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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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31 救出

 シーラからの情報によるとスネークバイトが捕まってから程無くして、冒険者ギルドの働きかけで湾港近くにある建物に立ち入り調査が行われたが、残念ながらそちらは空振りに終わったそうだ。
 スネークバイトから連絡が途絶えたから、か。魔法審問で情報が漏れる事を危惧して、拠点側の犯人が逃げ出したと言う事だろう。

 だがシーラはスネークバイトが出入りしていた場所以外にも、カーディフ伯爵家の家人が出入りしている怪しい拠点を、他にも掴んでいるそうだ。
 となれば冒険者ギルドへ行く前に、まずそちらを下見してからだ。俺の方から冒険者ギルドに協力するにしたってある程度の情報を共有していないと話にならない。
 シーラの案内で向かった先は南区にある高い塀に囲まれた建物だ。少し離れた通りから様子を窺う。

「あの建物ですか」
「そう。だけど、入口に見張りがついていて中々侵入できない」
「その見張りを監視すれば……カーディフ伯爵家に繋がりがあるという証拠を押さえられるのでは?」
「私が監視していた限りでは、見張り連中はあの建物内部で生活していて、人員の交代がない。カーディフ伯爵家の家人もそれ以降現れていない。生活物資の運び込みもしていないみたいだし……」

 なるほどな。……黒転界石の事もそうだが、召喚術士かそれに類する技術や知識を持つ相手が敵方にいるのだろう。それもかなりの腕のようだ。今まで黒転界石の存在を冒険者ギルドが把握していなかった事を考えても。

 湾港の拠点から逃げ出すにしたって、転送魔法を駆使すれば街中を人目に付かずに移動出来るし、物資の運び込みや人員の交代だって建物の内部で出来る。
 普段からそこまで徹底しているとも思えないが……スネークバイトが捕まった事で警戒度が相当上がっているのだろう。

「まあ、解りました」

 俺の影から離れたカドケウスが路地を滑って塀を登り……敷地内に入って行った。視界はリンクさせたままだ。感覚同調の維持には少々魔力を消耗するが必要な事なので。

「今……?」
「何かありましたか?」
「……いいえ」

 シーラが怪訝そうな顔をした。
 ……随分と感覚が鋭いな。カドケウスを動かしたので何か気配を察知したらしい。
 俺は俺で彼女を信用していいのか解らない以上は手札を伏せておきたいからカドケウスの存在に関しては伏せさせてもらうが。
 とりあえずあの建物はこのまま潜入調査させるとして。
 冒険者ギルドに話を通しに行こう。必要ならロゼッタにも話をしてそちらのルートからアルバート王子に手を回してもらうという方法もあるだろうし。

 立ち去る際、シーラは何度か振り返っていた。随分後ろ髪を引かれているようだ。
 まあ、な。あの建物に友人が捕まっているかも知れないわけだし。
 一度空振りに終わっているとなると、今から冒険者ギルドに話を通しても、すぐに動けるかどうか解らないし、転送魔法を使われるとまた逃げられる可能性がある。
 魔法審問がある以上、上に直接繋がる情報は実行犯には与えないだとか、拠点を複数持つ、ぐらいの予防策は講じていたのだろうし、次の拠点がないとは言い切れない。



「スネークバイトの一件はどうなりましたか?」

 冒険者ギルドへ向かい、受付嬢のヘザーに対する挨拶もそこそこにそう切り出す。シーラは同行せずに待つそうだ。

「……そういう話には、余り関わり合いにならない方が良いのでは?」
「まあ、心配してくれるのは解りますし、有り難いんですけどね」

 子供の冒険者に同業者狩りの連中の話なんかしたくはないだろうしな。

「スネークバイトの仲間が出入りしていたという建物について情報を手に入れまして。黙っているのも不義理でしょうし」
「……本当ですか?」
「ええ」

 カーディフ伯爵家の事はとりあえず伏せておこう。俺とカーディフ伯爵家が揉めている事が伝わっていても不思議はないし、そんな俺から話をして他意があると思われても困るからな。

「解りました。ここでは流石に拙いので奥でお話をお伺いします」

 依頼書の張り紙を眺める振りをしながらこちらの様子を窺っているシーラに視線を送り、ギルドの奥の部屋に向かう。

「私ではなくもっと上の方を呼んできますので、お話はそちらに」
「解りました」

 ヘザーの上役を待つ間、椅子に腰かけてカドケウスのリンクと指示に専念する。
 察知されると逃げられてしまうと言うのなら、他に方法も対抗策もあるわけで。
 しばらく「向こう側」に意識を集中していると、扉をノックする音と共にヘザーと、白髪、白髭の老人が入って来た。

「オズワルド様、彼がテオドール=ガートナーです。テオドール君、この方は副長オズワルド=コッパード様です」

 オズワルド=コッパード。また随分と大物が出て来たものだ。
 BFOにも登場していたNPCの一人だし、書物に登場する程度に現実でも有名だ。タームウィルズ冒険者ギルドの副長で、現役の頃は剣聖の異名で呼ばれていた人物である。

