番外1575 魔法路に乗って
魔法路の内部へと全員が入ったのを確認したところで、ナヴェルは頷くとマジックサークルを展開した。こちらに入ってきた魔法路の出入り口が閉じて、俺達の身体もどこかに流されていく。何か大きな流れに身を委ねているというのは分かる。
例えるなら流水の中に身を任せているかのような、と言えばいいのか。海流に身を任せていたらこんな感じなのかもしれない。うねるような感覚だ。周囲に感じるのは、水ではなく土の魔力ではあるが。
視覚的には夜の闇のような暗い世界に青白く輝く河のようなものが遠くまで続いていて――その中を流れに沿って移動している、という感じだ。
俺達の乗っている魔法路の外に薄っすらと輝く色取り取り光の筋や粒は魔法路外の魔力反応……だろうか。あまり広い範囲まで見えているわけではないようだが周囲に広がっていて綺麗なものだ。
魔法路内はある程度広々とした幅があり、その中を流れに乗ってではあるが割と自由に泳ぎ回るような感覚で動くことができる。
魔力路の外縁部は触れても大丈夫という事で触ってみたが、何というか滑らかで弾力のある質感を感じられた。
「これは何というか……不思議な感覚ですね」
「見た目も中々面白いもんだ」
ペトラが目を瞬かせ、ゼルベルが少し笑って同意する。みんなも興味深そうに魔法路の様子を見たり外縁部に触れたりしているようだ。そうしたみんなの反応にナヴェルも頷いていたりするが。
「魔法路による移動に関しては非常時ではありますから完全に安全とは言い切れませんが、私が流れに身を任せて現場から流されてきたことから分かる通り、問題の起こった場所から一旦離れる方向に動いているという状況でもありますし……魔物等に対しては外から襲われないという実績もあります」
「それは……もうしばらくは安心かも知れませんね。あまり油断しているのは問題ですが、次に備えて肩の力を抜くぐらいはできそうです」
「確かにな。移動が比較的安全というのは良い事だ」
ナヴェルに答えた俺の言葉に、レアンドル王も頷く。大空洞内部では警戒を怠ることはできない。中継地も結界は張っていたがワームの巣の近くという事を考えれば心情的に完全に気が抜けるかと言われれば、難しいかも知れない。氏族達は魔物相手も日常茶飯事なのでそれほど気負ったりもしない傾向があるが、レアンドル王の護衛達は話も違ってくるだろうし。
「流れに逆行できればもう少し早く目的地に到着したとは思うのですが……。仕組み的にも状況的にもそれは難しいので、今しばらくはこのままという事になりますね。多少気を休める時間はあるかと」
地脈はナヴェル達の拠点から拠点を繋ぐ形で大きく周回するような流れがあるらしい。
一方通行ではあるが山手線や環状線のイメージだな。
地脈が繋がっていない部分は一旦降りて乗り継ぎもするという話で、俺の中でのイメージは更に鉄道に近くなる。とりあえず今回は途中で乗り継ぐ必要はない、とのことでこのまま流れに身を委ねていればいいのだとか。
『魔法路は……コルリスやアンバーにとっては心地の良い場所みたいね』
「土の魔力を感じられるからかな」
ステファニアが言うと、コルリスとアンバーが揃ってこくんと頷く。今の話も受けてか、リラックスしている感があるな。何というかコルリスもアンバーも既に流れに身を任せているようで、実際嗅覚で何か感知しない限りは大丈夫そうだ。
「地下に住まう魔物にとってはそうかも知れませんな。自分以外の力で地下を泳いでいるようなものですし」
なるほどな。魔法路は地脈を利用した地下潜行の補助に近い部分があるだろうか。流れとして元々あるものを利用し、それに乗っている形だし。
「ナヴェルさん達はかなり魔法技術が高いようですね」
「恐れ入ります」
俺の言葉に静かに一礼して応じるナヴェルである。ナヴェル自身もかなり魔法行使に慣れている部分があるようだしな。
自己治癒に防御結界、浮遊に魔法路の制御と、多彩だし術式自体も整っていると感じられる。
ナヴェルが術者として優れているのか、種族傾向としてこうなのかはまだ判別できないところはあるが……魔法路網の構築や整備も含めた独自の技術体系を持っていて、それがかなりの水準である、というのは間違いない。現時点ではその辺、あまり詳しく聞くというわけにいかないが、色々と興味は尽きないな。
「そう言えば、コルリス達――ベリルモールに関してはナヴェルさん達の中ではどういった存在なのですか?」
「地上ではベリルモールと呼ぶようですね。大モグラによる鉱石の食害も一応ありますが、生活圏がやや違いますからね。私達の方が深い地に住んでいるので、そういう隣人もいる、ぐらいの認識でしょうか」
ベリルモールという種族名は地上のものなのでコルリス達を示す名は違うものらしい。大モグラとか鉱石モグラなどと呼ばれているそうだ。
地上の情報の更新。共有している知識の細かな部分での違いが見られるのは面白いな。やはり、地上の情報収集はしていてもその辺は限定的だし、情報更新もそこまで頻繁ではないと見える。地上に対して敵対的ではない、というのはこの辺からも分かる事だ。警戒なり野心なりがあるなら偵察は積極的にするものだから。
そうやって移動していると、流れの先の方に何やら大きな楕円形の魔力反応が見えてくる。
「あれが魔法路から降りられる場所ですね。降りる場合は術式等を必要とせず、あれらに掴まるように触れて魔道具を使う感覚で外に出ようとすれば問題ありません。万一はぐれてしまった場合はその方法で降りて頂き、仲間達には私の名とこれから向かっている場所の名称を出して下さい」
ナヴェルが説明するとみんなも真剣な表情で頷いていた。今回は目的地についたらみんなで簡単に降りられるように制御してくれる、とのことではあるが……確かにはぐれた時の事を考えるならば降りる際は簡単にしていないとな。
駅制度という理解は大体当たっていたようで。魔力路内部からならば魔力反応が見られることを利用して、魔石粉か何かで駅名らしき文字を書いているのも見受けられた。
そして……乗降口になっているスライム部分の魔力反応と少しゆったりと速度ですれ違っていく。
掴まって乗り降りする分には問題ない速度だな。通り過ぎたところで加速しているのだろう。遠ざかるのが次第に速まっていくのが分かる。
「術式制御による加減速もできます。地脈の流れの急なところと緩やかなところもありますが、乗降の場所は流れが比較的遅い部分に作られていますね」
なるほどな。
みんなも魔法路内部を少し泳いだり外縁部に触れたりして性質等も分かってきたようだし、ナヴェルもフォローしてくれるので問題はなさそうだ。では……現地に到着してからの段取りを話しておくか。
そうした話題を振ると、ナヴェルは頷いて、到着してからの状況、考えている段取りなどについての説明をしてくれる。
「地脈の通っている場所と、拠点作りに適している場所は一致しているわけではありません。降りた後は私達の住んでいる都市部に向かって、少し大空洞内部を移動することになります。拠点付近の乗降口には見張りも置かれているので、その際の説明や状況確認は任せて下さい」
「色々と世話になるな」
「いえ。私個人としても、良い方向で協力し合える形に落ち着けば嬉しいですから」
レアンドル王の言葉にナヴェルはそう言って穏やかに応じるのであった。




