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世間知らずな規格外

今回は前半が恵菜視点、後半がヒルデ視点となっています。

 フォレストウルフを狩り終えてから街に戻り、ギルドへ報告に向かう。


 日が傾いている時間帯だけあって、私と同じように依頼の報告に来たり、ギルド内の酒場で飲み食いしたりしている多くの冒険者がいた。


 そういえばここの酒場を利用したことってまだなかった気がする。

 お酒は飲めないけど、どんな料理を出しているのか少し気になる。


 でも、また変な冒険者に絡まれるのは嫌だから人が少ない時にしよう。


 酒場の事は置いといて、カウンターへ依頼の納品をしに行く。

 どのカウンターも列ができてるけど、迷わずヒルデさんがいるカウンターへと並ぶ。


「あ、エナさん、どうなされましたか?」


 ヒルデさんの手際がいいのかすぐに順番が来た。


「依頼の報告に来ました」


「報告って、一昨日受けたばかり……いえ、エナさんならあり得ますね……」


「私を何だと思ってるんですか」


 変に納得しているヒルデさん。


 私は少し体が丈夫で魔法が使えるだけで、至って普通の女の子ですよ? その言い方だと私がまるで化け物みたいに聞こえますよ?


「こほんっ、失礼いたしました。では毛皮の納品をお願いします」


「はい……あっ」


 そういえば、収納袋の性能を確かめるために、フォレストウルフを解体せずに入れたままだった。


「? どうなさいましたか?」


 私が何も取り出そうとしないのを疑問に思ったのか、ヒルデさんが不思議そうな顔をしている。


 駄目元で解体前の状態で納品できないか聞いてみよう。無理だったら街の外で解体してくればいい。


「あの、フォレストウルフの解体がまだなんですけど、納品は解体してからじゃないとダメですか?」


「いえ、ギルドの方で解体することができますので、フォレストウルフ一匹を丸々納品してもらっても構いません」


「大丈夫なんですね」


「解体ができずに、そのまま持ち込んでくる方もいらっしゃいますからね。今回は毛皮が納品依頼となっておりますので、毛皮は依頼者へ送られますが、牙や骨といった素材が不要であれば同時に買い取らせていただきます」


 ギルドって便利。依頼者との仲介役にしては優秀すぎませんか。


「じゃあ、買取りも同時にお願いします」


「分かりました。では、エナさんがフォレストウルフを持って来次第、買取りの査定を行いますので――」


「もう持ってきてますよ」


「え、ではフォレストウルフはどこに……?」


「ここです」


 私は首掛けポーチを見せる。


「もしかして、収納袋でしょうか? それなら納得です。しかし、フォレストウルフが丸々入る容量の収納袋なんて、相当高かったのではないですか?」


「まぁ、手に入れるための出費はちょっと大きかったですね」


 魔法陣を解読するために、銀貨五枚も払いましたから。

 今のところ一回の買い物額ではダントツの一位です。


「お節介かもしれませんが、お金の使い方には注意した方がいいですよ。冒険者の中には、大きな収入が入るとすぐに浪費してしまって、またお金を得ようと無理して依頼を受ける方もいますし、そういう方に限って事故でお亡くなりになることが多いです」


「気を付けます」


「それでは、フォレストウルフをこちらへ」


 ヒルデさんに言われた通り、フォレストウルフを収納袋から取り出してカウンターに置く。


「――これはすごいですね、ついさっき倒したと言われてもおかしくないぐらいの状態ですよ」


 どうやら収納袋の時間遅延の効果は上手く働いているみたい。フォレストウルフに何もしなくても鮮度を保ってくれている。

 これから街の外へ行く時には必須になりそうだ。


「では、こちらのフォレストウルフ一匹の毛皮は納品、その他は買取りということでよろしかったでしょうか?」


「あ、まだあるんですよ、フォレストウルフ」


「はい?」


 一匹だけだと報酬が少ないから、次々とフォレストウルフを取り出してはカウンターに置いていく。

 数が増えるにつれて、カウンター越しのヒルデさんが見えなくなってきた。


 気のせいか周りの冒険者達もざわつきだしている。フォレストウルフってそんなに珍しいのかな?


