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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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280 工房と賢者

 朝――。普段よりゆっくりと寝室を抜け出し、身嗜みを整えてからみんなと共に増設した大食堂側へと向かう。客が宿泊しているということもあり、今日はみんなと朝食をとることになっているのだ。

「おはよう」
「おはようございます」

 セシリアに朝の挨拶をすると、彼女も朗らかに挨拶を返してきた。大食堂には既に配膳が済ませてあるようで、良い匂いが漂っている。
 匂いの正体はオニオンスープだろう。他にもサンドイッチ。サラダ、ソーセージにオムレツと見た目にも色鮮やかだ。

「おはようございます」

 エリオット、テフラ、ジークムント老、ヴァレンティナと、続々食堂にやってくる。

「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「そうですね。静かで快適でした」
「朝までぐっすり眠れたわね」

 と、エリオットとヴァレンティナ。

「風呂も立派なものであったな。良い湯であったよ」
「それは何よりです」

 ジークムント老に笑みを返す。

「ここはセラフィナが住み着いているからか、我にとっても居心地が良いようだ」

 と、テフラ。

「昨日のお掃除はテフラと色々お話をしながらだから楽しかったよ」

 肩に乗ったセラフィナが上機嫌そうに言う。ふむ。精霊は夜の方が活発になるのかも知れないが……仲良くしてくれているなら何よりだ。
 さて。みんな揃ったところで朝食である。

「今日の予定はどうなっているのかしら?」

 ローズマリーが尋ねてくる。

「細々とした用事がいくつか。工房に行ってアルフレッドと魔道具作成の話をしたり、ジルボルト侯爵を領地に送ったり。マルレーンの使い魔の、契約儀式をすることにもなるかな」

 父さんやケンネルが来る前にするべきことを済ませてしまおう。

「……魔道具か。お主の魔道具は、あの少年と作っておるのだな」
「ええ。アルフレッドは魔法技師です。僕が術式を記述して、それをアルフレッドが魔道具に。金属加工などは鍛冶師のビオラが行うという流れですね」
「私達が技術協力する場合、彼と連携する形になるのね。テオドール君の友人の魔法技師に協力するようにと言われているのだけれど」

 ヴァレンティナが言う。

「そうなると思います。色々開発していますし、彼も信用があるので情報が漏れて困るものはアルフレッドという流れになるのではないかと」
「となると、私達も同行して、改めて挨拶させて頂くというのが良さそうね」

 飛行船に関係することは工房で行うようになるだろう。アルフレッドは工房で仕事をすると言っていたので、朝食が済んだら工房に行ってみよう。

 ジルボルト侯爵はベリンダ夫人や令嬢のロミーナ達と共に王城に宿泊している。事件が一件落着して侯爵家の名誉も戻り、無事に帰ってこれたので親子水入らずで過ごす時間が欲しかったそうだ。ジルボルト侯爵はシルヴァトリアに帰るが、ロミーナはペレスフォード学舎に留学することになるらしい。

 侯爵は今日帰るという話なので……まあ、向こうの都合の良い時間を連絡してもらうことにしよう。



「なるほど。この宝石を巨大矢に埋め込む、と」

 工房に足を運び、ジークムント老とヴァレンティナを、改めてアルフレッド達工房の面々と引き合わせる。
 再度詳しく互いを紹介した後でアルフレッドにヴィネスドーラ王城の宝物庫から褒美としてもらった品々を見せた。

「ビオラ、どう?」
「ふむふむ。そんなに手は掛からないと思いますよ。発動させると引き合うということでしたら……新しく小手か腕輪を作って、そこにもう片方の宝石を埋め込むというのはどうでしょう?」

 ビオラは宝石を見てそんなことを言う。

「ああ。それは嬉しいわ。装備品に組み込んで貰えると、使う時に取り出したりしなくても済むものね。宝石だと落としたりしてしまったら困るし」

 イルムヒルトは朗らかに笑い、胸の前で手を合わせる。

「こっちの小手は? 調整できそう?」

 と、シーラ。シーラの選んだ雷撃の小手も、彼女に合わせて少し調整してやる必要がある。

「ええと……はい。これなら問題ありませんよ。少し金具を打ち直して、帯を交換してあげれば良いので、シーラさんの採寸させてもらえますか?」
「ん。さすがビオラ」
「ふふふ」

