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412 公爵家の事情

『ん。それじゃあ私は、盗賊ギルドに調べてもらいに行ってくる』


 と、通信機にシーラからの返事。

 こちらの経緯をみんなに知らせると、みんなからも返事があった。通信機を向こうで見せ合っているようで、それぞれから返信があるので疑似的にチャットのような雰囲気だ。


『分かった。俺は2人と一緒に王城に行くよ』

『ラヴィーネはシーラさんに同行させますね』

『では、わたくし達は一旦家に戻ってから王城へ向かうわ』

『了解。そっちにカドケウスを向かわせる。後で王城で合流ということで』


 シーラは俺の作った襲撃の実行犯の胸像を盗賊ギルドに持っていって、情報を集めてもらう。ローズマリーも王城に来て、そちらで話をするということで話は纏まった。

 こちらはこちらで駆けつけてきた兵士達に梱包した実行犯を引き渡して搬送してから、オスカーとヴァネッサの馬車に乗って、王城へ向かおうというところである。


「もう大丈夫なのですか?」


 通信を終えてから馬車の前に向かうと公爵家の執事であるクラークが尋ねてくる。


「失礼しました。少しやっておくことがあったので。お待たせしてしまったようで申し訳ありません」

「いえ。私共も兵士の皆さんに状況を説明をする必要がありましたので」


 クラークは言うと、一歩下がって馬車の扉を開き、乗り込むように促してくる。


「失礼します」


 そう言って、馬車に乗り込む。公爵家の馬車だけあって内装も上等な仕立てだ。

 オスカーとヴァネッサの向かいの席に座り、クラークも乗り込んでくる。扉が閉まって馬車が動き出した。護衛達は御者の隣である。


「面白い魔法生物ですね」


 ヴァネッサは俺の肩に乗ったバロールに興味を示している。一仕事終えたバロールは……何と言うか半眼で羽を畳んでいて、少し眠たげな印象に見えるな。


「バロールと言います。慣れると意外と愛嬌があるかなと」

「分かる気がします。先程助けていただきましたし、頼りがいがありますね」


 と、オスカーが笑みを浮かべた。

 ……ふむ。2人揃って意外にキャパシティが広いというか。公爵は好奇心旺盛で新しい物好きだと聞いていたが、その影響があるのかも知れない。海洋に領地を構えているわけで、交易で色々と珍しい物を見慣れているだろうしな。


「お2人はやはり、公爵とタームウィルズへ?」

「ええ。父はデボニス大公との面会が終わるまでは観光はしない、と」

「私達も家に残るつもりだったのですが子供が自分に付き合う必要はないから、観光の下見をしてきてくれと言われてしまいまして……。お忍びで動くことになるので、円滑に行くようにとタームウィルズに向かう前から下見の予定を組んでですね」

「……なるほど」


 自分に付き合う必要はないから遊びに行ってきて構わないというわけだ。下見云々というのは単に遊びに行ってこいというよりは、大義名分としてオスカーとヴァネッサも受け入れやすいからだろう。


「西区に出かけることを知っている家人は?」

「それなりに知っています。造船所を見ることのできる場所を探してほしいと、タームウィルズに書状を出しましたから。提案したのも僕自身です」


 オスカーは少し眉を顰める。


「では、そちらから情報がどう拡散したかを追うのは難しいかも知れませんね」

「かも知れません。正直なところ、あまり警戒していなかったので」


 ヴァネッサも残念そうな面持ちだ。護衛を付けるあたりは通常の範囲内での防犯意識も持っていたのだろうが、いくら西区とは言え昼間から街中であの規模での襲撃を受けるとまでは予想していなかったのだろう。

 襲撃犯には2人と面識のない者達を使ったようだが……これはカマかけに引っかかったところから見るに西方出身の者達で間違いはあるまい。 

 だが……街中に潜伏していたとすれば、これはどこかで目撃されているはずだ。そうなってくると、盗賊ギルドの領分だな。後は、シーラ経由での情報にも期待したいところである。


 2人と話をしていると、馬車も王城に到着した。

 迎賓館前で馬車から降りると、メルヴィン王とジョサイア王子が姿を現す。ミルドレッドも一緒だ。騎士団にも通信機で連絡を入れたからな。公爵家への襲撃となると大事だから、仕事を切り上げてきたのだろう。


