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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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442 王城の料理長

 女官の案内で王城の厨房へと下拵えしに向かう。生活魔法で手足や衣服を消毒してから厨房に立ち入ると、視線が集まった。
 話を聞いているのか料理人達に注目されているようで。んー……。とりあえず、料理長には挨拶と礼を言っておくか。

「ええと。今日は無理を言ってしまってすみません」

 最も立派なコック帽を被っている初老の人物に話しかけると、相好を崩した。

「いえいえ。料理人の1人として新しいものを見られるのは楽しみにしておりますし、若い者達にも良い勉強になるでしょう。私共のことはお気になさらずに」

 と、穏やかな返答が返って来る。やはりメルヴィン王の人選だけあってということか。

 ……では、早速ではあるが始めるとしよう。持参してきた荷物から必要な物を取り出し、昨日行った手順で下拵えをし、それから魔法でカツ作りの最後の仕上げに移った。

 魔法で支えて揚げていくと、周囲から声が漏れる。見る間に段々と衣に色が付いていく。頃合いを見計らって密封を解除すると匂いと音が解放されて再び料理人達の「おお……」という声が聞こえた。

「なるほど……。話には聞いておりましたが、揚げ物ではありますが……油を使わないとはこのことですか。確かに……油を使い過ぎると体調如何によっては、やや重たいこともありますからな」

 と、料理長は真面目に分析している。

「ですが、油分の少ない食材ではこの方法は使えないかなと」
「ふうむ。そこは使い分けなのでしょうな。魔道具化してから私共でも研究をしてみましょう」

 とりあえずカツサンドとなると、ソースで衣のサクサクとした食感が変わるところがあるので、カツそのものを楽しんでもらうために、サンド作りの傍らで並行してもう1枚揚げておくことにしよう。

 2枚目を揚げ始めたところでパンにマスタードを塗りレタスを乗せて、更にソースを塗ったカツをパンに乗せ……ずれないようにシールドで固定して切り分ければカツサンドの完成だ。

 カツサンドを皿に盛り付け、2枚目のカツもまな板の上で切り分ける。こちらも千切りキャベツを添えて、ソースを小皿に盛って付けてやれば出来上がりである。

「出来ました」

 と言うと、料理人達は歓声と共に拍手をしてくれた。本職から称賛を受けるのは些か気恥ずかしいところがあるが……。まあ、まずは食卓に運ぶとしよう。



「お待たせしました」
「うむ。楽しみだ」

 と、メルヴィン王がにこやかに笑みを浮かべる。どうやら期待させてしまっているようだが口に合うかどうかは分からない。

 食卓に着くと銀盆から蓋が取り払われた。
 メルヴィン王はまずカツサンドから食べるようで……口に運ぶとゆっくり味わい、それから相好を崩す。

「ほう……。これは……良いな。食材も良いもののようだ」

 ふむ。やはりマンモス肉はどこでも好評だな。メルヴィン王にお墨付きを貰えれば本物だろう。

「それは何よりです」
「この新しい料理もな。衣が何とも言えぬ食感よな」

 と、カツも口にしてメルヴィン王は目を閉じて味わってから言う。

「ボーマン。どうであったかな?」

 それからメルヴィン王が料理長に尋ねると、料理長……ボーマンは穏やかに頷いた。

「いや、いい刺激と勉強になりました。お夕食には、私も新しい食材で何か考えねばなりますまいな」
「うむ。そちらも楽しみにしている。しかしこのカツサンドは良いな。執務が忙しい合間にも手軽に食事を楽しめそうだ」
「陛下、それは些か……」
「分かっておるよ。食事はしっかりととらねばな」

 メルヴィン王はボーマンに対してにやりと笑うと、それを受けて苦笑するように頷いた。何となくやり取りにも手慣れたものを感じる。
 ともあれ、医食同源という概念までは無いにせよ、先程の油の使い方に関する話といい、食事による健康管理に気を遣っている人物というわけだ。

 王城の台所を預かる人物として確かな腕と知識を持っているのだろうし、メルヴィン王からの信頼も厚いようで……。厨房を快く使わせてくれた理由も分かる気がするな。



 さて。王城を辞去して、まずは自宅へと向かった。昼食はまだだったので、昨晩の残りを温め直して頂くことにする。
 試食会で出されたものだけに、2日続けて同じメニューではあるが豪勢な昼食であると言えよう。燻製のほうも出来上がっていたので少し変化もあって、中々に満足度が高かった。

