37話 静寂の戦い
神視点や勇者視点も入れたいけど入れるタイミングを掴めない。
「『静寂の世界』」ですか。好都合ですね。わざわざそっちから気付かれにくくしてくれるなんて悪いですね。お気遣いありがとうございます。」
「気にするな。お前達は腐っても世界を救った聖女。それがこの様に捕縛されてはプライドに関わるだろう。」
「3対1で勝てるとでも!?関わらない間に随分と傲慢になりましたね!」
「セネカルト様のその伸びた鼻っ柱、へし折って差し上げます。」
「ん。勝って勇者様に尽くす。」
こうして、3人は勇者の為にかつて共に戦った仲間すら消そうとする。そして、三者の力を合わせた複合魔法を放つ。
「「「『見えざる神罰の光線!!!』」」」
不可視の神の力を持った魔法が、セネカルトを襲う。瞬きする間にも届きうるその巨大な力の塊を、セネカルトは。
「おや、3人で力を合わせてこの程度か。これでは私に傷1つつけることもできんぞ?」
右手に紋章として収納されているセネカルトの大楯。その凄まじい防御性能によって、
複合魔法『見えざる神罰の光線』
は、セネカルトに傷一つ与える事なく消滅した。その後すぐにセネカルトの反撃が行われる。右腰に下げられた剣を手に取り、鞘からは抜かずに構える。腰を落とし、柄に手を添えるように。アリシアやアーノルドのような剣を使う者なら、それが基本剣術『流星』だと分かっただろう。
だが、剣を使わない3人にはそれが分からない。勇者パーティではセネカルトが剣を使っているところはほとんど見たことがない。彼女が基本槍を使っていたからだ。
「………それは飾りだと思ってましたよ。ちゃんと使えるんですね。」
「私達には何を企んでいるのかわかりません。動く前に沈めましょう。」
「ん。先手必勝。」
3人がそれぞれ思い思いの攻撃をする。
グレイスは自分の魔法の中で最高の威力を誇る光と火の複合属性魔法『暴龍の咆哮』を、
シャルロッテはセネカルトを逃さないように光拘束魔法『光の束ね糸』を、
コナーは2人が失敗した時に備えて光魔法『忍ぶ影人』を使い、不意をつく用意をしていた。
素早く敵の動きを止めなければならない拘束魔法。シャルロッテの『光の束ね糸』が先陣を切り、真っ先にその体にまとわりつこうとする。その後ろから『暴龍の咆哮』が迫る。まだ、セネカルトは構えのまま微動だにしない。
ついに光の糸が届き、その体を縛ろうとする。
瞬間、抜刀。
自らに迫る糸を、鞘から放たれその黄金の刀身を露わにしたセネカルトの剣が巻き取る。
巻き取られた光の魔力は剣を強化し、糸の後を追ってセネカルトに迫っていた『暴龍の咆哮』を只の一振りで蹴散らしてみせた。
そのままの勢いで体を捻り体制を整え、右手を地面に振りかざす。風魔法『暴風の牢獄』を発動して自分の周りに風の防御を作り、光魔法によって透明化していたコナーを吹き飛ばす。
風が止み、セネカルトの姿が見えるようになる。
「そ…そんな………私の『暴龍の咆哮』が………たったの一太刀で………?」
「光の糸を………絡め取って……そんなやりかたがあるなんて……」
「なんて風なの………近付けない………!」
「気に病むことはないぞ。もともとお前達は平民。戦いとは無縁の者達であったのに、『神の加護』を手に入れてしまったばかりにろくな訓練もせぬまま戦いの中に放り込まれ、勇者の傀儡にされたのだからな。
元々戦う為に訓練を重ねてきた私とお前達では実力に差があるのは当然だ。」
「くぅぅ………!戯言を………!」
「それに、そもそもお前達も被害者だろう。どうだ?ここで勇者に反旗を翻し、勇者のために犯すこととなった罪を清算していかないか?」
「なんですって!?一体私達がなんの罪を犯したというのですか!?」
グレイス達は、気付かない。自分たちの犯した罪を。だから、セネカルトは淡々と糾弾する。
「グレイス、お前は結婚の約束までしていた自分の恋人を廃人にしたな。喉を焼かれまともに喋ることもできず、光魔法で精神を壊し、他者の介護がなければ食事も満足に取ることができなくなっていたぞ。」
「シャルロッテ、お前のいた教会は確か男子禁制で修道女が男と接触することは一切禁じていたな。魔王討伐の為に勇者に同行することは特別に許可されたが、それでも勇者との不必要な接触は咎められていただろう?性的接触は魔王討伐には不必要ではないか?」
「お前が一番罪が重いぞ、コナー。お前は、住んでいた村の皆の反対を押し切り、それでも止めた彼らを皆殺しにしただろう。おかげであの村の跡地は今、アンデットの温床になっているぞ。もう立ち入り禁止となり、誰も入ることが叶わなくなっている。」
「………身に覚えがありませんね。」
「私のいた教会は、もう少し教義は緩かったはずですが?」
「ん。私は大きな町に住んでた。そんな1人で皆殺しにできるような人数しか人口がいない村には住んでいない。」
「ほう?それはおかしいな。全て、他ならぬお前達の方から聞かせてくれた話なのだがな。」
3人が固まる。あれは、嘘を言ってとぼけていない、本当に困惑しているという顔だ。
(奴め、自分のそばに置く女に、負の記憶は必要無いとでもいうのか。他ならぬ貴様自身がやらせたことだろうに。)
「しらばっくれるというなら、もう容赦はしない。いくら結界を張ったとはいえ、街への被害が減るというわけでは無いからな。もうお前達と話すことも無い。さっさと、終わらせる。」
剣を振る。同時に、剣から放たれた風の刃がグレイスの持っていた杖を破壊する。
「なっ………!?」
暴風剣術『次元斬』だ。剣を極めた者、誠の剣士のみが使う、『究極剣術』と風の魔法の複合。
基本を極限まで鍛え上げ、究極を名乗ることを許された剣と、同じく極限まで鍛え上げられ、究極となった風。
そんな二つの力が合わさった技が、弱いわけが無い。
「そういえば、デューク殿も風魔法を使えていたな。
『暴風剣術』を教えてやればよかった。」
何度も剣を振るう。『次元斬』の神速の一撃が3人を襲う。結界を貼り防ごうとするが、強度を軽く上回る力で結界を瞬く間に破壊していく。次第に耐えきれなくなり、食らうようになる。
服が裂け、皮が裂け、肉が裂けていく。
「お前達も、眠れ。そして、目をさましてから、罪を償え。」
最後の一撃。
暴風剣術『黄金星嵐』
竜巻を纏って自らを神速と化し、迫る。
横長に薙ぎ払われた黄金の剣は、3人を吹き飛ばし、蹴散らした。路地を吹き飛び、起き上がらなくなる。時間にして1時間にも満たない戦いではあったが、それでも、激しいものであった。
「………そうだ、私だ。闘技場に細工をしようとした不届きものを捕まえた。すぐに連行しろ。」
倒れた3人を回収し、会話板で部下に連絡する。
「………哀れな奴らだ。」
地面に横たわる3人を見て、セネカルトは忌々しそうに小さく、そう呟いた。
アリシアが起きない理由
ネタバレになるのでヒントだけ。
冤罪。




