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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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30 獣人盗賊シーラ

「ありがとうございましたー」

 店主の声を背中に受けて魔法具店を出る。
 ……杖術向きで魔法発動時の耐久力にも優れる、という条件に適う魔法杖が無い。
 タームウィルズに向かえば杖ぐらいすぐ手に入るかと思っていたんだが……そもそもバトルメイジ自体が希少種のようで、ご同輩さえいない。当然の帰結として俺の需要を満たしてくれる物がないようだ。
 もっと下層で宝箱を漁るか、自力で素材を集めて製作を依頼するか、かな。
 その代わり魔術師用のコートなら見つけた。ローブではなくコートというのが、希望通りとはいかない所なのだが、ルナワームの繭から紡いだ糸で編んだ代物らしいので、物は良い。
 付加魔法で一時的な強化が可能で値段は400キリグ。値段から考えれば十分な性能だろう。

 早速コートを羽織って店から出る。
 もう少し街中を回ってみるかと思ったのだが、地面から足裏を叩くような振動が伝わって来た。影に潜ませたカドケウスからの合図だ。
 ……例の獣人か。どこから追跡して来ていたのかは知らないが、店から出てきた際に不審な反応でもしたのだろう。カドケウスの警戒網に引っかかったようだ。

 視線を巡らすような事はせず、気付かない振りをして歩き出す。
 左目を閉じて使い魔と感覚――視界をリンクさせる。
 右目で正面の景色を。左目でカドケウスの感覚を通して背後を見ているという状態だ。
 人込みの中、やや離れた位置で俯きがちに歩いている、フード姿の人物が見える。
 とりあえず言い逃れのしにくい状況を作ってしまおう。

 適当に街を流し歩く振りをして――景久の記憶にあるのと同じ、古い街並みまで誘導する。
 路地裏に続く角を曲がって、向こうからの視線が切れたタイミングで魔力循環を発動。壁から壁を蹴って、一気に建物の上まで飛び上がる。
 曲がり角まで尾行してきた相手は俺の眼下で一瞬固まった後、俺を突然見失ったことに少し慌てた様子で路地裏の奥へと走って行く。

「――さて、と」

 尾行してきた相手を、今度は俺が追いかける形になった。
 しかし鬼ごっこにもスニーキングにもならない。この先は袋小路だからだ。
 BFO時代、タームウィルズにホームを構えていた俺としては、この辺りの事は隅々まで解っている。細部まで作り込まれた街並みが好きで歩き回っていた事もあったしな。
 中央部に近い、古い街並みは特に熟知している。
 迷宮の一部を流用しているという成り立ちと構造から言って、将来に渡って変わり映えしないだろうし。

 果たして追跡者は――周囲を建物に囲まれて出口のない空地で、俺がどこに消えたのかとあちこち視線を巡らしていた。高い壁を見上げたり、建物と建物の間に通れる隙間が無いか確認したり。

「誰を探してるんです?」

 と、背中に声を掛けると、獣人は弾かれたかのように振り返った。

「……少し、道に迷ったの」

 女の声だ。
 対応は向こうの出方を見て決めるつもりだったが、いきなり襲い掛かってくるという事はないようだ。それならこちらも多少対応を平和的にしてやろう。とぼけた所で逃がしてはやらないが。

「そうですか。昨晩は僕の家の裏で迷ってましたよね」

 フードの奥で息を呑んだのが解った。

「やっぱり誰かを探してるんじゃないですか?」
「……どうして」

 どうして、とは。
 どうやって尾行に気付いたか。それともどうやって背後に回ったのかか。或いは昨日の様子を何で知っているのか、だろうか?

「魔術師というのは色々備えをしてるものですよ。まず顔を見せてくれませんか」

 そう言うと、獣人は小さく肩を竦めた。何だか諦めたような空気があるが。フードを脱ぐと、その下から女の顔が露わになる。大きな三角形の耳がピクピクと動いた。

「怪しい者じゃない――とは言えないけれど。あなたに危害を加えるつもりも無い」
「目的を聞いて納得が行けば信じますが」

 元々俺の家を監視していた感じではないからな。ある程度は信用してもいい。

「私はシーラという。行方が分からなくなった友人達を探している」
「それで――どうして僕の所に?」

 シーラは切れ長の目を細めて俺に言う。

「スネークバイト」

 ……そっちの方か。伯爵家の絡みかと思ったが。
 行方不明の友人、ね。スネークバイトが誘拐事件に関わっているかも知れないとは推測したが。
 向こうが入れてきた探りに、出来る限りポーカーフェイスを押し通す。無言で見つめ合っているとシーラは更に口を開いた。

「聞き込みをして、あなたが、スネークバイトを捕えた、という所までは辿り着いた。カーディフ伯爵家とも揉めていると聞いた。あなたの所に詰めていれば、カーディフの私兵が現れるかもしれない」

 うん? ……何だ? スネークバイトとカーディフは繋がりがあると言いたいわけか?
 俺の事を知っていて周囲をうろついていたならカーディフとの一件ぐらいは耳にしているだろう。
 俺の興味を引いたり煙に巻く為に両者を列挙してみたという可能性だってある。冒険者ギルドによって口止めされているはずのスネークバイトの情報は手に入れにくく……少なくともそちらが本命で俺に辿り着いたと見るべきだろうな。

