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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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227 王子の憂慮

 明けて一日。ヘルフリート王子とは昼過ぎに儀式場で会うという約束になった。
 その時間までは予定通りだ。魔道具の実地試験などをしながら、公衆浴場の建設を進めていこう。みんなも建築風景を見たいということなので、一緒に回りながらあちこち作っていく。

 さて。公衆浴場は全体の規模で言えばかなり大型の施設になる。設計用の模型に従い、地下に水路を作り、施設のあちこちに湯を引ける状態にしておく。
 水流を操作したり泡を発生させたりするのにはパネル型やパイプ型の魔道具を用いる。触れた水を任意の勢いや方向に流すという、まあ簡単な構造だ。
 これを風呂やプールの壁や床などに配置して、水を任意の場所に引いたり流したり、あるいはジャグジーを再現したりできるわけだ。
 まだ魔道具の準備が間に合っていない部分もあるので、そういう場合は魔道具を組み込む前の段階で止めて、下準備だけ済ませておく。

 近くの資材置き場からゴーレムに資材を運ばせる。敷地を塀で囲み、入口部分に入場ゲートを建てていく。
 ここは入場の受付や施設案内、手荷物預かり所、それに湯着を販売する売店などの設備を用意する予定である。

 ロビーから廊下を通り、2階建ての別の建物へ。こちらは温泉設備になる予定だ。
 男女別の大浴場と食堂、2階に休憩スペースとテラス。それに遊技場。更に屋上にスライダーを作り、そこから滑り降りてもらうという形になる。
 1階大浴場には通常の浴槽、うたせ湯、ジャグジー風呂、サウナ。2階テラスに足湯を配置。

 ジャグジー風呂には湯を張り、実際に魔道具を動かしてみる。適切な勢いかどうかなど、実地で試験しながらという形だ。マルレーンがジャグジーを食い入るように見ている。

「出来上がったらまたみんなで入ろうか」

 そう言うと、マルレーンは顔を上げて、にこにこと笑みを浮かべながら頷いた。みんなにモニターになってもらえればとも思うしな。

 屋上へ移動する。スライダーは3本用意。並走させる形で曲りくねらせ、終点となるプールへ。プール脇に階段を設置し、建物内を通らずに屋上へ行けるようにしておく。

「湖の時より、かなり大きいのですね」

 グレイスが屋上からスライダーを見下ろして、言う。

「こっちは即席じゃないからね」
「僕としては即席でそんな物を作ったというのが驚きだな……」
「いや、まあ……」

 アルフレッドに曖昧な笑みを返しておく。
 スライダーの上部へと魔道具で水を引き、入り口から下へ向かって流す。ジャグジーもそうだったが、水の量、勢いは適切か等を見ながらここで調整していくわけだ。
 スライダーの調整はしっかりとやりたいところだ。アクアゴーレムを通常よりもかなり高速で滑らせることで、コースアウトの危険性がある箇所を潰していく。

「ここ、支えた方がいいかも」
「了解」

 各所に足場を設け、セラフィナと共にスライダーをつぶさに見て回る。構造的に弱い部分を補強。後で落下事故防止用の網を設置。まあ、温泉施設とスライダーに関してはこんなところで良いだろう。

 次に屋外。屋外設備は男女共用のスペースである。水着ないし湯着を着用して利用することとなるが――水着は素材からして高級品で数が少ないため、安価な素材の湯着を販売する予定だ。

 スライダーの側に温水プールや流水プール。水深の浅い子供用プールに合わせて、小型の滑り台を用意。流水プールは浅めに作り、流れの勢いなどを確かめていく。

 プール設備全体が見渡せるように監視塔を設置。監視塔にはプールで客が溺れたりした時のために、ライフセーバーの役割を担う人員が配備される予定だ。
 何か発見次第すぐに駆けつけられるように、監視塔の上から飛び出せるように扉をつけた。空中戦装備をつけて、直接急行。水中呼吸の魔道具で溺れた人間を救助するというわけである。
 折角なので監視塔の使い勝手をシーラに試してもらった。

「行ってみる」

 扉を開いて監視塔からシーラが飛び出し、プールの向こうまで空中を滑っていく。そしてこちらに向き直って手を振ってきた。イルムヒルトが笑みを浮かべて監視塔上部から手を振り返す。
 うむ。使い勝手も悪くなさそうだ。空中戦装備に慣れる必要があるが、救助訓練の一環と思えば問題はあるまい。



 そんな調子で公衆浴場の建築を進めていると割合良い頃合いになった。
 儀式場へ向かい昼食を食べてから東屋で寛いでいると、馬車に乗ってヘルフリート王子がやってくる。

「こんにちは。お久しぶりです」
「ご無沙汰しております」

 馬車から降りて一礼してくるヘルフリート王子に挨拶を返す。

「この区画や建物は、大使殿がお作りになられているという話でしたね。まさか外壁までとは……」

 ヘルフリート王子は周囲の景色を眺めながら目を丸くする。

「まだ街並みが未完成で、殺風景ではあるのですが」
「いいえ。驚きました。お忙しいところを、無理を言って申し訳ありません」
「そんなことはありませんよ。働き詰めでは疲れてしまいますし」
「そう言って頂けると助かります」

