番外1410 氏族の親子達と共に
「ん。ルフィナ様とアイオルト様。女の子と男の子」
「双子でも、ちょっとお顔と髪の色も違う感じがする」
料理を食べつつ、ルフィナとアイオルトの映像を見たりして、みんなで賑やかな時間を過ごす。カルセドネとシトリア、スピカとツェベルタは、やはり双子仲間という事でルフィナとアイオルトの事が気になっていたのか、二人の映像を興味深そうに眺めていた。
カルセドネとシトリアは双子というと一卵性のイメージがあったのか、性別や顔立ち、髪の色が少し違う事に気付いてそんな風に言って頷き合う。
「そうだね。双子と言っても、とてもそっくりな場合とそうでない場合があるんだ」
一卵性、二卵性の割合であるとか男女の組み合わせの割合等々については流石に景久の記憶でもあまり詳しくはないな。
一卵性はほぼ一定の確率で生まれ、二卵性は民族によって違うとか……まあ雑学や話題として聞いた程度でしかない。男女に分かれる一卵性……半一卵性双生児というらしいが、これは本当にごく稀なケースで、世界規模で見ても珍しいぐらいの確率だという。
王国の資料にあたれば統計的なものは見つかるかも知れないが……みんなも興味があるなら調べてみるのも悪くはないかもな。
いずれにせよルフィナとアイオルトは髪の色や顔立ちの雰囲気も少し違うし、循環錬気で見ると魔力の質も僅かに違う。二卵性の双子で間違いないだろう。
一方でカルセドネとシトリアは顔立ちや魔力の質もほぼ同じで一卵性の双子だな。
「双子だと、何か気を付けなければならない事はあるのか?」
「んー。私達は……別に不都合を感じたりはしない、かも」
「うん。シトリアと一緒なのは嬉しい」
テスディロスが尋ねると、カルセドネとシトリアは顔を見合わせて頷き合う。スピカとツェベルタもふんふんと興味深そうに相槌を打っていた。
「双子自身はともかく、親は少し大変だとは聞きますね。普通の兄弟姉妹は成長に時間差がありますが、双子の場合は育児に必要な物、お世話も同時に倍ですし……お互いに共感するのか、一緒に笑ったり泣き出したりするらしいですよ」
ルシールが双子の育児に関してそんな風に伝えるとカルセドネとシトリアもこくこくと頷いていた。
双子を持つに当たっての苦労というか気構えについては、ステファニアの子が双子だと分かった時からレクチャーしてもらってはいる。まあ……育児については出産時期が近い事もあって色々と大変になる、というのは分かっていた事ではある。
「まあ……僕達の場合は沢山の人が支えて下さっていますし、術式や魔道具による補助もできるので負担は少なめではありますが」
みんなの負担が増えないように魔法で補えるところは補いつつ、子供達に寂しい思いもさせないようにしていきたいとは思っている。セシリアやミハエラ。迷宮村のみんな。氏族の面々も協力してくれるし、母さんやセラフィナやアピラシア、ティアーズ、カドケウスにバロール、ピエトロも育児の手伝いをしてくれるので、俺達としてはかなり助かっている。
「私達も平時は、身の回りの事を、もっとお手伝いしたい、です」
「そうです、ね。スピカ」
スピカとツェベルタもそんな風に言って。ありがとうと礼を言うとこくんと頷く。
とまあ……育児に関して相談できる顔触れ、頼れる面々も多いので身体的にも精神的にも負担もかなり少なくできる、とは思うが。
貴族家らしく乳母をつける、という話も出たが……。女性陣はみんなで協力しているし、自分達の子は自分達で、という想いが強い印象があるようだ。
まあ、そうしたみんなの気持ちも汲みつつ、しっかりと俺にできる事でも対応していきたいところだな。
そんな調子で祝いの宴は進んでいく。小さな子供のいる氏族――特にエスナトゥーラ氏族達はルフィナとアイオルトの映像に表情を緩めていて、平和なものだ。
氏族達は解呪による反動からか子煩悩というか、自分達の血縁に限らず子供を大切に扱う気風になっていて、良い傾向なのではないかと思う。
さてさて。そうして城での祝いの宴は和やかに過ぎていった。
グレイスとオリヴィア、ステファニアとルフィナ、アイオルト。母子共々健康状態は良好だ。これから予定日を控えているローズマリー、イルムヒルトとシーラ。それにカミラとオフィーリアも、ロゼッタとルシールの見立てや循環錬気の検診でも特に問題はなく、順調に推移している、といったところである。
ローズマリーの予定日まではそれほど間がないが、イルムヒルトとシーラに関しては来月だな。その後カミラが続いて、また1ヶ月強程の間が空いてオフィーリアが、という事になるな。