「話を聞いてくれる? 私達は協力し合えるかも知れない」

 シーラは表情を変えずに首を傾げる。
 密かに行動する事が出来なくなったらコンタクトを取って味方につける、か。まあ、妥当な所だが。

「聞くだけなら。答えられない事はあります」

 スネークバイトの事は冒険者ギルドに口止めを頼まれているし金も受け取っているからな。
 金を受け取った以上は契約だと思っている。そういう部分は信用で成り立っている物だから、たかだか「興味が湧いた」程度でベラベラ話せるものでもない。

「事実だけを掻い摘んで話す。私の友人は迷宮地図作成の依頼に絡んで冒険者ギルドでスネークバイトと話をしていた事が解っている。そしてスネークバイトが出入りしていた建物に、カーディフ伯爵家の家人が出入りしていた」
「……つまり、カーディフか――その関係者がスネークバイトを手引して、行方不明になった友人に絡んでいる、と?」

 カーディフ伯爵家は金に困っていたし、タルコットが縁談で埋められなかった穴をどうやって埋めたかとなると――追い詰められて非合法な事に手を出していたとしてもおかしくはないが。

「私はそう見ている。しかし、情報が足りない」
「その事を冒険者ギルドには?」

 シーラは首を横に振る。

「門前払いされた。スネークバイトの情報を冒険者ギルドが伏せたがっているのは解っていたし、不審がられて、魔法審問を受けると私が困る」
「それは何故?」

 シーラは目を閉じる。話すべきか迷っているような印象だ。
 やがて彼女は目を開き、はっきりと口にした。

「私が、盗賊ギルドの構成員だから」
「……えーと。魔法審問でそれがバレると困ると?」

 そう聞き返すと頷く。
 ここで内々の話として情報開示は出来ても、魔法審問を受けるわけにはいかない、か。

 盗んでも殺すべからず。日々技術を鍛えるべし。
 ……そんな感じの細々とした掟があるのだ。義賊のようにも見えるが、決して正義の味方などではない。上層部は任侠ヤクザというのが一番近いかもしれない。
 というか、盗賊は嫌いだ。山賊や野盗、強盗の類と、シーフやスカウトとの違いは分かっている……つもりではあるんだけどな。
 盗賊ギルドの下っ端は冒険者の中にもいて、スカウトなどとして活躍しているはずだ。

 掟の中に構成員である事を他人に知られるべからず、というのもあった。俺はゲーム知識でそれを知っているが、部外者であるのに掟を知っているわけがない。だからシーラに聞き返すにも言葉を選ぶ必要があった。
 というか、俺に話をするだけでもシーラは相当のリスクを背負っていると言う事になるな。

「盗賊ギルド上層部に話をするというのは?」

 BFOのクエストから得た情報では……盗賊ギルドの構成員に、表の顔として奴隷商を営んでいる者がいたはずだ。多分その辺の繋がりは今もあるんだろうとは思う。

 誘拐して何をするのかと言われれば……まず犯罪奴隷に偽装して隷属の魔法をかけて売り払うというのが思いつく。それは確実に盗賊ギルドに喧嘩を売る行為ではある。

 奴隷は大まかに分けて二種類だ。
 まず、丁稚奉公のように借金のカタに奴隷となる、借金奴隷というのがある。これは自分で稼いだ金で自分を買い戻す事も可能で、そうなれば自由を得る事が出来る。
 一方重罪を犯して奴隷落ちした者は、隷属の魔法を掛けられ自由になれる事が無い。
 この隷属の魔法というのが曲者で、かけられた者の言動や行動を縛る事が出来るわけだ。
 つまり誘拐して犯罪奴隷に偽装すれば……被害者自身が身の潔白を訴え出るのは難しくなる。そのまま海の向こうにでも売り払ってしまえばいい、となるわけだ。

「上層部に、表の顔として奴隷商を営んでいる者がいる。信用していいかどうか解らないし、スネークバイトが本当に絡んでいるかが解らないのに、憶測だけで上に話を出来ない。私自身である程度の裏付けを取る必要がある」

 つまり黒転界石の情報は漏れていない、か。
 手口が解らないんじゃスネークバイトと行方不明事件の関連に確信が持てないだろう。
 だからカーディフの息がかかった実動部隊を待って、その連中を追跡調査する事で裏付けを取るなり友人の行方を捜索するなりしようとしたというわけか。

「なるほど……。協力し合えるかもという話は理解しましたが」
「なら」
「それとこれとは別です。僕と冒険者ギルドとの間の信用問題なので。僕からあなたに情報は渡せません」

 シーラは眉を顰めて肩を落とした。落胆した、と顔に書いてある。

「ですが――僕が冒険者ギルドに行って捜査協力や情報提供を申し出る分には何も問題ありません。それで良ければ」

 続く言葉に、彼女は目を見開き顔を上げる。確かに、俺にとっても利のある話ではあるので。
 カーディフの事がこれで片付いてしまうのなら、言う事は無い。
 幸いベリーネの関係で冒険者ギルドからの信用もあるしな。
 カーディフが本当に事件に絡んでいるかどうかは――ギルドに行けば割合簡単に調べが付くだろうし。
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