番外1298 砂漠の古代遺跡
『ふむ。話は聞かせてもらった。精霊に絡んだ秘宝ならば、合流すれば力になれるやも知れぬな』
シリウス号に戻ってきて、グレイス達と朝の挨拶を交わしていたが、アウリアも協力してくれるとの事だ。
精霊絡みの秘宝なので、確かにアウリアが力を貸してくれるなら心強い。
「では、僕達が遺跡に行っている間、シリウス号側の守りをお願いできますか?」
『承知した。確かに現場での精霊達への対処はギメル族がいるであろうしな』
「うむ。我らとしても遺跡への潜入は譲れない。申し訳ないな」
アウリアの返答にラプシェム達が真剣な表情で答える。そんなラプシェム達にアウリアは笑って、気にすることはないと応対していた。
「精霊と親和性が高い一族同士。状況が落ち着いたら交流も楽しみにしている」
とアウリアは笑う。エルフとギメル族の異文化交流や技術交流という事になるのか。精霊関係の術を使う者同士、話題が合いそうだし刺激になる部分も多そうだ。
『では、アウリア様が合流する際、私達もそちらへ』
と、エスナトゥーラが言う。娘のルクレインは例によって一時的にフィオレットに面倒を見てもらうというわけだな。ルクレインも水晶板越しにエスナトゥーラの姿も見えるし声も聞こえるという事で、エスナトゥーラと別行動している時も割合落ち着いている印象があるしな。
『私も今回はそちらへ向かいたい』
と、ルドヴィアも合流するという事で。ザンドリウス達も年長の子供も、シリウス号の音響砲の砲手にならなれる、と合流を希望していた。
ザンドリウスとしては……ルドヴィアを守れる場所にいたい、という事らしい。そういう、親しい人間を守りたい。支援したいという気持ちは分かるのでザンドリウスが合流してくるのは許可をした。
瘴気弾――今は魔力弾だが――の扱いに慣れているという事で遠距離での狙いが正確なのは確かだし、音響砲も対人で殺傷能力のある兵器というわけではないしな。
そうやって話をしながら砂漠の上をシリウス号が結構な速度で飛んでいく。
ティアーズ達がモニターの一つ一つを担当。扇状にジグザグに往復しながら外へ向かっていく事で、視界の通った範囲を一先ず捜索済みという事で地図を埋めていくわけだ。こうする事で広範囲を効率良く見て行く事ができる。
砂丘の向こう側もライフディテクションなら見通す事ができるし、ジグザグに進む事で裏側からの目視もできるからな。
これによってラネブ達に移動可能な範囲を割り出し、地図や星球儀の情報とウィズを連動させて穴埋めをしていく、というわけだ。虱潰しではあるが、疑わしい方向からスタートしているし、効率的ではある。
同時に、平行してカドケウスが別荘内部の調査を進めている。こっちに関しては……まだ目当てのものに繋がるような収穫はないな。
先に遺跡が見つかった場合はカドケウスを呼び戻す事になるが、まあ、その時にアウリアやエスナトゥーラ達とも合流するというのが良いだろう。
「書庫の蔵書に関しては……やはり魔法関連が多いようですね。刻印術式の研究資料の他、他の形式の術式に関しても蔵書があります。今のところ、魔法罠は仕掛けられていないようですが」
「叔父上は魔法に精通している、と見て間違いなさそうですね」
「そうですね。魔力量や出力、精度は所有物だけでは判断できませんから実戦における実力は不明ですが、これらの蔵書を読破しているなら知識面ではかなりのものかと」
そうでなければギメル族の秘宝を利用した計画を考えたりしないし、誰かに持ちかけられた、という場合でも実際に同行したりはしないだろう。
魔法の才に優れなくとも魔術書、魔導書の類をコレクションする貴族はいるが、少なくとも単なるパトロンでは終わらない、と見ておいた方が賢明だろう。
蔵書に関しても……何というか素人という感じがしない。実用性の高い術。実戦を想定した術を習得している可能性が高い。
魔法罠の有無に関しては……独自の技術を持っている魔術師が悪用や流出を避けるために仕掛けるものだからな。そういった部分を重視しているか、必要があるのか。
魔法罠を自身の周りに配置する事で事故が起こる可能性があるから熟考は必要だ。
だから、仕掛けるか否かは魔術師の練度と成果を手記や魔道具化しているか。魔法を学ぶ目的や考え方によりけりというところがある。その点で言うとガルディニスは何の躊躇いもなく大規模な魔法罠を仕掛けたものだが。
俺の場合は――あちこちから危険物を預かって封印しているから、盗難による悪用を防ぐ意味で侵入者撃退用の罠を配置していたりするな。呪法もそうだし、迷宮の区画整備で中枢や重要施設への往来を難しくするのもその一種と言える。
ともあれ、蔵書から感じたラネブの印象はみんなに伝え、情報を共有しておく。
「相対した時に術式に注意が必要というのもそうだが、実験や儀式でも進行の中心を担う可能性があるな」
ギメル族のエンメルが顎に手をやって言う。
「そうですね。その辺も念頭において作戦を考えておいた方が良いかも知れません」
相手方に魔術師がラネブしかいなければ、身柄を確保したり拘束、無力化してしまう事で計画を頓挫させられるかも知れない。
まあ……その人物を守らなければ終わりという状況ならラネブと同行している者達も守りに回るだろうから、そう上手く行くとも限らないが、弱点を理解しているかどうかでこちらの動きも変わってくるからな。
さて……そうやって静養地の南門から南東方面に捜索範囲を広げていくと――ごつごつとした見通しの悪い岩場と大きな谷のある地形が見えてくる。
「見通しの悪い地形だな……少し注意して見て行こうか」
地形に関して言うなら岩砂漠か。
『ギメル族の皆さんが昔この辺りで暮らしていたとするなら……元は森だったわけですから、谷には川が流れていたのでしょうか?』
アシュレイが首を傾げる。
「今は……水の一滴もないね。森だったなら水源もあっただろうから、生活の拠点にできたとは思う」
だとするなら……そうした場所には何かあってもおかしくはない。
高低差のある岩場の地形は迫力があるが……。さて。
街道からは距離が遠く、オーラン王子の用意してくれた地図からも範囲外の場所……つまりネシュフェル王国からすれば管理外の地域だ。街道からもかなり外れているので殊更人が訪れてくるような事もないのではないだろうか。
少しだけシリウス号の軌道を変えて岩場に近付いていくと――ティアーズがマニピュレーターを振りながら信号音を鳴らす。
信号音は非常時用のものではない。理由は明白だな。そのティアーズが担当しているモニターの一部に生命反応を感知したからだ。
「ラクダの生命反応か」
ラクダの生命反応に関しては街でどう見えるか確認済みだ。ラネブと共に出発した際のラクダの頭数も確認済みだが……それと一致しているな。ラクダの傍らに人の生命反応もあるが……ラネブの同行者としては人数があっていない。見張りとして野営地に残したか、それとも他に理由があるのか。
ともあれ、距離を詰めていけば分かる話だ。シリウス号の速度と高度を落として細部まで注視できるようにしながら進んで行けば、岩山の合間に楕円型の空間があるのが見えた。
自然にできた地形、というよりは人工的に作られたような空間だ。岩山の間を細く掘り抜いて、そこに広場を造ったというような。
その広場に……独特な意匠の柱と、岩山と一体化したような神殿の入口があるのがモニターに映り込んでくるのであった。