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~解決編~

その翌日朝、自分はいつも通り起床して、朝の準備をしていた。よほど昨日は疲れていたのか、いつもよりとても深い眠りについた感覚があった。

それも今日は住職10年間の間で初めての、法事や葬儀関係の仕事が全くないと言う自分にとっては嬉しい日だった。本当は殺人者になってからではなく、ごく普通にこの日を迎えたかったが、と思いながら歯を磨いていた。

今日はどこかに出かけようと思い、準備をしていると玄関の呼び鈴が鳴った。

薄々嫌な予感がしていた。あの女刑事ではないことを祈りながら玄関の扉を開けると、やはり岡部が立っていた。この幸福の雰囲気を一気にぶち壊された感覚がしてたまらなかった。すると岡部が笑顔で


「あの、こんな朝早くから申し訳ありません」


「大丈夫です。丁度暇だったので」


少し重めのトーンで言った。何故この言葉が出たか分からなかった。本当は物凄く怒りたかったが、もうそんなことを言う感じでもなかった。すると岡部が笑顔で


「あの。少し頼みがありまして」


「頼み?」


その頼みはまさかの殺した小島の葬儀をしてくれという内容だった。何を頼んでいるんだこの人はと思いながら見つめていたが、断れる雰囲気でもなく、そのまま急いで袈裟を着て、近くに止めてあるパトカーに乗り、近くの葬儀会場に向かった。

一体なぜこんなことをしているのか自分でも訳が分からなかったが、とりあえず葬儀会場に着くと、故・小島巧葬儀会場と書かれている看板を見て、驚いた。こいつの身分を証明するものは全て捨てたのに。何故あいつの名前が今、俺の目の前にあるんだと思って、次第に汗が出始めていた。一体この刑事は何を企んでいるのかと隣にいた岡部を見ていた。

パトカーが葬儀会場の入り口に止めると、すぐに下りて何故か会場の応接室に案内された。そこで岡部と二人きりになり、つい自分は強めの口調で


「何のマネですか!こんな場所まで連れてこられて」


「何のマネって、葬儀をしてほしいだけですよ。小島さんのご家族から申し出がありまして。そのためです」


至って冷静に言う岡部に、少し自分も落ち着きながら。気になった事があったため


「えっと。身分分かったんですね」


「はい?」


「いや、あの山奥の遺体の身元」


すると岡部が笑顔になった。なんだこの不気味な笑顔は、まるでホラーのワンシーンを見させられているような気分だった。だがそんなのはどうでもいい、すると岡部が


「あなた。どうして今日の故人が、山奥の遺体だと分かったんですか?」


しまった、口が滑ってしまった。単なる質問が逆に自分の首を絞める結果になるとは、何とかしなきゃと思っていたが、良い言葉が出ない。すると岡部が続けて


「確かに小島さんという男性は、山奥で発見された遺体の身元でした。前科者リストからヒットしたので。でもあなた何故、故人が山奥で発見された遺体だと知っているのですか?私がご自宅で会った時、遺体の写真を見せましたがあなたは知らないと答えた」


あいつ前にもやらかしていたのかと思い、少し殺す相手間違ったなと変わった後悔が出ていた。しかしそんなこと考えている場合じゃない。なんとか動揺しながらも言い訳を考えていた。だが思いつかない。

岡部はまだ続けて


「知ってる理由はただひとつ。あなたが小島さんを殺害したのです。そして遺体を山奥に埋めた」


「ふざけるな!そんなことだけで俺を犯人だってでっち上げるのかよ。最近の警察は乱暴だよな。こうやって冤罪を生んでいくんだからな」


少し八つ当たりで言った部分もある。でもなんとかしてこの場面を避けなきゃと思っている自分もいた。すると岡部は冷静に自分を見つめて


「あなた。横領してますよね」


「は?」


突然のことに少し動揺していた。何故そのことを知っているのか理解が出来なかった。この10年誰も知らないはずだ。でもこんな小娘に全てがばれたなんて。長い人生で一番屈辱だったが、岡部が


