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番外1486 伯爵家夫妻への想い

 転送魔法陣を利用し、オルトランド伯爵領に移動する。


 シルン伯爵領からケンネルも転移港経由でやって来るという事になっているな。

 エリオットの身内や友人が各方面から集まる形ではあるが……子供が生まれても今日面会できるのは、やはりアシュレイやケンネルといった限られた身内だけにしておいた方が無難だろう。


 それはそれとして、やはり状況が動く前にエリオットを交えて循環錬気を行い、カミラと子供の生命力を増強しておく必要があるだろう。


「よくいらして下さいました」


 俺達が転送魔法陣経由で姿を見せると、エリオットが嬉しそうな表情で迎えてくれて、待合室へと案内してくれる。挨拶もそこそこに循環錬気の事を伝える。


「状況が動く前に、循環錬気をしていきたいのですが」

『そうした方が良いだろうね』

『私達は、シルヴァトリアやシルン伯爵領から来る人達と合流してからそちらに行くわ』


 ジョサイア王子やアドリアーナ姫といった面々は転移港に向けて移動中だ。こちらの状況を水晶板経由で把握しているというのもあり、笑顔で応じてくれた。


「感謝します。では、少し席を外しますね」

「ロゼッタさんが来たら案内しますね。他の方達は、私が対応するのは問題がありますが」

「助かるよ、アシュレイ」


 エリオットはアシュレイとそんな会話を交わす。エリオットとアシュレイは他家の領主同士だからな。元々シルン伯爵領の後嗣で後になって生存が判明して戻ってきたエリオットだからこそ、その辺は気を遣わないといけない部分というのがある。

 家族としての関係まで制限するのは誰も望んでいないから、こうしたところできちんとしておけば安心、というわけだ。


 というわけで、カミラとルシールのいる部屋に入り、二人に挨拶をしつつも循環錬気を進めていく。カミラの父親――ドナートもそこにはいて。どうやらカミラと話をしていたところらしい。


「これは境界公」

「ドナートさんもご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」


 ドナートとも挨拶をする。

 ドナートは以前に会った時より元気そうだ。現在、オルトランド伯爵領に移住している。エリオットとカミラは結婚前にドナートがシルン男爵領に残ることを心配していたが、当人はタームウィルズに来るのを断っていたからな。

 エリオットとカミラが水入らずで過ごせるように、というのがあったそうではあるが、シルン伯爵家の状況が落ち着いたからとか、移住しても夫婦がのんびり過ごせる環境になった、というのもあるだろう。


 それに……仇であるイシュトルムも改めて討伐したし、過去の因縁からまた前に進むというのは必要だからな。


「こうして、色んな人が集まって力になってくださるというのは……心強い事ですね」

「確かにな」

「ああ。そうだね」


 そんなカミラの言葉に頷くドナートとエリオット。


「でしたら良かった。現状では循環錬気と祈りでの出番のみですが、駆けつけた甲斐があります」


 笑って応じて、それからエリオットがカミラと手を繋いで向かい合う。エリオットの肩に脇から手を触れるようにして生命力の増強をしていく、という形だ。


「生命反応は力強く感じますね」

「私も実際に直前で感知できて安心しました」


 俺の見解に笑顔を見せるエリオットである。エリオットにもカミラと子供のそうした生命反応は伝わっているからな。ルシールも「境界公の見解であれば間違いないかと思います」と応じてくれる。


 そうしている内にアシュレイに案内されてロゼッタやオルトランド伯爵領の女医もやってきた。循環錬気は一段落したので、エリオットはこれから遅れてやってくるジョサイア王子とフラヴィア、アドリアーナ姫やエギール達、ケンネルといった面々を迎える事になるだろう。

