51話 勇者の最期
諸悪の根源退場。
「さて………これだけ離れれば被害が彼らに行くこともないだろう。それに、この未開発の平地なら、建物などを壊す心配もない。決戦にはあつらえ向きだと思わんか?」
「………」
「あぁ、口がきけんのだったな。………おっと。」
決戦場に選んだ地に降り立ち、話しかけるも拳による返答しか返してもらえなかった。
「表情がないからよくわからんが、随分と強気そうだな。私如き、片腕でも倒せると踏んでいるのか?」
「………」
右腕の紋章を大楯に変化させ、左手でランスを構える。セネカルトは盾で守り、槍で突き殺すという本来の戦闘スタイルをとった。
勇者が三度焔を纏った腕で殴りかかる。当然のごとく盾に阻まれるが、それを気にせず何度も殴る。殴る。殴る。
次第に押され、衝撃で後ろに下がって行く。隙を見て槍を突き出すもひらりと宙返りで優雅に躱された。
距離が開き、もう一度睨み合う形ができる。
「片腕だというのにご苦労な事だ。次は、これを使ってやろう。」
「………」
ちょこまかと動き回り接近してくる勇者に槍では不利だと悟り、紋章に戻す。そして今度は右腰に下げられた黄金の剣を抜く。昨夜、三人の聖女を倒した剣を。
剣を抜いたと見るや否や勇者は距離を取り魔法の球を作り出す。土、火、水、風、光。派生して雷、氷、毒。勇者の右手からわらわらと湧いてくる。
魔力の球がセネカルトを襲う。何千、何万。数えることもできないほどの数が全て自分に向かってやってくる。盾で防ぐ。剣で切り裂く。
土の球は炸裂する度に地面に落ちて足を取る。
火の球は盾を溶かしていくし、衝撃でこちらの体勢を崩す。
水の球は顔を狙って窒息させようとし、弾けば土に混じってどんどん足場を悪くしていく。
風の球は突風を起こし剣を、盾を持つ腕や体のバランスを崩す。
光の球は強烈な閃光で視界を奪う。
雷の球は守ってもこちらに衝撃を与え、着実にダメージを貯めていく。
氷の球は盾を凍らせ、耐久を下げていく。
毒の球は装備を腐食させ、こちらの戦力を削ってくる。
どれもこれも、厄介極まりない攻撃である。
「くそっ!ちまちまと鬱陶しい!」
「………」
盾の防御力が落ちてきたと分かると魔力の球の属性を限定していく。高威力の火、窒息狙いの水、視界妨害の光、安定の雷。
それでも防御を続け、反撃を図る。しかし、近づけばすぐに距離を取られ、逆に反撃されてしまう。このままではジリ貧である。
(不味いな………このままではこっちがやられる。デューク殿にでかい口を叩いた以上、絶対に勝たねばならんのだが………もう、使うべきか?誰も見ていないはずだが………)
「くそ、盾に限界が………」
盾がついに限界を迎え、粉々に砕け散る。かつて聖女の合体魔法すら無傷で跳ね除けた盾がである。
これ幸いと勇者が近付き、四度目の突撃をする。だが、それはさっきも止められた。今度も素手で受け止め、捻り折る。勇者の腕が明後日の方向を向く。
(今だ、デューク殿から教わった技を………)
決闘準備の五日間のうち、デュークと自分の記憶を使った情報交換をしていた時に教わった技を使おうとする。だが、それを察知されまた距離を取られる。
もう一度、大量の魔力の球による弾幕が襲う。今度は完全に火の球オンリー。確実に火力でねじ伏せるという意思が見える。
果敢に応戦し、火の玉を弾き落としていくがそれも限度がある。盾のように守るために作られたものではないため限界はだいぶ早くきてしまった。
バキリ
「なっ………!?」
遂に剣を失くし、呆然としているところに火球が直撃する。
アーノルドとセネカルトのステータス差は実に五万近くにもなる。それだけの差があればただの小さな火球でもこのように大きなダメージを負ってしまう。
トドメを刺さんとばかりに火球を増量する。目を閉じ、火球を気にしながら思案する。
(このままではやられるだけ。解放してやればステータスの差も埋められるはず。だが、これをやれば私の地位は……いや、そんなことを気にしている場合ではない。約束があるのだ。勝って戻るという約束が。誰とした?デューク殿に、ギルドの友に、そして、共に戦ってきた部下に!私は、勝つ!繕うのは後だ!)
