番外1434 魔界の人形族達
「フェアリーライトは自然界じゃかなり珍しいみたいだね。森の奥に夜だけ咲くから目につく事自体が少ないんだ。環境魔力次第で光り方が変わるんだとか」
「何というか、面白い花ですね。綺麗ですし好きですよ」
リュドミラがフェアリーライトの花を興味深そうに眺めているのでそんな話をすると、感心したような表情で更に熱心に見ていた。そんなリュドミラにゼルベルが頷いたりしているが。
環境魔力が綺麗だと淡い光を放つ花だが、魔力溜まりのような場所ではもう少し色合いが原色系で派手になるようだな。この場所や宵闇の森のフェアリーライトは淡い光で綺麗なものだが、濃い色で光るフェアリーライトが群生していたら中々ただならないものを感じるだろう。
珍しい花だから知っている者自体が少ないが、仮にもっと目にする機会が多かったならば土地によって印象の分かれる花だったかも知れないな。
少しの間庭園の様子を楽しみつつ境界門に向かうと、パルテニアラが顕現してきて姿を見せる。
「ああ、パルテニアラ」
「うむ。見送りに来させてもらった」
「うん。ありがとう」
「ありがとうございます、パルテニアラ様」
笑みを見せるパルテニアラにみんなで礼を言う。魔界に初めて向かう面々が多いしな。パルテニアラは魔界の成立期に関わり、長年に渡って境界門を守り、維持してきた。その辺はしっかりと同行する面々にも伝えてある。
エスナトゥーラ達だけでなく、ルベレンシア、カストルムやアルハイムといった面々も丁寧に一礼してお礼を言って、パルテニアラはそれに笑顔で応じる。
そうしてパルテニアラは頷き、境界門を開けてくれた。蜃気楼のように揺らぐ向こうの景色が……光と共に変化して、向こう側――魔界迷宮が見えた。
魔界の魔力が吹き付けてくる……というのはもうない。互いの世界での魔力の流出、流入が起こらないよう、ルーンガルド側と魔界側の両方で結界を構築して魔力の密度調整をするといった対策を施したからな。
境界門が開かれている機会も時間も僅かなものだが、それでも魔力がどちらかに流入する、というのは可能なら避けた方が良い。魔王国側と国交も出来て、これから先も行き来する機会は増えていくだろうしな。
「それじゃあ行こうか」
少し緊張した面持ちの面々を連れて魔界側へと移動する。空気というか……環境魔力が変わったのが文字通り肌で分かるな。
「魔力溜まり、とはまた違うが……力強い魔力だな」
境界門を超えてきたアルハイムが驚きの表情を浮かべる。
「我にとっては居心地良く感じる環境魔力ではあるかな。ルーンガルドの空気も爽やかなもので好みではあるが」
「そうですな。どちらの魔力も違った味わいがあって良いものです」
「ルーンガルドは私達にとっての源流でもありますからね」
魔界生まれのルベレンシアがにかっと笑い、ボルケオールやカーラもそれに同意する。俺達にとっては荒々しく感じるが、魔界の面々にとっては文字通り故郷の空気なのだろうしな。
源流というのも確かに。魔力嵐の時に分かたれたものだからやや荒々しいのが魔界の特徴ではあるが……。
「ティエーラとコルティエーラが分離する前の魔力が元となっているからね。ルーンガルドから失われた性質が残されて受け継がれていると言うか」
そう言うと、魔界の面々はうんうんと頷いていた。この辺がティエーラ、コルティエーラ、ジオグランタの三者を姉妹とも親子とも言えないようにしている感があるな。
「いらっしゃい……!」
「お待ちしておりました」
俺達を迎えてくれたのはユイとオウギだ。魔界迷宮側のラストガーディアンとその従者として、訪問が決定したので先んじて魔界迷宮側で待機してくれていたというわけだな。
「どうぞこちらへ」
オウギが小さな身体で一礼して案内してくれる。
「ん。ありがとう」
と笑うと、オウギがこくんと頷き、ユイもにっこりと微笑む。
