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226 ヘルフリートの申し入れ

 まずは下水道と大通りの整備を終わらせてしまおう。

 例によって土砂をゴーレムの材料にしながら下水道を整備し、今度はゴーレムを石畳に作り替えていく。余った分は資材置き場に建材として積み重ねる。そうやって粗方の整備を終えたところで、今度は大通りから少し外れたところに湯治場を作成していく。


 必要な資材は揃っている。湯治場は療養用の設備なので、公衆浴場のような物珍しい魔道具は必要がないのだ。浴槽に足湯、それに静養と診療のための設備を併設すれば後は源泉から湯を引いてやるだけである。

 大勢がゆっくりと過ごせるような木造の施設。日当たりが良くなるように窓を作り、その窓から見渡せるように中庭を作り、それから周囲を塀で囲んでやれば完成だ。内装や家具の類は別途用意してもらうということで。


「これでどうかな?」

「うんっ。大丈夫だと思う」


 セラフィナを肩に乗せ、一緒に建造物の強度を見て回る。外壁、下水道、湯治場。特に問題はないようだ。

 儀式場に戻ってみんなに王城に向かう旨を伝えておこう。


「湯治場ができたから、少し王城へ行ってくるよ」

「さすがに早いね。僕も頑張らないとなぁ」


 などとアルフレッドが呟く。

 シルヴァトリアまでの護衛の話をしたところ、俺やジルボルト侯爵が出発するまでに間に合わせると意気込んでいる節があるのだ。竜鱗防具一揃いに、温泉関係の魔道具。なかなかに大変そうである。


「俺やシンディーも手伝っているからな。必ず間に合わせてみせる」


 と、タルコットが言う。


「まあ……身体を壊さないようにね」

「そうだね。疲れたら温泉にでも入りながら進めるよ」


 そんなふうに言って、アルフレッドは笑うのであった。




 王城へ向かっていつものように王の塔のサロンで待っていると、メルヴィン王が現れる。


「温泉街の外壁周りと、下水道、大通りの整備、それから湯治場の建設が終わりましたので報告に来ました」

「相変わらずそちは仕事が早いな」


 メルヴィン王は目を丸くすると頷く。


「だが承知した。湯治場については予定通り内装や家具、備品を用意させよう。湯治場で働ける薬師についても手配を進めておく」

「はい」


 湯治場の内装回りもそうだが、温泉街にこれから建つであろう店や家などは建築の時点からタームウィルズの住人達に任せることになっている。新区画が雇用創出に繋がるのなら、まあ俺としても言うことはないし。


「温泉街の物件については売りに出せば申し込みが殺到しそうではあるな。ハワードなどは温泉だ、特需だと小躍りしていたよ」

「ああ、宰相殿も様子を見に来ていました」

「うむ。あやつは無類の風呂好きだからな。温泉ともなれば尚更だろうよ」


 苦笑するメルヴィン王。なるほど。今まで俺の立場に遠慮して距離を置いていたのに、温泉が楽しみ過ぎて堪えられなくなったというところか。ジャグジーの完成品などを見たら自宅に付けてほしいなどと希望するかもしれない。

 まあ、それはそれとして。


「温泉の進捗状況もですが、他にもお話がありまして。クラウディアと話をしたのですが――」


 クラウディアとの間で話をしたことをメルヴィン王に話して聞かせる。


「ということで、一度テフラ山に足を運んでおきたいと思うのです。勿論、ジルボルト侯爵に話を通して、許可をもらったうえでですが」

「そなたもシルヴァトリアに向かうと?」

「そうですね。クラウディアとテフラの護衛の形になると思います」

「ふむ……」


 メルヴィン王は顎に手をやり、思案を巡らせると頷く。


「あい分かった。ジルボルト侯爵へは余から意向を尋ねておこう」

「護衛と言えば、シルヴァトリアへの使者についての話も聞いたのですが」

「ステファニアか。確かに、今回の使者としてはこの上ない部分もあるが、首を縦に振りにくいところもあるのだ。用向きが用向きであるからな」


 相手が魔人絡みだけにステファニア姫が向かうのにはリスクがあるわけだ。


「それをここで余に聞いてくるということは……そなたがステファニアの護衛を買って出ると?」

「シルヴァトリアに渡り、テフラの護衛もしますからね。クラウディアと別行動というわけにもいきませんし。それならば万一の事態に備えて、転移魔法という保険を残しておけるのかなと」


