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迫る脅威

※少し人の死の描写がありますので、ご注意ください。

 トランナの周囲は自然で囲まれている。


 南は開拓が進んでいないため草原が広がり、さらに南下すれば森がある。


 また、北に行けばフリフォニアの王都があり、途中には石畳で舗装された道が続いているのだが、道から少し外れれば短めの草で覆われた平原だ。


 そして、東西も北と同じように平原が広がるのだが、東には多くの木が群生している地点が存在する。南にある森程の規模ではなく、森というよりは林といったところだが、多くの動物や魔物が生息している。


 そんな林の中に、何人かの冒険者の姿があった。


「……くそっ! 何で今更こんな依頼を受けなきゃいけねぇんだよっ!」


 イライラしながら文句を垂れるこの冒険者は、恵菜が冒険者登録の時に絡んできたオーランという冒険者だ。


「お前、何度も同じ事を言ってるよな。お前のランクが降格させられて銅三ランクの依頼を受けられないからだよ」


「酒に酔っていたとはいえ、ギルドで問題なんて起こすからだ」


 オーランの愚痴に聞き飽きたのか、周りにいる冒険者達はやれやれと頭を振りながら、今この場にいる理由を口にする。


 彼らも冒険者であり、オーランと同じパーティの一員だ。


 ギルドで恵菜に軽くあしらわれてしまった後、オーランは問題を起こした罰として冒険者ランクを降格させられることになった。

 そのため、今は銅二ランクまでの依頼しか受けることができず、今日はトランナの東にある林で蹴りウサギの肉の収集依頼を受けている。


 蹴りウサギは強力な蹴りを放ってくる小型の魔物だが、魔物の中でも比較的大人しい。こちらから攻撃しない限り襲ってくることはないため、蹴りウサギの依頼は銅二ランクの中でも簡単な依頼だ。


「ま、お前がやったこととはいえ、止めなかった俺らも同罪だ」


「だから俺らがこの依頼を手伝ってやってるんだ、感謝しろよ?」


 冒険者が依頼を受ける際、複数人のパーティで同じ依頼を受けることが可能である。


 パーティで依頼を受けても報酬が増えることはないが、依頼の達成は各冒険者に記録される。

 依頼の達成も効率的になるため、ランクを早く上げたいのなら一人よりもパーティで依頼を受けた方が良い。


「うるせぇ! お前らの手伝いなんかなくてもこの程度の依頼余裕なんだよ!」


 あれ程の問題を起こしても、未だにパーティとして依頼を手伝ってくれている彼らに普通は感謝すべきなのだろうが、オーランにそんな気はないようで、足元にある小石を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた小石は茂みの中へと消えていった。


