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261 学連の解放

「テオドール様!」


 ザディアスを謁見の間まで引き上げると、みんなが駆け寄ってきた。まずは現状の確認と安全の確保から始めよう。


「みんな、怪我は?」

「私は大丈夫です」

「わたくしも問題ないわ。イグニスも大丈夫」


 ゴーレムを片付けたグレイスとローズマリー。彼女達は問題無しと。


「シーラは?」

「ん。問題無かった。イルムヒルトもセラフィナも無傷」

「後衛の私達も怪我はしていません」


 と、アシュレイが言うと、マルレーンがこくこくと頷く。


「ただ、エリオット兄様が少し肩にお怪我を。けれど、ご自分で治癒魔法を用いられたようで……問題はないと仰っています」

「エリオットさん、大丈夫でしたか?」

「ええ、私については心配いりません」


 衣服の破れた肩口に軽く触れながらエリオットは笑う。

 俺が言うのもなんだが、最後は肉を切らせて骨を断つを地で行っていたからな。根本で斬れないと分かっていても骨で受けるのは相当痛いとは思うのだが。まあ、傷痕が薄ら残る程度ではあるか。治癒魔法の腕も確かなようだ。


 ともあれ、仲間達に問題はないようだ。次に安全確保。転がっている黒騎士達に魔法封印をかけて回る。いつも通りライトバインドと土魔法で固めて梱包。どさくさ紛れに逃げた者がいないか、頭数を確認。俺が梱包した後で、まだ息のある黒騎士達の長――ラグナルにエリオットがクリアブラッドを用いている。


「私も……以前ラグナルには命を取られませんでしたから。これで借りを返したということで」


 エリオットが言う。まあ……これでエリオットとしては因縁に決着というところか。


 落下した飛行船は……兵士に取り囲まれているな。操船の人員は、大人しく降伏しているようだ。騒ぎになっていないところを見ると、黒騎士も残っていないようである。


 その傍らで通信機を確認。ヴェルドガル騎士団のメルセディアからは、送られてきた黒騎士を無事確保したと報告が来ている。こちらもザディアスを倒したとしっかり連絡をしておこう。


「一先ず、心配はないようです。お怪我はありませんか?」

「うむ。仔細ない。……身内の不始末を押し付けてしまう形になって、すまなんだな。感謝するぞ、テオドール殿」


 気絶したままのザディアスに一瞥を送ると、エベルバート王が言った。


「いえ。僕にとっても因縁浅からぬ相手でしたので」


 ステファニア姫とアドリアーナ姫も静かに一礼し、それぞれに礼を言ってくる。


「ありがとう。私達にも怪我はなかったわ」

「感謝します、テオドール様。しかし……これが古の戦闘魔術師の力……。聞きしに勝る凄まじさですね」


 アドリアーナ姫は謁見の間を見渡して、そんなことを言った。

 戦いが終わって周囲を見回してみれば、少々派手にやってしまったようにも思う。まあ、ザディアスに対してはかなり腹立たしい思いをしていたからな。


「破壊したところは責任を持って魔法建築で直します」

「申し出はありがたいが……破壊の痕は戒めとして、なるべく長く人目に晒すべきだと思う」

「そうですか? けれど、崩落の危険もあります。構造上脆くなった場所だけ補強しておきましょう」


 そう答えると、エベルバート王が苦笑して頷いた。セラフィナが自分に仕事が回ってきた、と笑みを浮かべる。


「ふむ。しかしこれで一件落着か。ジルボルト侯爵の汚名も返上というわけだ」


 テフラが謁見の間を眺めながら言うと、ジルボルト侯爵が苦笑した。


「そうなると良いのですが。残党についてはどうなのでしょうな」

「黒騎士の……主だった者はこれで押さえられたと思います。残りは賢者の学連の後詰めでしょうか」


 エリオットが黒騎士達の顔を確認していく。


「そうさな。ザディアスとヴォルハイムの企みが明るみに出て、しかも両者ともが倒れたとなれば、表立って反抗を試みるものはおるまい。これ以上の混乱は余が起こさせぬ。ジルボルト侯爵の名誉については、余から諸侯の前で清廉であることを宣言しよう」


 エベルバート王の言葉にジルボルト侯爵が臣下の礼をもって応える。そこに側近達が戻ってきた。


「陛下! お怪我はございませぬか!」

「見ての通りだ。ザディアスの王位継承権は今この時より剥奪し、これを廃嫡とする。騎士団を動かし、賢者の学連の後詰めに投降を持ちかけよ。城内外の人間関係を徹底的に洗い直し、加担した者達を残らず捕縛するように」

