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番外1350 ゼルベルの望み

「そうして――テオドール公は私を石化から回復させてくれた。ザンドリウスを筆頭に、氏族の子供達の話を聞いて、石化していた私を助けてくれたのだな。先程エスナトゥーラ殿も言っていたが……子供達の安全を守ってくれる。封印も解呪もしていない状況でどれだけそれを重視しているかは私には分からないが……これから子を育てていく上で大事な事だと伝えておきたい」

「そのザンドリウスもルドヴィアを心配して後方に同行してきていて、説得や実体験の説明をしたがっている。ただ……危険も予想されるし、そういう場所に子供を連れてくると誤解を招くこともあるだろうからね。魔道具で仲介させてもらう事にしよう」


 ルドヴィアの言葉を受けて俺が言う。ザンドリウスもそのつもりでここにやってきたしな。水晶板にザンドリウスが姿を見せて、自己紹介をし、それから自分の体験を話してくれた。


『俺達は――そうしてルドヴィアが石化された状態のまま、子供達だけでベリオンドーラの廃墟を調べて文献を集め、魔物を狩って凌いでいたが……そこをテオドール達に助けられたんだ』


 ザンドリウスは中継映像を通して、身振り手振りを交えて俺達と合流するまでの事、した後の出来事を説明してくれた。

 普段が落ち着いているザンドリウスだから、かなり懸命になって説得したいと思っているのが傍から見ていて分かるというか。ルドヴィアはそんなザンドリウスの様子に微笑ましそうにしている。

 ともあれ、こうして援護してもらえるのは有難い事だ。


 魔人達の反応はと言えば……そうだな。主に氏族の魔人達にはルドヴィアやザンドリウス、それにエスナトゥーラの話も興味深いもののようで。

 子供のいる魔人は我が子の髪に触れて軽く撫でたり、子供の魔人も父母と手を繋いでいたり……まだ封印も解呪もしていない魔人らしからぬ行動をしているのを見て取る事ができた。


 恐らくだが……一度啓示で感覚が解放された時に、家族と触れ合って何か感じるものがあったのだろう。

 氏族の魔人達をよく見れば寄り添う男女の魔人もいる。これも……魔人らしからぬ反応だな。

 儀式による啓示が魔人達の意識に大きな変化を齎したのだ、という事が分かる。その時思った事、感じた事は感覚が魔人のものに戻っても継続するのだし。一時的なものであっても、その影響は俺達が思っていたより大きなものだったという事なのだろう。


 そして、大きな枠での家族や親族というのなら氏族の者同士がそうだな。血の繋がりはあるのだから……大なり小なり思うところはあるだろう。


 一方で氏族を持たないはぐれ魔人達はどうかと言えば……オルディアの話を聞いて色々と思うところはあったようだ。氏族との接点がないとは言え、両親というのはいたわけだし。そこで記憶を想起するような事があれば、感情も動く、か。現に、今もはぐれ魔人達の中には親子の魔人に目を向けて真剣な表情を浮かべている者もいて。


 ヴァルロスとベリスティオを始めとして冥府や魔界、世界中のみんなが祈りを捧げてくれている。結集場所回りでも啓示の力が高まっているから、今も感覚的な所で作用しているというのは有り得る。


「ここまでの話で……信用してもらえるだろうか。俺としてはまず希望する者に封印術を施していきたいと思っている。封印や解呪は人里に案内して共存していくのなら前提として必要になるし、封印が一時的なもので、無害である事や解除もできるという事も皆の前で実証したいからね」