「ちょ、ちょっとエナさん! 待って! 待ってください!」


 フォレストウルフの山の向こう側から、ヒルデさんが慌てたようにストップをかけてくる。


 あれ、依頼には納品数の上限がなかった気がするんだけど。


「何かありました?」


「何かありました? じゃないですよ! どれだけフォレストウルフを持ってきたのですか!」


「んー、五十匹だったかと」


 確かそれぐらいだった気がする。

 最初は数えてたんだけど、途中から数えるのがめんどくさくなってきたからうろ覚えです。


「今何て言ったよ?」


「五十匹のフォレストウルフを狩ってきたってさ」


「一人でか?」


「まさか。でも、他に誰かといるところ見たことないしな……」


「それに、たしかこの女の子、オーランをぶっ倒した子じゃないか?」


「その光景見てたぜ。詠唱もせずに魔法をぶっ放してたな」


「あんな可愛らしい子がなぁ……信じられん」


「おい、そんなことよりも、あんなに多くのフォレストウルフどっから出てきたんだ?」


「持ってるポーチから溢れてきてたぜ、収納袋だと思うがな」


「そんなに多く入る収納袋、見たことないぞ」


 周りの冒険者達が何やらひそひそ話している。何でだろう?


「……申し訳ありませんがエナさん、私に付いて来ていただけますか? あとそのフォレストウルフの山も持ってきてください」


 そう言ってヒルデさんは立ち上がり、上の階へと向かう。


 私は急いでフォレストウルフをポーチにしまい、その後を追う。


 ヒルデさんの後ろを付いていくと、個室へと案内された。


「どうぞ、お座りください」


 個室にはテーブルとソファが向かい合って並んでいる。


 私は促されるままソファに座り、ヒルデさんがその向かい側に座る。


「いろいろと聞きたいことがありますが、一つずつ聞いていきます。答えたくないものは答えなくていいですからね」


 え、もしかしてこれって取り調べ? 私何か間違ったことしたかな?

 まさかフォレストウルフを狩りすぎた?


「フォレストウルフを五十匹持ってきたとのことでしたが、それらは全部エナさんが討伐してきたものでしょうか?」


 やっぱり取り調べだった。これは下手すると逮捕されるんじゃないのかな。


 何が悪いのか、私には全く分からない。

 だけど、嘘をつくと後で痛い目に遭いそうだから正直に答えよう。


「そうです、昨日街の南にある森で狩ってきました」


「昨日討伐したものですか。それにしてはあまりにも状態が良すぎると思いますが……」


「時間が遅くなってたからだと思います」


「は? 時間が、遅く?」


 ヒルデさんは何が何やらといった感じだ。これはちゃんと説明しないとダメかな。


「私の収納袋は時間遅延の効果があるんです」


「時間遅延、ですか?」


「はい、食材の保存とかに便利そうだなーと思って追加しました」


「ま、待ってください。エナさんの収納袋は買ったものではないのですか?」


「買ったのはこれとは違うもので、これは買った収納袋を参考に私が作りました」


「作りましたって……フィレクトルの開発した魔法陣は非常に複雑で緻密な制御が成されていると聞きますが……」


「魔法陣は私の得意分野ですから」


 正確には古代語が得意分野なんだけど。


「それなら、五十匹ものフォレストウルフを入れられるのも……」


「私が大きく作ったせいです」


 ちょっとやりすぎた感はあるけど、荷物は少ない方がいいと思って、一つのポーチにたくさん物が入れられるようにしたからかなり大きい。

 五十匹のフォレストウルフを入れてもまだまだ余裕がある。


「――エナさん、あなたは一体何者なんですか?」


 ヒルデさんが恐る恐る聞いてくる。何者なんですと言われても――


「少し体が丈夫で、魔法が使える普通の女の子ですよ」


 そう答えるしかない。


「……はぁ」


 私の答えを聞いたヒルデさんがため息をついた。嘘じゃないと思うんだけどなー。


 この後、しばらく取り調べが続くことになったけど、取り調べの理由は特に何か悪い事をしたからじゃなくて、単純にいくつか聞きたいことがあったかららしい。個室を使ったのも、周りの冒険者の目を配慮してとのことだった。


「エナさんの実力がすごいことは分かりました。ところで、エナさんはその収納袋を大量生産して商売することは考えていますか?」


「いいえ、考えてません」


 この収納袋はあくまで旅をする時に便利だと思って作っただけで、お金儲けが目的じゃない。


 お金があっても困ることはないと思うけど、私には商人よりも冒険者の方が向いてそうだし、そもそもお店を持つ気もない。


「では提案……というより忠告に近いですが、その収納袋はエナさんが使用するだけに留めてください」


「え、それはどういう……?」


「要は誰にも売らないように、もっと言えば作れることも秘密にしてほしいのです」


 たしかに、私は売る気はないと言ったけど、改めて誰にも売るなと言われる理由が分からない。

 人は入れられないから危なくないと思うんだけど……


「エナさんの収納袋ですが、恐らくその収納袋の容量と同じものはほとんどありません。それに時間遅延の効果まで付いているとなると、もはやアーティファクトと言っても差し支えないでしょう」


