番外1509 最後の解呪の前に
解呪儀式の日が近付いてくる。今回で魔人達の解呪が終わるという事で、各国や国内各地からも知り合いが訪問してきて、儀式やその後の祝いに列席する予定だ。
儀式を受けるテスディロス、解呪の終わる氏族達が主役であり、実際に儀式を進める俺やシャルロッテ、フォルセトを中心として動くので、来賓の応対は主にメルヴィン王やジョサイア王子が受け持ってくれる。
それでも儀式に駆けつけてくれるのは知り合いばかりであるし、準備もできていて支援もしてもらっているので負担は少ない。
というわけで俺も転移港へ出迎えに行く。
当日まで来賓はセオレムに宿泊したり、それぞれの公館、別荘に滞在したりといった形になるのかな。
「ああ、これはお二方とも」
メルヴィン王やジョサイア王子と、転移港で合流し、顔を合わせたところで挨拶をする。一緒に転移港の迎賓館で来賓を出迎える形になるな。
水晶板でフォレスタニアとも中継していて、ステファニアやマルレーンも父や兄の姿に笑顔で挨拶をする。ローズマリーは少し後ろの方で羽扇の向こうで頷いたりしているな。
「うむ。皆元気そうで何よりだ」
「月神殿からの話では、今日明日と、天候にも恵まれそうだよ」
娘達や孫の中継映像を受けて笑顔を見せるメルヴィン王と、そんな様子に穏やかに笑って教えてくれるジョサイア王子である。
天候の読みも月神殿の仕事の一つだからな。月女神への祈りの力も借りての予報なので天気予報の的中率は高い。
クラウディアもそんなジョサイア王子の言葉を肯定するように頷いている。月女神……シュアスの神格からすると、月から見た地域の雲の動き等も予報の情報として加味されていそうだしな。
「ありがとうございます。お二方の支援のお陰で、落ち着いて儀式を執り行えそうです」
お礼の言葉を改めて伝える。来賓の持て成しや日程の調整等は、王城側で儀式に合わせる形で進めてくれているからな。こっちの負担は本当に少ない。
「ふっふ、儀式に集中できているなら何よりであるな」
「魔人達との問題が解決するとなれば歴史的な事だからね」
メルヴィン王やジョサイア王子としても、解呪儀式が滞りなく進んでくれるのを望んでいるとの事だ。魔人達との戦いも一段落すれば……凶暴化した魔物は脅威として残るものの、対魔人用の結界までは必要不可欠ではなくなるし、そういう意味でも社会的な負担は減るな。対魔物用の結界は必要だから専門家の仕事が無くなるというわけではないけれど。
儀式の対象――当人であるテスディロスはと言えば、儀式当日を万全の準備を整えて待つという事で、フォレスタニア城で瞑想や訓練、日々の仕事をしながら静かに過ごしているという印象だ。
「先日のやり取りで瞑想にも迷いなく集中できている、ように思う」
と、テスディロスは先日そんな風に俺に語ってくれた。今も訓練場の片隅で静かに意識を集中させているな。まだ解呪されていないし封印状態ではあるが、魔力の質は実際に高まっているようで、瞑想の効果が出ているのは分かる。解呪した時に効果も増強されるだろうし、その辺も楽しみだな。
テスディロスを始めとした氏族達の現状についてもメルヴィン王、ジョサイア王子に伝えるといった話をしていると、通信機に連絡が入り転移の光と共に国外から人がやってくる。
姿を見せたのは――月のオーレリア女王と護衛の武官であるエスティータ達だな。
「これはオーレリア陛下」
メルヴィン王達と共にオーレリア女王達を迎える。
「祝いの言葉を伝えるには少し気が早くはありますが……此度はおめでとうございます。無事に解呪儀式を迎えられそうで、喜ばしい事だわ」
挨拶をするとオーレリア女王も少し遠い目をしてから微笑んでそう答える。そうだな。月の民も魔人達の成立と深い関わりがある。月の先王もイシュトルムと戦っていたりするし……オーレリア女王自身も解呪の完遂は他人事ではない部分があるのだろう。
それに引き続いてシルヴァトリアからもアドリアーナ姫や護衛のフォルカ達、魔法騎士が案内するようにしてエベルバート王、七家の面々、ジルボルト侯爵と知り合いが続々と現れる。
