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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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441 温室と水田の行方

「――と、このようにして熱を閉じ込めて中で空気を回すことにより、食材によっては油を使わずに空気と熱だけで揚げられるというわけです」

 マンモス肉に衣をつけて1枚揚げてみせる。料理の工程に魔法を組み込むあたりが物珍しい感じではあるか。余興としても丁度いいかも知れない。

「ほほう……」
「なるほど……」

 と、大公や公爵も感心している様子であった。
 油といっても使い道が色々で、食用以外でも照明に使ったり薬にしたりと他の用途もある。なので油をふんだんに使う揚げ物料理はどうしても贅沢な使い方になってしまうところがあるが、魔道具なら道具と適した食材さえあれば良いわけだしな。

「そうなると、食材を密閉できる形が良いのかな」
「持ち歩ける大きさにすると便利かも知れませんね」

 アルフレッドとビオラは早速魔道具化した際の形状等について案を練っている様子であった。携帯可能なら冒険者達が外で火を使わずに食材を温めたりだとか調理したりだとか、手軽に色々できるかも知れない。
 とりあえず密閉型、携帯型ということを想定して後で術式を書きつけておこう。公爵は案の定というか、購入希望のようでアルフレッドに期待の眼差しを送っているし。

 試食会は食事をしながらの談笑といった和やかな雰囲気に移ってきたので、俺もテーブルに戻ってから頃合いを見て、エリオットやフォルセト達に樹氷の森のことを話しておくことにした。

「迷宮の新しい区画についてなのですが――」

 と、樹氷の森について間欠泉の罠やら出現する魔物も含めて大体のところを話をすると、エリオットとフォルセトは真剣な表情で頷く。

「空中戦装備の練度も上がって来ている今、寒冷地に慣れるというのは良いかも知れませんね」
「魔物が多いというのも、集団戦闘を想定した実戦訓練になるかも知れません。壁がないというのも、飛竜や地竜を連れて行けるでしょうし」

 エリオットにそう返すと、エリオットは静かに頷いた。

「私やシオン達も、雪や氷には不慣れですし、丁度良いかも知れません。これからタームウィルズでも雪は降るのですよね?」
「ええ。何時でも空中移動というわけにもいきませんし、雪や氷の上で行動するのに慣れておくのは無駄にはならないかと。樹氷の森で魔物と戦った印象では、討魔騎士団やフォルセトさん達なら、危険を抑えて十分に戦える場所ではないでしょうか」

 不確定要素としてガーディアンの出現も考えられるが、エリオットやフォルセト、シオン達なら対応可能な範疇だろう。
 アルファのような強力な個体もいることはいるが……クラウディアによればワーウルフ原種はガーディアンという括りの中でも、やはり強力な部類らしい。
 これは満月の迷宮が特異な位置付けであるためで、それ以外の場所に出没する可能性のあるガーディアンは、アルファに比べてしまうと数段劣るという話であるので、これにも対応は可能だろう。

 となれば、迷宮での戦闘は実力を引き上げてくれるので積極的に訓練に取り入れていくのが良いだろう。2人も異存はないようで迷宮での訓練を行うということで話は纏まった。

 そして試食会もやがて散会となった。メルヴィン王を始め、今日予定が合わずに来れなかった面々には後でマンモス肉の料理などを届けるとしよう。魔法を用いて料理できるので、その場で調理すれば揚げたてを届けられるしな。



「試食会は中々好評であったようだな」

 明くる日――。討魔騎士団の迷宮訓練絡みの相談も兼ねて王城に顔を出すと、王の塔にあるサロンに通され、そこでメルヴィン王が迎えてくれた。

「ありがとうございます。迷宮の新区画探索についても、冒険者ギルドと連携して注意喚起などを行っていくということで話は纏まっています」
「大儀であった。ジョサイアやステファニアからも色々話は聞いておるぞ。また物珍しいものを披露したそうだな」

