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281 侯爵の帰還

 飛行船についてあれこれと話をしていると、通信機に連絡が入っていた。メルセディアからだ。ジルボルト侯爵からの伝言で、今から訪れてもいいかとのことだ。


 転移で帰る時期は任せているので、その時が来たら声をかけてほしいと言っていたが、あまり領地を留守にもしていられないらしく、今日帰るという話を受けていたのだ。それでもロミーナと一緒に過ごす時間を作りたかったのだろう。

 ジルボルト侯爵は騎士団が護衛しているということらしいので、どちらにしても俺の家まで同行することになるだろう。

 なので、工房にいるのでそっちに侯爵を案内してもらえないかと返信しておく。そうしてジルボルト侯爵を待つ間、飛行船の話を進めておく。


「ここまで飛行船を操船してきて思いましたが……やはり死角が多いですね」


 そう言うとジークムント老も思い当たる節があるのか頷いた。


「そうさな。下方が全く見えんのは問題がある」

「これに関してはいくつか方法を考えました。まず船に飛竜や、空中戦装備一式を揃えた乗員などを随伴させる手があるかなと思います。単純に船底に窓などを付けるという方法もありますが……」


 飛竜の随伴は空母と艦載機の関係と同じだ。飛行船の積載力を活用することにも繋がるし、飛行船の護衛役がいればある程度死角などの問題は解決できるだろう。


「なるほどのう。お主の口ぶりからすると、他にも案がありそうじゃが……」

「船自体を魔法生物にするか……部品として魔法生物を組み込むという手を考えました」


 例えばガーゴイルやゴーレム。ローズマリーの人形のような。ローズマリーは俺の言葉に、思案するような様子を見せる。


「死角を潰すために魔法生物を部品として組み込む、ということかしらね」


 ローズマリーの簡易型の人形は人形同士を部品として大型の人形になったりという芸当をしていたからな。これはローズマリーにしてみると得意分野ではあるだろう。


「そう。視界を持つ魔法生物を船体に組み込んで、魔法生物と水晶球を一組として契約魔法で結びつけるだとか」

「使い魔の契約のような?」

「ああ。多少、契約魔法の術式をいじってやる必要があるだろうけど……」


 そう言ってアルフレッドを見ると、アルフレッドは心得ているとばかりに笑って頷く。


「物と物を結びつける契約魔法は色々研究してきたからね。応用が利くと思うよ」


 通信機開発の関係で、契約魔法を魔道具に落とし込むノウハウが既にできていたりする。

 ともあれ、水晶球に視界をリンクさせることで本来なら視界の届かない場所を映像として見ることができるようになる。自動車のバックモニターのようなものである。


「後は……対魔人を想定した武装でしょうか。飛び回る魔人には普通の飛び道具は当たらないと思いますので」

「……であろうな。ザディアスが船に取り付けていたあれでは、魔人には抗せぬじゃろう」


 ジークムント老が頷く。ヴァレンティナに向き直り、尋ねる。


「先程魔石に特定の方向性を与えられると仰いましたが、それは月女神の祝福や呪曲といった、やや特殊な物にも対応できますか?」

「……試したことはないけど……可能じゃないかしら?」


 ヴァレンティナは少し考えてからそう答える。


「そういった物に指向性を持たせて、照射する魔道具を搭載しようと思うのです。飛行船の射程に入った魔人の飛行制御を乱し、そこを随伴する飛竜騎士や戦闘員で迎撃するといった具合ですね」


 考え方としては音響兵器の類だ。暴徒鎮圧を目的とする非殺傷の兵器であったように思うが、空中戦で制御を乱したところを飛竜隊などで攻撃するというのはなかなか効果的ではないかと思う。

 照射するだけで効力を発揮するという手軽さもある。後は銃座を上下左右に旋回させられるようにしておけば回避は困難だろう。相手からしてみれば飛行船への安易な接近は阻まれてしまうわけだ。


