28話 終わり
「おじいさま、こんなところにいたの?おばーさまのそうしきにはいかないの?」
「………あぁ。私はもう、お別れは済ませた。今はお前達がお別れをする番だ。さぁ、行って来なさい。」
「はーい!いってきまーす!」
孫を葬式の場まで行くように促す。デュークはもう既に別れを済ませていたため、会場には行かなかった。長かった髪は、切って棺に納めたことで短くなっていた。
「………懐かしい場所だな。今なら思い返せる。確か、初めてアリシアに出会ったのがここだったな。」
ハルトマン邸の自慢の花畑。今も変わらぬ美しさを保つこの花園で、デュークとアリシアはで会ったのだった。
昔、父がこの家に挨拶に来た時、ついて来たはいいがすることのなかったデュークは外を歩いて回り、この花畑に辿り着いた。その美しさに見惚れ、中を彷徨っているときに、暇をしていて同じく花畑にやって来たアリシアと出会ったのだ。
すぐに仲良くなり、アリシアとはよく一緒に遊ぶようになった。双方の親が元々懇意だった事もあって、身分の差を咎められる事もなく一緒に過ごしたのだった。
そして、アリシアの5歳の誕生日の時に起きたドラゴンの強襲。この事件がきっかけとなって、デュークとアリシアは仲を深めたのだった。
「………ふふ、懐かしいモノを思い出したな。確かに、昔はそんな事もあったな。」
もう一度、辺りを見回す。
幻影だろうか。花畑に、アリシアが居た。笑顔でこちらに手を振っている。
「………まだ神世に行っていないのか?」
「だって、デュークが葬式に来てくれないんですもの。だから、私の方から最後にお別れに来たのよ。」
ゆっくりと歩き、アリシアに近づく。幻影ではない。確実に、これはアリシアの魂だ。
「……………私は、不滅だ。ここでお前はいなくなってしまうが、いつかまた、何処かで会える。その時まで、さよならだ。」
「………うん。またね、デューク。ずっと、ずっと、あなたのことを、愛してる。」
「………私も、だよ。」
アリシアの魂は、この会話を最後に、神世へと旅立って行った。本当の別れに、デュークの頰には一筋の涙が浮かんでいた。
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「デューク殿も、行ってしまうのだな。旧友が次々といなくなっていく。悲しいことだ。もう顔馴染みは殆どが旅立ってしまったからな。」
「あなたなら、死後も私に会えるでしょう。そういう願いを私にしたのですから。」
「ははは、そうだったな!」
アリシアの葬式からかなり経った。もう子孫以外は殆どが神世へと旅立ってしまい、残ったのはデュークとセネカルトだけとなってしまった。
そして、今デュークも国を出る予定だった。
「もう孫達も立派にやっていけてますし、老人の出る幕はもうないでしょう。………いや、あなたは別ですが。いまだに現役ですしね。」
「そうだな。私も死ぬまで若いモンには負けんよ。して、デューク殿。旅立つと行っても、この世界に、というわけではないのだろう?」
ハッとした。全く、なんでこの人はこんなにも察しが良いのか。年の功か?まぁ女性に対してそんなことを考えれば………
「デューク殿。今何かとても失礼なことを考えていないか?」
「………何故、そんなにも察しが良くなるんでしょうかね。そうです、私が旅立つ先は、この世界ではありません。」
「ほう………?少し、いやかなり、興味が湧いた。良ければどのようなものなのか私に教えてはくれまいか?」
「良いでしょう。ちゃんと聞いておいてくださいよ?」
「勿論、人の話を聞くのは当たり前のことだ。」
ということで、説明した。
現世には今私達が存在しているこの世界だけでなく、並行した無数の別の世界が存在していること。
終世もしくは神世を経由することで、それらにアクセスすることができること。
神世からは出来くなったが、終世からなら終世を制覇した自分ならアクセスできること。
「………成る程。つまり、その並行世界とやらが、デューク殿の旅の目的地というわけだ。なかなか、楽しそうな所ではないか!」
デュークの説明を聞いて、セネカルトは年甲斐もなく大きな声でデュークに言う。
「年寄りの旅立ち、大いに結構。最愛の人を亡くした悲しみを紛らわすための旅でも、あなたにはまだ未来がある!生まれ変わったアリシアを探すもよし、自分の好きなことをやり続けるもよし!無限の人生、存分に楽しんでくると良い!私は、あなたを応援しよう!最後に残った友として!」
セネカルトの言葉は、とても力強いものだった。確かに、この度はアリシアが死んでから、もう自分にこの世界に居続ける意味が無いからだ。だから、この世界をでなければと言う気持ちだけで、特にしたい事もなかった。
しかし、セネカルトは楽しめと言ってくれた。友人の頼みだ、聞かないわけにはいくまい。
「ありがとうございます、セネカルト様。では、言葉通り、未知なる世界をアリシアともう一度出会うまで、楽しんでくるとしましょう。終世で、土産話を聞かせてあげますので。」
「では、楽しみに待っていよう。だが、持ってくる頃には私が終世を制覇して既にいなくなっているかもしれんぞ?」
「それは怖い。あなたならやりそうですけどね。」
そこまで話して、デュークは終世への門を開いた。もう、この世界のみんなとはお別れだ。
「おっと、最後に、私からの餞別だ。その長い髪は目立つだろうからな。」
「………最後まで、ありがとうございます。では、達者で。」
「あぁ。楽しんで来い。」
セネカルトから渡された帽子をかぶり、終世への門をくぐる。もう戻ってくることはないだろう。
「………さて、最初はここにしてみるかな。」
目星をつけていた世界に門を開き、くぐる。
着いた先は、知らないものだらけだった。
謎の固い素材でできた建物。
喧しく騒ぐ建物に貼られた板。
恐らく深夜だというのに構わず街を行き交う大勢の人々。
「………カルチャーショック、というやつか。この歳になっても、初めてのことというのは刺激的なものだな。」
勇者が死んで、神が死んで、アリシアももう、亡くなった。デューク長かった報復は、アリシアの死によって終わったのだった。
終世の復讐者は、ただのデューク=アグレシオンとして、自分の為だけの新たな一歩を、踏み出したのだった。
復讐者は、もう居ない。
これで「終世の復讐者」は終了となります。
拙い文章ではありましたが、そんな私に沢山の感想、ポイント、ブックマーク、本当にありがとうございました。
ここまで読んでくださった皆様に、大いなる感謝を。




