番外1485 オルトランド伯爵領へと
「一先ずはこれで大丈夫そうですね」
アシュレイがラヴィーネの様子を見てか、五感リンクの結果を受けてか、笑顔で頷く。
「うん。アルファとラヴィーネは……そうだな。自分達のペースで変化に慣れていくと良いよ。困ったことがあった時は相談して欲しい」
まあ……またどこかにシリウス号で出かけたりはあるかも知れないけれど。その時はラヴィーネの様子を見つつ、一緒に連れていったりフォレスタニアで留守番してもらったり、かな。
そうした話をすると、アルファとラヴィーネは揃って一声上げて応じてくる。分かったというか、ありがとうというか。そういうニュアンスが込められた返答だ。
「ふふ、おめでとうございます」
グレイスが少し笑って尻尾を振っているアルファやラヴィーネを見てそう言うと、みんなも笑顔で祝福の言葉を口にしたり拍手をしたりする。
「素敵なお話です」
シャルロッテも新しく城の一角を改造すると聞いて様子を見に来たようだ。笑顔で拍手をして祝福しているし、似た立場であるコルリスとアンバーも揃って頷いていた。
ともあれ狼族同士とは言え異種族間の夫婦だ。仲の深め方や生活様式についてはそれぞれの種族で違うからな。アルファとラヴィーネが当人同士で納得して進められるようにサポートしたいというのはある。
アルファ自身は出会った時が出会った時だし、種族的にも好戦的なイメージこそあるものの、迷宮深層のガーディアンという事もあってクラウディアと協力して迷宮を守る立場だったから、実際はかなり理性的だ。
ラヴィーネも使い魔として五感リンクから色々と学んでいるから、互いにとって居心地の良いところに落着できるだろうとは思っている。それでも何かしらの問題が生じるのであれば解決策を提示する手伝いを惜しむつもりはない。
「ん。応援してる」
「そうね。問題があっても工夫で何とかなったりするもの」
シーラやイルムヒルトも異種族間での長い付き合いの友人だからか、そういう部分には覚えがあるのだろう。それだけにアルファとラヴィーネに関しては上手くいって欲しいと思っているようだ。
クラウディアや迷宮村の住民も、その辺は同じようで微笑ましそうな表情であったりする。
尻尾を振りながら寄り添っているアルファとラヴィーネの様子を見る限りは、割と心配いらなさそうにも見えるな。公認となったわけだし、このままゆっくり仲を深めていってもらえたら、というところだ。
さて。アルファとラヴィーネの新居も完成して数日。
異種族間という事で心配している面はあったが、中庭や船着き場あたりで寛いで寝そべっている時や、子供達の護衛というようにフロートポッドの近くに控えている時も、アルファとラヴィーネが揃って行動し、寄り添っていたりして。仲が良いのが窺えて一安心である。
そんな調子で微笑ましい姿を見せてもらった。ベリウスは近くで見守っているといった様子だが、リンドブルムやティール、マギアペンギンの雛達やカーバンクルといった面々もベリウスの近くにいたりして。割と賑やかなものだ。そこに混ざっているシャルロッテもご満悦である。
というわけで一先ず経過を見ているが、今のところは問題なさそうだ。
俺達の方はと言えば……ステファニアとローズマリーも予定日から少し経ったが予後も良い。イルムヒルトとシーラはまだまだ安静にしている必要はあるが、体調も安定しているな。
子供達の体重の増え方の経過も良いものなので、そうした面でも安心している。ルシールが子供達の成長に関しての身長、体重の推移に関して纏めた資料を持ってきてくれているのだ。典医の間で纏めてきたもの、という事らしい。
「オリヴィア様は種族の違いがあるとはいえ、数値と経過から見て、そう大きくは違わないかなと見ています。ロメリア様は情報が足りませんが、数値上や診察した限りでは順調なのが窺えますね」
往診の後で茶を飲みつつ話をすると、ルシールが資料と現状を比較して見解を伝えてくる。
「そうですね。循環錬気やライフディテクションの反応でも力強いものになっていますから」
ロメリアに関して参考になる資料は外には少ないが迷宮村では多少情報があるし、迷宮核内部にもラミアそのもののデータが蓄積されている。こまめに記録を付けておいて、もう少し情報が集まったら、それらの情報やシミュレーションと経過の比較をしてみるか。
寝台の上で横になっている子供達の顔を見て和みながら、ルシールとカミラの予定日が過ぎてからの予定についても話をする。今日はオルトランド伯爵家の方に行って診察をしているロゼッタも、水晶板で話に参加する形だ。
予後を見て対応するためにオルトランド伯爵領に滞在する事も増える、との事だ。そもそもエリオットが魔法騎士でありながらも治癒術の心得もあるので、その辺は融通が利く方ではある。ロゼッタとルシールはオルトランド伯爵領の医師とも既に連絡と連携をとっているので、尚更ではあるな。
俺達の方は経過が順調で安定しているからな。もう少しすれば母子の体調ももっと安定してくるし、オフィーリアの時はロゼッタとルシールもフォブレスター侯爵領の方で更に集中して注力できるのではないだろうか。
診察という話をするなら水晶板越しでも問診は可能だから、体調が安定している限りはそういう意味でも融通が利く。
実際、カミラの予定日がかなり近付いているので、そういった形での問診も交えているのだ。
体温、脈拍、身長や体重といったバイタルデータも記録しているし、衛生面でも気を遣っているからな。ここまで安定して動いている現状でいきなり状況が変わるような可能性はかなり少なく、中継での問診でも大丈夫だろうと話し合っての事だ。
これから先も時間経過と共に、往診も少しずつ間隔を空けていく、という事になるかな。
オルトランド伯爵領からカミラに体調変化の兆候が見られると連絡が入ったのは、それから更に二日ほど経ってから、朝方の出来事であった。
予定日より2日ほど早いが、ロゼッタがあちらに滞在中であった為に、すぐに対応に移ると連絡を入れてきた。そんなわけでルシールもオルトランド伯爵領に向かって移動中である。セオレムから直接転移港に向かうそうで、メルセディアが『護衛として責任を持ってお送りします』とそんな風に言っていた。
『私達もルシール先生に付き添うよ』
そう言ってきたのはジョサイア王子である。フラヴィア嬢も一緒にオルトランド伯爵領へ向かうとの事で。
王家派の領主家の慶事であるから、これからの事を考えると後継ぎのジョサイア王子が向かうというのも納得だな。
『私もオルトランド伯爵領へ向かうわ。シルヴァトリアからは直接エギール、グスタフ、フォルカがエリオットの応援に向かうと言っているわね』
連絡はシルヴァトリアにも行っている。アドリアーナ姫がそんな風に教えてくれた。
エギール達はシルヴァトリア魔法騎士団の面々だな。エリオットの同期であるから、結構親身になってくれているようで。
『では、お待ちしています。朝食を済ませていない場合は、こちらで対応できるようにしておきます』
エリオットがそう言うと、水晶板越しに各国の面々が頷く。
俺達も連絡を済ませたらオルトランド伯爵領に移動して、祈り等の支援をしていく手筈になっている。朝食を済ませた後だし、予定日が近いのでいつでも対応できるように荷物も纏めてあるからすぐに行動可能だ。転送魔法陣もあるので一番に到着できそうである。
アシュレイも少し緊張したような表情で、カミラと子供の事を心配しているしな。祈りを行うことで、そうした気持ちもカミラ達の力に変えていく事ができるだろう。