「ふうむ。作るべきものは見えてきたのう……」

「そうですね。後は必要になる資材の量を見積り、魔石や足りない物に関しては迷宮から調達したりといった流れでしょうか」


 と、そこでノックの音が響いた。顔を出したのはタルコットだ。続いて、タルコットの片想いの相手であるシンディーも顔を見せた。


「どうしたんだい?」

「来客があったようです。メルセディア卿とジルボルト侯爵家の方々がお見えになりました」


 アルフレッドが尋ねると、タルコットが答える。

 タルコットはアルフレッドの警護役でもあるので工房の警備役も兼ねている。こうやって来客を取り次ぐのも役目の1つだ。

 シンディーも工房の手伝いをすることがあり、今日は警備をしているタルコットの話し相手になっていたようである。どうやら2人の関係は割合順調なようで。


「分かった。話も一段落したし、こっちにお通しして」

「承知しました」

「私はお茶を用意しますね」


 タルコットは一礼して戻っていく。シンディーはお茶を用意することにしたようだ。

 程無くしてタルコットに案内されてメルセディアとジルボルト侯爵家の3人がやってくる。


「こんにちは」

「ええ。こんにちは、大使殿。それに皆さん」


 やってきた面々と挨拶をかわす。


「もうよろしいのですか?」

「ええ。ゆっくりと、家族水入らずで過ごさせてもらいましたから」


 そう言ってジルボルト侯爵は笑みを浮かべた。




 お茶を飲んでのんびりしてから儀式場へと移動した。儀式場から転移することでクラウディアの消費も大分少なくなるらしい。術式の力とテフラの力、両方を借りられるからとのことだ。


「あははっ、本当だ。みんな来てる!」


 セラフィナが両手を広げて飛んでいくと花の間から妖精達が姿を見せて、つられるように笑顔で飛び出す。セラフィナは楽しそうに空中でくるくると回りながら妖精達を追いかけたり追いかけられたりしている。

 儀式場は……色とりどりの花が咲き誇る場所になっていた。特異な魔力で満たされていることも相まって、なかなか現実味のない光景だ。

 妖精達も俺達の周りを飛び回ったり、テフラやクラウディアに挨拶に行ったりと……以前よりかなりフレンドリーな感じだ。


「ふむ。これは良いな。実に良い」


 儀式場の主であるテフラはと言えば、かなりの上機嫌であった。妖精が居着いたことに好意的なようだ。妖精達を肩や指に座らせたりしている。


「ではロミーナ。しっかりね」

「はい。今までお父様に守られていた分、勉学を頑張り、見識を広めたいと思います」


 その傍らで、ジルボルト侯爵とベリンダ夫人、ロミーナが言葉を交わしている。ジルボルト侯爵領を出て以降、侯爵領の様子は分からないから、一応俺達がジルボルト侯爵に同行して安全確認を行う予定である。


「後数日で劇場の公演があるのに、多忙で帰らなければならないというのは残念なことだね」


 それを見ていたアルフレッドがそんなことを言う。


「……侯爵領への転移魔法の消耗が小さいなら、2人を当日招待するということはできるのかな?」

「ええ。問題はないわ」


 クラウディアはそう言って目を細める。

 それなら、侯爵家の3人も招待することにしようか。その話を3人に伝えてみる。


「それは嬉しいのですが……負担ではありませんか?」

「頻繁では困りますが消耗も大きくないようですし、今回の祝勝ということで」

「そうですか……。ではお言葉に甘えさせていただきます」


 その言葉にロミーナが嬉しそうな表情を浮かべた。


「ではお送りします。空中に出ると思いますので、レビテーションを使用しておいてください」

「分かりました」


 ジルボルト侯爵の居城に対応する位置から転移してやれば直接領内に転移できるわけだ。

 侯爵は自分自身とベリンダ夫人にレビテーションを用いると、夫人の肩を抱く。夫人も朗らかに侯爵に寄り添う。おしどり夫婦という感じだな。


「では、少し行ってきます」

「うむ。儂らはここで待たせてもらおうかの」


 ジークムント老が頷く。


「こっちよ」


 クラウディアに付いて儀式場の宿泊施設の上空へ移動する。マジックサークルが展開したかと思うと光に包まれ――目を開いた時には景色と気温が一変していた。

 ジルボルト侯爵の居城が眼下に見える。

 そのまま居城の中庭に降りると、家臣達が驚いた様子で走ってくる。以前会った侯爵領の騎士団長や魔術師もいる。侯爵領の重鎮達だ。


「おお、侯爵……奥方様も。お戻りになられましたか」

「うむ。異常はないか?」

「はっ。ザディアスの息のかかった者達は牢で大人しくしております」


 ジルボルト侯爵は頷くと、ザディアスが倒されたことを伝える。


「ザディアスはここにいらっしゃるテオドール殿の手により倒され、エベルバート陛下が廃嫡なさった。二度と日の目を見ることはあるまいよ」

「おお……」


 騎士団長と魔術師はその言葉に感無量といった様子で天を仰ぐように目を閉じる。エベルバート王はジルボルト侯爵の名誉回復もしてくれたからな。彼らとしても喜ばしい結果になったのではないだろうか。

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