 啓示の力が高まっている状況や、テスディロス達が語った話は……集まった魔人達が封印を受けてくれる下地に繋がっている、と思う。

 このタイミングで封印術を受けてみないかと切り出すと、魔人達は顔を見合わせていた。


「少し、氏族内で相談させて欲しい。元々封印や解呪は視野に入れてはいたから、恐らく我らの内、誰かがまず封印術を希望して受ける事になるだろう」

「こちらも見解としては同じだな」


 と、氏族長達が言う。勿論、それに関しては問題ない。封印を受ける事のリスクや誰が受けるべきか等……相談した上で決めて貰って構わない。

 そう答えると氏族長達は頷き、各々で話し合いにいったようだ。


「何か疑問があるのなら質問に答えるつもりでいるけれど、どうかな」


 残ったはぐれ魔人達にそう言うと、彼らは顔を一瞬見合わせ、内何人かが少し前に出てくる。


「相談……といってもな。俺は元々一人で生きてきた。自分の失敗は自分の身に返ってくるだけの話だ」

「ああ。俺は他の連中が試したのを見届けてから動けば十分だろうと思っている。これまでの話を信用していないわけではないがな」


 はぐれ魔人達はそういった見解のようだ。


「問題ないよ。後ろ盾がないから慎重にならざるを得ないというのは分かるし、俺だって同じ立場なら、そうするだろうから」


 そう答えるとはぐれ魔人達は頷いていた。

 ゼルベルはと言えば……視線が合うと少し肩をすくめる。


「俺としては、封印を受けてみるってのは別に構わないんだがな。一つだけ魔人としての経験から言わせてもらうなら……言葉だけじゃなく実際に目で見えるところで力を示しておいた方が魔人達を率いる上じゃ後々も安心かも知れないな」


 そう言って意味ありげに笑うゼルベルである。

 力を示す、か。それは一理ある。発起人とは言え、ヴァルロスが召集をかけた魔人集団の中で中心にいたのも、魔人達の中にあって個人の能力が突出していたからだ。盟主が強い影響力を持っていたのも同じで……魔人は強者に敬意を示す。一目置くというのは魔人達の性質や傾向の一つでもあるし、そういう価値観を持つ者も実際いるだろう。


 だからこそ話だけでなく実際に目の前で力を示す事で、合理性や利害以外の部分で恭順を求める、というわけだな。


 というかゼルベルは……ゼヴィオンと似た部分があるな。色々と周囲の事に目を向けた上で動いている節はあるが。戦闘を楽しみにしているというか。

 興味がある、面白そうと言っていたのもそれが目的だったりするのだろうか。それに……テスディロス達が一緒にいる上で力を見せればと言うあたり……恐らくゼルベルも覚醒に至っているのだろう。


「つまり……手合わせをしろ、と? 言っている事の利点は理解できるし構わないが……肝心なところで興が乗りすぎて切り上げられなくなるだとか……普通に有り得るだろう?」


 俺がそう言うと、ゼルベルは愉快そうに笑った。


「くく。流石に魔人の性質を良く分かってるな。盛り上がって殺し合いまでいかない内に、適当なところで切り上げると約束するが……そうだな。何か術を使って予防策を立てる事はできないのか?」

「方法がないわけではないけれど、な」


 魔人が約束とまで口にした事をそうそう違えたりはしないだろうが、それでも没入していると思考が真っ白になったままそれだけに集中してしまう、というのは有り得る話だ。


 ともあれ、契約魔法や呪法というのはこういう時にも使えるものだ。前提条件を満たすと発動する、という事で……十分に力を示せたと判断したのに戦闘を続行しようとした場合であるとか、そういう目的を戦闘に没入しすぎて忘れてしまった場合に特性封印がかかるといった前提条件にすればいい。


 それを伝えるとゼルベルは満足そうに言う。


「承知した。利があっての提案ではあるが、強者の力を見せてもらいたいというのは俺の希望でもある。結果如何に関わらず、手合わせの後に封印術を受けることを約束しよう」

「十分だ」


 ゼルベルは興味の方向やはぐれ魔人である事を考える、封印術や解呪を受ける強い動機が薄いようにも思うからな。こういう形で約束ができるなら、それはこちらとしても望むところだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >言葉だけじゃなく実際に目で見えるところで力を示しておいた方が魔人達を率いる上じゃ後々も安心かも知れないな 「わかった」そう言ってテオドールはその場でゴーレム建築をした
[一言] やっぱり、そうこなくっちゃと思いましたw なお、制限付きで実力を示すということで、真っ先に思い浮かんだのは格ゲーでしたw 誰も傷つかないので結界内でも証明可能ですw
[良い点] この土竜は石化してる私の目の前ですき焼きを食べていました(怒
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