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生きる世界は違うけど

 クルーエルちゃんのペットの浄化に成功した後、私はクルーエルちゃんに肩を貸してもらいながら村へと戻った。魔力が尽きかけていたのと、精神的にも肉体的にも結構ヘトヘトだったせいで、真っ直ぐ歩けなかったからだ。クルーエルちゃんも結構疲れていたはずだけど、私ほど弱ってはいなかったおかげで、その日の内に帰ることができた。


 ちなみに、洞窟に来た時と同じく、帰りもアンデッドに遭遇することはなかった。ちゃんとお守りはお守りとして働いてくれていたみたい。まあ、護衛には水華に加えて、元が強大過ぎたせいか浄化後もそれなりに力を持っている三匹の子犬達がいたし、仮にアンデッドが出てきても追い払ってくれた思う。


 それで村に戻ってから、私とクルーエルちゃんはベッドに倒れ込んで泥のように眠った。別々のベッドで寝なかったのは、単純にクルーエルちゃんが私をベッドに投げ出した後、そのまま同じベッドに倒れ込んできたからだ。夜行性(?)なクルーエルちゃんも、道中の移動でかなり消耗したみたい。絶対に私の体重が重いからじゃないと信じてる。


 熟睡から目覚めた後は、クルーエルちゃんから今回の個人的な依頼の報酬を受け取った。ただ、金銭は一切貰ってない。私が知らない魔法――浄化魔法や闇属性魔法をいくつか教えてもらっただけだ。クルーエルちゃんは「それだけで本当にいいです?」と言っていたけど、私にとってはこれで何の文句もない。というより、充分以上の報酬だ。


 そして、報酬を受け取ったその日の夜――。


「うん、絶好のお出かけ日和です!」


「空、真っ暗だけどね」


 お日様が沈んで随分経った空は完全に雲に覆われている。真っ暗だった洞窟程じゃないけど、まともな明かりが一つも無いせいで周囲はかなり暗い。そんな中、クルーエルちゃんのテンションは異様に高かった。


「リッチ的にはこれが最高の天気ですよ。できればずっと真っ暗な世界がいいです」


「聖職者とは思えない発言だね……」


 アンデッドでシスターっていう、存在と職業が矛盾したような存在なんだよね、クルーエルちゃんって。神様はクルーエルちゃんのこと、どう思ってるんだろう。できれば否定してあげないでほしいな。毎日祈りは捧げてるみたいだし。


「ワンッ!」


「アォン!」


「ウオゥ!」


「ほら、この子達も元気ですし」


「ずっと元気そうに見えるけど、やっぱり違うの?」


「違うですよ! ほら、いつもより飛び回るスピードが少し早いですし」


 うーん、微妙な違いだ。少なくとも私には分からない程度には。


 ただ……。


「ワンッ!」


「それにしても、随分懐かれたですね」


「あはは、そうだね」


 私の周りを飛び回る子犬達。クルーエルちゃんに比べれば一緒にいた時間なんて微々たるものだけど、三匹とも人懐っこいのか、私が手を伸ばしても逃げようとしない。


 私はお化けが嫌いなんだと思ってた。だけど、この前の戦いの後で、それが少し間違いだったことが分かった。

 どうやら私は、人の姿をしたお化け――付け加えれば、人型でいかにも見た目が恐ろしいお化けが苦手で、逆に言えば人型じゃないお化けは全然問題無いらしい。仮に魔物の姿をしたゴーストが襲ってきたとしても、あの時みたいにパニックにはならない自信がある。普通に魔物を相手にするときと同じように戦えそう。

 ちなみにクルーエルちゃんは、見た目が全然ゴーストじゃないから平気だ。これが完全にゾンビな見た目だったらアウトだったと思う。うーん、我ながら結構ピンポイントな苦手要素だ。


