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番外111 王の見た希望

 巻物か。分割されたそれを元に戻す算段があるのだとしたら、やはりあちらの技術に則ったものだろう。危険な魔力の兆候は感じなかったが……。

 しかし仙術や五行に基づいた探知法――例えば巻物の装丁の色、模様だとかに予め意味を持たせておき、易などの占いと八卦盤で方位を察知する……だとか。巻物自体に術をかけておかなくても、在り処を探知していく事は不可能ではない、と思う。そういった可能性をみんなにも説明しておく。


「――占い、ですか。そういう手段もある、ということですね」

「迂遠な分だけ時間はかかるけど、方向を探知して追いかけることは可能かも知れないかな。ベルクフリッツが所有していた時に変わったことが無かったのなら、今になってすぐに状況が動くなんてことも無いだろうけど、想定だけはしておくべきだと思う」


 グレイスの言葉に答えると、みんなも頷く。


「その場合、探知してくる相手の素性を気にしておくべきなのかも知れませんね」

「やってくるのが正当な所有者とは限らない、というわけね」


 アシュレイが言うと、ローズマリーが羽扇の向こうで眉根を寄せる。

 そうだな。問題が解決したなら元あった場所に戻すのが筋だとは思う。だが、東国での事態が悪化していた場合、探知してくるのは悪用している者の一味、かも知れない。


 まあ方位を探知するというのなら、巻物を転移魔法であちこちに運んで攪乱することも可能ではあるかな。


「ただ、地理的に考えたら先に海を渡って、東の島国の片割れを捜索してからになるのかな」

「だとするなら、一度ぐらいは現地まで情報収集に向かう必要があるのかも知れないわね」


 クラウディアが目を閉じて言う。


「ん。探りを入れに行く感じ?」

「まあ、そうなるかな。今までに分かってる情報だけで当てもなく関係者を探すのは難しいけど、あっちの国の情勢を知るだけなら難しくはないだろうし」

「となると、話の中にあった島国の方に先に渡った方が安全そうね」


 シーラに答えると、ステファニアが思案しながら言った。マルレーンがステファニアの言葉にこくこくと頷く。

 海の向こうの国の情勢について情報収集しておくだけでも状況把握がかなり進むというわけだ。


「評判の悪い王様について情報を収集すれば、そこから仙人の素性が分かったりするかも知れないものね」


 と、イルムヒルトがにっこりと笑う。そうだな。そうなれば色々手っ取り早いのだが。


「巻物に関してはテオドール公に預けた手前もある。無論の事、できることがあるなら儂も協力は惜しまぬぞ」

「ありがとうございます」


 イグナード王の言葉に頷く。とはいえ、皆と善後策について話をしたものの、それらも今すぐどうこうというものでもない。方針が纏まったところで、話も早めに切り上げて広間へと戻るのであった。




 そうして王城での歓待も終わり、タームウィルズとフォレスタニアの視察……という名目で観光に向かう。

 各国から王族も来ているが、今回初めてタームウィルズを訪問してきている氏族長達には色々広報しておく必要がある。というわけで予定通りイングウェイも合流し、ヴェルドガル王国で見聞きしたものを色々話してもらう。


「まず、食材の幅が実に広いですな。迷宮で冒険者が確保してくる資源がこの状況を作っているのでしょう。それと――境界公が作られたという調味料。これがまた香ばしくて美味なのです」

「ほほう。それはまた魅力的ですが」

「確かに……王城で饗された料理も驚きの味でしたな。醤油と味噌、でしたか」


 イングウェイの言葉に氏族長達は興味深そうに相槌を打つ。


「まあ、私は普段から迷宮に潜ってしまうので、ヴェルドガル王国の事をそこまで多く語れるわけではありませんが……住民達からは明るい印象を受けましたな。平和である証でしょう」


 ヴェルドガル王国は、諸国ともまあ上手くやっているし、タームウィルズは沢山の種族に慣れているという事実を反映したものでもある。共に、エインフェウスからの印象としては悪いものではあるまい。

 このあたりがきちんと氏族長達に伝わってくれると今後の交流においても関係が逆戻りしにくくなる、とは思う。氏族長達に実情を知ってもらうというのは、エインフェウス国内の沢山の氏族達にヴェルドガル王国の気風を周知することに他ならないからだ。


 イングウェイは他にも迷宮の事、冒険者の事の他にも、飛行船や魔道具といった魔法絡みの技術の話も思ったこと、感じたことを話していた。

 総じてイングウェイからの印象は良いようではある。

 イングウェイ自身、自分で思っていない事は口にしない性格だろうし、しがらみがない立場だからな。そういう意味では、俺からも氏族長達からも話の内容に信頼の置ける人選だったりするのだ。

 後は……氏族長達に実際のところを色々と見てもらって判断してもらうだけだな。


 タームウィルズの街並みを見て回り、フォレスタニアにも降りて、あちこちの設備を見学する。浮石のエレベーターや移動床に関しては結構受けが良かったりする。

 この後はフォレスタニアの城で暫しの間を過ごし、一般公開の時間が過ぎたら温泉や劇場にも足を運ぶことになるだろう。

 幻影劇に関しても氏族長達に実際に見てもらい、そこで受けが良ければ初代獣王の話を幻影劇にする、等という案も持ちかけてみる予定だ。初代獣王の逸話を広めることで相互理解を深めることができる、というわけだ。


 とは言え、幻影劇作りは中々の労力なので氏族長達から許可が下りてもすぐに、とはいかないが。完成したらアンゼルフ王の幻影劇と定期的に入れ替えたりしながら上映していく、というのが良いだろう。




「は、初めまして。オルディアと申します」


 フォレスタニアの居城に到着し、客室に案内したりと落ち着いたところで、オルディアをオーレリア女王やエベルバート王を初めとした各国の王に紹介する。

 イグナード王に話は通しているので、オルディア本人の意向を確認してから各国の王達に紹介しようと思っていたが、オルディアからもイグナード王同様、俺が紹介できると思った相手なら大丈夫だと思うという返答が返ってきた。


「ええ、初めまして。私はオーレリア=シュアストラスと言います」


 そう言ってオーレリア女王は、緊張している様子のオルディアに笑顔で握手を求めた。オルディアと握手を交わし、そして言う。


「話は聞かせてもらったわ。平穏の内に隣人と共に生きることを選んだ、貴女の選択はとても貴いものだと思う。元を正せば……魔人については月の民の混乱に端を発する話。私も月の民を束ねる女王として、力になりたいと考えているの。どうか、よろしくお願いしますね」

「は、はい。女王陛下」


 続いて、エベルバート王とオルディアも互いに自己紹介する。エベルバート王は微笑んで、そして言った。


「我が国の歴史は魔人との戦いから始まったような物。代々の国王は盟主ベリスティオとも、儀式を通してその魂の一端に触れておる。そのようにシルヴァトリアと魔人は因縁浅からぬのだが……それだけにそなたの生き方は驚きであり、同時に希望であるとも感じるのだ。そなたの行く道に幸多からんことを祈っておるぞ。無論、シルヴァトリアとしても協力は惜しまぬ」

「ありがとうございます……!」


 オルディアの緊張も解れてきたのか、エベルバート王の言葉に真っ直ぐに目を見て頷いていた。エベルバート王は相好を崩して穏やかに頷く。

 そうしてファリード王やレアンドル王、エルドレーネ女王やヴェラに挨拶をされるオルディア。そんな光景にイグナード王やレギーナ、フォルセトやテスディロス達もそれぞれに思うところがあるのだろう。静かにその光景を見守って微笑みを浮かべたり、目を閉じて感じ入っていたりするのであった。

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