 と、メルヴィン王は楽しそうににやりと笑う。

「今まで無かった料理だったというのもありますが……魔法で料理をするというのが斬新だったようですね。食材に関しては事前にお話した通り、持参してきました」
「うむ。それについては後で楽しませて貰うとしよう。討魔騎士団の迷宮訓練についての裁可ということであったか。まずはそちらの話を済ませてしまわんとな」

 昼食には少し早い時間。マンモスソルジャーの肉などは持参しているが、調理には少し早い頃合いだろう。メルヴィン王の言う通り、まずは諸々の話をすれば丁度良い時間帯となるか。

「はい。僕の見立てでは新区画の魔物の質と量、討魔騎士団達の実力を鑑みて、良い訓練になるのではと存じます」
「ふむ。では、それについては許可しよう。ベリオンドーラの調査のために防寒具の用意も進めていたのでな。それについての使用感も報告してもらえると丁度良い」

 防寒具か。確かに現地に行って欠点が露呈するよりは良いだろう。立地が森なので、凍った土地での野営の方法についても訓練できるかな。

「分かりました。もう一点、以前にお話していた温室と水田についてのお話ですが」
「ああ。新しい作物を作るという話であったな」
「はい。水田に関しては野外ですと季節や気候に関わって来てしまう面があるので、まずは地下に小規模な水田を作り、ハルバロニスと同様の環境を構築してみようと考えています」

 普通に作る場合来シーズンからということになってしまうし、地下ならフォルセト達の持っているノウハウも生かしやすい。実験的設備としては丁度良いだろう。
 そこで生産環境を整えてからメルヴィン王や宰相のハワードにも試食してもらい、面積当たりの収穫量などの有用性を論じて外での栽培もする、というのが道筋として望ましい。
 水田となると割と大規模な面積を必要としてしまうしな。

「となると……街中の地下では難しいか」
「そうですね。下水設備がありますので、タームウィルズの町中でとなると大規模にはできません」
「では、温室共々火精温泉の周囲に作るということで良いのではないかな。儀式場周辺にはまだ土地が空いているであろう」
「なるほど。水源の確保もしやすいと思います」

 ふむ……。これで立地も決まったか。
 火精温泉……特に儀式場の近くということなら、ドライアドであるフローリアの力も活性化されるし、ノーブルリーフ達にも温泉の水質は相性が良さそうだ。

 温泉の蒸気も温室内の温度管理に利用可能、儀式場周辺は警備もそれなり……と一石二鳥以上に至れり尽くせりで、色々と都合が良い。
 温室を作る分の資材、温度管理用の魔道具等々既に揃っているので、まずは儀式場周辺を下見してから、良さそうな場所を見繕って建築に移るとしよう。場合によっては増築も可能だろうしな。

「では、午後から早速温泉街を見て来ようかと思います」
「うむ」

 場合によってはそのまま魔法建築に移れるかな。
 さて……。メルヴィン王との間でも諸々の話は纏まったが、温泉街下見のその前に、予定通りマンモスカツの調理実演をしてしまおうか。宮廷の料理人にもマンモス肉を渡してあるので今日の夕食には食卓に上るのだろうが、やはりカツは出ないと思うので。

「厨房をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「無論だ。宮廷の料理人達も魔法を使った料理というのには興味津々なようでな。魔道具化されて王城の料理にも組み込めるのではないかとあれば尚更だろう」

 ……そんな話になっていたのか。何というか、王城の料理人というのも割合開放的というか、新しい料理開発に意欲的なんだな。
 まあ、その開放的な性格は恐らくメルヴィン王の人選だからこそ、という気がするが。

「本職の前で披露するというのも些か気後れするところもありますね」
「良いのではないかな。だからこそ意欲を刺激されるということもあろう」

 なるほど。俺が本職ではないからこそ料理人も受け入れるという面もあるのかも知れない。
 意欲の刺激ね。これで新しい料理や調味料などを王城の料理人が開発してくれると、俺としても後で楽しめるのでお互いに利のある話かもしれないな。

 さて……。カツだけでメインに食べられるものとなると、パンに挟むという形が望ましい気がする。要するにカツサンドだ。材料は全て用意してきてあるので、早速料理して食べてもらうとするか。
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