「そうです。出発の前に渡すものがあったです。エナさん、これをどうぞ」


 唐突にそう言ってクルーエルちゃんが何かを渡してくる。それは手のひらサイズの十字架のペンダント――ロザリオだった。


「これは?」


「エナさんはピレートに戻って、依頼の報告をしないといけないですよね。なら、私を討伐した、もしくは追い払った証がいるはずです。これがあれば、その証拠にはなるはずです」


「そんな、でもこれってクルーエルちゃんにとって大事なものなんじゃ……」


 確かに依頼の報告には何か証となるものが必要になる。でも、お祈りを捧げていたクルーエルちゃんは、いつもこれを握りしめていた。大切なものなんだとしたら、とてもじゃないけど受け取れない。


「予備があるから平気ですよ」


 そんな私の心配をよそに、クルーエルちゃんはどこからともなく同じ形のロザリオを取り出した。これ、予備なんてあるんだね……。


「本当にいいの?」


「いいもなにも、そうしないとエナさんが困るじゃないですか。あれだけ頑張ってタダ働きなんて」


 やっぱり、クルーエルちゃんは未だにあの報酬で私が満足していないと思っているみたいだ。あれで依頼の報酬としては充分なんだけど……。


「リッチが身に着けているものは貴重な素材になると聞いたことがあるです。依頼を報告した後は、売るなり素材として使うなり好きにすると良いですよ」


「……分かった。でも、売りはしないよ。大切に取っておくから」


「取っておくって、そのまま持っておくってことです?」


「うん。友達から貰ったものだからね。大事にしないと」


 そう言った瞬間、クルーエルちゃんがポカンとした顔になった。どうしたんだろう。私、変なこと言ったかな?


「友達? もしかして、私がです?」


「そんな驚いた顔しなくても、そうに決まってるよ。私はクルーエルちゃんが友達だと思ってたんだけど、もしかしてクルーエルちゃんは嫌だった?」


「そういうわけではないですが……。でも、リッチですよ? アンデッドですよ? 戦いの時に蹴り飛ばしたですよ? そんな相手と友達になってくれるですか?」


「蹴り飛ばしたのは私もだから。それに、クルーエルちゃんがどんな存在でも、そんなの問題にすらならないよ。私、既に人間以外の友達もいるし」


 もしかすると、人間の友達並みにいるかもしれない。むしろクルーエルちゃんを含めたら、人間の方が少なくなる気がする。


 あれ、でもそれって人間としてどうなんだろう? これじゃまるで人間の友達ができないから別の生き物に代わりを求めてるみたいな……。いやいやいや、でも水香やイルカさんとはちゃんと意志疎通してたし。そもそも人間の友達の方が少ないのは友達の絶対数が少ないからだ。絶対に友達が作れないとかじゃない。

