~対決編~
次の日だった。自分の部屋で小島が持っていた手帳を見ていた。スマホや財布などは既に捨ててあったが、少し気になることがあったため、手帳だけは残していた。
それはいつからこの男は自分をマークしていたのだろうか。あの時間にあそこにいるってことは恐らく結構前から狙っていたに違いない、そう思い手帳を見ていた。
やはりこの男は少なくとも半年前からマークしていた。恐らくあの男はどこかで偶然自分の犯行を見たのだろう。悔しさで一杯だったが、とりあえずあいつは殺した。もうこの世にいない。そう思い、すぐにその思いを消していた。
自分は私服から袈裟を着て、法事をするご本堂の中に入る。もうすぐ3回忌になる家族の法事をする準備を始めていた。こんな時でも法事をするお客様はたくさんいる。住職に休みはないのだ。
そう思い準備をしていると、この寺でたった一人の男性僧侶が近づいてきて
「お客様が参りました」
「ありがとう。通してください」
すると僧侶が一旦離れて、しばらくして3人の家族がご本堂の中に入ってきた。その中には喪服でとても綺麗な女性の姿があった。まさかこの女性が刑事だとは自分はまだ知らない。そのまま自分は笑顔で
「えぇ。今日は岡部夏美さんの3回忌の法事を始めさせていただきます」
すると明らかにオーラが違う女性が自分に
「あの」
「はい?」
「実は私、母の代理で来たんです。すいません、連絡するの忘れてしまって。母が突然具合悪くなってしまって。今回私が来ました」
少し自分は戸惑った。つまり故人の姪の娘になる。今回の故人は結婚していたが死別で、子供はいなかった。そのため姪の女性が喪主になっていたが、その娘が来たことになる。少し考えてから、そう意味かと理解できた。
「あっでは失礼ですが、お名前は」
するとその女性が戸惑って
「あっすいません。私仕事の都合ですぐ行かなきゃいけないので。早めにしてもらっても」
なんだこの女性は。名前なんか3秒あれば言えるだろう、どんだけせっかちなんだと思いながら笑顔で
「分かりました。では始めさせてもらいます」
そのまま法事が始まった。お経を唱えるのは何も苦でもない。でも少し間違えそうで不安だった。それもそうだ、昨日まさか自分が神様と縁を切るような行為をしてしまったのだ。本当にこんなお経なんて唱えてもいいのか、少し戸惑いながら読んでいた。
するとどこからか着信メロディが流れる音がして、小さな声で
「ごめんなさい」
声的には先ほどの女性だろう。自分は意外と耳が良い。恐らく隣にいた父親であろう男性に言って、その場を後にする。自分は何事もないようにお経を唱えている。
しばらくすると戻ってきた音がした。丁度その時にお経は終わりに近づいていた。
「唯可信斯高僧説(くゆいかしん し こうそうせつ)」
そのまま後ろに振り返り、笑顔で
「これで岡部夏美さんの3回忌の法事を終わらせていただきます。ありがとうございました」
なんとも複雑な気持ちで言ったが、この人たちには何にも関係ないと思い、普通通りに言った。
するとそこにいた家族全員が座りながら深くお辞儀をした。すると代理の女性が
「あの。すいません、急な仕事が入って。これで失礼しても大丈夫ですか?」
自分は忙しい方だなと思いながら笑顔で
「大丈夫ですよ。気を付けてくださいね」
すると女性が見たこともない笑顔で
「ありがとうございます」
そう言ってその場を急いで後にして行った。自分は結局名前を言わずに、その場を後にした変わった女性だと思っていた。そして代理の女性の隣に座っていた父親と思われる男性に
「あの。失礼ですが、先ほどの女性はどのような仕事を?」
すると男性が笑顔で
「あぁ。あいつは公務員です。なんていうか警視庁の捜査一課で」
目から飛び出るというのはこういうことだ。先ほどの女性は警察官。それも捜査一課は通称殺人課でもあり、俺には最強の敵だった。何かまずいことはしてないだろうか。でも今回あの女刑事は別に俺目的で来たわけじゃない。大丈夫だと思いながら笑顔で
「あっそうなんですか。お忙しいんですね」
その日の夜だった。自分の部屋で少し悩んでいた。やっぱりあの彼女が気になる。何か疑われる動きをしてないだろうか、でも俺とあいつを繋ぐものは何もない。絶対に大丈夫だと思いながら、椅子に座り悩んでいた。これが殺人者の苦悩ってやつかと思っていた。
すると玄関の呼び鈴が鳴る音がした。
「こんな時間に誰だよ」
滅多に客が来る時間ではないため、少し気になりながらも玄関を開けた。するとそこには昼に法事に来た代理の女性が立っていた。まさかと思っていると
「こんな時間に申し訳ありません。私のこと覚えてますよね?」
「え、えぇ」
突然何を言い出すんだ。確かに昼には会ったけど、なんだその上から目線な言葉はと思っていると、女性は裏胸ポケットから警察手帳を取り出して
「私、警視庁捜査一課の岡部と申します」
自分は真顔で
「知ってますよ」
「え?」
岡部が驚いた顔をしながら言う。自分は何も表情を変えずに
「いや、さっきお父さんから聞きましてね。捜査一課で働かれているって」
すると岡部は少し表情を怒りに変え
「あのクソ親父」