「久しいな、2人とも」

「無事で何よりだ」


 と、メルヴィン王とジョサイア王子。


「これはメルヴィン陛下、ジョサイア殿下。勿体ないお言葉です」

「ご無沙汰しております、陛下」


 メルヴィン王に2人は丁寧な挨拶をする。


「そしてテオドールよ。よく2人を守ってくれた」

「本当にね。今の時期にそんな事件が起こっていたら、真偽がどうであれ和解の話も潰れていてもおかしくはない。テオドール君に助けられたよ」


 ジョサイア王子は不快そうに眉を顰めたが、俺に笑みを向けて礼を言ってくる。


「ありがとうございます。仲間が違和感に気付いてくれたお陰ではありますが」


 そのあたり、シーラが最初に違和感に気付いたからでもある。魔法審問について話を通す時に、このこともメルヴィン王に伝えておくことにしよう。


「うむ……。時期を考えれば大殊勲であるな。だが犯人を捕らえて、事件が解決したというわけではない。まずは詳しい話を聞かせてもらうとしよう」


 と、メルヴィン王は身を翻して迎賓館の中へと向かう。ジョサイア王子もそれに続いた。クラークは……馬車で待つ、ということらしかった。




「――というわけで……何卒僕達の潔白を証明し、事件の捜査を円滑に進めるためにも魔法審問をお願いしたいのです」


 事情を説明し終えると、メルヴィン王は目を閉じた。


「……そなたらの気持ちはよく分かった。だが、審問官をここに呼ぶというのも、どうしても人目に付いてしまう」


 迎賓館に着いた直後に審問官のデレクがここに来るというのは……噂話や誤解を招いてしまうところもあるか。

 公爵家の子息2人が襲撃事件の後に魔法審問を受けたなどと噂が立つのは、狂言やお家騒動などの可能性を仄めかすもので色々と外聞が悪いというわけだ。だからと言って、こういう理由で魔法審問をしたのだ、などと事情を触れ回るわけにもいかないしな。


「故に、下手人を捕えている場所に変装したそなたらが赴き、目撃者という形で犯人の面通しや尋問に協力した、という体裁を整えるというのが良いのではないかと思う。その場所であれば元々審問官の領分であるしな。審問は無礼のないよう、そしてできるだけ短い時間で済むよう、十分配慮をさせるとしよう」

「ありがとうございます」


 当人が確信を突く質問に対して協力的に答えてくれるなら、魔法審問もあまり時間はかからないというわけだ。


「ミルドレッド。2人を頼む。事情をデレクに説明してやってほしい」

「はっ。オスカー様、ヴァネッサ様、どうぞこちらへ」

「よろしくお願いします」


 と、オスカーとヴァネッサはミルドレッドに護衛される形で部屋を出ていった。

 2人の王城内の移動には、例の変装指輪の魔道具を活用するというわけだ。色々と気を使っているな。


「どうやらみんなも到着したようですね」

「では、こちらに揃ったところで話を進めていくとしよう」


 そして、部屋を出ていった2人と入れ替わるように、迎賓館の前に馬車が到着し、パーティーメンバーのみんなが馬車から降りてきた。フォルセトとシオン達は一先ず家に帰ったようだ。女官達に案内されて、すぐに俺達のいる部屋にみんながやってくる。


「やあ、君達も久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

「これはジョサイア殿下」


 メルヴィン王とジョサイア王子にみんなが挨拶する。


「テオドール様、お怪我はありませんか?」

「んー。まあ、この通り」


 アシュレイの問いに笑みを浮かべて答える。


「ご無事で何よりです」


 俺の答えを受けて、グレイスが穏やかな表情で目を細め、マルレーンがにこにこと屈託のない笑みを向けてきた。ローズマリーとクラウディアはそこまでストレートには表情に出さないが、クラウディアに関しては僅かに微笑んでいるか。

 みんながソファに座り、お茶が淹れられたところで話の続きとなった。


「さて……。和解の阻止か、それとも跡目争いの偽装が目的かといったところか。捕えた連中から得られる情報にもよるが……恐らく実行犯の持つ情報だけで黒幕を断定するというのは早計であろうな」


 メルヴィン王が言っているのは後者の可能性を考えた場合の話だな。


「僕達も連中の尋問には協力する用意がありますが……そうですね。跡目争いが目的で大義名分を後ろから煽っているだけと仮定するなら、末端は黒幕の意図を知らない可能性は高いと思います」

