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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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39 王城への誘い

「でも、それを差し引いても迷宮に出てくる魔物は、集落のみんなとは全然違うのよね」
「というと?」
「みんなはそれぞれ性格が違った気がするし、個々で好き好きもあったのよ。迷宮の魔物ってなんていうか……私の記憶にあるみんなと照らし合わせると、そういう所が無くて。その癖戦いになると妙に頭が回るのよね」

 うーん。そもそも「湧いてくる」ではなく、迷宮で生まれてきた。みんなで暮らしていたと、イルムヒルトは確かにそう言ったが。

「よく解らないんですが。ご両親がいたんですか?」
「ええ」

 当たり前のように頷き、懐かしそうにイルムヒルトは笑う。

「村には規則があってね。外に出てはいけないとか。誰も入れてはならない、とか」

 確かに――俺の知る限り、人間に友好的な種の魔物だとか、人間に友好的な挙動をする魔物というのには迷宮内部でお目にかかった事は無い。
 支配をするにしても、それなりに自由意志を残した上で生活させているわけか。
 うーん。イメージ的には隔離か保護……だろうか? じゃあ誰が? 何の為に?

「規則というのは、誰が決めたんです?」
「んー。あんまり疑問に思わなかったなぁ。そう言えば誰なのかしらね? 不思議ねぇ」

 イルムヒルトは頬に手を当てて首を傾げた。

「えーと……」
「イルムヒルトはこういう子」

 と、シーラが言う。
 ……支配を受けていなくてもこれというのは……彼女が暢気なだけなのかも知れない。

「まあ、いずれにしても、浅い階層にはその集落は無い、と思いますよ?」
「そうなの?」
「迷宮について僕の調べた限りでは魔物の集落層は耳にした事がありませんし。集落の状況や目的を考えてみても、誰かを侵入させたくないし、住人を外にも出したくない、と言うように見えますので」
「んー……それじゃあ、今のままで探すのは無理かしらねぇ」

 イルムヒルトが、ほう、とため息をついた。
 と、その時ノックの音が響いた。顔を出したのはヘザーだ。

「どうしたんです?」
「テオドールさんに会いたいと仰る方が来ているのですが」
「解りました。すぐそちらに伺います」
「え? あ、いや。ちょっ……と、待ってください」

 ヘザーにそう答えたのだが、彼女は振り返って誰かを押し留めようとした。

「申し訳ありません。先程も言いましたがロビーでお待ちください。お見舞いの最中ですので」
「いや、僕は構わないよ。急ぎの用なんだ」
「ちょっと待ってください。チェスターさん」
「大丈夫さ」

 などと押し問答している。
 いや……あんまり大丈夫じゃないけどな。
 シーラに目をやると不快そうに眉を顰めていた。そりゃそうだ。彼女は俺とイルムヒルトが会うにしてもかなり慎重だったからな。

 都市部では――特にここ、タームウィルズではエルフやドワーフを始めとする異種族に比較的寛容だ。そういう下地があるからこそ友好的で無害な魔物ならば受け入れるという素地に繋がってくる。冒険者ギルドが魔物の実態に詳しいというのもあるし。

 だがそれは寛容だというだけだ。差別や迫害が無いとは言わない。

 グレイスも似たような事情を抱えている。呪具を身に着けていれば吸血衝動が無いから実害が出ないし、見た目では解らないからそう言った物と無縁でいられるが。そうでなければ――混血であっても吸血鬼と同じ扱いを受けるだろう。だからシーラが心配する気持ちは解らなくもないのだ。

 とりあえず、相手が解らないなら慎重にというのは正しいだろう。俺から出て行って部屋には立ち入らせない方向で。
 ヘザーの脇から顔を覗かせると、茶髪の男と視線が合う。紋章入りのサーコートを羽織り、帯剣した男だ。
 身なりからすると――騎士団の所属だな。年齢20そこそこ。一見爽やかそうな笑みを浮かべているが、現状俺の印象はあまり良くない。故意なのか天然なのかはまだ判断が付きかねるが。