 ビオラはシーラに言われて楽しそうに含み笑いを漏らす。

「私の腕輪は、丁度良いぐらいですね。調整の必要は無いかなと」

 グレイスは腕輪をつけて言う。

「これは全体が魔道具として機能しているから、大きさが合わないと調整が難しかったですね。なかなか良い物ですね」
「ありがとうございます」

 グレイスとビオラはそんな会話をかわす。

「マルレーンは何を受け取ったの? その鳥?」

 アルフレッドが尋ねると、マルレーンは少し後ろを付いてくる鳥の彫像を前に出すようにして、笑みを浮かべる。
 鳥については俺から補足説明をしておこう。

「鳥型の……魔法生物かな。使い魔にできるみたいで、後で契約の儀式をする予定なんだ」
「鳥の使い魔は便利だっていう話だからね」
「猛禽の姿をしていますし……マルレーン様にも小手を作って差し上げましょうか」
「鷹匠みたいに?」
「ええ」

 ビオラの言葉が嬉しかったのか、マルレーンはこくこくと頷く。そんなマルレーンの反応にビオラが破顔する。

「巨大矢の加工に、小手が3件。グレイスの腕輪は大きさが丁度いいから大丈夫みたいだけれど……。大きな仕事も控えていることだし、イグニスの点検はこちらで進めておくわ。装甲も骨格も、問題はなさそうだけれどね」

 と、イグニスの肩に触れながらローズマリーが言う。

「大きな仕事か。うん。技術者としてはあれに携われるというのは楽しみだな」

 アルフレッドは嬉しそうにそんなことを言った。
 大きな仕事……つまり飛行船である。新しく作るのか、既存の船を改造するのかはまだ決まっていないが……。

「儂らの全面協力は決定事項という話じゃからな。儂らの裁量で好きにやって良いと、エベルバート陛下とメルヴィン陛下より既に許可は貰っておる」

 なるほど。昨晩王城でそのあたりの話は済ませてしまったらしい。
 例の魔力変換装甲による船体作成を俺が担当。アルフレッドは出来上がった装甲板の加工だ。推進力を得るための魔道具に魔力を誘導する回路を作ってやる必要があるのだ。
 だが特殊な魔法で装甲板を加工可能な状態にしておいてやらなければならない。衝撃や魔法などをみんな吸収してしまうので、術式を用いて整備可能な状態にしてやらないと、満足に加工もできないというわけである。装甲の状態固定を行うのも俺の役割ということになるか。

 飛行船については他にも幾つか詰めるべき点がある。

「飛行船の効率化という話も聞いたが、何か案があるのかの?」
「そうですね。いくつか考えていることはあります。例えば――」

 木魔法で飛行船の簡単なモデルを作る。本体は今までの飛行船同様、船の形を踏襲したが、飛行機のような翼が両脇から迫り出しているのが少し違う点だ。
 風魔法で空気を制御してやる。翼の上と下で風の流れを別々に調整してやると、モデルが宙に浮く。
 ジークムント老とヴァレンティナが目を見張る。2人だけでなく、ローズマリー、アルフレッド、アシュレイにエリオットと、魔法に明るい者達は浮かんでいるのが俺がレビテーションを用いているわけではないことに気付いたようである。

「これは……レビテーションというわけではないのじゃな?」
「ええ。帆船の縦帆と同じ原理です。縦帆は風の力を前に進む力に変えていますが……これは風を直接操作して上に浮かぶように力を作り出しているわけですね」
「なるほど、縦帆か……」

 要するに揚力だな。風魔法で気圧を操作して浮かせているわけだ。翼の上下に風魔法を組み込んで上に持ち上げてやることで飛行船を浮かせる力の補助を行う。
 また、この揚力を操作してやることで左右に旋回することもできるはずだ。飛行船の心臓部は全体のバランスを取っているが……心臓部と連動させてやる必要が出てくるか。

「後は推進力の強化でしょうか。火魔法と風魔法の複合で前から空気を取り込んで、後ろに放出してやることで加速する……というのを考えています」

 まあ、あまり加速が過ぎても危険性が増すだけだから、これの性能は程々で良いだろう。
 ジークムント老をふと見やると呆気にとられたような表情を浮かべていたが、首を小さく横に振ると気を取り直したように言う。

「……複合魔法か。魔道具にするにせよ、質の良い魔石が必要じゃな」
「魔石に特定の属性を付与する技術というのは……ヴェルドガルにはあるのかしら?」

 ヴァレンティナが尋ねてくる。

「そんなことが出来るんですか?」
「ええ。私の受け継いでいる術式の1つよ。だから大きな魔石があれば、色々融通を利かせられると思うのだけれど」

 そう言ってヴァレンティナは笑みを浮かべた。
 うん……。それは良いな。フレイムデーモンから抽出した火の魔石のようなものが任意に作れるようになるということで……できることが色々と広がりそうな気がする。後は元々の質が良い魔石を調達すればいいだけだが。そういうのは迷宮の独壇場ではあるな。
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