そうしてオウギの案内とユイの付き添いで接続通路を進んで転移し、魔王城地下へと移動する。
「おお、よく来たな……!」
「ふふ。いらっしゃい」
魔王城の地下にてメギアストラ女王とジオグランタを始めとして騎士団長のロギ、ディアボロス族のブルムウッドやヴェリト達、ファンゴノイド族の面々にベヒモス親子と、魔王城の知り合い達が顔を見せてくれた。
いや、厳密に言うならベヒモス親子は魔王城の住民ではないが。
割とルーンガルドと魔界を行き来してのんびりとした生活を満喫していたりするアルディベラとエルナータである。
「いきなりの訪問だったのに、こうして温かく歓迎してもらえるというのは嬉しいですね。ありがとうございます」
礼を言うとメギアストラ女王とジオグランタも笑みを見せる。そうして……まずは魔王城内部のファンゴノイドの里ではなく、魔王城の上層へと案内してもらう。
カーラも王都ジオヴェルムの知り合い達に顔を見せてくると言っていたし、魔界訪問が初めての面々には外の様子も見せてやりたいからな。
その辺りの意向は伝えてあるからな。城の上層部の――テラスのある部屋に通してもらった。
「ああ……これは……」
「すごいもんだな」
ルドヴィアとゼルベルが、窓から見える魔界の様子に声を漏らす。ザンドリウスも驚きなのか、目を瞬かせていた。稲光の走る空は紫色にうっすらと光っていて。まあ中々ルーンガルドから見ると普通には見られない光景だ。迷宮深層部は防犯上中継を切っているが、魔界の様子は今回同行していない面々にも見せてやりたいというのは有ったので、今は外の風景やジオヴェルムの街並み、その大通りを行く住民達の姿といったものを映像として送っている。
ラムベリアを始めとする氏族長、氏族の者達はそんな魔界の風景に見入っている様子であった。封印状態で船外の風景に見入っていた時の事を思い出すな。
通された広間には軽い食事と飲み物も用意されていて。みんなでそれらを食べながら近況について話をしたりする。フォレスタニアの様子もこちらに中継しているので、魔界のみんなも子供達の寝顔を見て、笑顔になっていた。
「子供達は可愛らしいものだな」
「目元がテオドール公に似ている、気がするな」
と、盛り上がっている魔界の面々である。
「この子達はきっと将来かなりの美人さんになりそうですね」
「いや、本当に。境界公の奥様方もお綺麗ですから」
そんな風に言っているのはパペティア族の面々だ。カーラも同族達の言葉にうんうんと頷いていた。見た目は大きなフランス人形達の集まりではあるが、何だか和気藹々と楽しそうにしているな。
カーラに関しては……ジオヴェルムの図書館で司書をしていたからな。王都にも知り合いのパペティア族が多数おり、そうした面々をメギアストラ女王は魔王城に招待してくれたそうだ。ルーンガルドの同盟各国と国交を持った事は魔王国内にも周知されているので、そうした民間の面々も接点を持ってもらい、馴染んでいって貰えたらという方針なわけである。
パペティア族の話題は、カーラの身体の事にも移っていて。
「カーラちゃんはルーンガルドで新素材と新方式の開発をしていたというけれど……凄いわね」
「私は昔ながらの陶器が好みではあるのだけれど……表情で感情を表現できるというのは素晴らしい事だわ」
「ありがとう。境界公に色々と技術協力をしてもらった結果ね」
カーラは工房との技術協力によって魔法合成の樹脂やゴーレム技術で表情が出せるようになったからな。こちらも義肢の質感の監督等をして貰っているのでカーラには助けてもらっている。そうした表情構築の技術等はパペティア族で共有しても構わないという事で協力してもらっているな。
カーラの返答に、パペティア族の面々は感心したような声を漏らしたり、俺の方を見てうんうんと頷いたりしていた。まあ、素材問わず、表情を変えたりといった事は可能になるからな。パペティア族と友好関係が築けるというのは有難い事である。




