53話 デュークの甘さと強さ
そろそろ前書きに書くことが無くなってきた。
セネカルトとアーノルドが戦っていた頃。
同じく死闘を繰り広げていたバールバッツとデュークだが、何かを察知したのか突然バールバッツが距離を取り、ガッカリとした顔を作る。
「………やられたか。使えない上に実力も半端。残念でもなく当然の結果だな。」
「なんだ、勇者はやられたのか?」
「その通り、あの役立たずめ、魂まで完全に消滅しよった。これでは復活させてやれんではないか。」
「奴の魂を斬り裂いた技、あれはお前がさっきから使っているものと同じだろう?究極をも超えて魂に直接攻撃するとは、そして、そんな技を使える者が最低でも2人。これは、もう笑うしかない状況だな。」
「そうかい、笑ってる暇があるならさっさとくたばったらどうだ?」
聖剣と神剣の二刀流でも殆ど何も出来ずにこちらが一方的にやられている。アリシアのステータスと自分のステータスが融合し、最早現世に並ぶ者なしと呼べる程にまでなったのに。一体この男はどれほどのステータスを誇っているのだろうか?
「なあ」
「何だ」
「あんたのステータスってどうなってるんだ?この私をこうも軽くあしらえる程だ、それだけやばい力を隠し持ってるんだろ?もう闇属性使いであることも周知されたんだし、隠す必要は無いと思うんだけどな。」
「ふむ。まぁ、ステータスの開示を求められたのに断ればそれは失礼に当たるからな。いいだろう。見てみるがいいさ。」
(この男、ステータスを隠蔽してたが、ようやく分かるのか………一体、どんな馬鹿げた数値を見せてくれるんだ………?)
バールバッツは内心ワクワクしながら右手を振り、「スキャン」を発動する。デュークのステータスが映る。そこに映っていたのは、
デューク=アグレシオン
性別:男
Lv.99
体力:S(79652)
魔力:S(88541)
攻撃力:S(61054)
防御力:S(40789)
速力:S(42158)
精神力:S(284597)
≪スキル≫
「風属性魔法lv.10」「闇属性魔法lv.10」
「心撃lv.10」「終世の庇護」「次元転移」
≪称号≫
「変わらぬ心」「剣の道の最果て」「復讐者」
「不撓不屈」「終世踏覇」
「んなっ………」
「どうだ、拍子抜けでもしたか?随分と低いステータスだとでも思ったか?」
「………実際、この程度のステータスでどうやって俺や勇者をあしらってたんだよ。ステータスに倍以上の開きがあれば奇跡が起こったって普通勝てないってのによ。」
実際、デュークのステータスは終世で何万年もの時を生き延び帰還した者としてみるとかなり低い。
アリシアは「神の加護」の支援もあったがバールバッツとの戦いの中という短い間で生身のステータスが十万を超えるほどに成長したし、バールバッツ自身もそう。生身でもステータスは元々上昇し難い精神力以外は十万を超えている。
それらが融合した今のステータスは、
アリシア=ハルトマン(バールバッツ=エルツィン)
Lv.99性別:女(男)
体力:S(286547)
魔力:S(331289)
攻撃力:S(308451)
防御力:S(290253)
速力:S(274559)
精神力:S(40896)
≪スキル≫
「火属性魔法lv.10」「剣王lv.10」「呪い耐性lv.8」「神の加護」「炎熱支配」「死霊魔法lv.10」
≪称号≫
「剣の極地」「不義の徒」「魂の奏者」「忠誠心」
「神の僕」
(このステータスなら、奴が俺に勝てるとは到底思えねぇ。一体、どんなタネが隠されてやがんだ………?風魔法も闇魔法もステータスを上げるような技は無いし、終世ってついてるスキルも加護を与える側だから自分が使えるわけじゃ無い。次元転移ってのも終世、現世、神世を行き来するためのスキルだろうし、てことは………)
「その、『心撃』とかいうスキルのおかげってわけか。どんな能力か知らねぇが、たいそう強力なものなんだろうな。」
「正解だ。よくわかっているじゃないか。だが、わかったところで対処は出来るのか?」
デュークがバールバッツを嘲笑うように技を放つ。
無名剣術『残魄閃斬』。
アリシアの体を擦り抜け、その中に潜むバールバッツの魂のみを斬る。
先程からずっとこの調子。攻撃を捌ききれずに被弾する度自分だけがダメージを負う。このままではただ嬲り殺しにされるだけ。
すかさず反撃を試みるが、聖剣の一撃も神剣の一撃も『奈落ノ太刀』に阻まれ、空を斬る。
「くそがぁ………!これで、どうだ………!」
「おや」
剣に焔を纏わせる。斬れなくともこれなら熱でダメージを与えられる。しかし、剣にまとわりつく焔はその色に少しづつ青みがかってゆく。既に、この体の支配を維持しきれなくなっている。
「どうやら限界が近いようだな。もうそろそろ、楽になったらどうだ?」
「なにを………ぬかせ!」
結局、攻撃はまたしても外れることになった。膝をつき、下から目線でデュークを睨む。それをデュークは冷ややかな目で見つめる。
そして放つ。とどめの『残魄閃斬』。
(ちくしょう………せっかく復活できたってのに、魔族の権利回復のチャンスだったってのに、くだらない戦闘欲出したせいでこのチャンスを無駄にしちまったか………すまねぇな、同胞たちよ。終世に来た時は袋にしてかまわねぇから、どうか、生きてくれ………生きて、幸せに、なってくれ………!)
