挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

428/1320

413 暗躍の痕跡

「その、叔父というのは、どういった人物なのですか?」
「ヴェルドガル南西部の海沿いの土地を治める領主だな。名をレスリーと言う」
「今はタームウィルズの中央区にある邸宅に滞在中だね。旅行が趣味らしく、領地経営は任せてあちこちに出かけたりと……あまりじっとしているということがない人物だ。公爵家と大公家との和解に関しては賛成の立場を取っているそうだ」

 ……南西部の海岸線に領地を構えて旅行が趣味か。人員を引っ張ってくること、準備を進めることは可能だな。和解に対して賛成、というスタンスは襲撃がカモフラージュであることを考慮すれば容疑者から外す理由にもならない。

「レスリーに関しては……兄弟仲が不仲であるとは聞いたことがないな。もっとも、公爵家の家人1人1人について、そこまで深く人となりを知っているわけではない。特に、レスリーはそれほど目立った功績や瑕疵があるわけではないから余り噂が聞こえてこないのだ」
「オスカーとヴァネッサの潔白が証明されれば、もっと詳しい話が聞けるかも知れないね」

 と、ジョサイア王子はどこか遠いところを見るような表情をした。ロイのことを思い出したのかも知れない。まあ、確かに親交があるわけでもないのに内心まで窺い知れるはずもないか。相手が野心を秘めて演技していたならば尚更だ。
 オスカーとヴァネッサが詳しくは語らなかったのは、仮に心当たりがあったとしても自身の潔白が証明されなければ讒言になりかねないからということかも知れない。

「公爵の御子息の潔白が証明されたならば、2人の護衛が必要になってくるかと思います。叔父のレスリー卿を含めて、命を狙われる危険がありますから」
「だろうね。しかし、仮に跡目争いが本当の動機であるなら、外への備えは見せても内への備えは見せるべきではないというわけだ」

 俺の言葉にジョサイア王子が頷く。
 仮に後継者争い狙いで動くとするならば、偽の理由がある今の時期に犯行を行う必要があり、和解が成立してからではまた別の手立てを考える必要が出てくる。

 だがあまり大人数で内部犯への警戒度を高めていると、公爵家の内部に黒幕がいた場合は警戒されて逃げられてしまう。潜伏は後顧に憂いを残すので、好ましくはない。
 犯人達が捕えられたことで事件が明るみに出るのは避けられない。だから警備が厚くなるのは当然の流れだ。だが、それはあくまでも和解反対派に対してのみ備えをしていると見せかけるのが重要になってくる。
 となると、打てる手は――。

「変装して潜入し、内部の警戒と護衛を行うというのは? 対魔人を控えている今の状況で、国内情勢をかき乱されるのは好ましくありません」

 そう言うと、思案していたメルヴィン王が顔を上げて俺を見てくる。また変装の指輪を使って、公爵家別邸内部に潜入という手を取るわけだ。
 デボニス大公とドリスコル公爵の陣営が対立を深めた場合、王家はそちらにも激突が起こらないようにリソースを割かなければならないわけで。ここで両陣営トップ同士の和解を成立させるのはかなり重要なことだ。

「……すまぬな。そなたにまた頼んでも良いだろうか。だがその場合、大公と公爵本人には、そなたが潜入していることを詳らかにすることになる」

 そうだな。王家の立ち位置的に、そこを2人に伏せるわけにはいかないだろうし。

「では、お任せ下さい」
「……私からもお願いする。協力できることがあったら、何でも言って欲しい」

 と言って、ジョサイア王子が頭を下げてくる。
 ……そうだな。両家の橋渡しにあちこち出かけたし気苦労もあっただろうから、ここに来て横槍を入れられるというのはジョサイア王子にしてみるとたまったものではないだろう。
 表向きは冷静だが、内心ではかなり怒っている可能性はある。

「分かりました。僕もお2人の和解には成功して欲しいですから」

 心配そうな表情を浮かべているマルレーンを見ると、ジョサイア王子は柔らかい笑みを浮かべて頷く。

「うん。そうだね。確かにそうだ」
「しかしそうなると、外で待っている公爵家の執事に関しても協力をしてもらう必要があるか」
「クラーク氏でしたら、信用のおける人物かと存じます。公爵の御子息2人を身を盾に守ろうとした点、彼らの手勢がクラーク氏を矢で狙った点などから、内通者である可能性は極めて低いのではないかと。協力をと言った場合、彼も魔法審問で潔白をと言い出しそうなところはありますね」
「なるほどな……。早速、話を持ち掛けてみるとしよう」