「いやはや、めでたい事だ」
エベルバート王やお祖父さん達も……儀式を迎えられる事をかなり喜んでくれているな。シルヴァトリアも月の民の系譜で、魔人達との関わりが密接だから。
それはハルバロニスも同様だ。長老達も姿を見せて、俺達や各国の面々に挨拶をしていた。
「こうして要人が集まって参りますと、一つの時代の節目となるのだなという実感が湧いてきますな」
「確かに。しかしまあ、これからの事も同様に重要ではあります」
「テオドール公が切り開いて下さった道筋です。我らも積極的に協力していきましょう」
と、しみじみと頷き合っているハルバロニスの長老達である。
月の民、シルヴァトリアにハルバロニスと、魔人達との関わりの深い面々は儀式に臨むモチベーションも高そうだ。
続いてバハルザードやグランティオス、ドラフデニアにグロウフォニカ……ベシュメルクにエインフェウスと、次々と各国の知り合いが姿を見せる。国内外の面々も顔を合わせ、転移港の迎賓館に場所を移して挨拶をしたりしながら、来賓の面々が揃うのをみんなで待つといった具合だ。
今回は東国、南方に西の海洋諸国に山間部のハーピー達、深みの魚人族やネレイド族、魔王国と……知り合いの国々がみんな列席希望だからな。過去最大規模というか、ほぼ世界首脳会談の様相を呈している。歓待の準備をしていたジョサイア王子は大変だったのではないかと思うが。
『これほどまでに沢山の面々が一堂に会して儀式に列席してくれるというのは……心強いものだな』
そんな様子を中継映像で見て、瞑想を終えたテスディロスが静かに言うと、オルディアやオズグリーヴも穏やかな笑顔で頷いていた。
こちらに中継しているわけではないが、冥府のヴァルロス達もこうした光景を目にしている。
「そうだね……。これなら儀式やお祝いも良いものになりそうだ」
やがて国内外で来訪を通達していた面々も揃い、迎賓館での顔合わせと挨拶も終わったところで、みんなと共に馬車の車列に乗り込んでミルドレッド達の護衛を受けつつ王城へと移動していく。
錚々たる顔触れだからな。街中への通達もなされて、タームウィルズの歓迎ぶりも結構なものだ。沿道や家々の窓から手を振る子供達を見て、デイヴィッド王子を腕に抱いたコートニー夫人もにっこりとした笑顔になっている。
魔人との戦いの終わり……。解呪と平和的な共存の道。そうした話が伝わっている、というのもあるだろう。
色んな意見もあるだろうと思っているが、こうして状況を歓迎してくれる人達が多いというのは喜ばしいことだ。
賛同してくれる人、喜んでくれる人、安心している人達の想い。それに……抱えた想いを胸に秘めている人達。氏族との共存と平穏……当人達の願い。それぞれの想いや考えを疎かにせず、前に進めていきたいところだ。
そうして、俺達を乗せた馬車が王城に到着する。タームウィルズに滞在する面々は……今日はこのまま王城で歓待を受ける形だな。俺は歓待の始まりに少し顔を出したらフォレスタニアに戻って明日に備えるといったところだ。
「うむ。明日儀式の後でゆっくりと話をしよう」
『ふふ、そうですね』
イグナード王とオルディアも水晶板越しに言葉を交わしている。イグナード王とオルディア、レギーナはそれなりの頻度で顔を合わせているが、タームウィルズで久しぶりに再会する面々もいるからな。集まってくれた面々にとっても有意義なものになると良いな。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!
今月、8月25日に境界迷宮と異界の魔術師13巻が発売予定となっております!
詳細については活動報告でも掲載しておりますが、今回も書き下ろし番外編を収録し、特典SSも用意しております。
こうして刊行についてのご報告ができるのも、ひとえに読者の皆様の応援のお陰です。改めて感謝申し上げます!
ウェブ版、書籍版共々頑張っていきたいと思っていますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。