「そ、そんなに?」


 アーティファクトとは、偶に昔の遺跡から見つかる古代の産物で、今の技術では造ることができない物のことだ。

 有用なものが多く、高値で取引されるらしい。ユーリエさんの家にあった本にはそう書いてあった。


「知っての通り、アーティファクトはその希少性から多くの人が欲しがります。ですが、エナさんの収納袋はアーティファクトと違って作ることが可能です。エナさんが作れると知られれば国中、いえ世界中から買い求める人が来てもおかしくありません」


「いくらなんでもそこまで――」


「冗談ではありませんよ? 今流通しているフィレクトルの収納袋は、見た目以上に物が入るといってもせいぜい二倍程度で、その割にとても高価です。もしエナさんの収納袋があれば、行商で一度に持ち運べる物量がかなり増えますし、軍が遠征する際の食糧問題も劇的に改善されますから、需要がないわけがありません。エナさんの収納袋を求める人に常識があるならば問題ありませんが、エナさんを脅すなどして無理やり収納袋を作らせようと企む人も出てくるかもしれません」


 すごく真面目な表情で説明するヒルデさん。あまりの真剣さに私は冗談だと笑い飛ばすこともできない。

 あったら便利だと思って作っただけだったけど、その時は私自身に危害が及ぶ可能性なんて考えもしなかった。


「ギルドは依頼者と冒険者との仲介役であると共に、冒険者を守る立場でもあります。できれば存在自体を秘密にしてほしいところですが、流石にそれは難しいでしょう。それでも、作成可能なものだと知られるよりは危険性が低いです。そういった理由から、エナさんが作成可能であることは、周囲に秘密にしておいた方がよろしいかと思います」


「……分かりました。作ったことは秘密にしておきます」


 いくら旅をするからといって、どこに行ってもいつ襲われるか分からないような生活が続くのは嫌だった。


 襲ってくるのは魔物だけで十分だ。


「申し訳ありません。基本的にギルドは冒険者の行動を制限するようなことはしないのですが、その、エナさんは常識外れといいますか、少し世間に疎いようなので……」


「あはは……」


 全く否定できない。この世界については知らない事の方が多い。


「では、お伝えしたいことは以上です。それでフォレストウルフですが、全ての個体をギルドが買い取るということでよろしいでしょうか?」


「お願いします」


「分かりました。では買取り金額ですが、依頼の報酬込みで一匹当たり銅貨六枚、合計で銀貨三枚となります。下へ行くとまたちょっとした騒ぎになりますから、ここにフォレストウルフを置いていってください」


 ヒルデさんに言われた通り、収納袋からフォレストウルフを取り出していく。


 全て取り出し終えると、ヒルデさんが買取りの明細書を渡してきた。


「私は少し用事がありますので、この明細書を一階のカウンターで受付に見せて銀貨三枚をお受け取りください」


「はい、あの、色々とありがとうございました」


 本気で私の身を案じてくれたヒルデさんに感謝しつつ、部屋を出て一階のカウンターへ向かう。


 そこで報酬を受け取った後、真っ直ぐ宿へと戻った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 エナさんが出て行くのを見送った後、私は二階にある一番奥の部屋へと向かう。


 ノックをすると「入れ」という声が中から聞こえてくる。


「失礼いたします」


 中へ入ると、先程の部屋とは違っていくつかの調度品が飾られた部屋と、奥の机で書類をまとめている初老の男性の姿が視界に入ってくる。


 最近髪の毛が薄くなってきたらしいが、本人も気にしているようなので何も言わないようにしている。


「ギルド長、とある新人冒険者についてご報告しておきたいことがございます」


「ふむ、最近何かと話題になっている娘のことだな? 確か名はエナといったか」


 流石にギルドを管理している立場だけあって、ギルドの噂は耳に入ってきているらしい。


「はい、エナさんは私が今まで見てきた冒険者の中で、最も優秀だと思います。このままいけば、近い将来ランクも白金になることは間違いありません」


 ランクが白金の冒険者は、世界中でたった十人しかいない。でも、私はエナさんが白金まで上がると確信している。


「お前がそこまで言うとはな……それで、報告したいこととはなんだ?」


「どこまでお耳にされているかは分かりませんが――」


 そう前置きして、私はエナさんが今までやってきた事を説明し始める。


 登録の時に絡んできた冒険者を返り討ちにしたこと、銅一ランクのクエストを一日に何度も達成したこと、フォレストウルフを五十匹討伐してきたことなど、今まであったことを全てギルド長へ話す。


