番外1564 群れ成す魔物
最初に突っ込んだのは先頭を走ってきたコルリスとアンバーだ。結晶の鎧は纏ったまま。互いの手を取り合うと踊りでも踊っているかのようにぐるぐると回り出す。結晶の鎧からスパイクが生えて、二体のベリルモールによるミキサーのような大回転を見せた。
そのままワームの群れに臆することなく飛び込んでいく。
ワーム達からしてみれば背後からの強襲になる形だ。高速回転するスパイクに群れの一角を突っ込まれて、抉られながら吹き飛ばされる。
が、臆さない。ワーム達は仲間達が抉られている事などいざ知らず。攻撃を受けたことや背後から俺達が迫っていることに気付くと、一部のものが向きを変えてこちらに向かって突っ込んでくる。
一匹一匹が体長にして2メートルはある。群れの数も相当なもので、極端な大型ではないが、これが群れで地上に出てきたとなると、人にとっては結構な脅威と言えるだろう。
コルリスとアンバーによってまとめて抉られて弾き散らされるが、その内少し体格の大きな個体がムカデのような大顎を動かし、槍のようにとがらせると錐揉み回転をしながら応戦してくる。生きた槍のような一撃とミキサーとがぶつかり合って、火花が散る。顎の先に魔力を込めているらしい。
干渉しあっての相殺合戦になる――のをコルリスとアンバーは好まないのか。あっさりと互いの手を放し、ワーム達のいない方向へとそれぞれ吹っ飛んでいく。スパイク状態なのでちょっとした弾丸だ。ワーム達は動じたところもなく追いかけるが、コルリス達は大人しく予想される着地点には落ちない。空中に展開したシールドに爪を立てるようにして静止すると、そのまま結晶弾をばらまきながら空を駆け、互いの背を守り合うような動きを見せた。
空中に留まったままで戦うのは難しい。そうした場合、連中がルトガー達に殺到して、彼らの負担が増えてしまうからだ。だからこそ地上に降りてワーム達をそれぞれで引きつける必要がある。
コルリス達はステファニアの指導もあるのか、かなりの連携が取れているようだ。そうそう遅れをとる事はあるまい。加えて、ルトガー達に向かっていたワーム達の一部が分散して、少しあちらへの圧力が減っている。
続く俺達もそれに倣うように、ある程度の分散する動きを取る。分散させただけルトガー達の負担が減る。切り崩してあの場所まで向かう。
ある程度分散するのは……こちらにはレアンドル王のような重要人物や、バイロンのように単身で複数体を相手にするのは難しい者がいるからだ。
「行くぞっ!」
のたうつ津波のように迫ってくるワームの群れに、マジックサークルを展開しながら真っ向から突っ込む。振りかぶって叩きつけるような動きと共にソリッドハンマーが展開して、迫ってきたワーム達を叩き潰す。問題、ない。それなりに強固な体表ではあるが攻撃は十分に通る……!
バロールがディフェンスフィールドを展開して陣取ると、それを中心にレアンドル王やドラフデニアの武官達も立ち回る。
「バイロン! 単身で前に出過ぎるなよ! 我らや境界公の防御術と共に戦うぞっ!」
「は、はっ! レアンドル陛下!」
レアンドル王の言葉にバイロンはディフェンスフィールドから前に飛び出さず、その場で剣を構える。
バイロンは一瞬迷ったようだが、決然とした表情になる。騎士達の配置や動きを見て、支援すると心に決めたようだった。一人の背を守るように剣を振るう。ディフェンスフィールドによって動きが鈍ったワームを、横合いから半ばまで切り裂いて、地面に叩きつける。
レアンドル王とも視線が合うと頷いて見せてくれた。セラフィナとロベリアもすぐ近くで一緒にこちらを見てくる。こちらの事は任せろ、と言ってくれているようだ。俺も頷き返し、目の前のワーム共に小さな竜巻を纏って突っ込んでいく。
俺達もまたワームを引き連れながらここまで来たので、背後からもワームの群れが追ってきている。その連中に関してはテスディロスが受け持ってくれるようだ。
「今後の事も考えるなら、数を減らしておく方が安心できるだろうな」
「皆のいるところまでは向かわせませんぞ。どうぞ、心置きなく」
「助かる」
壁の穴は複雑に繋がっているので一か所だけ抑えても意味がないが、オズグリーヴの展開する煙ならば穴自体を埋めたり、穴を抜けた先に防壁を展開できる。煙の壁の向こう側をテスディロスが迎撃するフィールドと位置付け、そちらで大立ち回りを演じる事にしたようだ。当たるを幸いなぎ倒し、雷のような軌道で縦横に駆けながらワーム達を散らしていく。
オズグリーヴは――ゼルベルが身の安全を守っているということもあり、他の戦場にも干渉している。一瞬だけ煙の線を長く伸ばしたかと思うと下から煙のシャッターが迫り上り、それぞれの戦いの場にワーム達が一挙に殺到できないように、後続を断つ。
煙のシャッターは薄いもので、それほど強固ではないが、元々煙だから力任せの破壊はしにくい。戦況に合わせて動くので効果は十分過ぎる程だ。
広範に手を広げている分オズグリーヴの守りは薄くなるが――そこはゼルベルが迎撃に動いている。下から掬い上げるような腕の動きと共に赤い闘気が噴き上がるとワーム達がばらばらになって宙を舞った。
ワーム達は――こちらに殺到しながらも一部では共食いしている。食った側が欠損していた場合、そこがみるみる内に再生して、また向かってくる。道中にこいつらの遺骸が残っていなかった理由が、これか。
表面の装甲部分は再生したばかりだとまだ柔らかいようではあるが――!
