6話 償う者、そうでない者 その2
時系列として、前回が大体勇者がセネカルトにやられた少し後くらい。闘技場でデュークとターレスがドンパチしてる頃。
「嘘でしょ………!?アーノルド様が死んだって………嘘でしょ………!?」
「………いや、ほぼ真実だろうな。流石に、こんな状況で嘘の報告があるなんて思えねぇよ。」
「そん、な………アーノルド様………どうして………?」
騎士に掴み掛かり、勇者の死について問い詰める。どうしても、コナーは信じられなかった。
洗脳状態にある彼女にとって勇者の存在は絶対的なものであった。それが自分の知らないところであっけなくやられ、ましてや死ぬなんて絶対にありえない事だと信じて疑わなかった。
アーノルドがデュークに蹴り飛ばされたところを見た時も悪い夢だと切り捨て、なかった事にしたほどに、コナーは勇者の強さを盲信していたのだ。
「嘘………絶対嘘!アーノルド様が死ぬわけない!何処なの!?アーノルド様は何処にいるの!?答えて!早く答えて!」
騎士に掴みかかり、詰問する。コナーの顔は涙に濡れ、焦りが簡単に見て取れる。掴みかかられ宙に浮きながら騎士が答える。
「し、しらねぇよ、俺はさっきからずっとお前らと一緒にここでアンデット退治をしてただろ!勇者の野郎は闘技場にいたんだ、あっちに行けば何か分かるだろ!」
「………じゃあ、私は闘技場に行く」
「はぁ!?いや、お前はまた拘束しないと俺が怒られ………」
反論しようとした騎士を突き飛ばし、闘技場に向かって走る。騎士も立ち上がりすぐに追いかけようとするが、素早さに特化した「暗殺者」である彼女に追いつくのは無理だった。騎士はすぐに無駄だと悟り、足を止めて、
「………あぁ、減給………いや、クビかなぁ………」
これからの自分の未来を嘆いたのだった。
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(………!アーノルド様の魔力………!闘技場の方じゃない、こっち………!)
闘技場に向かう途中で勇者の魔力を察知。コナーは闘技場の反対方向、いつも使い道がなく放置されている平原に向かった。
そして、全速力で向かった事で、五分とかからずに平原に着いた。
「う…そ………」
そこにあった光景を見て、コナーは膝から崩れ落ちた。
地に伏せる両断された勇者の、亡骸。そして、それを作ったと思われる女。
「聖騎士」セネカルト=クインクス。
彼女が、勇者の亡骸の側で座り込んでいた。大量に血のついたストックを持って。
「おや、今日はよく珍しい事が起こる。何故お前がここにいる?何故拘束が外されている?」
「なんで………アーノルド様……………なんで!?」
セネカルトの質問を無視し、勇者の亡骸に駆け寄り、縋り付く。ひとしきり泣きはらし、セネカルトを睨み、叫ぶ。
「お前が………やったのか!?アーノルド様を殺したのか!?お前が!」
「………口の聞き方には気を付けろ。質問をするならまず私の質問に答えろ。」
「許せない………絶対、殺す!」
敵討ちに息巻きセネカルトに自分の得物であるダガーを突き立てようとする。しかし、
「う…そ………」
「あまり調子にのるなよ、コナー。もう一度縄につきたいのか?」
突き刺そうとしたダガーは簡単にへし折られ、破片を地面にばら撒いた。コナーも掴まれ、マウントを取られ、首筋にストックを突き付けられるという、あっけない終わりとなった。
「三人がかりでも私に勝てなかったというのに、よく単身で挑む気になったな。すでに満身創痍とはいえ、お前如きにやられる程弱ってはいない。」
「なんで………仇も取れないの……………なんで私はこんなに弱いの………!?」
「仕方ないだろう。ステータスも、スキルも、加護を手に入れてから使うようになったものだ。お前と私では、戦いに費やした年月が違う。」
コナーは悟った。こいつを殺してアーノルドの仇を討つ事は不可能だと。だから、次の瞬間、ある行動に出た。
ザクッ
「なっ………!?貴様何をしている!?そんなことをすれば確実に死ぬぞ!?」
折られずに残った方のダガーを使い、自身の頸動脈を切り裂いたのだ。切り口からどくどくと血が流れ出す。これほどの重傷、セネカルトの回復魔法でも治すことはできない。きっと、想像を絶する痛みがコナーを襲っているだろう。
しかし、このまま死に行くはずのその顔は、とても晴れやかだった。
「あぁ………アーノルド様、1人では寂しいでしょう………私が………お供、します………」
血が流れきり、事切れた。その顔は、最期まで笑顔のままであった。
「……馬鹿が。」
自決し、事切れたコナーの亡骸を一瞥し、セネカルトはそう告げた。なんだかとても、悲しそうな顔であった。
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「あれ………?ここ、は………?」
ここはどこ?私は、自決したはず。もう生きてはいないはずだ。
と、すると、ここは「神世」なのだろう。勇者様を追ってここに来たのだ、きっと会えるはず。もう少し進んでみよう。
「ようこそ、神世へ。コナーさん。」
「………?誰?」
声に反応し振り向くと、そこにはこれまで見たこともないような美貌の女が立っていた。それに、なんだか聞いたことのある声。しかし、こんな女見たことはない。一体誰なのだろうか?
「私はアストロ。神世を取り仕切る最高神の1人です。あなたも、私のことを知っているはずですが?」
「あなたが………アストロ神様?なら答えてください!アーノルド様はどこに行ったんですか!?現世では彼は死んだと言っていました!なら彼はここにいるはずです!お願いします!アストロ様、私をアーノルド様の元に連れて行ってください!」
立場をわきまえず、アストロに向かって言葉をまくし立てる。それを本人はとても申し訳なさそうな顔で見ている。
「………そこまで言うのなら、彼の元へあなたを送りましょう。もう一度聞きますが、本当に、よろしいのですか?」
「はい。私はアーノルド様に全てを捧げると誓ったのです。」
「………では。その前に、ずっと洗脳されたままでは酷でしょう。解いてあげます。」
「………え?」
コナーにかかっていた洗脳が、神の手によって解かれた。コナーの頭に、これまでの自分の所業が罪の意識とともに激流のように流れてくる。
「そん、な、こんな、ことって、わたし、いままで、なんて、みんな、わたしが、ころ、さ
意識の覚醒と共に、体も消滅していく。消えていくのには痛みが伴う。激痛と、魂が失われていく喪失感が余計に感情を加速させる。
「むら、わたしが、ぜんめつさせて、みんな、しんで、わたしが、ころして、あんでっ、とに、な…………
「即座に消滅させられず、申し訳ありません。このような事は、破壊神こそ専門ですので。長き苦しみを与えてしまう事、とても痛ましく思います。」
「あ、あ、あ、あっ、あっ、あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ
「せめて、安らかに。」
アストロがコナーの冥福を祈り、手を合わせ、目を閉じる。同時に、彼女の魂は完全に消滅した。
神世と現世。消えた場所の違いはあるが、少なくともコナーは、望み通りの末路をたどることができたのだった。