天に左腕を掲げ、叫ぶ。もう、この封は解く。隠すのはもう、やめた。
「『究極闇属性魔法』!」
体を三百六十度回転させ、放出した闇を満遍なく撒き散らす。闇が火球を呑み込み、肥大化してセネカルトの体に戻る。
「私が闇を使ったことで狼狽えているようだな。「聖騎士」が闇の使い手と知って驚いたか?それとも、さっきまで別の闇属性使いに酷くやられていたことを思い出したか?体が後ろに下がっているぞ。」
「………」
言葉を発さずとも、動きで勇者が焦っていることがわかる。魂は正直だ。
左手を振り、勇者が固まっているうちに自分のステータスを確認する。
セネカルト=クインクス
性別:女Lv.99
≪ステータス≫
体力:S(147984)
魔力:S(161073)
攻撃力:S(139689)
防御力:S(180741)
速力:S(136502)
精神力:S(169429)
≪スキル≫
「闇属性魔法lv.10」「風属性魔法lv.10」「呪い耐性lv.10」「魔力装甲lv.10」「神の加護」
≪称号≫
「闇を受け入れて」「聖騎士」「自己を貫く者」
「限界突破」
「………良し!」
目論見通り、さっきまでとは比べ物にならないステータスを得た。これで漸く、有効打を与えられる。
左手の紋章を槍に変え、構える。持ち手を伸ばすことで両手用に。
「………さて、これで漸く対等だ。全く残念だよ、この私が隻腕の男相手にここまでいいようにやられるとはな。勇者よ、これで決着だ。」
「………」
勇者の手に魔力を固めて剣の形にした物が握られる。お互い得物は持った。後は、どちらが上か。
同時に突撃。
振りかざした剣を槍で受け止め、殴打を受け流し、互いの攻撃を捌く。時たまかすり程度に当たりはするが決定打にはならない。
決着の時はきた。
勇者が魔力の剣で遂に、セネカルトの体を貫いたのだ。だが、セネカルトはその手を掴み、
「捕まえた」
勇者の手を握り、振り上げ地面に叩きつける。一旦下がり、ジャンプして勇者に槍を突き刺す絶好の位置へ。風で推進力を作り、最後の一撃をーーーーー!
しかし勇者もまだ耐える。残りの全魔力を以ってセネカルトの一撃を受け止めたのだ。ここからは、意地の戦い。「勇者」が勝つか、「聖騎士」が勝つか。
セネカルトの槍にヒビが入る。勇者の腕に押されヒビは広がり、このままでは、砕け散る。勝利を確信したのか、勇者の力が緩む。そして、完全に砕け、
中から現れたストック状の剣が、緩んだ勇者の防御ごとその体の中心を貫いた。
「はぁぁぁぁぁ!!!!!」
貫通した刃を思いっきり振る。勇者の体が、腰から二つに裂ける。倒れ、動かなくなる。遂に「勇者」と「聖騎士」の戦いは終幕した。
が、
「まだだ。」
セネカルトにはまだやることがある。倒れた死体の首を掴み、何かを引きずり出す。
ーーーーーーーーーー
戦いの中、勇者の魂はこんなことを考えていた。
(なんで!なんで僕がこんな間に合わなくちゃいけないんだよ!?僕は勇者だぞ!?英雄だぞ!?衆人環視の中で思いっきりコケにされて、あんなあっけなく殺されて、あまつさえいいように操られて!こんな事が絶対にあっていいはずがないんだ!そうだ、せめてここでセネカルトを殺してやろう。今までずっと僕の邪魔をしてきたんだ、それくらいの報いは受けて当然だよなぁ!?いずれは神となる存在に対してあんな無礼、許されるわけがないんだ!!!)
余りにも、身勝手。自己中。彼のせいでどれほどの数の人々が破滅したかを全く理解していない。
(なんで!?なんで勝てないんだよ!?僕は最強じゃなかったのかよ!アストロォ!話が全然違うじゃないか、なんでデュークとかいう男女みたいなイレギュラーだけじゃなくて、僕の下位互換のはずの女にまで負けるんだよ!?なんで女如きに僕が負けなくちゃいけないんだよ!?答えろよアストロ!なんとか言ぇぇぇぇぇーーーーー!!!!!)
(!!!!!?????)
セネカルトの手によって死体から魂が引き摺り出される。勇者の最悪の身勝手も、これで終わる。
(待って!ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダやだやだ!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!!)
「確かお前は、死後は神となるのだったな。勇者の恒例、なんともお前にとっては都合のいい制度だ。」
(やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!!!!)
「お前が神になれば、不老不死の存在になれば破滅する者は際限なく増えていくだろう。そんなことはさせん。騎士として、国を代表して、私がお前を裁く。神世にも終世にも行かさん、ここで死ね!」
(やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだぁーーーーーー!!!!!)
デュークから教わった技。魂を直接斬る剣『残魄閃斬』。
これでもう、アーノルドの魂の残骸は現世を彷徨いながらいずれ消滅する。
終世の者にも神世の物にも相手にされる事なく消滅するという、哀れな最期だった。
「………お前の前世では確か、これを『因果応報』というのだったな。」
そうぼやき、激戦の疲れでセネカルトは地面にへたり込んだ。
セネカルトに勇者へのトドメをやらせたのは、彼女が一番奴を殺すのに相応しいと思っていたからです。行き当たりばったりな作品ですが、一応、この展開は最初から決めてましたよ。




