番外1349 魔人達との対話
姿を現した氏族に属する者達、はぐれ魔人達が敷地内に入るのを待つ。
集団で姿を現した者達は氏族と見て間違いなさそうだ。集団の数も――事前にモニュメントを設置した数と一致している。となると、全ての氏族が姿を見せているわけだ。
はぐれ魔人達は……そう数が多いわけではないようだ。元々魔人達の絶対数が少ないというのもあるだろうけれど。
感慨深いものはある。それでも……何というか不思議に緊張していた部分は消えて、内面は落ち着いていた。いざ対面してしまったからか。それとも意識せずに腹を括ってしまったか。いずれにしても対話を成功させたいという想いだけは変わらず強いままだ。
「これで全員、かな」
ここからでは魔人らしき生命反応、魔力反応はもう見当たらないな。元々生命に乏しい地域なので割と分かりやすい。能力等で姿を隠していたらその限りではないが。まあ、撤収するタイミングで軽く周辺の捜索もしてみるが。
「全員を把握しているとは言わないが、集まる途中で見かけた者達は姿を見せているな」
現氏族長の1人が言う。結集途中で他の魔人達も見かけているわけだな。
「そういう情報は助かるな。ともあれ、これで話もできるか。声を拡大しない方が良い内容もあるから、まだ姿を隠している者がいるのなら早めに姿を見せて欲しい」
周囲に呼びかけてから一旦間を置き、話を始める。
氏族長達が前に。氏族の者達はそれぞれで纏まり、少し遠巻きに話を聞くような形だ。はぐれ魔人達はお互い纏まるでもなく結集場所の内部にバラけていたが……ゼルベルも含め、俺の話に耳を傾けてくれてはいるようだ。
その様子を見てから頷き、話を始める。
「啓示で多少のところは理解していると思うけれど、改めてこうなった経緯について話をしたいと思う。疑問があれば答えるつもりだ」
「よかろう」
「承知した」
俺の言葉に魔人達は頷く。話を聞きに来た、というのもあるだろうし、結集場所周辺で攻撃行為が禁じられているというのもあるから、今のところ魔人達は落ち着いた反応を見せている。こっちに覚醒している高位魔人が多いというのもあるだろうが。
そんなわけで集まった魔人達を前に……話をしていく。
「ザラディとヴァルロスが、魔人達の国を作り、現状を変えるために結集を呼び掛けていた事はどれぐらい知られているかな?」
と言うと、氏族長達は異口同音に「氏族の者達は皆知っている」という答えを返してくる。
少なくとも所在を把握している氏族のところは話がいったのだろう。一方のはぐれ魔人達はまちまちだ。氏族との接点がある者は耳にしていたが、完全に氏族から切れている者達は知らないと言う者が多かった。
「俺は知らなかったが……聞かされていたら加わっていた可能性もある」
ゼルベルは後者だな。割と世情に疎いらしいが。ともあれヴァルロスが結集を呼び掛けた事は聞いていても、その戦いの結果としてどんなことがあったか等の情報は伝わっていない部分が多いし全く知らない者もいる。魔人の来歴を知らない、という者もそれなりに多いようだ。
「まあ……そうだな。順を追って話をしていった方が良いのかな」
というわけで魔人達と戦った途中で知っていった経緯について話をしていく。
かつては月の民であった事。魔力嵐と地上に降りた月の船。
月で反逆を起こしたイシュトルム。イシュトルムに協力して地上に追放された者達。ハルバロニスからの盟主の出現。七賢者との戦い。
魔人達の間では迷宮を守っているのが地上を救った尊き姫君、というのは言い伝えられているそうだ。
「……それでは我らは広い意味では同族となる、と?」
「そうね。寧ろ私達はかなり近いと思います」
はぐれ魔人の言葉に、オーレリア女王が答える。
魔人達同士でしか子を成せない、というのもあるからな。魔人に変化した者達、生まれつき魔人であった者達も……封印や解呪を行えばそこに違いはない。
地上の民と混ざったというのも、ヴェルドガル、シルヴァトリア、ナハルビアあたりは同じか。ハルバロニスは殆ど表に出なかったのでそれも少なかったようだが。