 挨拶のやり取りもそこそこに、儀式場の滞在施設にある応接室に通し、ローズマリーと共に話を聞くことにした。

「久しぶりね、ヘルフリート」
「姉上……お久しぶりです」

 部屋に入ってきたローズマリーに声をかけられて、ヘルフリートは居住まいを正す。前回の経緯もあってか幾分か緊張しているようだ。まあ、それは仕方が無い。
 ローズマリーにヘルフリートが面会を希望していると伝えたところ、今回は加減すると言っていた。ローズマリーも状況が変わってきているので、ヘルフリートを殊更遠ざけなければならない理由も、薄くなってきている部分があるしな。

「ヘルフリート殿下の用向きは、やはり姉君であるローズマリー殿の件でしょうか?」
「はい。父上からはある程度のことを聞かせていただけました。だからこそ、心配と申しますか。多分、僕がそんなことを気にするのも筋違いなのだとは分かっていますが……場所が移されたと聞かされて驚いてしまいまして」

 メルヴィン王からの事情説明としては、魔法薬や占い師に変装するなど、具体的な核心部分はぼかした形になっている。
 ただ、ローズマリーが王位継承に絡んで策謀を巡らし、貴族の秘密を握ったり、それを利用して脅しをかけたりしていたという部分についてはヘルフリート王子に説明してあるそうだ。

 だからその懲罰として北の塔に幽閉されたという部分も説明がなされている。
 幽閉は別な見方をすれば暗殺や報復を防ぐための隔離でもある。そこまではヘルフリート王子も理解はしているはずだ。
 だが、現状ローズマリーはこうして、外に出てしまっている。ヘルフリート王子としては、暗殺の危険などを心配する場面ではあるだろう。
 となれば、まずはローズマリーの現状報告からだな。俺が彼女の身柄を預かっている理由などについては話をしておいたほうが納得もしてもらえるだろう。

「実はローズマリー殿には以前より迷宮絡みで古文書の解読を手伝って頂いているのです」
「姉上が古文書の解読……ですか?」
「そうですね。魔法の才能がおありなので。陛下の意向としても幽閉の間、償いとして労務を課した形に近いのかも知れません」
「わたくしも父様の意向についてはそう認識しているわ。まあ、古文書の解読というのは償いだと言うほど辛くも無かったけれどね。それなりに楽しませてもらっているもの」

 そう言って肩を竦める。
 異界大使としての仕事に絡んで、迷宮関係の古文書解読の手伝い、ということで説明するのは、まあ問題ない。

「ですが問題が持ち上がりました。実はその古文書の中に魔法の罠が仕掛けられている物が紛れていたのです。本の内部に魂を引き摺りこむというような」

 その際、古代の魔術師が仕掛けた魔法の罠で一度ローズマリーの命に危険が及んだ、ということについても明かす。ローズマリーが何故俺のところにいるのかは、そこを避けては説明できないからだ。

「わたくしはその罠にかかり――そこを本の中まで追い掛けて来てくれたテオドールに命を助けられたのよ。返し切れない恩だと思っているわ」

 ローズマリーは目を閉じ、ヘルフリート王子は流石に驚いたような顔をしている。

「そう言った魔法の罠については、特に強い月女神の祝福によってなら対策が取れることも分かっています」
「ああ、つまりマルレーンがいれば……」

 ヘルフリートは合点がいったようだ。クラウディアのことは伏せる必要があるが、マルレーンのことについては降嫁の話を耳にしているだろうし、巫女としての才能についても知っているのだろう。

「はい。ですので魔法の罠から身を守るために家で古文書解読を進めています。暗殺対策としては指輪を使った偽装もしています」

 ヴェルドガルの王族であるなら変装用指輪の存在も知っているはずだ。ここも明かして問題ない。

「だから、幽閉されていた時とは違い、こうして外出もできるようにもなったわ。これも父様の情けではあるわね。納得してもらえたかしら」
「そうですね。色々納得がいきました。大使殿のお噂も……聞く限りでは大変なものばかりでしたから、きっとタームウィルズでは最も安全なのかも知れませんね」

 どんな噂かは……まあ聞かないでおこう。多分変な尾ひれがついていると思うし。

「その……僕としては、もう1つだけお聞きしたいことというか……気になることが出てきたのですが」
「何でしょうか」

 尋ねると、ヘルフリート王子は少しの間逡巡していたようだが、大きく息を吸ってから、真剣な面持ちで切り出した。

「――姉上の、嫁ぎ先です」
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