俺達に関してはまあ、一先ず問題ない。氏族の面々でもこれから出産を控えているという顔触れがいるが、情報収集と迷宮核による解析の結果、解呪も問題がないという事が分かっており、こちらもしっかりと出産に備えて態勢を整えているところだ。解呪で氏族達の夫婦仲も良いと聞くし、これから先も子供が増えてくる可能性は十分にあるな。
そんなわけで、ロゼッタとルシールだけで担当するには対象が広がって負担も大きくなってしまうので、更に医師と治癒術師の協力を取り付けている。ルシールの紹介なので腕と人柄は確かな人物だということだ。
それぞれで担当する人数が少人数であれば細やかに対応できるようになるしな。まあ、いずれにせよ母子の体調管理や経過観察についてはしっかりと進めていこう。
さて。ローズマリーの予定日を控えているのでそれに備えつつ予定通りエスナトゥーラの解呪を進めていく。が……その前にエスナトゥーラの装備品、鞭の雛型が出来上がったと工房から連絡が入ったので早速それを見に行ってみるという事になった。
みんなの健康管理をしながら、覚醒魔人達の解呪や能力測定をしたり、次に控えている面々を見据えて動いていく、というのは今までと変わらない。
ゼルベルとテスディロスの装備品に関しては魔石を仕上げてやれば良いだけというところまで既に仕上がっている。解呪の順番としてはエスナトゥーラが先ではあるが、装備品は構造が複雑で時間がかかっていたから、出来上がりを待っていたというわけだ。
そんなわけで工房に顔を出すと、アルバートが笑顔で迎えてくれる。
「やあ、テオ君」
「ああ。アルバート」
アルバートはオフィーリアの問診で普段から顔を合わせているが、工房の職人達はエスナトゥーラの武器を仕上げるために気合を入れて仕事をしてくれていたからな。
そうやって挨拶をしつつビオラ達からルフィナとアイオルトの生誕に関して祝福の言葉を貰う。
「母子共にご無事という事で喜ばしい事です」
「生誕おめでとうございます……!」
顔を合わせると、そんな風に言ってくれる職人の面々である。
「というわけで、鞭の土台に関しては出来上がっている」
「防具も見た目はほぼ完成ですね」
そう言って、タルコットが木箱を。シンディーが布の包を運んでくる。
「では……拝見させていただきます」
エスナトゥーラが大事そうに木箱を開けると、白と青を基調とした色合いの鞭が出てくる。ミスリル銀の繊維に竜の爪牙を組み込んで攻撃力や強度を上げているというわけだな。後はこれに魔石を組み込んでやれば完成だ。
魔石部分以外はほぼほぼ出来上がっているので解呪をしてからすぐに装備に移れる、といった流れにしたいところではあるな。今日のところはお披露目という事で。
「おお……。綺麗な鞭ですね、ルクレインお嬢様」
ルクレインを腕に抱くフィオレットがそんな風に言って笑顔を見せる。ルクレインも鞭を手にしたエスナトゥーラの姿を、少し小首を傾げるようにして見やり、当人はそんな二人に微笑みを返していた。
「防具も身に着けるだけなら問題ありませんよ」
ビオラがそんな風に言って。フィオレットが「それは素晴らしい」と笑顔を見せていた。
ビオラやコマチ、エルハーム姫やカーラ達……職人面々に連れられ、工房の別室でエスナトゥーラがドレスアーマーに着替えてくる。
エスナトゥーラのドレスアーマーは白と青を基調として、氷の結晶などをモチーフにした装飾をあしらったものだ。変身した後のイメージに加えて冷気がエスナトゥーラの特性だと誤認させるものでもあるが、似合っているとは思う。
頭部以外にも装備品を身に着けている。フィオレットや氏族達からティアラはどうかという案も出ていたが、エスナトゥーラ自身はオルディアと同じくサークレットで良いとの事で。
これは頭部から首、肩あたりの範囲をプロテクションとマジックシールドで守ってくれるという品物だ。
動きや視界の邪魔にならない。瘴気による特性は失うことになるが、強度面に関して言うなら近いぐらいの性能ではあるか。耳飾りや首飾り、腕輪やベルト、靴等々……ドレス本体だけでなく身に着けた装飾品は機動性を向上させたり探知能力を付けたり、測定の結果に合わせて色々と補助用の術式が刻まれる予定である。装飾品の類も解呪後に魔石に術式を刻んで仕上げる、というわけだ。
この辺の仕様はエスナトゥーラのドレスアーマーに限らず、といったところだ。魔人の飛行術は解呪しても使えるが、それはそれとしてマジックシールドを足場にできた方が動きの幅も広がるというのは間違いないからな。
フィオレットが「お綺麗ですねぇ、ルクレインお嬢様」と腕に抱いたルクレインに微笑みかければ、着替えたエスナトゥーラが鞭を構えたりして笑顔で二人に手を振ったり、水晶板でエスナトゥーラ氏族の面々にそうした姿を見せたりしていた。割合乗り気で機嫌の良さそうな様子のエスナトゥーラである。
氏族の面々もそんなエスナトゥーラ達の様子に表情を綻ばせているな。




