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番外1462 古城を覆う煙

 殺到する魔物達が凄まじい速度で削られていく。空で、地上で魔物達がテスディロス達に倒され、そこかしこで光となって弾ける。


『良いな、これは。鎧だから動きが阻害されるかと思ったが、寧ろ身体が軽く感じる程だ』


 ゼルベルがそう言ってオークの鳩尾に肘を叩き込む。赤い闘気が衝撃波となって広がり、オークの巨体が水平に飛んで木立にぶつかると光になって消えた。


 装備品の有用性もしっかり確認できているな。エスナトゥーラも……武器そのものは瘴気を武器として固めていた時程の形状変化はしなくなったが、拡散した魔力の利用法が増しているので、実際の所は戦いの場においての引き出しが寧ろ多くなっていると言って良さそうだ。修練によって更に精度を上げていく事もできるしな。


 オズグリーヴの煙もまた、精度が上がっている。西と南の門に煙の兵士達を配置しているように見せかけているからな。結局攻めるなら単騎で守っている北、東から、と思わせているわけだ。


 それでも一部の魔物は北と東の門を守っているエスナトゥーラとゼルベルに対抗できないと踏んだのか、多勢を活かして西門側に回り込むような動きをする者が出ていた。


『西門に向かってきた魔物達に意識を割く必要はありませんぞ』


 オズグリーヴはそう皆に伝える。


『ああ、頼りにしている』

『ふっふ。期待には応えねばなりませんな』


 テスディロスの簡潔な言葉に、オズグリーヴは楽しそうに笑う。


 向かってくるのはやはり、こういうところで知恵の回るゴブリンとオークの混成部隊だ。ゴブリンとオークは共生する事もあるが、上位種が出ると異種でもそれに従う傾向がある。オークジェネラルが指揮している部隊といった雰囲気だ。


 こうした仮想空間の魔物の行動は蓄積されたデータに基づくエミュレーションではある。攻撃衝動による負の感情の発散を担っている迷宮魔物ともまた違うからな。データが足りない魔物もいるが、そういう場合は迷宮魔物に準じる挙動をしてくる。


 西門の状況はと言えば……兵士達が慌ただしく跳ね橋を上げようとしているところだった。にやりと笑ったジェネラルが突撃を指示して、部下のゴブリンとオーク達が突っ込んでいく。橋の上にその大半が差し掛かったところで――変化が生じた。


 跳ね橋そのものが獣の大顎に形状を変えて、堀の底へとゴブリン達を呑み込んだのだ。一網打尽にされて、堀の底からまばゆい光の輝きになって消える。


 全てが見せかけだ。西門の跳ね橋は崩落していて最初から存在せず、崩壊した城壁部分もオズグリーヴが煙で覆って実際の防備に遜色がないようにしている。


 実際の戦闘になっても西と南の防備が薄いのかと問われればそんな事はないのだ。煙の兵士達は見せかけでも、普通の攻撃は意味がないし、兵士達の形ですら重要ではないからな。

 展開されている兵士達のいるところがオズグリーヴのテリトリーであり、殺傷圏そのものと言って良い。探知の網を広げられても視界が通らなければ細かい対応が難しくなるから、跳ね橋トラップのような大まかな範囲攻撃がメインとなる部分はあるが、能力の性質を考えるなら……オズグリーヴの陣取っている拠点をまともに攻略するのは至難の技だろう。予備知識があるなら外から拠点を破壊するといった対策をする方向になるだろうか。


 仮想空間内の魔物達は訓練であるが故に、そうした予備知識のないフラットな形での襲撃を仕掛けてくるから、オズグリーヴに対応するのは難しいだろうな。いずれにしても大規模戦闘での訓練にはなっているから問題はない。


 今回はオズグリーヴとオルディアが防衛ライン維持の役に回っているが、見たところ戦況に余裕が出てきているから、オルディアも装備品を試す機会も出てくるだろう。


 防衛ではなく、討伐訓練や模擬戦闘訓練というのもあるしな。指定された座標付近まで行って強力な魔物個体を討伐する、というような内容であるとか、闘技場ステージを舞台に指定した対象と戦闘訓練をするだとか。