「やあ、君が噂の魔術師君か」
「テオドール=ガートナーです」
「僕はチェスター=グレンベルと言うんだ。王城で開かれる夜会の招待状を持ってきたんだがね。いや、昨日は家に行ったのだが留守だったようで空振りに終わってしまったようでね。色々探し回っていたら迷宮に潜っているという話を聞きつけたものでね」
「そうでしたか」
「まあ、こっちとしては間に合ったから良いさ。5日後だ。王城で催し物が開かれるのだが、そこで先立って魔人を倒した君にも出席して欲しいという話になってね。急遽君への招待状が手配されたというわけだよ」
「催し物、とは?」
「大したものではないよ。陛下も御臨席なさる予定だけどね」

 ……5日後とか。全然急ぎじゃないような。王城からの呼び出しというよりは、サプライズゲストとして噂の人物を呼んでみましたという感じだ。
 しかし、何だって騎士が招待状なんか持ってくるんだか。
 まあ聞かないけど。下手に突っ込んでここで話し込まれても困るし。
 王城の魔術師隊と騎士団は仲が良くないし、どうせロクな背景じゃないだろう。

「解りました。ならば顔を出さないというわけには行きませんね」
「うん。それじゃあ、確かに渡したよ?」

 チェスターは割とあっさり引き下がって帰って行った。何だったのやら。

「すみません、テオドールさん。ロビーで待っていただくように言ったのですが」

 ヘザーが頭を下げてくる。

「いや、勝手に入って来たんじゃどうしようもないでしょう。それより、彼は何なんです?」
「騎士団で最近名を上げている人物です。相当な技量を持っていると噂されてますが。ええっと。5日後の催し物、と言っていましたね。多分、騎士団主催の晩餐会でしょう。今年は陛下も御臨席なさると言う事で盛大に行われる予定……だったのですが。魔人騒動があったのに予定通りなんですかね?」

 騎士が来たのは騎士団主催だから、か。まあ、解りやすい理由だが。

「ええと。このタイミングで俺にと言う事は……魔人に勝った事を祝う席にしようというわけですかね」
「あー、それはありそうですね……」

 俺の言葉に、ヘザーは微妙に眉を顰めた。
 兵士達が何人か亡くなっているが、それで自粛すると今までの準備が無駄になってしまう。
 王城で行われ、しかも王が顔を出すともなれば……まあそう簡単に中止とはしたくはないだろう。
 だから、俺を呼ぶ事で祝勝会だとか、勇敢な兵を慰霊する為の席という趣旨に軌道修正した、という所か。
 そうなると俺の出席が必要になるわけだ。招待状なんて言っているが、必要不可欠なパーツになってしまっていて、どうしても出席してもらいたかったのだろう。だから晩餐会と言わずに催し物なんて微妙な呼称になったわけだ。

 開催を確定的な物にしたいから、俺に1日でも早く招待状を渡して承諾を取り付けたかったのだろうし、名の売れている騎士を使いに出す事で俺を重視しているとアピールしたかったとか、俺が断れないような空気を作ろうとしたのかも知れない。一見の人当たりは好青年風だったし。
 俺があっさり承諾したからすぐ引き下がったわけだが、難色を示したら食い下がって来たかもしれない。

 ……いやまあ、人選は完全に間違っているけど。
 チェスターの人柄はよく解らないが、天然なら武芸以外はからっきしで使者に向いていないし、わざとやったのなら上からの使いっぱしりにされた事に、内心不満たらたらだったと推測出来るからだ。

「出席なさるんですか?」
「まあ、招待状は受け取ってしまいましたしね」

 俺としては、魔人を倒した時点で遅かれ早かれこういう話もあるだろうとは思っていたので。
 まだ当分の間は迷宮に潜りたいし、俺が不在の所で勝手に俺の身の置き方を決められても困るので。
 避けられないのなら出席して、自分の立場と考えを表明する事で偉いさんと上手い事話がつけられれば言う事は無い。
 後、リネットから得た情報の事がどうなっているのか、多少探りは入れておきたいし。
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