番外1408 子供達と共に
タームウィルズでもフォレスタニアでも……街中の反応は良いものだった。双子である事や名前も伝達されて、かなり盛り上がっている様子だ。フォレストバードのロビン達がティアーズ達を連れていき、タームウィルズとフォレスタニアの様子を中継映像で送って来てくれている。
『何でも双子だって話だ。姉君のルフィナ姫と弟君のアイオルト殿下か』
『双子か。そりゃめでたいな。今頃境界公家でも盛大にお祝いしてるんじゃないか?』
『すごそうだな。境界公のお祝いは……』
『街中でも夕方頃までには料理と酒が振る舞われるとよ。ステファニア殿下のお子ならメルヴィン陛下にとっても初孫という事になるし、タームウィルズでも結構なお祭りになるんじゃないか?』
『そいつは良いな。後が楽しみだ』
そんな会話が街角の冒険者達の間でなされているようだ。冒険者達に限らず、街の住民、行商人達も喜びに沸いているな。
タームウィルズに居を構えている商人達も行商人達も商機であると見ているのか、結構気合が入っているという印象がある。
ルフィナとアイオルトの誕生が夜明け頃。予定日から少し遅れていたという事もあって、酒と料理の準備自体は整っていたのだ。
魔法技術で構築された冷蔵庫、冷凍庫の貯蔵設備もあるしな。準備していた食材はとりたて新鮮とまでは言わないが、保管の状態は相当に良い。というのも浄化魔法と発酵魔法の応用を組み合わせれば食材が傷む事もなく、かなり長期間鮮度を落とさず保存できるからだ。冷凍保存にしても水魔法で上手く制御しながら凍らせてやれば細胞膜のような組織を壊さずに済む。
オリヴィアの時もそうだが、誕生祝いの宴会に備えての食材についてはそうした方法で冷凍保存しているわけだな。
状態を保ったままで凍らせる術という事で……生きたまま凍らせて長期間眠らせるというような術もあるしな。実際、月の民はそうした術式を保有している。
冷凍睡眠の技術だが、パルテニアラによれば氷の中に封印して眠らせる、というような呪法もあるそうな。こちらはいかにも悪役が使いそうな術ではあるが……脱走や味方からの報復が予想されるような捕虜をしっかりと閉じ込めたり、安全確保する分には寧ろ良いのかも知れない。
俺の場合は土魔法と封印術で梱包してしまうのであまり使う機会もなさそうだが。
ともあれ、そうした結構高度な術式を使っているので、新鮮な食材で料理を提供できる、というのは間違いない。
話をしていた冒険者達も今日のところは予定を変更して、街中で過ごすと言っていた。まあ、夕方までには料理と酒が振る舞える見通しではあるが余裕をもっての調整なので、実際はもっと早くに準備が整うだろうし。何にせよ冒険者達や住民達、商人達問わず楽しみにしてくれているようで喜ばしいことだ。
というわけで、街中の様子を見ながら通信室でみんなと一緒にのんびりさせてもらう。ただ各所であれこれと動いているから、一晩中起きていたと言ってもまだ俺が眠るわけにもいかない。
フォレスタニア城でのルフィナとアイオルトの生誕祝いに関しては……みんなで一旦休んでからだな。何せ昨日の夜から明け方、今に至るまで動きっぱなしだったわけだし。術式や魔道具で眠気をとったり体力回復をしているとは言っても、身体に良いわけではないというのもある。
「ステファニア様とルフィナ様、アイオルト様は……今は安静にしてお眠りになっておいでですよ。経過もよく、ご本人も調子は良いとの事でした」
諸々の処置と診察を終えて、ルシールが報告に来てくれる。機嫌の良さそうな笑顔だったので、ステファニアとルフィナ、アイオルトの体調は実際に良いのだろう。
これからロゼッタと交代で仮眠をとりつつ、少しの間常駐してくれるそうで。
今はロゼッタがローズマリー、シーラ、イルムヒルトの診察とグレイス、オリヴィアの体調確認まで済ませてくれている。昨日から動きっぱなしだというのに頭の下がる話だ。
「ありがとうございます。細やかに対応してくれるので僕としても助かっています」
「ふふ、テオドール公も医術や治癒術に理解がありますし、皆様も気さくなので私としても色々と対応しやすいのは間違いありません。こちらとしても助かっていますよ」
ルシールは穏やかに応じてくれた。ヴェルドガル王家お抱えの典医であるからルシール自身は良い環境で働けているそうだが、貴族や大商人相手の医者や治癒術師は結構無茶を言われる事もあるそうで。そうした事例を知っているルシールからすると、境界公家の面々は理解があって助かる、との事だ。
ともあれ、ロゼッタとルシールにもゆっくり休んでいって貰いたいところだな。マッサージチェアの魔道具もあるからそちらも勧めておこう。
ロゼッタの診察結果も良い物で……ローズマリーとシーラ、イルムヒルトの体調も安定していると教えてくれた。グレイスとオリヴィアの経過観察も問題なし。
後はステファニアとルフィナ、アイオルトに生命反応感知ができる改造ティアーズをつけて、何かあった時に対応できるよう準備を整えておけば一先ずは安心だろう。
通信室での連絡とそれに対する祝福の言葉といったやり取りも一先ずは落ち着いて、今は居城上層の居住区画に戻ってのんびりとできている。
「ルフィナとアイオルトの事は喜ばしい事だけれど、わたくしもしっかりと体調管理をして後に続かないといけないわね」
ローズマリーはソファベッドに身体を横たえつつ、そう言って目を閉じているが。
「昨晩は少し慌ただしかったけれど、休めた?」
「ええ。わたくし達は意識して大人しくしていたわ」
「ん。ここで私達が体調を崩したらステフ達の負担になる」
「そうね。ロゼッタさんやルシール先生も大変だもの」
俺の言葉に、ローズマリーとシーラ、イルムヒルトが揃って答える。ローズマリーの予定日は今月だし……イルムヒルトとシーラも来月に予定日が控え、更にフォレスタニア境界公家の外での話ではあるが、カミラ、オフィーリアも後に続く。
そういうわけでローズマリー達も色々気を遣ってくれているのだろう。
「子供達が生まれたら……どこかにみんなで揃って出かけてみるのも楽しそうね」
「ああ。それは素敵ですね」
イルムヒルトが言うと、グレイスが笑顔で応じる。そんな言葉を皮切りに、行くならどこが良いのかと、そういった旅行の話になって女性陣は盛り上がっていた。
母さんの家であるとか、各国の綺麗だった場所であるとか、そういう案が出ているな。
「獣王継承戦もありますからね。それに合わせて他の場所から経由するというのも良いのではないでしょうか」
「確かに。その点から言うとガートナー伯爵領の湖畔はみんなでのんびりするには良いかも知れないわね」
アシュレイがそう言うとクラウディアもそう応じて、マルレーンもこくこくとうなづいていた。まずは母さんの家を経由してのんびりしてから獣王継承戦の見学、か。それは確かに楽しそうだ。
「皆さんや子供達の体調が落ち着いてからとなると、時期的にも丁度良さそうですね」
エレナが微笑む。そうだな。それは確かに。
メルヴィン王やデボニス大公の引退、ジョサイア王子とフラヴィアの結婚式といった出来事も控えているが……まあ、まずは母子の健康維持。それからローズマリーの予定日と……身の回りの事が無事に進んでいくように注力したいところだな。
みんなの様子や、モニターの向こうで安らかな寝息を立てているステファニア、ルフィナとアイオルトを見ながらそう言うと、みんなも笑顔で頷くのであった。