「両方に警戒をしながら情報を集めるという形になるだろうね」

「怪しい人物、というのは居るのですか?」

「……対立の急先鋒と言えば、大公家と公爵家の領地の境にある金山の利権が有名なところね」


 ローズマリーが羽扇で口元を隠しながら目を閉じて言った。

 金山の利権。ヴェルドガルの歴史の話になるので今の代の出来事ではないのだが……どちらの領地とも呼べない微妙な位置に金山が見つかって、その当時に、大公家と公爵家の陪臣の間で諍いが起きたという出来事があったそうだ。

 小競り合いが起き、騒ぎが大きくなる前に王家が介入して協定を結んだ、という話であった。


 王家の介入もかなり迅速だったという話だが、大貴族同士だけに単なる貴族同士の小競り合い扱いでは済まないからか。それ以来金山絡みで騒ぎが起きたという話も無かったように思う。それは王家の力が強いからこそだろうが。

 それとも、両家の血縁を王家の嫁として迎えたり3家が均衡を保つように動くというのも、それが尾を引いていたりするのだろうか。


「対立の最初の原因は確かにそれだね。今となっては両家が利益を二分する形で落ち着いてはいるが」

「王家が産出量などを監視し報告することで、公平になるようにしているというわけだ。それをひっくり返そうとすれば、王家ともう一家を敵に回すことになる」


 公平にか。まあ、両家としても国を割っての内戦を起こすのは本意ではないだろうし、ヴェルドガル王家の影響力や国守りの儀などの事情を考えると、確かにな。


「そう。王家と当主同士では話はついているわ。けれど両家の陪臣同士ではどうかしらね。特に、金山近辺を収める領主達同士では」

「それが和解反対派の急先鋒と?」

「大公や公爵とも話をしたがそれなりに長い歴史があるのだし、表に出すまでもない有形無形の嫌がらせや、互いの陣営への悪印象というのはあったようだよ。この場合、権利云々より、確執と言うべきだろうけれど。まあ、今の代は比較的落ち着いているほうだね」


 ジョサイア王子は目を閉じて小さくかぶりを振る。

 当主もそうだし、陪臣達もそう。祖父や父の代の不仲のせいで直接的な怨恨がなくても立場上、相手を良く言えないだとか、距離を取ってしまったりだとかいう部分はあっただろう。


「オスカーとヴァネッサはそういった確執からはやや距離を置いているね。あの2人はかなり聡明だ」


 だからこそ、和解反対派の標的にされてしまう理由もあるのだろうが。相手陣営に罪を擦り付けることでオスカー達の考えを変えさせることも狙えるわけだし。


「まあ、わたくし達が把握していない事情があるかも知れないから、実行犯の話はしっかりと聞くべきね」


 今まで得た情報を基に、実行犯達から情報を引き出していくことで推測の裏付けを取っていくというわけだ。


「だが、そういった諸々の事情や歴史的背景を踏まえたうえでも、感情だけで己の主人の息子に狂言誘拐を仕掛け、家人を傷付けるという手口は些かやり過ぎているように思える。しかし……唆すならば口実にはなるかも知れん。相手方の領主に罪を押し付け、大公家の力を殺いで公爵家の利権を増大させる、などとな」

「では跡目争いのほうがしっくり来ると」

「現時点では余はそう見ている」

「わたくしもその線だと思うわ」

「父上とマリーに同じく」


 3人とも同意見か。

 ……跡目争いということは、本命は後嗣となる人物を暗殺するのが目的ということになる。

 和解反対ならこれで終わりだが、暗殺が目的なら仕込みが終わったところで、これからが本番だ。オスカーとヴァネッサの身辺警護の必要があるだろう。


「では、跡目争いにおいて怪しい人物というのは?」


 こちらは言うまでもなく、それなりに家督に近い位置にいる人物ということになる。何人も暗殺していたら目に付くし。だからこそ偽装工作をしているのかも知れないが。


「まず、最初に目につく人物が1人いるわね。公爵の弟よ」

「継承権では当主の実子に次ぐ人物だな」


 つまり、オスカー達にとっては叔父にあたるか。

 だが、継承権争いでの暗殺が目的ならその人物が標的になることも有り得る。色々な面から要注意、要監視といったところか。

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