 エリオットは少し名残惜しそうではあるが。そんな様子にカミラは少し笑う。


「私は大丈夫よ。内側から力が湧いてきて……エリオットが隣に寄り添ってくれているような感じなの。これなら大丈夫そうだわ」

「分かった。何かあれば私自身も治癒術で支援するつもりでいる」

「ええ。頼りにしているわ」


 軽く抱擁し合うエリオットとカミラに、みんなも表情を緩めている。


 少しの間抱擁し合ってから離れた後で、ロゼッタとルシール達に後の事を頼んで部屋から出る。


 すぐにジョサイア王子やアドリアーナ姫も姿を見せて、エリオットは挨拶をしつつ感謝の言葉を伝えたり、エギール達との再会を喜んでいた。


 ヒポグリフのサフィールも城の窓枠に掴まるようにして顔を覗かせているな。挨拶するように来訪している面々を見やって声を上げて、中々に可愛らしい事だ。


「サフィールもカミラ達の心配をしてくれていますね。浄化の魔道具も使って衛生面も気を付けていますので、とりあえずは大丈夫かなと」


 エリオットの言葉に窓の外からこくこくと頷くサフィールである。エギール、グスタフ、フォルカの魔法騎士達三人はサフィールとも付き合いが長いので嬉しそうな表情を見せる


「サフィールも元気そうだ」


 と、頭や顎を撫でて楽しそうにしているな。


 そうしてやってきた面々を交えて再会の挨拶をした後で、早速みんなで母子の無事を祈る時間を作る。

 安静にしているのでタームウィルズから動けない面々もいるが、そうしたみんなも水晶板越しに祈りを捧げているな。


 エリオットとカミラは、イシュトルムやザディアスの被害を受けたという境遇もそうだが……並行世界の俺も含めて色々世話になっている。こちらの俺やエリオットとは違う、というのは分かっているが、今の俺だって助けてもらっているからな。


 あちらの世界のエリオットは……共に組んでザディアスを倒した後は対魔人で別の戦線を支えてくれたからな。あっちの世界でも人格、実力共に信頼できる人物であったというのは間違いない。並行世界の俺に恩を返す事があっちのエリオットを助ける事にも繋がるとは思うが。

 当然、こちらの世界でのエリオットへの恩はこちらで返すのが筋というものだ。諸々の想いをエリオット一家の無事を祈る中に込めて、みんなの想いを束ねていく。


 アシュレイやケンネル、ドナートといった身内や肉親からの想いというのは、やはり強いものだ。先代シルン男爵夫妻……ジョエルとモリーンも冥府から無事を祈る、と言っていたが、二人の想いも感じる。


 ジョサイア王子とフラヴィア、アドリアーナ姫からの想いは……無事を祈るという事で心配の気持ちもあるのだが……尊敬を感じられるものだな。

 エリオットの今に至るまでの経歴やカミラとの結婚までの経緯等からか。記憶や人格に魔法生物による干渉を受けて尚、高潔で優しい人物として知られていたからな。領主としてのスタンス等も、為政者の立場から言うと見習いたいというのもあるだろう。


 それに……エリオットへの想いを貫いたカミラも。エリオットが帰って来ないと知り、船も沈んだと聞いて。

 それから何年も経って。別の生き方をする事もできたかも知れないが、カミラはそうしなかった。カミラも失意にあったからで、そこからまた前に進みだすというのは大変で、難しい事というのは分かるが……。


 ただ……エリオットにとってはカミラが待っていてくれたというのは、救いであったに違いない。こうして俺達から見ても仲の良いおしどり夫婦であるというのはな。そういうところから絆が強くなっているのだと思う。


 だから……生まれてくる子供もそこに加わって、オルトランド伯爵家が一家幸せで暮らしていってくれるなら、こんなに喜ばしい事はない。エリオットにもカミラにも、笑顔でいて欲しいと、そう願う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 窓枠に掴まるサフィールさん、現代日本なら動画投稿されてそうw
[良い点] 獣の口から砂糖が溢れていた甘い空間だった
[一言] 追い付いた!追い付いたよ! 毎晩小まめに読んで一月強でした。…かなりのハイペースで読んだのだけれど流石のボリューム、楽しませて頂きました。 偶々何かの拍子で1600話辺りで「まとめて読むかな…
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