「あなた。10年前から横領をしていましたよね。小島さんが出版社にタレこんでいたそうなんです。本当にそうなのか調べてみました。確かにあなたは多額の借金をしていた。理由はパチンコなどでしょう、しかし金融会社に問い合わせたところ、10年前から借金を全額返してはまた借りると言う、摩訶不思議な状態が続いていたそうなんです。同時にそこから僧侶さんたちの給料も減り、突然巫女を解雇して、おみくじの自動券売機を作った。どうですか?」


全て合っていたが、こんな小娘に負けてたまるかと思い、つい口調を荒くして


「そんなの、あんたの想像でしょ。俺はあいつを殺していない。断固として言える。それだけだ!」


「ではお聞きします」


「なんだ」


少し岡部の目が変わった。まるで自分に怒りの心を露わにした。そんな感じで少し後を引きながら


「神様の前でも、同じこと誓えますか」


究極の質問だった。誓えると言えば、今まで慕ってきた神様を裏切ることになるし、もし無理だと言えば自供しか道はない。悔しさと情けなさで一杯になり、なぜ何も言わずにその場を後にした。

そのまま、葬儀本会場の中に入った。するとそこには大勢の人がいた。あいつとはどんな知り合い何だろうと思いながら、所定の位置に座る。前を見るとあいつの遺影が大きくあった。またこいつの顔を見るとはなと思いながら、黙って見ていると喪主であろう男性がマイクに近づき


「えぇそれでは。故・小島巧の葬儀告別式を始めさせていただきます」


こんな急な葬儀もそうだが、複雑な心境で木魚を叩き、そしてお経を唱えるなんて初めての事だった。それもそうだし、あの女からは疑われている。どんな気持ちでやればいいのか、分からなかったが、とりあえずいつも通り読経を始めた。

すると、案外スラスラとお経を読めた。やはり自分は立派な住職だと思い込みながら、最後まで行くことが出来た。


「唯可信斯高僧説…」


そして鐘を鳴らした。すると岡部が大きな声で


「待ってください!」


慌てて声のする方向を向くと、岡部が笑顔で近くに立っていた。この女、神聖な時に邪魔をしたな、この無礼者がと思い込みながら


「あんた。今何をしたか分かってますか!」


すると岡部が少し自分に近づいてきて


「住職さん。何か一つ言い忘れていることがありますよね」


「え?」


少し戸惑い始めた。これは何があっても言えないと思いわざと省いたが、まさかこの女、それに気づいているのかと思いながら黙っていると


「言えないんですか?」


まだ黙っている自分。本当は言い返したいが、重い口が開こうとはしなかった。すると岡部が続けて


「私、最初から不信感を抱いていました」


「え?」


なんでこの言葉だけ出たと思いながら、見つめていると岡部が


「あなた。私の家族の法事の時に、南無阿弥陀仏と言いませんでしたよね。最初は忘れていたのかなと思っていましたが、お寺の住職さんがお経を間違えてはいけません。そのため、何か裏があると思ったら、遺体が発見されたので。今日こういう機会を設けました」


「は?」


最後の言ってる意味が分からなかった。確かに自分は南無阿弥陀仏を省いた。それは自分がそれを言える立場ではないと感じていたからだ。でも最後の彼女の言葉「機会を設けた」。まさかと思い、その顔をすると、岡部は笑顔で


「そうなんです。今日はあなたにある意味の自供をしてもらおうと思い、集まってもらいました」


すると全員が立ち上がる。もしかしてと思い


「まさか。この人たちは」


「同僚です」


死にたい気持ちになった。恐らくこの女刑事は全てを見抜いている。そう思うともう言い逃れは出来なかった。何があっても神様を最後まで裏切ることは出来なかった。そう思い、ただ下を俯くことしか出来なかった。


「負けたよ。俺がこいつを殺したよ。全部あんたの言う通りだよ」


「あの。法事ありがとうございました。大叔母も喜んでいると思います」


「あまりそれを言わない方が良いよ。俺が改心したらもう一度それを言ってください。必ず恩返ししますから」


それを言ってその場にいた警察官に連れられて行ったのであった。



~最終回終わり~

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