 参加人数等に合わせて訓練の難易度や内容をそれなりに細かく設定できるので色々活用して欲しいところではあるが。


 ともあれテスディロスとウィンベルグの縦横無尽の機動戦闘とルドヴィアの狙撃によって、空から攻めてきた魔物も大分数を減らしている。


 そうした状況もあってか、テスディロス達が地上支援に移ろうかというタイミングだ。だから、オズグリーヴもその事を伝え、オルディアが西門に姿を見せる。

 城壁から飛び立って、呆気に取られて固まっていたオークジェネラルの目の前へと静かに着地した。


『さて――』


 静かな声と共に錫杖を構えるオルディアに、オークジェネラルは雄叫びを上げて手にした斧を振りかぶり、間合いを詰めてくる。オルディアが意図したかは分からないが、オークのリーダー格は体面を重んじるところがある。

 ああして単身で出てきて堂々と前に立たれては、部下が残っていようが自ら前に出る必要があった。そういう部分まで再現されているわけだ。


 もっとも――オルディアにオークジェネラルを含めた残りのゴブリンとオーク達で対抗できるかは別の話だ。

 闘気を纏って打ち下ろされる斧を、オルディアは魔力を纏わせた錫杖で斜めに逸らすように受ける。闘気と魔力がぶつかり合って火花となって散ると同時に、宝石になって周囲に停滞するように浮かぶ。


 呆気なく一撃を逸らされたオークジェネラルは激昂しながら二度、三度と滑るように後退するオルディアを追いかけて斧を振るが、その度にオルディアは錫杖で力任せの攻撃を逸らし、揺らぐような魔力を波のように放つ。

 更に数回切り結んだところで、今までの調子で振り下ろしたオークジェネラルの身体が泳いだ。


 そしてそれを見逃すオルディアでもない。錫杖が跳ね上がり、その身体を強く打ち据えると、一際大きな宝石が身体から飛び出して、オークジェネラルが膝をつく。


 わけがわからない、と言った表情をしているオークジェネラルに、オルディアは頭上に手を差し伸べるように伸ばし、握る。


 周囲に浮かぶ宝石が光を放つ。激突の間に奪い取り、闘気に干渉して封印の宝石に変えていたのだ。それらが闘気の光弾となってオークジェネラルを四方八方から撃ち抜いていた。


 魔力に真っ向から力をぶつけ合っても余波は宝石に変えられるし、攻防の間に魔力を浴びせられても、それを意識して防がなければそこから力の一部を宝石にされてしまう。

 オルディアの能力自体は受けても痛みも何もないから、対峙する者はそれを意識しておかなければならない。そうしないといつの間にか干渉を受け、いつもの感覚で動いてああして脱力から隙を晒し、まともに攻撃を撃ち込まれてそこから更に力を奪われる。


 攻撃も防御もままならない状態にしたらそのまま封印した力を攻撃用に転換して返してやればいい。オークジェネラルはなすすべなく光の粒となって消えて行った。


 オークの中級種程度では、オルディアの相手にもならないな。


『良いですね。武器としても頑丈で軽いですし……瘴気侵食よりも違和感がないからか、魔力に変化したのは私の能力には単純に追い風なのかも知れません』


 と、装備品を使った感覚に笑みを見せるオルディアである。

 オルディア、オズグリーヴ、それにエスナトゥーラも。能力の性質を知らなければそれだけで勝敗が決まってしまうぐらいの特性ではあるな。知っていても戦闘の中で技量や機転で上回る必要があるし。

 テスディロスとゼルベルに関しては能力こそシンプルではあるが力や速度、技に優れているので結局実力勝負になるのは変わらないし。


 ともあれ、モニターしていたが処理関係でも訓練の過程でも問題は起こっていないようだ。無事訓練が終わったら、テスディロス達にも改めて感想を聞いてみるとするか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手の動きを読んでしてやったりなつもりが罠にかかった上に物騒な宝石で仕留められるという末路w
[良い点] 獣もフラットな状態で棒倒しをしたかった
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