「以上がエナさんについて私が見てきたことの全てです」


「……頭が痛くなってきたぞ」


 説明を終える頃にはギルド長が頭を抱えていた。


 気持ちは分かる。私だって何度そうしたくなったことか。


「かの有名なユーリエ氏を思わせる程の常識外れっぷりだな」


「『暴雨の魔女』、ですか」


 昔、冒険者になってすぐに活躍し、最終的には白金二ランクまで上り詰めた魔術師ユーリエ。


 強力な魔法と圧倒的な手数で相手を殲滅するその戦い方から、付いた二つ名が『暴雨の魔女』。


 数年前に冒険者を引退したと聞いた。今はどこにいるのか、そもそも生きているのかすら不明の魔術師だ。


「しかし、聞けば聞くほど益々信じられんな。それ程の魔術師が今まで無名だったとは」


 ギルド長の言う通り、エナさんが冒険者になる前の情報はほとんどない。あるとすれば、トランナの南から入ってきたということだけ。


 しかし、トランナの南側に街はなく、あるのは魔物が出る森と広い海だ。


 恐らく西か東にある村から来て南門からトランナに入ったと考えられるが、あれ程の若さで魔術の才に長けているのなら噂が街に入ってきてもおかしくない。


 なのに、調べてみてもエナさんに関する情報は皆無だった。


「それより、収納袋にフォレストウルフを五十匹入れて運んできたと言ったが、それは本当か?」


「事実です。実物をご覧になりますか?」


 そう言ってギルド長をさっきの部屋へと案内する。


 ギルド長はフォレストウルフの山を見て一瞬固まったが、すぐに立ち直りフォレストウルフの状態を観察する。


「――倒してからあまり時間が経っていないような状態の良さだな。ヒルデの説明通り、その収納袋には時間遅延の効果があるのか……」


「エナさんには既にその危険性を説明して、作ったことを秘密にしてもらうように言ってあります。本人も了承済みです」


「あぁ、それでいい。そんな収納袋があるなんて知れればどうなるか想像もつかん。下手すると、世界の情勢が変わってしまうだろう」


 事後報告になってしまったが、早めにエナさんに忠告しておく必要があったから仕方がない。

 ギルド長もその事を分かってか、咎めようとはしてこなかった。


「他にも様々な連中が手を出してくるだろうが、そういった輩から冒険者を守るのが我々ギルドの仕事だ。この街を拠点にするのかは分からんが、少なくともトランナにいる間は助けてやってくれ」


 優秀な人材であれば様々な場所から引き抜きが来る。


 冒険者をやめてそっちへ行くのは冒険者の自由だが、全員が幸せな生活を送れるとは限らない。エナさんの場合は世間知らずなところがあるため、良いように利用されかねない。


 それに、冒険者が不足しがちなギルドにとって、優秀な冒険者がいなくなるのは結構な痛手となる。


 エナさんにはそうならずに、できればこのまま冒険者として頑張ってもらいたいところだ。


「畏まりました。では、私は仕事に戻りますので後はお願いしますね」


「待て、このフォレストウルフの山を儂一人に任せるつもりか」


「と言われましても、私のようなか弱い女性が全てのフォレストウルフを解体場まで運ぶのは無理ですよ? それに、普段机で書類を眺めているギルド長には丁度良い運動になると思います」


 ちなみに、解体場はギルドの一階奥にある。


 最初はエナさんにそこでフォレストウルフを取り出してもらおうかと思ったが、文字通りいつも書類を眺めているだけのギルド長へささやかなプレゼントを用意しようと考えたため、ここに置いていってもらった。


「それでは、そろそろ冒険者の方々が集まってくる時間帯ですので、私はこれで失礼いたします」


「おい! ヒ――」


 ギルド長が私の名前を呼んだ気がしたが、多分空耳だろう。


 カウンターに並ぶ冒険者達の列を見て、私は急いでカウンターへと戻った。


頑張ってギルド長。


次話は明日更新予定です。

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