バールバッツは諦めた。自身の生存を。だから、託すことにした。未だ生き延びて身を潜め、再起を伺っている同胞達の再興を信じて。
「………はぁ。もうダメ、か。なぁあんた。私はこれから最後の悪あがきをする。あと、この体は返す。こいつに勝手に体を使って悪かったって代わりに謝っといてくれねぇか?」
「そして、今からの私の行動を、どうか見届けて欲しいんだ。最後までやらせるのも、途中で、もしくはやらせずにとどめを刺すのも自由にしてくれ。」
「………いいだろう。勝手にしな。」
「ありがとよ。それじゃ………」
バールバッツが自身の力を解放する。アリシアの体が地面に倒れ臥す。先程までアリシアの体が立っていた場所には少し透けて見える魔族の男が立っていた。
「………それが、お前の素顔か。なかなか男前じゃないか。」
「ありがとよ。それじゃ、幸せになりな、デューク=アグレシオン。この女がまた、何かに操られたりしないように気を付けろよ?」
「肝に命じておこう。」
「『魔天連鎖』」
バールバッツの体が霧散していく。魂は他の魔族達へと繋がっていき、彼等に自分の全てを渡す。これからを生きる彼等への、バールバッツからの手向けである。
そして、遂に完全消滅するという時、デュークが『根源ノ太刀』を抜いた。バールバッツの魂の欠片に剣を刺し、「ある所」に転移する。
転移した先は全てを黒が埋め尽くす、何もない空間であった。欠片のみを残し他全て失ったはずだが、バールバッツはなぜか体がしっかり五体満足であることに驚いた。
「なんだよ、ここは……?てか、どうなってやがんだ………?俺は消えたはずだが………」
「『根源』だよ」
「デューク=アグレシオン………!ここが根源、終世だと………!?」
「あぁ、お前にまだやってやりたいことがあったのでな。中断させてもらったぞ。」
「何だよ、そのやりたいことってのはよ………」
「何、嫌っている神の手で裁かれるのも癪だろうと思ってな。だったら私がお前を終世に送ってやろうと思ったんだ。お前は『黄昏』辺りにでも送ってやる、精々必死になって生きてみるといいさ。」
「はっ。最後まで、お気遣いありがとよ!」
「礼には及ばん」
最後にちょっと皮肉を言ってみたが、デュークには通じなかった。
デュークが手触れると同時に、また別の場所へ飛ばされる。一面に生い茂る木々、草花。生命の気配は近くには感じられず、天を見上げれば動く気配のない太陽。
「成る程、ここが『黄昏』か。終わりの世界にしては穏やかだな。やっぱり、あの女を取り戻そうとする姿といい、アイツは甘い奴だったな。」
少し歩く。黄昏の中を歩き続けているうちに、遺跡のようなものがそこらにあることに気がついた。きっと、これまでに何人も生活を試みた奴らがいるのだろう。
そんなことを考えていると、
「おーい」
声を掛けられた。何事だ?何者だ?黄昏のモンスターの罠か?そんなことを考えるが、取り敢えず振り返り、声を掛けた相手を確認する。そこにいたのは。
「やっぱりバールバッツ様だ!私です!メテオラです!昔あなたの部下として働いていたものです!こんなところで会えるなんて………」
「………本当か?本当にお前なのか?」
「勿論ですよ!私は私、他の何者でもありません!」
「何で、生きていられるんだ?」
「ここは終世の他の次元と違い、生き延びることのできる環境があったんですよ!他にも数百人がいて、今は過去の身分差を気にせずに協力して発展に取り組んでいますよ!私たちの復興ももうすぐです!」
「ほんとか………!?」
「はい!行きましょう、バールバッツ様!みんながあなたが来るのを歓迎してくれますよ!」
「良かった………!本当に………良かった………!」
部下の前ということも気にせずに感涙する。膝をつき、声も抑えず。自分の願いは果たされていた。皆、強く生きていた。そんな嬉しい結果に、バールバッツは泣き続けた。
ーーーーーーーーーー
「さて………これでもう、本当に最後だ。想定外の邪魔が入らなければいいのだが………」
バールバッツの魂を黄昏に送った後、『根源ノ太刀』をしまい現世に戻る。戻った先では、アリシアが蹲り、自分への懺悔の言葉を譫言のように呟き続けていた。
「アリシア」
「………でゅう、く。」
遂に正気の状態のアリシアと再会できたデュークがアリシアに話しかける。それを物陰から勇者を倒してきて戻ったセネカルトは見ていた。
「………まだ終わっていないようなら加勢するつもりだったが。邪魔しないほうがいいな。」
空気を察してまだ殲滅しきれていないアンデットの掃討に向かった。
用語紹介
「能力の封印」
使えるスキルを封印し、使えなくすると共に「スキャン」しても読みとらせなくする技術。主に闇属性を持って生まれた者が使う。
副作用として、レベルやステータスの成長が阻害され、体が重くなったりする(ステータスにマイナス補正がかかる)。