 少し遅めの昼食を堪能したところで、みんなが寛いでいる遊戯室へと向かう。
 地下水田の環境整備にフォルセト達の助力は必要不可欠だし、南方で見つけてきた他の作物についての環境整備や植え付けなども話を通しておかなければならない。
 みんなのところに顔を出して、まずは王城であったことを話して聞かせる。

「――というわけで、温泉街に温室と地下水田を作るということで、話が纏まりました」
「そうですか。私達としても、地下に植えるとなればお役に立てそうです」

 フォルセトは地下水田の話に笑みを浮かべる。

「月では資源が乏しくなっていたそうで……食料の自給は喫緊の課題だったそうです。その分作物を育成する環境を整える魔法技術は発展しておりますので……どうぞお任せ下さい」

 なるほど。砂漠の地下都市も外界から隔離されているという意味では、月と同じだろうからな。地下都市で作物を育てたのも、その地上に森を育てたのもハルバロニスの技術によるものなのだし、実績がある分信頼できるだろう。

「やっとあの子達も育てられるのね」

 フローリアも嬉しそうな様子だ。南方の作物の植え付けを楽しみにしていたらしい。マルレーンがそんなフローリアの表情ににこにこと明るい笑みを浮かべていた。

「そうですね。いつまでも魔法陣で保存というわけにはいきませんし、まずは地上部分に温室を作ってしまおうかと。地下部分の構造については後程相談させて下さい」
「分かりました」
「では、この後は儀式場周辺の下見に?」
「ああ。儀式場周りの空き地は把握しているから、もう目星も付けてるけど」

 グレイスの質問に答える。

「では、この後は温室の建造かしら」
「資材については、場所が決まれば私が転移で運べるわ」

 と、ローズマリーが言うと、クラウディアが笑みを浮かべた。なるほど。迷宮の上部だけに、転移魔法で運んでしまっても負担が少ないというわけだ。

「積み込みなどをしなくていいというのは助かりますね」
「ん。工房に顔を出したら温泉街までちょっと行ってくる。すぐに仕事にかかれそうだし」

 アシュレイの言葉に頷いて、そう答える。
 工房を覗いていくのは……温室用の魔道具の設営にはやはりアルフレッドの手を借りたいところだからだ。



 さてさて。予定通り工房に顔を出してアルフレッドに声をかけ、その足でアルフレッドと共に温泉街へと向かった。エルハーム姫も南方の植物を作付するということもあり、意見を聞きたいので、一緒に同行して貰っている。

「ああ、温泉街の模型を持ってきたんだね」

 馬車に積んできた温泉街の立体模型を見てアルフレッドが頷いた。

「うん。予定している温室を建てて、地下部分も作れるかどうか考えなきゃならないし」

 儀式場周辺はVIPが入浴に来る関係上、警備を厚くしているので、まだ開発がそれほど進んでおらず、土地が空いている場所が多い。
 今回はその場所を利用して温室を作るわけだが……空いていればどこでもいいというわけではない。元々温泉街周辺は基礎から作ったということもあり、儀式場の源泉から伸びる導水管等の位置は把握している。土地面積等々を鑑みて候補を絞り込んでいく。

「となると――ここ、かな?」

 候補地に土魔法で新たに温室の立体模型を付け加える。

「場所は良さそうだね」
「けれど、若干土地のほうが余っていますね」

 と、エルハーム姫。

「そうですね。予定していたより広い土地が使えるようになってしまいましたし。野外にも庭園を設けて、温室外で育てられる物を植えるか、或いは温室を広げるか……」

 このあたりは思案のしどころだな。まあ、予定していた温室についてはそのまま建ててしまっても問題あるまい。余っている部分に資材を転移してもらえば作業も色々捗るのではないだろうか。……うん。それでいこう。
 立体模型の地下部分も……どのぐらいの広さにできるかや、源泉からの導水管をどう引いていくか等々思案をしながら試行錯誤を重ねる。そうこうしている内に、馬車は儀式場に到着したのであった。
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