 さて。これからの方針が決まったところで……ローズマリーを見やると、彼女は分かっているとばかりに頷いた。

「では、諸々の方針が決まったところで……わたくしも少しばかり、取り調べに協力をさせていただきたく存じます」

 ローズマリーがそう言うと、メルヴィン王は僅かに目を見開き、それから俺達が何をするつもりなのかを察して笑うのであった。



「おお、ディエゴ」
「生きてたか。お前だけ姿が見えないから心配してたんだ」

 兵士達が牢の中に運んできた全身包帯と添え木で固められた男に、実行犯達が声を掛ける。

「あ、ああ。何とか、な。全く、酷い目にあった……」

 と、男は粗末な寝床に身体を横たえると、痛みを堪えているような、苦しそうな声で答えた。
 ディエゴは屋根に登って矢を射掛けていた射手である。氷の散弾を浴びせかけられて怪我をし、牢に入れられる前に別の場所で手当てをされている、というところまでは事実だ。
 実際に手当された姿で牢に戻されたのは、姿を写し取ったアンブラムである。包帯でぐるぐる巻きなのは、発音や仕草などの違和感を誤魔化す理由作り。そしてカドケウスも地下牢の天井付近の暗がりで待機中、というわけだ。

「あの魔術師……。とんでもない動きをしてやがったからな」
「ディエゴはまともに魔法を浴びせられてたから、死んじまったんじゃねえかって話をしてたんだ」
「いや、他の場所で手当を受けてたんだ。ところで……俺だけ姿が見えなかったってのは? 今も人数が足りてないようだが……」
「ああ。パブロは魔法審問で連れて行かれてるよ」
「魔法審問か……。普通なら口裏を合わせられないように、全員バラバラに牢に入れるんだろうがな……」

 と、ディエゴの姿をしたアンブラムは眉根を寄せる。

「……なるほど。口裏を合わせても無駄ってわけかよ」
「もしかすると……洗いざらい自分から話したほうが、恩情をかけてもらえるかも知れないな」

 アンブラムが言うと、男達は眉根を寄せて俯く。しばらく沈黙が続いたが……その沈黙を次に破ったのも、またアンブラムだ。

「……だってよ。俺達を、外から助けてくれると思うか?」

 アンブラムが痛みに顔を歪ませながら声のトーンを牢番に聞こえないように落としてそう言う。
 これもローズマリーの揺さぶりだな。魔法審問に対しては隠し事はできない。正直に話せば恩情があるかも。助けは望めないかも知れない、というわけだ。

「カーティスさんは……王国のかなり上のほうにも影響力を持ってるみたいだが……こうやって全員捕まっちまったら、どうしようもねえさ。前の時とは違う。事が事だけに今度は庇ってもらえるとは思えねえな。色々世話してもらったから、今回も期待したいってのは分かるがよ……」
「……話を聞いた時は美味しいと思ったんだがな」
「そうだな。いけすかない大公家の連中に一泡吹かせて、それが公爵様のためになるわけだしな。前金もたっぷりと弾んでくれたし」
「書状には今回の件が上手く行けば取り立ててくれるって話も書いてあったしな。ただの水兵で終えるよりは役人にって思ったんだがな……」

 ……なるほど。連中、西部の水兵上がりか。マストに登ったりする技術があれば屋根の上に軽々登るだとか手際良く行動するのは朝飯前だろう。

「――ここまでの話を総合すると……連中は何か問題を起こして、カーティスと名乗る男に助けられたわけだ」

 掻い摘んでみんなにも連中の会話の内容を説明する。

「例えば……罪に問われるところを無罪放免にしてもらうだとか?」
「多分ね」

 俺の言葉に、クラウディアが不快そうに眉を顰める。
 成功すれば取り立ててくれる、などと言っているところを見るに、その口約束を信用させるに足る強権を行使してみせたのだろう。
 カーティスが助ける相手としては誰でも良いというわけではない。大公家に対して悪い印象を持っている者が望ましい。では……大公家やその陪臣と、揉め事を起こした者達に目を付けて、助けた上で声を掛けた……とか?

 その後も何かに付けて世話をしたり、大公家についてあることないことを吹き込んだりして、自分の手駒となるように懐柔する、と……こんなところか。

 和解の話は最近になって持ち上がったものだが……黒幕の動機が大公家に確執を持っているからであっても、邪魔な後継者を消したいと思っているからでも、この方法で手駒を準備しておくことはできるだろう。
 前者であれば考えを同じくする同志を得られるからだし、後者ならば大公家に罪を被せる偽装をしながら今回のような騒動を演出して暗殺を狙える。和解の話はただ、手駒を使う切っ掛けになったに過ぎない。

 カーティスね。何者かは分からないが強権を駆使できる人物というのははっきりした。公爵家に連なる人物ならば、確かにそれも可能だろう。
 実行犯に指示を出すにしても、失敗時に魔法審問が行われる以上は自分に繋がる証拠を極力少なくしている、と予想される。
 だが……手紙と言ったな。まずは連中のタームウィルズにある潜伏先を見つけて、証拠に成り得る品がないかを探るのが良さそうだ。オスカーの立てた観光の計画を襲撃に反映させるためには、かなり最近になって実行犯に連絡を取っているはずだ。その指示書などが残っている可能性は十分にある。
 と、その時、通信機に連絡が入った。シーラからだ。

『目撃情報有り。連中、西区の路地をうろついていたのが目撃されてる。今、盗賊ギルドの情報屋と構成員に情報提供を呼び掛けてもらっている最中』

 西区の路地……つまり逃走経路の下見だな。西区と言えば盗賊ギルドのホームグラウンドだ。そこを余所者がうろちょろしていればさぞかし目立つだろう。
 ……どうやら、案外早くアジトも見つかりそうじゃないか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