 ……なんでだろ、ちょっと悲しくなってきた。


「はは、アンデッドと友達ですか……。見たことも聞いたこともないですよ、そんな人。エナさんは変わってるですね」


「よく言われるかな。それで、友達にはなってくれるのかな?」


「もちろんですよ。これからもよろしくお願いするです」


「こっちこそ、よろしくね」


 お互いに認め合ったことで、晴れてちゃんとした友達になれた。この世界でまた一つ、新しい繋がりができたのはとても嬉しい。失わないように大事にしよう。


「そういうわけで、これはクルーエルちゃんとの友情の証だから、売ったり素材にしたりなんかしないよ」


「好きにしろって言ったのは私だったですね。分かったです、大切にするといいです。ところで、その代わりにというか友達としてというか、一つお願いが――」


「返していいかな、これ」


 この繋がり、もしかして疫病神だったりするのかな? それだったら今すぐにでも前言撤回したい。


「た、大切にするって言ったじゃないですか! やめるです! 友情の証を返さないでほしいです!」


 私が突き返そうとしたロザリオを、必死にクルーエルちゃんが押し返してくる。また変な頼み事をされないか、すっごく不安なんだけど……。


「ハァ……。で、一応聞くだけ聞くけど、何をお願いしたいの?」


 とりあえず、その内容を聞くだけなら問題ないかな。もし酷い内容のお願いだったら、ロザリオを投げ返してでも断ろう。


「えっと、この村を殺した人間を見つけたなら、罪を償うよう進言してほしいです。あ、でも無理して探す必要はないですよ。ちょっと心に留めておいてほしいだけです」


「…………罰してほしい、とは言わないんだね」


「当然です。被害者ならともかく、エナさんはこの事件とは無関係ですからね。そんな重い事を背負わせられないです」


 どうやら、クルーエルちゃんは私に復讐の片棒を担がせるつもりはないらしい。と言っても、殺してほしいなんて頼まれたら断ってたけど。


「本当の事を言えば、見つけたら私に教えてほしいです。でも、ここで別れたらお互いどこにいるか分からなくなるです。再会した時に教えてもらっても、犯人がもうどこかへ行っていたら意味ないです」


「確かにね。……分かった。その犯人を見つけたら、絶対に罪を償わせる」


 見つかるかどうかは分からない。どんな人物なのか、全く情報が無いんだから。相手から自白しない限り見分けることは難しい。クルーエルちゃんもそれが分かっているからこそ、見つかったらで良いっていうスタンスなんだと思う。

 ただ、そんな人物が大手を振って世の中を歩いていると考えたら、それだけでゾッとする。罪を償っていないのなら、すぐに償ってほしい。クルーエルちゃんは進言するだけって言ったけど、見つけたら絶対に捕まえる。逃がしたりなんかしない。


「エナさんには何から何まで頼りっぱなしで申し訳ないです。本当にありがとうです」


「友達の頼みだからね。無下にはできないよ」


「じゃあ、あと二、三ぐらい頼みを――」


「友達にも限度はあるかなー、さすがに」


「じょ、冗談ですよ! 冗談!」


 慌てて撤回してくるクルーエルちゃん。本当に冗談だったのかとても怪しい。頼られるのは嬉しいけど、都合の良い友達になるのは御免だ。ていうか、そんなのは友達とは言えない。こき使われるぐらいなら絶交する。


 でも、こうして冗談を交えて話しあえる相手ができたのは、とても嬉しいな。


「――さて、名残惜しいですが、そろそろ行くですか。真っ暗とはいえ、誰かに見られると困るですしね。ネロン、クィル、テレサ」


 そう言ってクルーエルちゃんが子犬達を呼び寄せる。ただ、その顔は少し寂しそうだった。


 私には分かる。あの顔は、親しくなった人と別れるのが辛い時のものだ。


「いっしょ……」


 一緒に行かない? 思わずそう言いかけたところで、私は口を閉じた。


 クルーエルちゃんはアンデッド。私とは住む世界が違う。見た目が人間とほぼ変わらないとしても、リッチだってバレればそれだけで大騒ぎになっちゃう。

 それに、私がこれから向かうのは学校だ。既に卒業したって言ってたクルーエルちゃんにとって、ほとんど行く意味のない場所。どれくらい滞在することになるのか分からない場所に付き合わせるわけにはいかない。


「ふふ、その気持ちだけでも嬉しいですよ。それに、確かエナさんは旅をしてるですよね。なら、いつかきっと会えるです」


「……そうだね」


 これは永遠の別れじゃない。別の世界へ行くわけでもない。この世界で生きている限り、会えるチャンスはきっとある。


「色々と本当に、ありがとうでした。またどこか、真っ暗な夜に」


「うん。また会おうね」


 再会する未来を楽しみにしながら、笑顔で見送ろう。思い切ってクルーエルちゃんが旅立てるように。


「さようならー! 散歩、頑張ってねー!」


「はい! いつまでもどこまでも頑張るです! さよならです!」


「「「ワォーン!」」」


 遠ざかっていくクルーエルちゃんの姿。人魂みたいに青白く発光する子犬達に照らされるその背中が闇の中に消えるまで、私は手を振りながら笑顔で見送った。



また会える。そう信じているからこそ旅立てる。


これで4章は完結となります。

恵菜は着実に人外友達数を増やしてますね。


次章はいよいよ、学校での物語となります。

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