番外1576 地底の住民達
これからの方針についてナヴェルと話しながら、どう動くべきか、等の対応についても話をしながら移動していく。
魔法路の流れに沿ってのものなので移動というよりは川下りのようなものであるが。浮かんでいるのに身を任せているだけでいいので身体を休めるには丁度いいな。
目的地到着まではまだ少しかかるとのことである。
攻撃術式でなければある程度の魔法行使や魔道具の使用も問題ないとの事なので、オズグリーヴの空飛ぶ絨毯も使って、そこで寛がせてもらう。
「何やら皆を差し置いて悪いですな」
「いや、オズグリーヴはずっと能力を展開してくれていたからね」
「そうですね。お陰で大空洞内部を進んでいるときは心強いものでした」
空飛ぶ絨毯の上でお茶を飲むオズグリーヴに俺やエスナトゥーラがそう答える。
オズグリーヴにはずっと煙で落盤の対応等の警戒してもらっていたからな。今のタイミングで休んでもらわないと、というのはあるな。
レアンドル王には護衛がついているということもあり、空飛ぶ絨毯に乗ってもらってはどうかとオズグリーヴも勧めてくれた。
護衛達としても守りやすそうに見えるな。
ロベリアも空飛ぶ絨毯を気に入ったようで、先頭の方にナヴェルやセラフィナと共に腰かけて楽しそうに魔法路を進んでいる。
俺は俺で、コルリスが背中に乗せてくれるとのことなので、そうさせてもらっているが……毛並みの手触りも中々に良いものだ。
ペトラがそれを見ていたところ、アンバーが自分の背中に乗ってはどうかとそんな風に仕草でペトラに提案していた。
「これは……乗っていい、という事でしょうか?」
「そうみたいだね」
頷くアンバーに、コルリスもこくんと頷いて肯定していた。
「えっと……それでは折角ですので……」
そんな風に言ってアンバーに乗せてもらうペトラである。最初は戸惑っていたようだが笑顔になっていたので結構気に入ったらしい。
そうやって少し寛がせてもらっているが……その実護衛達も要人を守りやすい位置についているし、コルリスやアンバーも隊列の前の方にいて、いち早くにおいを察知できるポジションでの移動なので対応力は十分なものだ。
そうして何駅か通り過ぎて……そろそろ目的地が近づいてきたとのことなのでとりあえず魔法路から降りる準備を進める。
空飛ぶ絨毯を片付けたり、皆を煙のロープで繋いで魔法路から降りる際にはぐれないようにしたり、という具合だな。
「実際魔法路の移動に慣れない内は縄を使ったりというのはあるので、良い方法ですね」
ナヴェルは頷いてそう言っていた。
「出入口に縄や乗り降りしようとしている者が挟まれた場合はどうなるのかのう?」
「そういった事故は仕組みとしては起こらないようになっていますね。出入口の間に何かがある場合、完全に閉じないようになっています。魔法路の流れも怪我をするほど早くはありませんし」
ロベリアが首を傾げて尋ねるとナヴェルが答える。それは安心できるな。
どうも転移魔法の衝突防止策のようなものが魔法路に関する術式の中に組み込まれているようだ。こうした細かい術式の洗練もナヴェル達の保有する魔法技術の高さを端的に表すものではあるな。
そうして……「次が目的地です」とナヴェルが教えてくれる。
「もう一度確認がてらお話をしましょう。私達が向かっている先は王都ですので、降りた先はきちんと警備も置かれた施設になっています。そこから更に徒歩での移動をして王都に向かう必要があるのですが……私は手傷を負って出遅れてしまったと思いますので、今回の事態を受けて警戒態勢が敷かれているかも知れません。状況を見つつ安全確認ができれば、私から事情を説明し、連絡をしてもらって対応を待ち、それに合わせて動いていく、といった形になるかなと」
「余らは降りた場所で一先ず待機ということになるな」
「ご不便をおかけします」
「いや、構わんさ。非常時に想定していない国外からの来客ともなれば慎重になるのも当然であろうし、ナヴェル殿にはかなり気を遣ってもらっている事が分かる」
ナヴェルに笑って応じるレアンドル王である。
「そう言っていただけると助かります」
ナヴェルは礼儀正しくそう応じて――やがて行く手に六角形の円盤のような魔力反応が見えてくる。流れも緩やかになってきて……ナヴェルがマジックサークルを展開すると魔法路から降りるためのゲートが口を開けた。制御できる術者がいれば、ああして遠隔で出入口を開ける事も可能なわけだ。
みんなで開いた出口に向かって寄っていき身体をゲートから外に出す。
すると、入口に身体をかけた瞬間、流れの勢いに乗せて押し出されるような感覚と共に、開けた空間に軽く放り出される。
少しだけ地面から浮くようにして飛び出し、ゆったりとした速度で着地。なるほど。これは確かに乗り降りも安全そうだ。
俺達が出た場所は――明らかに人工的な建造物の内部だった。魔法路内部から見て魔力反応も六角形だったが、ここの魔法路乗降口も六角形をしているな。
王都最寄りの魔法路入口で、偽装する必要がないので、足元のスライム状の物体も青白い色をしている。本来はこういう色なのかも知れない。
乗降口から外への道は……一か所だけだ。台座のようになっていて、外壁側の門に門番か警備員らしき者が二人ほどいる。
なるほど。聞いていた通り体格や姿も人それぞれでまちまちというか。
シルエットはナヴェルとは全然違うな。人より少し大柄で、頭部が四角い石板型という……モノリスのような人物と、胴体と顔が一体化しているような体格の人物とが警備担当者のようだ。予期せぬ来訪者に少し固まっていた。
どちらも金属質な身体で、魔法生物のようにも見えるが魔力反応はナヴェルと共通したものがある。手にしている武器らしきものは槍のようにも見えるが……穂先に当たる部分の先端が丸みを帯びていて、浮遊するリング状のパーツもついている。
中々独特な形状の武器だな。魔力で穂先部分を形成したり光弾を飛ばしたりといったことができるだとか、そういった武器だろうか?
彼らが警戒態勢を見せる前に、ナヴェルが一礼して言う。
「国外からの使者を連れて参りました。王都に取り次ぎをお願いしたく存じます」
「これはナヴェル殿……!」
「連絡が取れずに心配しておりましたが……。国外からの……使者ですと……?」
二人の警備員が驚きと困惑を見せるも、ナヴェルは頷いて冷静に言葉を続ける。
「話すと少し長くなってしまうのですが……退避した先で偶然出会い、傷の治療までしてくださった私の命の恩人でもあります。ドラフデニアの国王陛下とヴェルドガル王国の境界公――公爵位相当の爵位を持つ方と、その護衛の方々です。規則は承知していますが、失礼のないようにお願いしたく思います」
ナヴェルの言葉に合わせるようにレアンドル王が頷き、俺も一礼する。
「それは……わかりました。一先ず、ナヴェル殿は私と一緒に事情の説明に向かっていただけますか?」
「勿論です」
「その間……そうですね。待合室にて、少し待機していただきますか」
モノリス風の警備担当が俺達を見て言う。どうやら案内してくれるようだ。
「普通の生き物に私達の暮らしている環境は厳しいと聞いたことがあるのですが……あなた方は大丈夫でしょうか?」
「そう、ですね。今のところは問題ないように思います」
体調は大丈夫か聞いてみたが……各々頷いて応じてくる。皆の反応を見ても、生命反応を見ても、加護と魔道具のお陰で一先ずは問題なさそうだ。
現時点でかなり気温等が高いのは分かっている。建物の外に出ると環境も結構変わっていそうだな。