「チッ、もう依頼に必要な数は集まったんだ、さっさと街へ引き返すぞ」


「今からか? 蹴りウサギが相手だったとはいっても休憩なしで狩り続けてるんだ。休憩を挟んだ方がいいんじゃないか?」


「だよなぁ、戦闘続きだとまいっちまうぜ」


 オーランが街へ戻ることを主張するのに対し、他の二人は休憩を取るべきとの意見を出す。


 蹴りウサギが強くないとはいっても、連戦すれば集中力も切れてくる。林には蹴りウサギ以外に好戦的な魔物も生息するため、集中力を欠いていれば不意打ちを貰いかねない。


「こんな依頼さっさと終わらせてぇんだよ。この俺の実力をギルドに見せつけてやりゃあ、ランクなんてすぐ上がんだろ」


 だがオーランは二人の意見を気にも留めなかった。


「大体お前ら、蹴りウサギごときでヘバってんじゃ――」


――ガサッ


 オーランの声を遮るように、先程蹴り飛ばした小石が吸い込まれていった茂みが揺れる。


「何だ?」


「ハッ、どうせまた蹴りウサギだろ、俺がさっさとぶっ殺してきてやるぜ」


「おい、オーラン」


「少しは警戒しろっての」


 警戒する二人を尻目に、オーランが茂みの方へと向かっていく。


「オラァ!」


 先手必勝とばかりに、オーランが揺れた茂みに向かって飛びこみ斧を振り下ろす。


 もし蹴りウサギが相手なら、一撃で仕留められる攻撃を当てればそれで終わりだった。そう、蹴りウサギが相手なら――


「へ?」


 間抜けそうな声を出したのはオーランか、それとも後ろの冒険者か。振り下ろした斧は茂みしか切り裂かず、そのまま地面へと刺さった。


 それを見た冒険者二人は笑いを堪えきれずに吹き出す。


「ぶっははははは! おいおいオーラン、蹴りウサギごときって言ったのはお前だぜ? なに初撃を外してんだよ」


「やはり集中力が欠けているようだな、いいから休憩を――」


 ――ドサッ


「……え?」


「……なっ」


 オーランの失敗を笑っていた二人だったが、不意にオーランがその場に崩れ落ちるのを見て青ざめる。


 倒れているオーランの首元は何者かによって抉られ、一目で致命傷と分かるほど血が流れ出していた。


「お、おい! どういうことだこりゃあ!?」


「分からん! 蹴りウサギにあんな威力の蹴りが出せるものか!」


 蹴りウサギの蹴りは強力とはいっても、体に直撃したところで打撲や骨にヒビが入る程度だ。首元を抉り取る程の威力はない。

 そもそも、この林にそんな威力のある攻撃をしてくる魔物自体が生息していないはずである。


 混乱しながらも二人はオーランが倒れている方向を警戒するが、何も動くものはない。


「くそっ! どこだ!?」


 正常な判断を失ったのだろうか。

 一人の冒険者が茂みに近づき剣を振り回すが、周囲の植物を傷つけるだけだった。


「おい! 闇雲に武器を振り回すんじゃ――」


 もう一人の冒険者が落ち着けようとするが、次の瞬間、剣を振り回していた冒険者に何かが襲い掛かった。

 襲撃者のスピードはあまりにも早く、武器を振り回していた冒険者は何が起こったのかも分からずに、先程のオーランと同じように倒れていった。


「な、何だこれは……」


 一瞬でパーティの二人がやられ、相変わらず姿が見えない襲撃者に恐怖を抱くと同時に冒険者は悟る。


 勝てない、逃げなければと。


 もはや亡骸と化した二人を見捨て、冒険者は急いでその場を離脱する。


 そんな冒険者の背中を、茂みの中から二つの目がジッと見つめていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「んー、偶には南以外に行ってみたいなー」


 いつものように朝早くからギルドへと顔を出している恵菜は、ギルドのボードに貼られた依頼を眺めていた。


 銅二ランクになってから、恵菜は街の外へ出ることが多くなった。


 しかし、ほとんどはトランナの南での依頼であったため、違う所へ行ってみたいというのも無理はない。


(依頼を受けないで行ってみるというのもいいんだけど、できれば依頼もついでに受けておきたいのよね)


 依頼を受けていなくても街の外へ出ることはできるが、依頼があれば達成するついでに別の場所へ行けて一石二鳥だ。

 そのため、現在恵菜は丁度良い依頼がないかと探している最中である。


「あ、これがいいかも」


 しばらくボードに貼られた依頼を眺めていた恵菜だったが、その目に一つの依頼が留まる。


 恵菜は早速その依頼を剥がし、カウンターへと持っていく。行先は当然ヒルデのいる場所だ。


(ヒルデさんって、いつ帰ってるんだろう?)


 ギルドに行けば毎回カウンターにいるヒルデを見て、恵菜は疑問を浮かべる。


 恵菜はヒルデがギルドにいない所を見たことがない。自分には休養を取れと言っておきながら働き続けるヒルデに対して、恵菜はヒルデもちゃんと休んでいるのか心配になる。


 色々とヒルデについて考えていた恵菜だったが、ヒルデの前に来たことで一旦考える事をやめ、用件を済ませる。


「ヒルデさん、この依頼をお願いします」


 そう言って恵菜はヒルデへ依頼書と冒険者カードを渡す。


「はい、確認いたします……蹴りウサギの肉の収集依頼ですね」


 恵菜がこの依頼を選んだのは、南以外での依頼であるという以外に、もう一つ理由があった。


 それは蹴りウサギの肉の確保である。最近、恵菜は旅をする時に持っていく食材をどれにするか考えているのだが、蹴りウサギの肉は絶対に持っていきたい食材の一つとしていた。


 しかし、旅に持っていくとなれば新鮮な蹴りウサギの肉が必要となる。


 街でも蹴りウサギの肉を売っているところはあるが、やはり街へと運ぶまで時間がかかってしまうのか鮮度が悪い。中には鮮度の良い物もあるのだが、その分値段も高い。


 そこで、恵菜は蹴りウサギを狩ってその場で収納袋へと保存すれば、鮮度の良い肉がタダで得られるのではと考えたのだ。


「以前エナさんが受けた依頼と違って、こちらの依頼は納品数に上限がありますが大丈夫でしたでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


「それでは、少々お待ちください」


 恵菜に確認を取ったヒルデが受注手続きを始める。

 何度も行ってきたであろうその作業には一切の無駄がなく、僅か数秒で受注手続きが完了した。


「――受注手続きが完了いたしました。フォレストウルフを討伐できるエナさんなら心配ないとは思いますが、気を付けてくださいね」


「ありがとうございます、では行ってきます」


 ヒルデから依頼書と冒険者カードを返してもらい、恵菜はギルドから出て行った。


ちゃんとヒルデさんも休んでいるはず。


次話は明後日更新予定です。


行間を調整しました。(2023/7/2)

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