ハルバロニスの抱える背景と、盟主達の出自。ヴァルロスがハルバロニスを出た理由。自分達の来歴には流石に興味があるようで、魔人は真剣な表情で話に耳を傾けていた。飄々としているゼルベルも例外ではない。
そして……ミュストラや死睡の王と名乗っていたイシュトルムの事。ヴァルロスとの戦いの決着直後からイシュトルムが動き出し、ベリオンドーラに集まっていた魔人達を手にかけた事。地上と月を滅ぼす為に月へ向かった事。
ヴァルロスと約束を交わした事や、月での決戦。ベリスティオから後を託された事を……一つ一つ話していく。
「魔人の解呪を行う事で元に戻せる事が判明した。冥府にいるヴァルロス、ベリスティオや前氏族長達と話をする事もできた。だから約束を守る手筈も整った。啓示の力が向かう対象に縁を強くする事で効果を高める事ができた」
「待て。では、アルヴェリンデ様にも託されているということか?」
と、ゼルベルに続いて姿を見せてくれた氏族長の女魔人が尋ねてくる。恐らく彼女はアルヴェリンデに後の事を任された魔人なのだろう。
「そうなる。必要なら冥府にいる彼女達とも話ができる。真実だというのは言葉だけでなく、実際に受け答えしてもらう事でも証明可能だ」
そう答えると、流石に驚いていたようだ。
「俺としては……冥府にいる彼らとの約束もあるからね。とりあえず種族特性封印を受けてもらえれば、安全な生活の支援と共に和解や共存を進めていける、と思っている。それに……ベリスティオの魔人化が解けた事や啓示が行われた事で魔人の呪い自体が緩んでいて、年月を経て何かの拍子で解呪されるという事は有り得る、というのは覚えておいてほしい」
ここで俺からの話を受けずとも、遠からず変化するかも知れない。だから強制はしない。そもそも対話の為に呼びかけた相手に力尽くという手段は取れないが。
後から気が変わった場合でも受け入れる事はできるし、1人でも封印や解呪を受ける魔人が増えれば、それでも前進はしているのだから。
「それは……そうなのかも知れんな。啓示があったあの日から、今までにない感覚の夢を見る事が増えた」
「私もだ」
「ああ。確かに。ふとした色や匂いに妙な感覚になる事がある」
と、ざわつく魔人達である。そう、か。変化は既に起きているわけだ。
「種族特性封印と解呪の大きな違いは、一時的な措置か永続かだから、この場で一旦種族特性封印を受けてみて、それで後の事を考えて貰えたらという手順を考えている。それから……テスディロス達もみんなにもう少し話をしたいそうだ」
「呼び掛けの時にも少しだけ話をしたが、こちらの話を信じるかどうかの参考になるだろうからな」
「私達の事を話す事で、今回の話を受けた場合の……今後の生活の参考にもなる、と思っていますよ」
テスディロスとウィンベルグが言う。
「……聞かせてもらおう。魔人達の来歴は興味深いものだったし、起こりつつある変化というのも我らの始祖が大きく影響をしているというのであれば、種族として不可避の事態だったのだろう? ならば……選択の幅を増やす意味でも情報が欲しい」
「そうだな。それに、盟主や前氏族長の方々に後の事を頼まれている上に同族に近い。覚醒魔人達まで率いているとなれば……これは……」
「正統なる盟主の後継者、とも言えるか」
「従う義理があるかどうかはともかく、な……」
氏族長やはぐれ魔人達が俺を見てくる。盟主の名や最古参の生き残りであった氏族長については魔人達の間でもかなり影響力があった、というのは間違いない。
値踏みするようなものであったり、感心するような物であったり……視線の理由は様々なものだが……現時点では大人しく話を聞いてくれるというのは間違いない。氏族長の一人も言っていたが、変化に対応する意味でもやはり情報が欲しいのだろう。
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