でもこの人を上げない限り話は見えてこないと思い、岡部を家に上げた。長い廊下を2人で歩いている。少し気まずさと緊張であふれていた。この刑事に何しに来たのかという不思議な緊張と、単なる女性だということの気まずさであった。
二人は応接室に入り、席に座ると岡部に
「あの。要件は?」
「実はこの男性をご存知かなと思いまして」
岡部は自分に、小島の遺体写真を見せてきた。何故こいつの写真を持っているのか理解が出来なかった。とりあえず自分は知らないふりをしようと思い
「誰ですかその人」
とりあえずこれしか言えなかった。あいつと俺は無関係。これでよしと思いながらいると岡部が冷静に
「実は、近くの山奥でこの人の遺体が発見されました」
何故だ。どういうことだ、遺体は完璧に埋めたはずだ。訳が分からない思いで一杯だった。でもすぐに察しがついた。あの時帰るときに大雨が降っていた。恐らく土砂崩れがありそれで見つかったのか。でもそんなことをこの人に聞くわけにもいかない。何故かって、知らないと言った人間がズタズタ聞くのはおかしいからだよ。
あえて冷静に岡部に
「そうなんですか。この近くですが、それは大変だ」
少し驚きの表情を入れて言った。少しは演技でもこれをしないとと思っていた。しかし気になった事が一つだけある。何故私のところに来たのか。そう思い、本当は聞かなくても良かったかもしれないが、どうぜ聞かれると思い
「あの。ところでなぜ私のところに?」
すると岡部が鞄から何やら透明な袋を取り出して
「実は、ご遺体からこれが出てきまして」
袋を自分に渡してきた。それには何やらレシートのようなものが入ってあった。そこをよく見ると院徳寺の名前があった。このレシート、どこかで見たことあると思っていると、すぐに思い出した。これはおみくじのレシートだ。実は最近、自動券売機を作り、そこでおみくじが買えるようにした。これが時代に乗ると言うことだ。しかし、あいつがこれを買っているとは思いもしなかった。すると岡部が続けて
「これに見覚えが無いかなと思い聞いたのですけど」
「あぁ。それでも最近おみくじは自動券売機になって、人員がいないですから、でも少なくとも俺は知らないですね」
そりゃそうだろ。おみくじは巫女さんが売っているわけでもない。だから誰も見ていないかもしれない。それは不幸中の幸いでもあった。すると岡部が
「分かりました。あっそうだ」
「はい?」
もう帰るだろうという流れで突然止められたため、少し戸惑いながらも言うと、岡部が少し微笑みながら
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
自分は笑顔で
「なんでしょうか?」
「あの。昨日の夜はどこかに出かけられたのですか?」
「それはなぜ?」
「いや、実は先ほど車を見させてもらったら、凄いほどの泥が付いていたので」
この女刑事。俺の車を勝手に見たのか。本当だったら訴訟騒ぎだが、殺人者の俺にとってはそんなことする立場ではないと思い、少し出た言葉が
「車見たんですか?」
「えぇすいません」
岡部は少し詫びそうに言ったが、完全に軽い感じの言い方だったため、呆れていた。でもなんとか言い訳を探そうと思い
「あぁ。昨日は買い物に行ったんですよ。砂糖が無くなっちゃってね。それでスーパーに」
すると岡部が少し悩みそうに
「それはおかしいですね」
「え?」
何言ってるんだこの女刑事は。買い物なんて誰でも行くだろうと思いながらも、え?しか言葉はもう出なかった。すると岡部が
「確かに昨日は雨が降っていましたが、泥が付くほど降っていたわけではないです」
「でもさ。大雨は降っていたでしょ」
「それは確かに合っています。でも大雨が降っていたのは夜の12時すぎです。でもその時間はスーパー閉まっています」
口を滑ったのはこういうことだ。やばいことを言ってしまったなと思い後悔していた。でもなんとかまた言い訳を考えなきゃいけないと思い、なんてめんどくさいと思いながら動揺気味で
「あ、あれですよ。コンビニですよ。スーパーもコンビニも一緒のもんでしょ」
もう駄目だと思っていると、岡部は笑顔で
「あっそうですよね。コンビニですか、分かりました。あっそうだ」
「まだ何か」
少しキレ気味に言った。それはそうだ。さっさと帰ってほしいと思っていたからである。すると岡部が
「すぐ終わりますので。実は住職様にお聞きしたかったのが一つだけありまして」
「だから何ですか?」
キレ気味に言う自分。すると岡部は
「あのですね。実はこの人身元がまだ分かっていなくて」
「はぁ?」
何言ってるんだこの人は。まぁ今考えてみれば確かに、遺体写真を見せられただけで細かい情報は伝えられていない。でも今自分も思い返せば、口は滑っておらず特にあいつとの接点を話したわけではない。また奇跡が起きたと勝手に感じていた。すると岡部が冷静に
「でも今度調べてみます。前科者リストなどで調べられるので」
そんなので出るわけないだろと思いながら、心の中で笑いながら
「頑張ってください」
「ではそろそろ失礼します」
そのまま岡部は家を後にした。まさか次の日に自分があんな目に会うとは誰も知らずに疲れていたのか、床に就いた。
~第2話終わり~




