。


「あ……おねえ、ちゃん?」


「良かった、怪我はしてないみたいだね。心配したよ」


 倒れている姿を見て、まさかと思った恵菜だったが、ミーシャはナッシュの時のように、痛めつけられはしなかったようだ。


 そのことにほっとしていると、ミーシャが不思議そうに辺りを見回す。


「あれ、私、温泉卵を売ってたはずなのに……」


 どうやら、自身が誘拐された事すら覚えていないらしい。


 が、むしろそれは良い事なのかもしれない。幼い少女にとって、今回の事件は心に大きな傷を残しかねなかったものだ。下手をすれば、二度と街中を一人で歩けなくなるぐらいに。


「大丈夫。無理して思い出さなくていいよ。きっと疲れて眠っちゃっただけだよ」


「そう、なのかなぁ? あっ、もうそろそろお家に帰らないといけないって思ってたんだ! お母さんに怒られちゃう!」


「そうだね。お母さんが心配してたから、早く帰らないと」


 そう言って恵菜は立ち上がると、部屋の入口にいた元盗賊二人へ声をかける。


「この子を宿まで送り返してあげてください。暗い中を一人で帰らせると危ないので」


「へっ!? なんで俺達が!?」


「今回は何も悪い事はしてないっすよ!?」


 不満そうな二人。何故、罰則的に働かなければいけないのか、といった顔だ。


 確かに彼らの言う通り、今回、二人は誘拐事件そのものに直接関わっていたわけではない。事件のことだって、恵菜が来てから知ったぐらいだ。どちらかと言えば、巻き込まれた側と言えるだろう。


「まあ、確かに悪い事はしてませんね。じゃあ、私からの個人的な依頼ということで。……これぐらいでどうですか?」


 恵菜はそう言って銀貨を一枚取り出した。街の中をただ送り届けるだけの依頼にしては、かなり高額の報酬だ。


「喜んで受けさせていただきます」


「絶対に無事で送り届けてみせるっす」


 手のひらを返してその場にひれ伏した二人。それを見たブラキンが何か言おうとしたが、恵菜が睨んで黙らせる。


「じゃあ、よろしくお願いします。ああ、もしそのまま逃げたら……分かってますよね?」


 恵菜が依頼の報酬を先払いで渡すついでに、脅すようにそう付け加える。二人の体が小さく震えたのは気のせいではないだろう。


「――ミーシャちゃん。この人達が宿まで送り届けてくれることになったよ」


「え? お姉ちゃんは?」


「私は、ちょっとそこの人に話があるの」


 恵菜に視線を向けられ、背筋を伸ばしきっているブラキン。完全に蛇に睨まれた蛙だ。


「そうなんだ。じゃあ、私、先に帰ってるね!」


「うん。気を付けてね」


「あっ! ちょっ、待ってくれ!」


「俺達も付いていかないといけないっすからー!」


 ミーシャが勢いよく部屋を飛び出していき、その後を元盗賊二人が慌てて追いかけていく。


 そうなると、部屋に残るのは必然的に二人だけだ。


「さて、私が残った理由は分かりますよね?」


 そう問いかけられたブラキンが床に目を逸らす。だが、「私の目を見なさい」と言われてしまい、視線を上げるしかなくなった。


「今回の誘拐……いや、今まであなたがやってきた悪事の全てを、兵士さんの詰め所で聞かせてもらいましょうか」


「な、何の……証拠があってそのような……」


「証拠? 何言ってるんですか?」


 恵菜がそう口にした途端、彼女の瞳が怪しく光る。


「これからあなたが、それを自白するんですよ?」


 意識が途切れる直前、ブラキンが聞いたのはそんな言葉だった。



この魔法便利ですね。ほしい。

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