「捕食による再生能力持ちか!」
厄介な特性を持っている。
「そういう事ならば――!」
オルディアの振るう腕が煌めく魔力を波のように放てば、それに飲み込まれたワーム達から次々と宝石が生じる。
オルディアがした事は、能力封印を再生能力に限定しての干渉だ。既に一体を完全無力化して結晶化していたという事もあり、相手の性質の分析が進んでいるのも相まって効果はすぐに顕著なものとなって表れる。
つまりは、共食いしても回復しない。傷ついた個体は回復せず、食われた個体はそのまま動かなくなる。
連中は――習性に従った動きをするのかと思っていたが、数匹が声を上げると一斉に向きを変え、傷ついたものもそうでないものもこちらに向かってきた。
共食いされる側がろくに抵抗しないのも、ああして集団で行動するのも蜂のような真社会性を有しているからか。好戦的で貪欲なのは間違いないが――。
それでも共食いを封じられると損耗が速くなるのは間違いない。オルディアが特性を逆用したというのもあってエスナトゥーラも同様に、共食いを封じる戦法に出ていた。エスナトゥーラの魔力特性は減衰だ。鞭を叩き込んだ相手に魔力を仕込み、あえて共食いは見逃す。
内側から減衰させられて、再生しないばかりかそのまま動かなくなるものもいた。状態に気付いたのか、ワームが声を上げようとするが、それは通用しない。
「組み合わせた音波で交信してるんだね」
セラフィナが真剣な表情で言う。オルディアやエスナトゥーラの能力を受けたワーム達の周辺に干渉しているようだ。危険を知らせる声を上げられない。だからそのまま共食いは続く。
ロベリアが囮の幻覚を見せて、ワームを引きつけ、その隙をつく形でレアンドル王や武官達が切り込んでいく。
そうして各々、オズグリーヴに分断された煙の区画の中で暴れ回りながら、ルトガー達に合流するように切り込んでいく。戦況に合わせて変形する煙の檻だからこそ、分断しながら移動ができる。
俺も――ウロボロスに魔力を込めて薙ぎ払い、打ち据えては巻き上げて、空中や後方に吹き飛んだワームを光弾で撃ち抜く。単身で煙の区画にいるので周辺には敵だけだ。遠慮はいらない。
「石化の術を放つ!」
「隔離は任せていただきましょう!」
オズグリーヴがすかさず答える。意図の理解が早くて助かる。土魔法第六階級ペトリフィケイション。石化の魔法を放てば、手傷を負って動けなくなっているワーム達はまともにそれに飲み込まれる。それでもう、共食いの対象にはなれない。石化の術は白い靄のような砲弾が射出される術で――弾速も射程も大したことのない術ではあるが、ダメージを負った状態では避けるのも術式そのものに抵抗するのも難しい。
石になった同族は――流石に食えないようだな。石化したワームをネメアやカペラが砕き散らし、小動物サイズの簡易呪法生物をバラまいて、食らいつきに来たワームを内部から爆破する。
ウィンベルグやルドヴィアが魔力弾をばらまき、コルリスとアンバーが結晶の槍と弾丸を浴びせる。
氏族達の装備品はかなりの効力を発揮しているようだな。危なげなく戦っている。
そうして蹴散らしながらワームの津波を切り開いていくと、その向こうにルトガー達の姿が見える。
「ご無事なようで何よりです!」
「おお、境界公! 救援に、心より感謝致します!」
闘気を漲らせるルトガーは自分達が健在であると示すように、にやりとした豪快な笑みとワーム達をまとめて薙ぎ払う斬撃波で応えて見せてくれた。