「はっ!」


 駆けつけてきた側近達にエベルバート王は指示を飛ばす。

 一番の問題は排除されたが……シルヴァトリアは慌ただしくなりそうだな。賢者の学連の長老達の問題も残っているし。


「賢者の学連には僕も向かいましょう。瘴気が使えるので、空を飛んで逃亡を図ったり、証拠を隠滅しようとする者が出ないとも限りません。長老達の安全を確保しなければいけませんから」




 ジルボルト侯爵、それにエルマー達については潔白であることが分かっている。なので賢者の学連の件が片付き状況が落ち着くまで彼らがエベルバート王やステファニア姫、アドリアーナ姫の護衛に当たることになった。エルマー達は人員も多く、丁度良い。

 王城の破損を最低限補強し終えるころには魔法騎士団や兵士達の編制も整っていた。彼らと共に軍馬に跨って賢者の学連に向かう道すがら、クラウディアが話しかけてくる。


「少し、いいかしら?」

「ん? 何?」

「こういう大きな都市には、それなりの規模の月神殿があるでしょう。あれは、それぞれの土地の中でも私の力の及ぶ飛び地のように扱えると思うの」

「ああ、テフラにとっての儀式場と同じような?」


 確かに月神殿の主はクラウディアと言って差し支えない。


「ええ。一度足を運んで少し整えてやれば、問題なく転移のための拠点にできるわ。石碑を作るのと違って、迷宮側に移動される心配もないし」


 なるほど……。それは便利だ。シルヴァトリアはベリオンドーラが近いこともあって色々危険に晒されることもあるかと思っていたが、それならば何かあった時に駆けつけられるだろう。


「問題は、連絡手段かな」

「魔人絡みの大きな騒動が起きた時に、巫女達に魔人からの救いを求める祈りをしてもらう……というのはどうかしら?」

「それで察知できる?」

「ええ。問題ないわ」


 ……ふむ。そうすると祈ると女神本人が駆けつけてくる形になるということだろうか。

 ともあれ、それで諸問題が解決するな。通信機で細かなやり取りをしなくても、最重要な点を連絡してもらえるならば事足りる。緊急時の避難も月神殿に逃げ込めば良い、となるし。

 そういうことなら後で月神殿に足を運び、巫女達にはエベルバート王から通達してもらえば良いだろう。


 話をしている間に賢者の学連の敷地前に着いた。まず王の使者が前に出る。


「こ、これは何事です!? 先程王城から閃光が上がったようですが、何があったのですか!?」


 門番の兵士がやや混乱した様子で使者に尋ねる。


「エベルバート陛下の名代として参りました。ザディアスとヴォルハイムが謀反を起こして、取り押さえられました。賢者の学連にいる全ての兵士、騎士、魔術師は武器を捨て、投降して指示に従うように。王命に逆らえば、これは言い訳の余地なく大逆の加担者ということになりましょう。逆にザディアスに与していた者であっても、大人しく降るのであるなら減刑もあるとのことです」


 大逆と聞いて門番の顔色が真っ青になる。


「わ、分かりました」


 門番は武器をその場に置く。


「助かります。ではそのまま、敷地の中にいる者達にも説明をして回るのを手伝っていただきますよ」

「はっ、はい!」


 門番は使者の言葉に直立不動で答える。そのまま騎士団と共に敷地の中へと入っていく。

 何事かとあちこちの施設から出てきた者達も、使者の言葉を聞かされると大人しく兵士達の指示に従っていく。

 ザディアスとヴォルハイムが倒れたこと。大逆罪という罪の重さ。そして減刑を約束したエベルバート王の人格に対する信頼もあって呆気ないぐらいだった。

 そして――聳え立つ巨大な塔に到達する。すぐに黒騎士達が現れた。全員武装しているな。まあ、元々王位の簒奪を狙っていたし、飛行船が向かった王城で瘴気砲の閃光が空に上がるのを目撃しているのだろうから、警戒を強めていても不思議ではないが。


「これはいったい……何事です?」

「エベルバート陛下の名代として参りました」


 使者は一言一句同じ言葉を繰り返す。


「殿下が謀反……そして負けた?」


 黒騎士は目を見開く。


「事実です。返答は全ての武装を捨てるか否かで答えるように。それ以外の如何なる行為――投降するか否かの相談でさえも反逆の意志があると見なします。それとも……その瘴気を放つ武器で、国軍全てと一戦交えますか? 自らの意志で選びなさい」


 使者は淡々と告げる。黒騎士達はその言葉に、顔を見合わせることもできずに固まった。だが……1人が武器を捨てて鎧を脱ぐと、他の者もそれに続く。

 瘴気砲が放たれたのを見た後にこの状況というのが、まあ、彼らに話を信じさせている部分はあるか。


「よろしい。長老達は無事なのですか?」

「はい……。塔の地下におります」


 黒騎士がうなだれて答えると、兵士達に連れていかれた。……これでザディアス一味は壊滅というところか。まずは長老達の記憶を戻してやらないとな。

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