 万一の事態。例えば王太子がシルヴァトリアの軍事力を完全に掌握していて、追い詰められて反転攻勢に出るだとか、魔人が王城にまで入り込んでいるだとか。


「それに……あちらの協力が得られれば、瘴珠についての情報も手に入れられるのかなと思っています」

「なるほどな……」


 メルヴィン王は目を閉じて、先程よりも、かなり長い時間、考え込んでいる様子だった。


「余は、そちに頼り切りであるな」

「僕自身のやりたいことにも合致していますから」


 俺の言葉に、メルヴィン王は苦笑とも自嘲ともつかない笑みを浮かべると顔を上げた。


「1つ約束してほしいことがある」

「なんでしょうか?」

「仮に何かを掴んでも、ベリオンドーラにだけは向かわぬようにしてほしいのだ。状況が分からぬのでは危険過ぎる」

「分かりました。約束します」


 まあ……護衛だしな。ベリオンドーラに限らず、無茶をしないように心がけよう。




「旦那様。チェスター様がお見えになりました」


 王城への報告なども終わったのでみんなで家に戻り、娯楽室で寛いでいると、セシリアが呼びにきた。


「ん。分かった。すぐに向かう」


 チェスターが1人で家に来るというのは割と珍しいかも知れない。何だろう?

 応接室へ向かうと、いつもの騎士の装束ではなく、貴族風の服に身を包んだチェスターが待っていた。


「こんばんは」

「夜分恐れ入ります」


 チェスターが一礼する。向かい合って座ると、アルケニーのクレアが丁寧な仕草でティーカップに茶を注いでくれた。


「ありがとう」


 礼を言うとクレアは微笑んで部屋の隅に控える。クレアに限らず、最近はみんな使用人としての立ち居振る舞いが板についてきている気がする。このあたりはセシリアとミハエラの指導の賜物だな。

 さて、チェスターの話を聞こう。


「どうなさいました? 遊びに来たというわけでもなさそうですが」

「そう、ですね。ヘルフリート殿下から相談を受けたのです。テオドール卿のご意向を伺いに参りました」


 ヘルフリート王子から相談ね。


「ヘルフリート殿下が、ローズマリー様のことでテオドール卿とお話ができないかと。ついては、私に橋渡しになってほしいと頼まれたのです。急な話で申し訳ないのですが、何分ヘルフリート殿下の滞在期間も短いのでご寛恕頂きたく」

「僕と話ですか」


 第三王子ヘルフリート。姉であるローズマリーとは一度北の塔で面会して、かなりあっさりと拒絶されていたからな。それからは多分会っていないだろうし……。


「その、ヘルフリート殿下は一度テオドール卿に失礼なことを言ってしまったから、嫌われているのではないかと心配なさっていましたが」

「いえ。謝罪の言葉もいただきましたから」


 そんなに大したことでもなかったしな。けれどそういうことなら、別に俺に対して文句があるというわけでもないのだろう。となると姉を心配しているという線かも知れない。

 確かに、一緒に北の塔を訪れたチェスターに渡りを付けてもらうというのは正しいだろうな。


「殿下は、もし面会していただけるなら、全てテオドール卿の都合に合わせますと」

「分かりました。彼女も同席したほうが?」

「それについてはどちらとも口にしていませんでしたが……話はローズマリー様に伝わっても構わないとは仰っていました。用向きも、ローズマリー様に関することだと思います。随分と心配なさっていましたので」


 んー。まあ、そうだろうな。ヘルフリート王子が俺に何か話があるとしたらローズマリーのことだろうし。

 それで、ヘルフリートはタームウィルズの滞在期間も短いと。……ふむ。


「分かりました。……そうですね。できるだけ早いほうが良いというのでしたら、明日の昼過ぎに儀式場で。それ以降は夜に王城か自宅でとなってしまうのですが」


 アルフレッドとは明日、魔道具の動作テストを約束をしているからな。アルフレッドもやや忙しいのでそこは外せないところがあるというか。

 それに、今のローズマリーの現状を知ってもらうなら、変装用指輪が必要とはいえ、割合気軽に外出できるところを見てもらうのが一番良いだろう。


「分かりました。ヘルフリート殿下にはそうお伝えしておきます」

「返答は通信機に連絡を頂ければ」

「はい。では、あまり遅くならないうちに連絡を差し上げられるようにいたします」


 そう言って、チェスターはもう一度深々と頭を下げるのであった。

 まあ……ローズマリーには伝えておくか。ローズマリーの性格を考えると、この話を聞かせたら多分同席を申し出るだろうし、自分のことで知らされずに蚊帳の外に置かれるというのもなんだしな。

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