18話 神への報復 その3
「よくも………!よくも私の部下を!!やってくれたわね!!!」
アストロは激怒し、部下の敵討ちと言わんばかりの勢いでデュークに迫る。限界まで近づき、至近距離で神の魔法を放つ。最高神の魔法、人間如きに対応出来るものでは到底無い。
「ふん。」
「なっ………!?なんで私の技を避けられるのよ………!?」
しかし、それは相手が普通の人間であればの話だ。生憎と、終世帰りのデュークは、普通の人間ではなかった。
デュークはアストロの渾身の一撃をいとも簡単に避け、逆に反撃してみせたのだ。
「神などと大層なものを名乗るわりには随分と弱い。全く、何故こんなものを崇めなければならなかったのか。」
「な…なんですって………!?人間如きが、そんな大層な口を「黙れ」
「ひっ………!」
今の立場を悟らず吠え続けるアストロに対して、少しだけ凄んで脅す。たったそれだけであるのにアストロは簡単に怯え、尻餅をついた。
「お前がアレ生み出したを張本人か?正直に答えろ。不正などやっても、すぐにわかるからな。」
「何よ………!アレって言われたってわかるわけないわよ………!そもそも、私があの世界に用意したのは勇者だけよ………!」
「はぁ………やはりお前か。最高神ともあろう者がよくあんな屑を勇者に据えたモノだ。ふざけるなよ?」
デュークの糾弾を聞いて、アストロの心に大きな怒りが湧く。絶対に、コイツに神を貶めた報いを受けさせてやる。
決意を固め、目の前の怨敵に向かって宣言する。
「たかが人の身で神を貶めた罪、その報いを受けさせてやるわ!覚悟しなさい!」
「覚悟、だと………?」
僅かに顔を顰めたと思ったら、まるで瞬間移動したかのような圧倒的な速度でアストロの目の前にやって来て、彼女の他の誰も叶わないと呼ばれる美貌を正面から殴り飛ばした。
「がっ………あああ………!!!」
先程までいた神の集会所の巨大な柱に激突し、柱の一部は大きな音を立てて崩れ落ちる。アストロは残った部分に貼り付けにされるような形で突き刺さっていた。
殴られた衝撃で鼻はヘシ折れ、柱と激突した衝撃で白目を剥いている。そこに、そんな現状を作り出した者は悠然と歩いてきた。
「痛いか?屈辱か?まぁお前がどう思っていようと、この程度では済まさんがな。」
「かっ……………なんで…私がこんな目に………」
「………まだ言うか。」
柱を破壊し、磔にされていたアストロを無理やり引き剥がす。高いところから落ちたことで着陸時に頭を打ち、激しい痛みにのたうち回る。
「ぎゃっ!!?いだいぃぃぃ………!あたまが、あたまがぁぁ………」
「五月蝿いぞ。少し黙れ。」
「ぶっ!?」
今度は顔面を蹴り飛ばされる。瓦礫にぶつかりまたしても大きなダメージを食らい、最早のたうつこともできなくなってしまっている。
「さて、やっと静かになったな。それじゃあ本題だ。お前達は現世で起きていることを神世を離れなくても知ることが出来るんだったな。なら、私と勇者が決闘をするということも知っているはずだ。だから、その邪魔をしないように、釘を刺しに来たんだよ。」
「なん、ですって………?」
「言った通りだ。別に私はお前に、神々に直接恨みがあるわけではないからな。だから誰も痛めつけはしたが殺してはいないし、これから先あんなののような勇者をつくらないというんだったら、奴の出した被害を保障するというのだったら、この場だけで終わらせてやる。」
そう言いながら背後を親指で指す。指し示された所には、デュークを倒そうとして返り討ちに遭い逆に倒された多数の神が得物や瓦礫と共に転がっていた。全員気絶はしているが、死んではいない。死なれないようにわざわざ終世剣を使わずに倒したのだから。
「誰が………人間如きにそんな事を!」
アストロはこれでもまだデュークを舐めていた。いくら強かろうと所詮は人間、絶対にして最上位の存在である神が負けるはずがない、と。
そんな驕りがアストロに無謀な攻撃をさせた。起き上がり、神の雷を右手に纏い、デュークを殴り殺そうとする。本来なら神が人間や他の現世の生命を殺すことはご法度なのだが、今はそんな事を言っている場合ではない。
絶対に、この一撃で殺す。神世の憂いをここで断つ。
そんな強き殺意の篭った拳をデュークは、
「『究極闇属性魔法』」
「な、なん、で…………?へぶっ!!!」
いとも簡単に受け止め、逆に拳で殴り飛ばしてやった。衝撃で投げられたボールのように地面を跳ねていく。この時、アストロにはもう、抵抗する気力は無くなっていた。抜刀しながら近寄って来たデュークの自身の首を掴もうとする手を払い除ける力は、もうアストロからは出てこなかった。
右手で首を持ち、左手に持った『奈落ノ太刀』を突き付ける。
「これでもまだ、自分を過信できるのか?」
「ごめ、んな、さい………ごめんなさい………」
全力をいとも簡単に受け止められ、一度ならず二度も顔面を殴られ傷物にされ、もうアストロの心は折れてしまっていた。
「どうやらもう抵抗する気は失せた様だが。まあ今回はこれで良しとしよう。さて。」
「……………え!?ここ、は、どこなの!?此処は神世のはずじゃ………!?」
手を離され地面にへたり込むと、目線の先には大量の虫が、獣がこちらを見据えていた。明らかに、獲物に狙いを定めている目だ。
その視線に恐怖を抱くが、世界はすぐに見慣れた神世の景色に戻った。
「もし、今日のこれを経験した後でも私を侮り、勇者をに肩入れし被害者を増やすようなことがあるなら、今度は神世を、神を滅ぼしてやるからな?そこで寝ているお前達も、肝に命じておけよ?」
「…………………!!!」
「返事は?」
「……………は…い………」
「なら、今はこれで良し。その言葉を嘘にしないように、精々気をつけるんだな。」
こうして、神世を荒らし回ってデュークは現世に帰っていった。
彼のいなくなったところでアストロは地面を力任せに叩き、怒りに震える声で呟いた。
「なんで…なんだ私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ………!?許さない………この最高神をコケにしてくれて………!絶対に、奴には報いを受けさせてやる………!!!」