「初めまして。テオドール=ガートナーと申します」
「ふむ。俺はオズワルドという。まあ、楽にしてくれ」

 オズワルドと差し向かいで座る。
 ヘザーはかなり緊張しているようだが。

「スネークバイトの一件で情報があると聞いたが」
「ええ。僕はあの一件にあまり関わらないようにと思っていましたが。スネークバイトから得られた情報での捜査が空振りに終わったようですので。ただ情報を話すその前に、聞きたい事があります」
「何かね」
「赤転界石を買い付けている連中がいるのでは? その線から捜査はしましたか?」

 黒転界石は赤転界石からの加工品だろうし、それを用いて営利誘拐をしよう、利益を得ようという話になるのなら、赤転界石を集めなくてはならない。つまり冒険者ギルドからそれを買い付けている連中がいるはずだ。
 俺の言いたい事を察して、オズワルドは目を閉じて頷いた。

「しておるよ。複数の冒険者グループに赤転界石の買い付けを依頼していた人物がおったようだが……スネークバイトの事で捜査が空振りに終わって以降、警戒されたのか行方をくらましておるな」

 ……なるほどね。流石にカーディフ伯爵家も直接買い付けには来ない、か。指示をしていた奴はある程度事情を知っているだろう。カーディフ伯爵家に直接繋がっているかも知れない。

「では、僕からの情報を。建物の場所は南区で――」

 建物の所在を伝える。オズワルドは唇の端を吊り上げて訊いてくる。

「俺からも聞く事がある。その情報はどうやって、誰から得たものだ?」

 まあ、経緯を話していないからな。判断のしようがないだろうが。

「それはお答えできません」
「ほう。何故だ?」
「情報提供者を保護する為です。氏素性はそれで察してください。彼は今回の一件の、被害者の友人です」
「……盗賊ギルドか?」
「話せません。ですが冒険者ギルドとの約束があったから彼には情報を渡さず、彼から得た情報をこちらに持ち込むという形を取ったわけです。である以上、彼の素性を明かさないのもギルドとの口止めの約束を守るのと同じく、僕が守るべき一線だと思っています」

 俺の役割としては橋渡しをしてやる事ぐらいのものだ。

「……随分と弁が立つな。俺がお前を疑って魔法審問にかけようとするとは思わないのか?」
「僕は別に構いませんが、そんな暇はなくなると思いますよ?」

 どうせすぐに情報の出所だとか、どうでも良くなってうやむやになるし。

「どういう意味だ?」
「僕としては裏付けを取ったりと言った手順よりも、今現在囚われている方々の発見と救助が最優先だと思いますので。証拠固めなどは事件を強制的に明るみに出してから、じっくりやればいいのです」

 俺は左目に手を当てカドケウス側の状況を窺う。
 あちらでは今、カドケウスが鍵穴に潜り込んで錠前を開け放ち、牢屋内に囚われていた被害者達を脱出させているという場面である。
 異常を察知した牢番が腰の剣に手をかけたが、硬質化したカドケウスによって、殺さない程度、逃げられない程度に手足を串刺しにされて地面に転がる。
 施設内の人員はそれほど多くないし。適度に痛めつけて叩き潰して行こう。それも証人になるわけだし。

 つまりだ。あの施設内でカドケウスを暴れさせ設備を破壊して、囚われている被害者を脱走させてしまえば。
 証拠の隠滅だとか脱出だとか。小賢しい真似は一切不可能という事だ。シーラが俺に場所を知らせ、侵入したカドケウスが被害者を発見した時点でこちらの勝ちだと思っている。
 後は残された証拠や実行犯の中からカーディフに繋がる物証なり証言なりは出てくるだろうし。そうなってしまえばモーリスだって俺やアシュレイにかまけている所の騒ぎではない。

「その施設内を探ってみた所、既に被害者を発見していますので。今現在、使い魔を暴れさせて被害者の脱出の手助けをさせています。隷属の魔法を解除出来る人員の手配が必要でしょう」

 俺の言葉を聞いた途端、オズワルドは立ち上がってヘザーに言う。

「今すぐその場所に腕利きを向かわせろ。突入は一旦待て。だが明らかな異常を察知出来るようならその限りではない。救助を支援しろ。隷属魔法の解呪は月神殿の坊主どもだな。手配を急げ」
「はっ、はい!」

 ヘザーは部屋を飛び出していった。
 オズワルドは笑みを浮かべて椅子にどかっと腰を降ろす。

「中々面白い事をするものだな。被害者が見つからなければ使い魔の話はしないつもりだったな?」
「まあ……そうですね。加えて言うなら、オズワルド様でなかったら使い魔の話は控えて被害者達を脱出させるだけだったかも知れません。オズワルド様の若い頃のお話も聞き及んでおりますので」

 オズワルドは叩き上げで、今回の俺よりも無茶なエピソードに事欠かない豪放磊落な人物である。俺の答えにオズワルドは肩を震わせて笑った。
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